西川和久の不定期コラム

Apple「iPad 2」
~【本体編】薄く軽くデュアルコアとメモリ倍増でパワーアップ



 日本では発売延期になっていたiPad 2の発売日が、事前に噂はあったものの、4月27日の夜になって、「28日9時から」と、いきなり発表された。当初同社のオンラインストアで購入するつもりだったが、そちらは29日1時からとなっており、入手するのが数日遅くなってしまう。そこで、28日の朝7時半過ぎからApple Store渋谷店に並び、無事購入した。まずは本体を中心に購入から数日使用したレポートをお届けする。

●初めて並んだApple Store

 本題に入る前に、早朝から並んだ時の様子などをお伝えしたい。初代iPadは、予約開始初日にオンラインストアで注文し、発売当日は事務所に届くのを待つだけと結構気楽なものだった。表参道などで盛り上がっている様子をテレビで観ていたが、あの場所まで行って長時間待つのは面倒だと思った。

 しかし、iPad 2に関しては冒頭に書いたように、オンライン販売は1日遅れ、従って最短でも手元に届くのは翌日30日となってしまう(実際には納期は1~2週間と書かれている)。発売延期になってから首を長くして待っていただけに、即日欲しいと思ったのは筆者だけでは無いだろう。

 と言っても、前日から並ぶ根性は無いので、いつもより早めの朝6時過ぎに事務所へ行き、一仕事した後、Apple Store渋谷店に向かった。事務所は渋谷なので徒歩10分程度の距離だ。店舗近辺へ着いたのは7時40分頃。渋谷店は、マルイシティ渋谷から少し坂を上がったところにあるのだが、その交差点が見えてきた時、全く並んでいる様子が無く、「ちょっと早過ぎたかな」と思いながら坂を上がりかけたところ……、行列は渋谷店から坂を上がる方向へ伸びていた。通りで坂を下る形となるマルイシティ渋谷周辺に人が居なかったはずだ。

 既に行列は渋谷店の先の交差点(パルコ付近)を越え、次のブロックにまで達していた。ざっと見た感じで200人以上が2列になって並んでいた。最後尾に着いた時点で7時45分。オープンまで1時間半を切っているので、これなら待てない時間ではない。

 しばらくすると、3人のスタッフが1人1人順番に希望するモデルを聞いて行く様子が見えてきた。3人の役割は、2人が2列に並んでいる左側と右側それぞれを担当し、本体の色(ホワイトかブラック)、メモリの容量(16/32/64GB)、Wi-FiかWi-Fi+3Gかを予約票に書き込んで渡してくれた。そして、もう1人はその内容をiPhone 4を使ってショップへとデータを送る役割だった。こうしておけば、どの程度どのモデルを準備しておけばいいのかがわかる。筆者周辺の人達の注文を聞くと、意外なことに32GBモデルが多かった。ホワイトとブラックは3:1程度の比率だった。

 そうこうしている間に8時を回り、Appleからコーヒーやミネラルウォーターの差し入れがあったり、iPhone 4でネットしながら待っている間にオープンの9時となった。この段階で、更に伸びた列の最後尾は見えなくなり、2ブロック向こうまで達していた。ざっと400人程度だろうか。筆者の位置は調度その真ん中辺りだった。

 オープンと言ってもこれだけ人がいれば、すぐにショップへ入れるわけでなく、一定数ずつが店内に通され、結局筆者が入れたのはさらに1時間後の10時頃だった。5人1組で担当者1人。2階へ案内され、順番に購入する。この時、オプションの「iPad Smart Cover」や「Digital AVアダプタ」なども一緒に購入できる。事前に「iPad 2 1台につきiPad Smart Coverは2つまで」という説明や、「iPad Smart Coverは10色あり、まんべんなく在庫しているものの、希望する色が品切れになる場合もあるので予めご了承頂きたい」との話しもあった。

 実際は、かなりの在庫があったようで、少なくとも筆者が購入した時点では全色在庫があり、他のオプションも大丈夫そうだった。本体も含め相当余裕がある雰囲気だった。

行列の最後尾に到着時間ホワイト/Wi-Fi/32GBの予約票アップルからコーヒーの差し入れ

 さて、少し前の記事で「多くのデータがクラウド側にあり、ローカルストレージをほとんど使っていないことから、iPad 2はWi-Fi/16GBモデルを買う予定」と書いたが、結局32GBモデルを選んだ。理由は、iMovieで動画の編集など、ローカルストレージに容量が必要な処理も試してみたいと思ったからだ。16GB/32GB/64GBの価格差は8,000円ずつ。「だったらいいか」という、筆者いつものノリだ(笑)。同時に、「iPad Smart Cover/青」、「Digital AVアダプタ」も購入し、計60,759円だった。

