再入門! ブレッドボード電子工作



 この連載は、2008年7月にスタートした『ブレッドボーダーズ』から数えて、第64回を迎えました。コンピュータ的にはキリのいい数字ですので、今回はこれまでの記事を振り返りつつ、いま電子工作を始めてみたいという人に向けて、ブレッドボード周辺の情報をまとめてみたいと思います。

 そもそも我々がこの連載を始めようと思ったのはブレッドボードとの出会いがあったからです。電子工作のイメージをがらりと変えてくれたブレッドボードのメリットをおさらいしておきましょう。

・最低限の工具で始められる

 電子工作というと、ハンダごてやニッパといった工具を用意するのが前提でした。でも、ブレッドボードを使えば、回路によっては1つの工具も使わずに作りあげることができます。今回はそういう例もお見せします。

・必要なのはわずかな知識とテクニック

 ブレッドボードの構造を理解したら、あとは部品の差し込みかたを覚えれば、工作が始められます。作例の図や写真をよく見て、真似をしてみるのが上達の近道。

・何度でもやり直せる

 部品は(見えないところに入っている)クリップに挿さっているだけなので、引き抜いてはずすことができます。失敗を恐れずに、何度かやり直すつもりで作ってみましょう。

 もちろんブレッドボード特有のデメリットもあります。扱える部品に制約がある、回路が大きくなると混乱しやすい、部品が完全には固定されないので動作が不安定になる場合がある、といった点があげられますが、これらはメリットの裏返しと捉えたほうがいいでしょう。限界の範囲内で適切に使えば、かなり複雑な回路の試作(プロトタイピング)や実験にも活用できます。ブレッドボードは初心者だけのものではなく、世界中のホビーストや学生、研究者の間でもよく使われています。

 ブレッドボードで電子工作を始めるにあたっては、ブレッドボーダーズの過去の記事を参考にしてください。

 ブレッドボードの構造について説明している第1回の「ブレッドボードで始めよう!」から始めて、第7回の「無安定マルチバイブレータ後編」まで目を通せば、スタートに必要な知識は揃うはずです。

ブレッドボーダーズ第7回で掲載した、ブレッドボーディングの手順を説明するGIFアニメです。こんな風に部品を差し込んでいくと、1つの回路ができあがります

 この原稿を書きながら、4年前の記事がほとんど古くなっていないのを確認して、ささやかな喜びを感じているのですが、ブレッドボードの世界にまったく変化がなかったというわけではありません。それどころか、ますます便利で入門しやすい環境ができあがっています。

 2012年の今、まったくの未経験者がブレッドボード電子工作を始めるとしたら、どうするのがベストでしょうか。

サンハヤトの「暗くなると自動点灯するLEDキャンドル」は、必要な部品がまとめられた「キット」。電池以外の全パーツが1度に揃います。定価998円
キットの内容物。組み立て方は同封の説明書に載っています。図を使って段階的に説明されているので、まずはそのとおりに作ってみましょう
このキットで使われているブレッドボードは、裏面が透明で、内部の構造がよくわかります
 LEDをロウソク風にチラチラと点滅させる、キャンドルICと呼ばれる部品と、光の量を調べるのに使うフォトトランジスタというセンサを組み合わせた回路です。写真はキットに含まれるフォトトランジスタ。部屋が暗くなって先端の半透明部分に当たる光が減少すると、キャンドルICが動作を始めLEDがチラチラと光りだします

 電子工作の最初の関門は部品の調達です。インターネット通販で何でも揃う昨今ですが、初めのうちは「どこで何を何個ずつ買えばいいの? 」と不安になるものです。小さな部品を1個買い忘れただけで、楽しく工作にふけるはずだった週末の予定が台無しに……なんてこともよくある話。最初はすべての部品が1つのパッケージにまとまっているキットを使いましょう。

 サンハヤトの小型ブレッドボードパーツセット「SBS-201」は、初めてのキットにぴったりです。簡単すぎず、難しすぎない、適度な複雑さになっています。汎用性のある部品が使われているので、次のステップに進んでからも無駄になりません。

 東京では、秋葉原の千石電商や神保町の三省堂本店などで、手にとって確認することができます。通販を利用する場合は"SBS-201"で検索すると、取り扱い店が見つかります。

 我々も1つ購入して組み立ててみました。実験的に、まったく工具を使わなくても作れるかを試してみたのですが、「ジャンプワイヤ」あるいは「ジャンパワイヤ」と呼ばれるブレッドボード用の電線を別途用意することで問題なく完成しました。

 ジャンプワイヤはブレッドボード上で部品と部品の間をつなぐときに使う短い電線のことです。使いやすい長さにあらかじめカットされたものがセットになって売られています。詳しくはブレッドボーダーズ第4回「道具を揃えよう」を参照してください。今回は比較的に低価格な「ブレッドボード・ジャンパーワイヤ EIC-J-L」を使いましたが、サンハヤトの「ジャンプワイヤキット SKS-140」や、エレショップで取扱中の「ジャンプワイヤーセット」なども同様に使えます。

