■西川和久の不定期コラム■
日本時間の3月8日、新型の「iPad」が発表され、3月16日から発売開始となった。発表当日、Appleストアのオンラインで予約した筆者は、無事16日の昼過ぎに実機をゲット。数日間使用した状態でのレポートをお届けする。
●見た目はほとんど変わらず
荷物が届いてパッケージ、そしてパッケージを開けた瞬間は「iPad 2と同じ」という印象だ。違うのは(最近の「iPad 2」にはあるのかも知れないが)iCloudのシールが貼ってある程度。この時点において初代iPadからiPad 2に変更した時ほどの感動は無い。おそらく電源をOFFにしたままだと、新型iPad(以下、単にiPadと表記)とiPad 2が並んでいても違いに気付く人は極めて少数だろう。
付属品は相変わらず、Dockケーブル、ACアダプタ、そして小冊子といたってシンプル。電源スイッチ、消音スイッチ、ボリューム、そしてヘッドフォン端子、Dock端子などのボタンやコネクタ類の位置関係も全くiPad 2と変わっていない。「位置関係が同じなら大丈夫かな」と思いつつ、気になる手持ちのアクセサリー2つが使えるかチェックした。
1つはApple純正の「iPad Smart Cover」、もう1つは以前ご紹介したBluetooth式のキーボード&ケース「LOGICOOL キーボードケース For iPad TK700」。特に後者は初代iPadではケースとしては使えなかったので気になっていたが、結果どちらもOK。仕様上、高さ幅は同じで厚みだけ0.6mm増している。今回は問題無かったが、iPadがすっぽり収まるようなケースではこの差で使えない場合もあると思われる。
電源をONにするとバッテリの残95%の状態で、iOSの初期設定が始まった。iOS 4.x以前とは違い、PCやMacなどでiTunesへ接続する必要も無く、iPad単独でセットアップが完了。完全に独立したデバイスとして扱えるのはやはり便利だ。
セットアップ画面の時から「何やら違うぞ……」と感じていたが、ロック画面そしてホーム画面へ切り替わった時に、画面の綺麗さがはっきり分かる。まるでiPad 2とは別次元。ジャギーやドットが全く見えず、そして色も濃い。まさにRetina Displayそのものだ。これはiPhone 3GSからiPhone 4へ乗り換えた時と同じ印象だが、画面が大きいため想像以上のインパクトがある。
色味はiPad 2と比較して、青くそして少し緑かぶりし、緑や青などが彩度が上がって、加えて全体的に濃く見える。この点もiPhone 3GSからiPhone 4へ乗り換えた時と同じ。画素の密度が上がるとこう見えるのかもしれない。
新型iPadとiPad 2のスペック的な違いを表にまとめたのでご覧いただきたい。一部Appleでは公表していないが、ネットなどで掲載されている項目も入っている。
【表】iPadとiPad 2(Wi-Fiモデル)の主な仕様比較iPad | iPad 2 | |
ディスプレイ /解像度 | 9.7型LEDバックライトIPS液晶 /2,048×1,536ドット | 9.7型LEDバックライトIPS液晶 /1,024×768 |
プロセッサ | 1GHz Apple A5X(デュアルコア) | 1GHz Apple A5(デュアルコア) |
グラフィックス | PowerVR SGX MP4+?(クアッドコア) | PowerVR SGX 543MP2 (デュアルコア) |
メモリ | 1GB | 512MB |
前面カメラ | VGA | ← |
背面カメラ | 500万画素/1080p (手ぶれ補正付き) | 720p |
Wi-Fi | IEEE 802.11a/b/g/n | ← |
Bluetooth | 4 | 2.1+EDR |
加速度センサー | 3軸 | ← |
ジャイロセンサー | 3軸 | ← |
バッテリ | 42.5Wh | 25Wh |
高さと幅 | 241.2mm×185.7mm | ← |
厚さ | 9.4mm | 8.8mm |
重量 | 652g | 601g |