 なお筆者は利用しなかったが、購入時は、アクティベーションやApple IDなどをセットアップしてくれるサービスもショップで行なっている。そして、個体差があるかもしれないが、開封時でバッテリは80%程度充電済みの状態になっていた。従ってショップでセットアップを済まし、Wi-Fiが使えるカフェなどへ寄ってちょっと試すこともできる。

今回購入したのは、iPad 2、iPad Smart Cover/青、Digital AVアダプタ箱や付属品など。DockケーブルとACアダプタ。小冊子と実にシンプル箱はiPadの時とデザイン、大きさ共に随分違う

●ハードウェア編/ 外観は似て非なるもの?

 iPadとiPad 2のスペック上の違いは、まず薄さと重量。iPadと比較して「33%薄く、最大15%軽く」となっている。薄さ8.8mmは、iPhone 4の9.3mmより薄い。最初「あのiPhone 4より薄いって本当?」と思ってしまうが、実際並べてみると確かにiPad 2の方が若干薄いのがわかる。さらに片手で持ってみるとiPadとは違い、裏が平らになり、持ちやすく、たった79gの違いであるが「iPadは意外と重い」と感じてた雰囲気も薄れ、机の上に置いても座りが良くなっている。加えて、周囲のエッジがいったん垂直に落ちてある程度の厚みを確保してから緩いラウンドになっているiPadより、いきなり緩いラウンドでそのまま裏につながっているiPad 2は持ち心地も良い。この辺りは同社がかなりこだわっているのだろうと予想が付く。

本体表面裏面電源スイッチ、消音スイッチ、ボリューム

 ただし、この周囲のラウンドが違うことでの弊害が1カ所ある。それはDockコネクタだ。凸コネクタをそのまま挿すとラウンドがある分、片方が若干距離不足で甘くなる。使えなくなる程浮いているわけではないため、実用面では問題ないのだが、何となく気持ち悪い。従来のiPad Dockスタンドでもそのまま使えるが、iPad 2用のDockスタンドが出ているのもこのためだと思われる(さらに言うと、設置面積も狭いのでiPad用だとあまり安定しない)。

 色はホワイトを選んだ。ブラックモデルより何となく品があり、優しい雰囲気がするし、目新しいので買換えた感もバッチリだ。ホームボタン周囲の指紋も気にならない。ただ個人的な問題としては、タバコのヤニが結構付きホワイトが黄色へ変色して行く予感がする。

 その他では、フロントとリアにカメラがあるのがiPadとの大きな違いとなる。

iPad(ブラック)とiPad 2(ホワイト)の2ショット。発色は同じ。iPad 2の中央上にはVGAカメラ。ホームスクリーンにはカメラを使うアプリ(App)が3つ追加されているiPad、iPhone 4、iPad 2の薄さ比較。左から順に13.4mm、9.3mm、8.8mm。確かにiPad 2が一番薄いのが分かる。またiPad 2は底面が平らだPadとiPad 2のRとDockコネクタの違い。iPadはコネクタ部が平面なためしっかり入るが、iPad 2はRになっているので片方が浮いてしまう。またスピーカーも取り付け位置も違う

コーティングの違い。同じように指紋を付けたところ、iPadの方がかなり目立っている

 ここまではあまり実機を触らなくても、公開されている仕様や写真から、ある程度予想できる。パッケージを開けて一番最初に思ったのは「液晶パネルのコーティングが違う」ということだった。

 1年365日毎日iPadを触っているので、直感的に分かったのだが、液晶パネル表面のテカテカ感と言うかギラギラ感があまりないのだ。基本的にグレア(光沢)タイプなので、映り込みはあるものの、iPadより少し低減されている。また指紋も若干付き難くなっており、明らかにコーティングが変わった。発色に関してはコーティングが変わった影響はなく、全く同じと言っていい。

 プロセッサはシングルコアのApple A4からデュアルコアのApple A5になり、公称で2倍速く、グラフィックスはPowerVR SGX 535からPowerVR SGX 543MP2になり、同じく最大9倍速く、メモリ容量が2倍と、ハードウェア面はかなり強化されている。特にメモリに関しては、iPhone 4でさえ512MBあるにも関わらず、256MBしか搭載していないことが、ブラウザで多くのタブを開き移動するとリロードがかかったりと、結構ネックになっていたので、この点だけでもiPad 2は快適になるシーンが多いと予想される。