秋月電子で取扱中のブレッドボード用ジャンパーワイヤのセット「EIC-J-L」。300円。ブレッドボードの穴の幅に合わせて切られた電線がセットになっているので、自分で加工する必要がありません。これを使えば、工具レス・ブレッドボーディングが可能です
工具を使わずに作った「暗くなると自動点灯するLEDキャンドル」

 リード線(部品から出ている2本あるいは3本の金属線)を切らずに、そのまま手で曲げてブレッドボードに挿入しました。そのため、かなり浮き上がっていますが、隣の線と接触しなければ動作に問題はありません。では、接触すると問題があるのでしょうか。状況によっては電池が過熱したり、部品が壊れてしまうことがあります。臭い煙がスーッと出てくることもあり得ます。より安全に、見た目も良く作るには、リード線を加工することが必要で、そのために工具を導入することになります。

 では、最初に買う工具は何がいいでしょう。ブレッドボード電子工作が目的ならば、我々はワイヤストリッパをおすすめします。通常、リード線を切るときはニッパーを使いますし、いずれは必要になるのですが、まず1つだけ工具を買って、それで当面は用を済ませたいという場合はワイヤストリッパのほうが便利です。

 ワイヤストリッパの利点については後述することにして、さきほどの回路をよりキレイに作り直してみます。

ホーザンのワイヤストリッパ「P-967」を使用しました。コンパクトなので、手の小さい人にも扱いやすい製品です
ハサミ型のカッター部を使って、リード線を適切な長さに切りそろえます。汎用のカッターを持たないワイヤストリッパもあるので、注意してください
部品の「足」を短くするだけで、見た目がだいぶスッキリします。安全性や安定した動作のためにも、このように作るほうがいいでしょう。赤いLEDの足は長いままですが、これは見やすさのためにワザと残しました
小型ブレッドボードパーツセットの姉妹品「LED点滅回路SBS-202」。945円

 サンハヤトからは「暗くなると自動点灯するLEDキャンドル」のほかに、「LED点滅回路」という、よりプリミティブな回路構成のキットも出ています。我々が好きな無安定マルチバイブレータを誰でも作れるようにした製品です。どちらも、はじめの1歩に最適です。

 それでは、2歩目はどのキットにしましょうか。

 秋月電子も複数のブレッドボードキットを販売していて、前述のサンハヤト製品に比べると、部品数が多く複雑です。秋月らしいワイルドな感じも漂っています。このあたりのニュアンスについては、2010年2月のプロトタイパーズ「全店制覇! 秋月電子通商のすべて」を見ていただくと、より伝わると思います。日本の電子工作界の要衝である秋月電子の世界に触れてみることを、ブレッドボード電子工作の2歩目にしてみるのはどうでしょう。

 ここでは同社のブレッドボードキットの中から、最新作である「振動サイレンキット」を紹介します。

秋月電子「振動サイレンキット」は1,200円。振動センサが揺れや傾きを検知すると警報音を発します。設置式の防犯ブザーとして使えそうです
別途用意する必要があるのは電池だけです。付属の説明書では、電池ボックスと圧電ブザー(音を出す部品)を、1枚のブレッドボードの上に搭載してしまう密度の高い作例が解説されています
完成状態。向かって左側の端から、説明書どおりに作りました。リード線を切る工具は必須です。今回はワイヤストリッパだけで済ませました
一番トリッキーなのは、ICのまわりのトランジスタとコンデンサの配置です。リード線がねじれていたり、ICをまたいでいたり。説明書と100%同じに作るのではなく、自分なりの配線を考えてみるのもパズル感覚で楽しいです

 「振動サイレンキット」の写真を見て、ジャンプワイヤの代わりに0Ω抵抗器(ゼロオームていこうき=胴体に黒い線が1本描かれている部品)が使われているのに気づいたでしょうか。これは秋月キットの特徴です。たぶん、ブレッドボード用のジャンプワイヤより抵抗器のほうが安いため(1本1円)、こうしているのだと思います。

 たしかに、ジャンプワイヤはただの電線にしてはいい値段がします。使いやすい長さに加工し、パッケージに小分けするコストが大きいのかもしれません。短いワイヤはたくさん必要になるのですが、それをすべて完成品のセットで用意すると、かなりの出費になります。そして、長めの線ばかりが余ってしまうんですね。

