瀬文茶のヒートシンクグラフィック

Thermalright「Silver Arrow ITX」

~Mini-ITX向けにデザインされた黒いSilver Arrow

Silver Arrow ITX

 今回は、11月29日より発売開始となった、Thermalright製のサイドフロー型CPUクーラー「Silver Arrow ITX」を紹介する。購入金額は12,420円だった。

ASUS製R.O.G. Mini-ITXマザーボードにフィットするデザインを採用

 今回紹介するSilver Arrow ITXは、ThermalrightのフラッグシップCPUクーラー「Silver Arrow」の名を与えられた、ミッドシップレイアウト採用サイドフローCPUクーラーだ。

 製品名に含まれる「ITX」から想像できる通り、Silver Arrow ITXはMini-ITXマザーボードに搭載して利用することを想定して設計されている。具体的には、異なる大きさの放熱フィンを階段状に配置することで、ASUSがR.O.G.ブランドで販売しているMini-ITXマザーボードにおいて、同マザーボードが別基板で実装している電源回路との干渉問題を回避したというものである。

 Silver Arrow ITXのヒートシンクは、6本の6mm径ヒートパイプ、CPUとの接地面に純銅(C1100)を用いたベースユニット、51枚の放熱フィンを備える放熱ユニット2基により構成されている。ヒートシンクの表面は光沢感のある黒色めっきで覆われており、ハイエンド製品らしい外観に仕上がっている。

 Silver Arrow ITXには1基の140mm径26.5mm厚ファンが同梱されている。この140mm径ファンはPWM制御に対応しており、回転数を300~1,300rpmの範囲で調整できる。通常、冷却ファンは2基の放熱ユニットの間に配置し、専用の金属製ファンクリップによってヒートシンクに固定する。ヒートシンク自体には、放熱ユニットの外側にファンクリップを引っ掛けるための溝が用意されているが、ファンクリップは1対しか用意されておらず、Silver Arrow ITXの付属品だけで複数のファンを搭載することはできない。

Silver Arrow ITX本体
リテンションキット。ネジなどの金属製パーツはすべて黒色にカラーリングされている。
正面からみたSilver Arrow ITX。Silver Arrow IB-Eのようにベースユニットをオフセットしていない代わりに、異なるサイズの放熱フィンを階段状に配置している。
標準搭載の140mm径ファン。ネジ穴位置は120mm角ファンと互換性があるが、フレームのサイズは152×140×26.5mmと特殊。
専用のファンクリップと防振ゴム、サーマルグリス。ファンクリップは一対しか用意されていない。
ファンを取り付けたところ。専用ファンクリップは、リブ無しファンのみサポートしている。
メモリスロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE搭載時)
拡張スロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE搭載時)
現行のR.O.G.シリーズ/Mini-ITXマザーボードのひな形となったP8Z77-I DELUXEへ搭載したSilver Arrow ITX
階段状に配置された放熱フィンが、垂直に実装されているVRM基板を回避していることが確認できる
P8Z77-I DELUXEとの組み合わせでは、チップセットヒートシンクの固定ピンとの干渉により、バックプレートを正常に利用できなかった。なお、Silver Arrow ITXのリテンションキットは、バックプレートを省略して取り付けることもできる。

 周辺パーツとのクリアランスについて、IntelのLGA115x系マザーボードとして標準的なレイアウトのmicroATXマザーボードである「MAXIMUS V GENE」に搭載した場合、メモリスロットには干渉しない一方で、最上段の拡張スロットにヒートシンクが被る形となった。なお、Mini-ITXマザーボードで利用する場合、microATXやATXマザーボードに比べ、製品ごとのレイアウトの違いが大きいため、他のマザーボードでの傾向を参考にすることは難しい。ASUS R.O.G.ブランドのMini-ITXマザーボードでない場合、CPUソケットや各種スロットの配置には注意したい。

 また、Mini-ITXマザーボードへの搭載を前提としているとは言え、Silver Arrow ITXは、154×103×165mm(幅×奥行き×高さ)の大型CPUクーラーである。Mini-ITXマザーボード専用PCケースで、これほどの大型CPUクーラーを収容できる製品は限られている。165mmという高さも厳しいが、CPUソケットの配置次第では、マザーボードからはみ出たヒートシンクがPCケースと干渉する可能性も考慮しなければならない。