ディスプレイはIPS式の9.7型。解像度はiPad 2のちょうど4倍となる2,048×1,536ドット。筆者がメインPCで使っている24型EIZO CG245Wディスプレイが1,920×1,200ドット。9.7型と小型なのに、軽く超えてしまっている。もちろんフルHDの1,920×1,080ドットよりも解像度は高い。PCクラスだと一般的に入手可能なのは27型2,560×1,440ドットなので、これに近い(縦は上を行く)解像度だ。新型iPadを見てからだと、手持ちの液晶ディスプレイがスカスカに見えるほど、その映り方はある意味格別だ。
プロセッサは、「1GHz Apple A5」(デュアルコア)に対して「1GHz Apple A5X」(デュアルコア)。A5かA5Xかの違いはあるものの、予想に反してクアッドコアでは無く、デュアルコアとなっている。またAppleとしては非公開だが、クロックも同じ1GHzのようだ。
一方、グラフィックスは「PowerVR SGX 543MP2」(デュアルコア)からクアッドコア(PowerVR SGX MP4+と言われている)へ変更され、メモリも512MBから1GBへ増量。この2点は、画面解像度が4倍になっているのを補っているのだろう。
またカメラ関係も強化された。フロントカメラは変わらずVGA解像度だが、iSightカメラ(リアカメラ)は、720pから500万画素(静止画)/1080p(動画)へ。手ぶれ補正機能も追加された。レンズも一新し、f/2.4と明るくなっている。
Wi-FiはIEEE 802.11a/b/g/nで同じ。Bluetoothは2.1+EDRから4.0へ。加速度センサーとジャイロセンサーは変わらず3軸だ。
バッテリは25Whから42.5Whへ大幅に増量されている。グラフィックやメモリなどパワーアップしているので、その分消費電力は増えているのだろうが、ここでカバーし、結果、iPad 2と変わらず最大10時間をキープしている。
サイズ・重量に関しては、冒頭で少し触れたが、高さ幅は241.2mm×185.7mmと変わらず、厚みだけ8.8mmから9.4mmへ0.6mm増え、ギリギリ10mm未満を保っている。重量も601gから652gへ増量だ。この2点だけはiPad 2から後退しているものの、得たものが遥かに多いので特に問題にはならないだろう。
ちょっと気になる点があるとすれば、iPad 2と比較して、iPadは裏側がほんのり暖かくなる。もちろん低温火傷するほどの温度では無いが、iPad 2を使っている時は暖かいと感じたことが無かっただけに、少し気になった。
価格はWi-Fiモデルで16GB/42,800円、32GB/50,800円、64GB/58,800と、各モデルで8,000円ずつ差が付いている。なお、16GBのiPad 2のみ併売されおり、こちらは34,800円とお買い得。安価なAndroidタブレットなどへの対抗策と言えるかもしれない。
●絶句の9.7型Retinaディスプレイ今回購入したのはWi-Fi/16GBのブラック。初代iPadの頃から「主なデータはクラウド上にあるのであまり容量を必要としない」と書いてきたが、32GBのiPad 2を1年近く使ってやはりその通りだったので、今回は思い切って16GBとした。
実際、iPad 2は容量28.6GBに対して使用可能がまだ24.0GBも残っている。16GBタイプでは容量13.3GB。少しアプリをインストールした状態で使用可能で10.9GBの余りがある。過去の実績を考えると、筆者にとっては十分以上の容量だ。
さて言葉で「Retina Displayが凄い!」と書いてもイマイチイメージがつかめないと思うので、論より証拠。まずiPadとiPad 2の画面キャプチャの比較をご覧いただきたい。iPadの画面にiPad 2の画面が4枚きっちり入る。スペック上そうなっているので当たり前と言えば当たり前の話だが、こうして改めて重ねて見るとその差は圧巻。これが同じ9.7型内で表示されるのだからもはや別次元。
さらに(ほぼ)同距離で撮影した画面の一部を切り出した写真を見るとiPad 2では文字やアイコンにジャギーが見え、新型iPadではそれが無く非常にクリアで滑らか。これが画面いっぱいに敷き詰められるのだから圧倒的な差となる。
iOSは最新の5.1。何本かアプリを入れた状態で残り10.8GB | ソフトウェアキーボードにマイクがある。iPhone 4Sと同様、マイクのキーがある。iOS 5.1でもiPhone 4そしてiPad 2には無い | iPadとiPad 2の画面キャプチャ比較。圧巻の2,048×1,536ドット。iPad 2の画面が4枚入る |
