瀬文茶のヒートシンクグラフィック
Silver Arrow IB-E Extreme
~拡張スロットとの干渉を回避した3代目Silver Arrowの高冷却モデル
(2014/4/16 06:00)
今回は、Thermalrightブランドのハイエンドヒートシンク「Silver Arrow IB-E Extreme」を紹介する。購入金額は12,600円(消費税率5%当時)だった。
ヒートシンクの設計を見直して拡張スロットとの干渉を回避
Thermalright Silver Arrow IB-E Extremeは、2ブロックの放熱ユニットを持つミッドシップレイアウト採用の大型サイドフローCPUクーラー。Silver Arrowの名を持つ製品としては3代目にあたり、搭載ファンの異なる姉妹モデル「Silver Arrow IB-E」と共に、今年2014年3月より国内での販売がスタートした。
Silver Arrow IB-Eのヒートシンクは、CPU接地面に純銅(C1100)板を備えるベースユニット、1ブロックあたり45枚の放熱フィンを備える2ブロックの放熱ユニット、そして両ユニット間の熱輸送を担う6mm径ヒートパイプ8本で構成されている。ヒートシンク全面に光沢のあるニッケルめっきが施されており、ハイエンド製品らしい高級感のある仕上がりだ。
ヒートシンクのスペック自体は、1世代前のモデルであるSilver Arrow SB-Eシリーズとほぼ同等だが、Silver Arrow IB-Eでは、ベースユニットをずらして配置することで拡張スロットとの干渉を回避するレイアウトを採用している。また、大きさの異なる放熱フィンを階段状に配置していたSilver Arrow SB-Eに対し、Silver Arrow IB-Eでは全て同じ形状で統一されているという違いもある。外観が似ているため目立たないが、ヒートシンクの設計にはかなり手が加えられており、Silver Arrow SB-EとSilver Arrow IB-Eは全くの別物となっている。
Silver Arrow IB-E Extremeに標準ファンとして同梱されているのは、Thermalrightブランドの140mm径26.5mm厚ファン「TY-143」2基。TY-143は、PWM制御によって600~2,500rpmという極めて広い回転数域での制御に対応していることを特徴としている。なお、姉妹モデルであるSilver Arrow IB-Eは、回転数900~1,300rpmのPWM制御対応140mm径ファン「TY-141」を2基備えている。
ファンのヒートシンクへの固定には、専用の金属製のファンクリップを用いる。TY-143のフレームは120mm角ファンと穴位置互換のあるため、リブ無し仕様のフレームを採用したファンであれば、市販の120mm角ファンや140mm径ファンを標準のファンクリップで取り付けることができる。なお、金属クリップは3セット同梱されており、別途ファンを用意することでトリプルファン構成での運用も可能。
最上段にPCI Express x16スロットを備える「ASUS MAXIMUS V GENE」との組み合わせでも、拡張スロットにヒートシンクやファンが被ることは無かった。複数のビデオカードを搭載するマルチグラフィックス構成に対応するため、最上段位置にPCI Express x16スロットを備えていることの多いハイエンドマザーボードで使いやすくなったことは歓迎したい。
一方、メモリスロットとのクリアランスについては改善されておらず、標準的なメモリモジュールとほぼ同等の高さである33mm高のメモリとの組み合わせでも、ファンがメモリに乗り上げてしまう状況だ。ファンクリップの仕様上、ファンの搭載位置を上方向にずらすことができないため、デュアルファンで利用する場合、完全に干渉を回避するためには、一部メーカーから販売されているロープロファイル仕様のメモリが必要だ。なお、ヒートシンク自体はメモリスロットに被っていないため、ヒートシンク中心部のファンのみで運用すればメモリスロットとの干渉は回避できる。
Silver Arrow IB-Eのリテンションキットは、HR-22で採用されている荷重調整機能付きリテンションキットではなく、Silver Arrow SB-Eと同じ廉価仕様のものが採用されている。このリテンションキットは、ヒートシンクを押さえつけるブリッジバーに位置決め機構がないため、ヒートシンク固定位置の再現性が低い。作業時に注意することである程度の位置決めは可能だが、冷却性能に影響を及ぼすヒートシンクの固定位置が定まらないという仕様は、このクラスの製品の付属品としては期待を下回る。