 そこで、ワイヤストリッパの出番。余りがちな長い線を自分で加工して、短い線を作ることができます。

短いワイヤが足りなくなってきたら、長いワイヤから作りましょう
ワイヤストリッパのカッター部を使って、必要な長さに切ります。ブレッドボードに差し込む足の分を見越して切らなくていけないので、実はここが一番難しいのですが、慣れるまでは心持ち長めにしておきましょう
穴になっている刃を使って、ビニールの皮をむきます。このワイヤの場合、単線側の24と表示された穴がちょうどいい大きさでした。この数字をAWGといい、電線の太さを表しています
はい、キレイにむけました。この作業は普通のカッターやニッパーでもできるのですが、コツがいります。慣れるまでは失敗が多いでしょう。ワイヤストリッパがあれば最初のうちから楽しい作業です
このワイヤストリッパの先端はプライヤになっていて、線をつまんで曲げることができます。1本で3役の便利なツールです
最後に足を切りそろえてできあがり。ニッパーと違って、固いリード線を切っても細かい切れ端がピーンと飛んでいかないので気が楽です(少し飛ぶこともあります)
ジャンプワイヤ作りを楽しみましょう

 以前の我々は、ワイヤストリッパは贅沢品と思っていましたが、ニッパーとラジオペンチでワイヤ加工をするよりも断然速く楽しいことを知ってからは必須アイテムです。2009年8月のプロトタイパーズでは、大阪の工具メーカー「エンジニア」を取材して、ワイヤストリッパの使い方のコツも教わりました。

 もう少し、ワイヤの話を続けます。

 ブレッドボーディングに使用するジャンプワイヤには、固い単線タイプと、柔らかい撚り線タイプの2種類があります。これまでは単線タイプの話だけをしてきましたが、離れた部品をつなぐときは、撚り線タイプのほうが扱いやすく作業がラクです。

 撚り線タイプを用意するときは、線の長さだけでなく、色も何種類か揃えると、配線を色分けできて理解しやすくなります。

マルツパーツ館で取扱中のジャンプワイヤセットは、5色の線が2本ずつ入っていて便利です。価格も300円とお手頃
必要十分な数をまとめて揃えたい場合は、サンハヤトの「SKS-290」が候補となるでしょう。普通の撚り線だけでなく、片方の端子が特殊な形状のワイヤも用意されています
SKS-290に付属する「Yラグ」タイプのワイヤ。電源装置との接続に便利です
こちらもSKS-290に付属する「ミノムシクリップ」タイプのワイヤ。ブレッドボードに挿しにくい部品を掴みたいときに重宝します
電池ボックスをブレッドボードにつなぐとき、撚り線の先端がうまく挿せないことがあります。また、何度も抜き差ししていると、くねっと折れてしまいますね。そんなフラストレーションを解決してくれるのがこの電池スナップタイプのワイヤ「006P-P」。マルツパーツ館で52円
電池スナップで接続できるのは9V角電池(006P)だけではありません。端子がスナップ式の単1~単3用電池ボックスも使用可能です。本数の異なる電池ボックスを用意しておくことで、さまざまな電圧の回路に対応できます

 ブレッドボード電子工作を楽しく便利にしてくれるパーツが着実に増えています。ここ1~2年くらいの間に発売された面白い製品をいくつか紹介しましょう。

サンハヤトの「UB-BRD01」は、先述のキットでも使われている同社のブレッドボード(SAD-101)と同じ穴位置のユニバーサル基板。ブレッドボード上に組んだ回路を、この基板の上へ移植することで、長期間安定して動作させることができます。移植の際はハンダづけが必要ですが、ブレッドボードで動作確認してからの作業となるので、ハンダづけ初心者の練習にも向いています
ブレッドボード電子工作を深めたいと思った人はぜひテスターを導入してください。「測定」をすることで、回路がより身近になり、動作チェックも確実になります。入門者向けのテスターの記事は2009年のプロトタイパーズ第18回にまとめてあります。この写真のテスターは特殊なワイヤを介してブレッドボードに接続されているのがわかるでしょうか。このワイヤはサンハヤトの「SUP-200」。痒いところに手が届く製品です
秋月電子もブレッドボード関連商品を拡充中です。この写真は、そのままではブレッドボードに挿すことができないヘッドホン端子を変換する「3.5mmステレオミニジャックDIP化キット」。こうした「変換基板」が増えています
櫛状に金属ピンが並んだ「ヘッダー」をブレッドボードに挿して、外部の回路や部品と接続したいときがあります。通常のヘッダーではピンが太すぎて挿しにくいのですが、秋月電子の「細ピンヘッダ」は、ちょっと細くなっているので、力をかけなくてもサクッと入ります。ブレッドボードにも優しいですね
最後の写真は番外編。先日あるトレードショーで見かけた韓国のブレッドボードキット「Neopia ネオスクールミニ」です。3×15ホールの小さなモジュールを組み合わせて、回路を広げていく仕組み。なんでも韓国の中学校ではこのキットを使った授業が一般的とか。韓国の若いブレッドボーダー達が電子工作に勤しむ姿を実際に取材してみたいです