iPad2では文字やアイコンにジャギーが見える | 新iPadでは文字やアイコンにジャギーが見えずクリアだ |
新型iPadとiPad 2でもう1つ大きな違いは音声入力に対応したこと。既にiPhone 4Sでは出来ていたので、「あれ? iPad 2では駄目だっけ!?」と見たところ、はやりソフトウェアキーボードにマイクのキーは無い。この音声入力はキーボードが使える部分であれば、アプリを問わず利用できる汎用的な機能だ。ただし、残念ながらSiriには未対応。少し使った感じでは、Siriの方が認識度が高く反応も速い。
余談になるが、このSiri対応に関しては、現在唯一使えるのはiPhone 4Sのみというのは疑問だ。iPhone 4SはiPad 2とプロセッサなど主要なハードウェアは同じ。もちろん新型iPadはさらにその上を行くが、非対応とはなにか理由があるのだろうか。意図的に外しているのだとすれば、例えばノイズキャンセラーなど、iPhone 4Sにしかない機能を使っているからだろうか。ハードウェア的に可能であれば是非対応して欲しいところだ。
作動速度などは、まだ触り出して日も浅いので、何とも言えないが、感覚的にはiPad 2とほぼ変わらず。Webを使った描画比較と、比較的重いアプリ(GarageBand)の起動時間を比べた動画を掲載したが、ほぼ同じ結果となった。左側が新型iPad、右側がiPad 2。後者に関してはワンテンポ新型iPadの方が遅く起動しているが、これはタップしたタイミングが若干遅れている関係もある。
【動画】Webブラウザ表示比較。広告の出方が違うので全く同じ条件ではないものの、ほぼ同時に表示している |
App起動時間比較。GarageBandは(押したタイミングも若干遅いが)ワンテンポ新型iPadの方が遅い |
新設計のiSightカメラを使った作例を2点掲載した。残念ながらこの週末は天気が悪かったので、青い空は撮れなかったものの、それでも(失礼だが)撮る気にもなれなかったiPad 2とは比べ物にならないほど良くなった。iPhone 4Sは800万画素だが、写りそのまま500万画素(2,592×1,936ドット)になった、という雰囲気だ。
写り的には十分だが、以前から書いているように、このサイズのタブレットで写真(もしくは動画)を撮るには、例えば手ぶれしやすいとか、恥ずかしいとか、いろいろな意味で根性が必要。もしポケットにiPhone 4Sが入っていれば、間違いなくiPhone 4Sで撮影する。逆にフロントカメラは主にビデオチャットなどで使うのでもっと画質を上げてもいいような気がする。
屋内。ノイズも無く、暗いボトルの部分のディテールも良く表現できている | 屋外。雨混ざりの曇天で暗かったが結構色乗りが良い |
さて数日間使った感想だが、本体に関しては文句無しの逸品だ。この価格でこの性能なら誰でも楽しむことができるだろう。また用途によっては安価になって買いやすくなった16GB版のiPad 2を選ぶという手もある。
正直なところこの新型iPadの登場により、Androidタブレットはもちろん、まだリリースされていないWindows 8を搭載したタブレットもかなり厳しい状況になるのでは!?と思う。
5万円を切って、IPSパネルでRetina Display。そして豊富なアプリケーション。一番下には安価な16GBのiPad 2も控えている。Windows 8に関しては従来のデスクトップアプリがあるので、同じ土俵で語るのは違うかも知れないものの、Metroスタイルアプリはある意味同類だ。新型iPadと戦うのはかなり大変なことなのは容易に想像できる。結果はどうなるか、今から1年後が楽しみだ。
以上のように新型iPadは、iPad 2が出た当初と価格帯を変えず、2,048×1,536ドットと言う、PCの世界でもほぼ最高解像度(2,560×1,440ドット)に近いドット数をたった9.7型へ詰め込んだ驚くべきディスプレイを搭載したタブレットだ。この画面を一度体験してしまうと、手持ちの液晶ディスプレイが全てスカスカに見えてしまうほど。メモリ倍増やグラフィックコアの強化は、基本的にこの解像度に耐えられる仕様に変更したと思われる。
既にiPad 2を持っているユーザーにとっては複雑な気分だろうが、ぜひ店頭などでその凄さを体感して欲しい。これから更に使い込んで何か新たな発見をした時は、またレポートをお届けしたい。