 Silver Arrow ITXのリテンションキットは、Silver Arrow IB-Eなどに付属するものと同形状のブリッジ式リテンションキットが採用されている。Thermalrightの一部製品に採用されている荷重調整機能が省略された廉価仕様で、IntelのLGA775/115x/1366/2011/2011-v3、AMDのSocket AM2(+)/AM3(+)/FM1/FM2(+)をサポートする点は同様だが、Silver Arrow ITXのリテンションキットは、ねじを含む金属製のパーツが全て、黒色のめっきで仕上げられている。

冷却性能テスト

 それでは、冷却性能テストの結果を紹介する。今回のテストでは、マザーボード側のPWM制御設定を「20%」、「50%」、「100%(フル回転)」の3段階に設定し、それぞれ負荷テストを実行した際の温度を測定した。

 冷却性能テストの結果、Silver Arrow ITXは3.4GHz動作時に52~64℃という結果を記録した。これはCPU付属クーラーの85℃より21~32℃低い結果である。オーバークロック動作時の結果では、4.4GHz動作時に67~87℃を記録。4.6GHz動作時は、100%制御時に77℃、50%制御時に82℃をそれぞれ記録したが、20%制御時はCPU温度が94℃を超えたためテスト中止となった。

 概ね優秀と言える冷却性能を持っているが、20%制御時の性能はやや落ち込みが大きいようにも見える。20%制御時のファンの回転数が約420rpmと低いことが大きな要因だが、ミッドシップレイアウトのサイドフローCPUクーラーの場合、中央部のファン1基のみで運用すると、低速ファンでの性能が振るわない傾向がある。Silver Arrow ITXも例に漏れずといったところだろう。

 動作音については、最大回転数が1,300rpm前後に抑えられているため、ファンを全開で動作させた場合でも、極端に大きな風切り音は発生しない。大口径ファンであるため、低速回転でもある程度の風切り音は発生するが、ケースに収めて運用する分には、回転数を800rpm程度まで抑えれば、十分な静粛性が得られるだろう。

特定マザーボードに特化したSilver Arrow

 Silver Arrow ITXは、従来のSilver Arrowシリーズと同じように優れた冷却性能を持ったCPUクーラーだ。プレミアム感のある黒めっき仕様も、所有感や見栄えを重視して自作PCを作るユーザーにとって、プラスの要素と言えるだろう。

 この巨大なCPUクーラーが、Mini-ITXプラットフォームに適しているかと言えば、とてもイエスとは言えない。だが、Mini-ITXマザーボードでありながら、オーバークロック動作のために強力な電源回路を別基板で搭載するASUS R.O.G.シリーズ製品向けのCPUクーラーであると言われれば、なるほどお似合いの製品である。

 特定のマザーボードとの組み合わせに特化したCPUクーラーであると考えれば納得できなくもないが、12,480円という価格はやはり高価である。ATXやmicroATX規格のマザーボードでSilver Arrow ITXを使用することを考えると、Silver Arrow IB-Eより1枚劣る性能や、追加ファン用のファンクリップが用意されていない点も気になってくる。

 かなり使い手を選ぶ製品であることは間違いないが、コンパクトなMini-ITXマザーボードに巨大なヒートシンクを搭載するというギャップや、黒めっき仕様のヒートシンクに魅力を感じるのであれば、購入しておくことをおすすめする。

Thermalright「Silver Arrow ITX」製品スペック
メーカーThermalright
フロータイプサイドフロー
ヒートパイプ6mm径×6本
放熱フィン102枚(51枚×2ブロック)
サイズ(ヒートシンクのみ)154×103×165mm(幅×奥行き×高さ)
重量(ヒートシンクのみ)700g
付属ファン140mm径ファン ×1基
電源: 4ピン (PWM制御対応)
回転数: 300~1,300rpm
風量(最大): 61.7CFM
ノイズ(最大): 24.9dBA
サイズ: 152×140×26.5mm
対応ソケットIntel:LGA 775/115x/1366/2011/2011-v3
AMD:Socket AM2/AM2+/AM3/AM3+/FM1/FM2/FM2+

(瀬文茶)