 筆者はゲームをしないので、グラフィックスは最大9倍速とあっても実感できるアプリがなく、一般的なアプリを動かした範囲であるが、まずブラウザの描画速度が向上した。以前iPadのレビューの時、Webの表示はネットブックよりも速く、Coreプロセッサ搭載機よりは遅いと書いたが、iPad 2は後者と比較してもほぼ同じに感じる。Webブラウザは最も使うアプリなので、このパフォーマンスアップは嬉しいポイントだ。またタスク切替時や回転時などのアニメーションも明らかに速くなりキビキビ動く。GarageBandなど重いアプリの起動も速い。何をしても全体的にキレが良く、いったんこれに慣れてしまうとiPadはワンテンポ遅いと感じてしまうほど。やはり速いことはいいことだ。

【表】iPadとiPad 2(Wi-Fiモデル)の主な仕様比較
 iPadiPad 2
ディスプレイ/解像度9.7型LEDバックライトIPS液晶
1,024×768ドット
プロセッサ1GHz Apple A41GHz Apple A5(デュアルコア)
グラフィックスPowerVR SGX 535PowerVR SGX 543MP2
メモリ256MB RAM512MB RAM
前面カメラ無しVGA
背面カメラ無し720p
Wi-FiIEEE 802.11a/b/g/n
Bluetooth2.1 + EDR
加速度計3軸
ジャイロ無し3軸
厚さ13.4mm8.8mm
重量680g601g

【動画】Webブラウザ表示比較。iPadは9.7秒、iPad 2は4.6秒と約半分のスピードで描画した

【動画】アプリ起動時間比較。iPadは8.8秒、iPad 2は3.6秒と半分以下の時間でGarageBandが起動した

●カメラが関係する3つのアプリを追加

 ソフトウェア面で1つ意外だったのが、iOSのバージョンが4.3.1と、現行より1つ前のものだったこと。4.3.1のリリースは2011年3月26日、4.3.2のリリースは2011年4月19日なので、iPad 2はこの間に製造されたことになる。筆者のようにiOSと付き合いが長いユーザーであれば特に何とも思わないが、iOS機を初めて使うユーザーが、自宅へ持ち帰り、iTunesへ接続した瞬間「OSをアップデートしますか?」と聞かれると驚いてしまうかもしれない。

 これ以外については、フロントとリアにカメラが付いた関係で、「カメラ」、テレビ電話機能の「FaceTime」、写真のリアルタイムエフェクトが出来る「Photo Booth」、3つのアプリがiPad 2には追加されてる。

初期起動時のHome画面iOSのバージョンは4.3.1と1つ古いFaceTimeの設定

 まずカメラに関しては、フロント側が640×480ドット(VGA)、リア側が720pの解像度だ。iPhone 4のようにLEDフラッシュは備えていないし、500万画素に加えHDRが使えると言った本格的な写真撮影の能力も持っていない。どちらかというと動画撮影用のカメラで、静止画の画質は画面キャプチャのプレビューの絵からわかるように期待できない。

 ただこの点は、まずフロントカメラを頻繁に使うことは考え難いので、大きな問題にはならないだろう。リアパネルに720pのカメラが付いているものの、このカメラの主な用途はFaceTimeなどのコミュニケーション系アプリとなるだろう。

 Photo Boothは、リアルタイムで「サーモグラフィー」、「ミラー」、「X線」など、いろいろなエフェクトがかけられ面白いアプリだが、個人的にはあまり日本人の感覚とは笑いのツボが違い合っていないような気がしている。ただし、現在iOS機でA5を搭載しているのはiPad 2のみであり、他の機種ではパワー不足でこの処理はできず、唯一標準アプリでパワーアップしたグラフィックスを体感できる点で貴重な存在とは言える。

カメラFaceTimePhoto Booth

【動画】Photo Boothの、渦巻き、光のトンネル、スクイーズ、万華鏡。パワーアップしたグラフィックスをフルに使ってリアルタイムで処理。確かに効果としては面白いのだが、実用的な用途はあるのだろうか

 1つ残念なのは、iPad 2で搭載されたジャイロセンサーを使った、iPhone 4の「コンパス」のようなアプリが標準では用意されていないことだ。カメラ同様、ジャイロセンサーもiPadには無い機能なので、それを活かすアプリを搭載して欲しかった。


 以上のようにiPad 2は、iPadとほぼ同じ形とは言え、薄さ、重さ、形状など細かい部分が改善され、さらにデュアルコア、グラフィックスのパフォーマンスアップ、そしてメモリ容量2倍と、内部的には別物に仕上がっており、かなりパワーアップしている。既にiPadを所有していて今回iPad 2はパスする予定の方も、是非一度ショップで触れて欲しい。いろいろな意味でその差に驚くはずだ。

 次回は「iPad Smart Cover」、「Digital AVアダプタ」、そしてもう少し使い込んだ感想などを書いてみたい。