冷却性能テスト結果
それでは、冷却性能テストの結果を紹介する。今回のテストでは、マザーボード側のPWM制御設定を「20%」、「50%」、「100%(フル回転)」の3段階に設定し、それぞれ負荷テストを実行した際の温度を測定した。
3.4GHz動作時にSilver Arrow IB-Eが記録したCPU温度は49~54℃。これはCPU付属クーラーより31~36℃低い結果だ。オーバークロック時のパフォーマンスが期待されるこのクラスの製品にとって、TDP 95WのCPUを定格(相当)で動作させた際にどんな温度だったのかはさして重要ではないのだが、最高回転時とは言え50℃未満の温度を達成している点は注目に値する。それだけ、受熱部から放熱ユニットまでロスなく熱を伝えられていることの証左と言えよう。
さて、肝心のオーバークロック動作時のCPU温度は、4.4GHz動作時に62~72℃、4.6GHz動作時に68~83℃。最高回転時の結果もさることながら、約1,000rpmと比較的低い回転数でファンが動作する50%制御時の結果も優秀だ。2基のTY-143を備えたSilver Arrow IB-E Extremeが、現時点で空冷CPUクーラー最高峰の冷却性能を持っていることは疑う余地がない。素晴らしいパフォーマンスだ。
動作音については、20%制御時(約600rpm)から50%制御時(約1,000rpm)までは、風切り音は比較的小さい。この程度まで絞っていれば、ケースに収めることでSilver Arrow IB-E Extremeの動作音はそれほど気にならなくなるだろう。ただし、こすれるような軸音がするため、ファンを絞り切っても聞き取れないほど静かに動作するわけでは無かった。
風切り音は50%制御を超えるあたりから急激に大きくなりはじめ、最大回転時の動作音は極めて大きい。広い回転数域をカバーする分、狙った回転数で動作させるには、マザーボードでCPUファンのPWM制御を細かく設定できる必要がある。PWM制御に難があるマザーボードの場合、回転数が低めのファンを搭載する姉妹モデルのSilver Arrow IB-Eを選んだ方がよさそうだ。
素晴らしい冷却性能と目をつむれない欠点が併存する3代目Silver Arrow
Silver Arrow IB-E Extremeの強力なヒートシンクと冷却ファンが実現するCPU冷却性能は素晴らしい。ファンの回転数を絞っても優れたパフォーマンスを保っており、冷却性能については全く申し分ない。他方、メモリスロットとのクリアランスや、リテンションキットの完成度には、冷却性能の良さで帳消しにできるレベルを超えた問題を抱えている。Silver Arrow IB-E Extremeを購入するのであれば、これらの欠点について真剣に検討しなければならない。
ビデオカードとの干渉問題を解消したとはいえ、まだまだ扱いやすいとは言い難いCPUクーラーだが、空冷CPUクーラーで最高の冷却を実現したいユーザーにとって、Silver Arrow IB-E Extremeは最初に検討すべき製品だ。メモリに対する厳しい制約をクリアできるなら、空冷最高峰のパフォーマンスが得られるだろう。
Thermalright「Silver Arrow IB-E」製品スペック | |
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メーカー | Thermalright |
フロータイプ | サイドフロー |
ヒートパイプ | 6mm径8本 |
放熱フィン | 90枚 [45枚×2ブロック] |
サイズ(ヒートシンクのみ) | 154×103×163mm (幅×奥行き×高さ) |
重量(ヒートシンクのみ) | 750g |
付属ファン | 140mm径ファン TY-143 電源:4ピン (PWM制御対応) 回転数:600~2,500rpm 風量:31.4~130CFM ノイズ:21~45dBA サイズ:152×140×26.5mm |
対応ソケット | Intel:LGA 775/1150/1155/1156/1366/2011 AMD:Socket AM2/AM2+/AM3/AM3+/FM1/FM2 |