後藤弘茂のWeekly海外ニュース

SSD 1TB時代に向けたNANDフラッシュの将来



●いつまで続く、NANDフラッシュの急速な大容量化

 TBクラスのSSDが一般向け製品として出回り、256GBのSSDが手頃価格になるのはいつなのか。SSDとHDDの価格差はどこまで詰まって行き、SSDはどこまでHDDを置き換えるのか。iPodや携帯電話のフラッシュメモリ容量はどこまでどんなペースで大きくなって行くのか。

 急速に低価格化&大容量化したNANDフラッシュメモリのおかげで、SSDはノートPCのプレミア仕様から、当たり前のオプションの1つに変わりつつある。iPhoneやスマートフォンといった携帯機器の急激な発展の原動力も、NANDフラッシュの進化によるものだ。NANDの生産量(総ビット数)は今やDRAMをはるかに凌駕し、メモリの主役の座をDRAMから奪い去った。NANDは、コンピューティング機器のメモリアーキテクチャを刷新し、半導体業界の地図を塗り替えつつある。

 しかし、このNAND革命がこのペースで継続するかどうかについては、疑問符もついている。NANDの強味は、12〜15カ月で2倍という急激な大容量化(=低価格化)のペースにあったが、それを継続し続けることは難しいからだ。すでに、従来の容量拡大ペースは崩れたという見方もある。ページの一番下のNANDのダイサイズの図を見れば、異変が起きているのがよくわかる。今後の大容量化の状況は、さらに厳しくなると言われている。

 NANDの大容量化は、メモリセルの小型化などさまざまな技術が支えてきたが、過去数年はプロセス技術の微細化の要素が大きかった(チップレベルで見るとダイスタックも大きい)。しかし、メモリセルが小さいNANDには微細化限界が近づいており、多値化にも信頼性の壁が立ちはだかっている。20nm台のプロセス技術より先へと順調に進むと見る業界関係者は少なく、3〜4bits/cellのいわゆるSMLC(Super Multi-Level Cell)のNANDが市場の主流になる可能性も低い。微細化はSONOS(Silicon-Oxide-Nitride-Oxide-Silicon)またはチャージトラップ(Charge Trap)と呼ばれるメモリセル技術で延命は可能だが、これまでのペースを維持できるかどうかはわからない。

●微細化の限界を破るための3D NANDメモリセル技術

 もちろん、NANDメーカーも手をこまねいているわけではなく、微細化も多値化も行き詰まった時のための技術開発を進めている。現在、そのカギと見られているのはメモリセルの3D化技術だ。メモリセルをダイ(半導体本体)上で多層化することで、チップ面積当たりのメモリ容量を上げる。東芝とSamsungがそれぞれ別な手法で3D化を発表している。この技術が確立すれば、同じプロセス技術のままで、容量を倍々に増やすことが可能になる。しかし、逆を言えばそれだけの技術革新をしなければ、容量増大を続けることが難しいとも言える。

メモリセルの3D化技術

 こうした技術ハードルに加えて、市場の見通しの不鮮明さもある。NANDはこれまで、生産する総ビット量を、1年に平均で約2.7倍ずつ拡大して来た。市場が同じ規模で容量だけが増えるのなら、1年に2倍の総ビット量拡大で済む。iPodのNANDが16GBから32GBに増えれば、2倍使うからだ。ところが、NANDベンダーはそれをさらに上回るペースで生産量を増やしてきた。つまり、NANDを使うデバイスが毎年増えて、ビット需要が70%ずつ余計に増えると踏んでいたわけだ。

 しかし、NAND価格は2007年後半に下落して以来低迷し、明らかな供給過剰に陥った。現在は主要ベンダーが減産を行なっている。もちろん、これには不況の影響も強いが、ついに市場拡大がNAND生産量の拡大に追いつかなくなったと見ることもできる。

 メモリベンダーがNAND開発に膨大なコストをかけて注力したのは、NAND市場がどんどん拡大し、ビジネス規模が大きくなり続けていたためで、市場拡大にストップがかかると、こうした流れも影響を受けるかもしれない。

●ファンの法則で1年に2倍ずつ容量が増大

 今年、16GBが買えた金額で、来年は32GBが買えるようになる。これが、NANDの最大の強味だ。大容量品があっと言う間に安くなり、年々倍々で容量が増えて行く。PCのデバイスの中で、これだけ急激に安くなるものはほかにない。大容量かつ安価になるから、どんどん使い道も増える。PCのターボメモリに使うことが可能になったのはDRAMよりずっと安価になったためで、SSDに使えるようになったのは小ディスク径HDDにコストで迫って来たからだ。つまり、他のデバイスより急速に大容量&低価格化するから、NANDの市場は発展して来た。

各年代におけるNANDの用途
NANDは毎年2倍の勢いで増量

 NANDの急激な容量増大ペースは、これまで「ファンの法則(Hwang's Law)」と呼ばれてきた。これは、最大手のNANDベンダーであるSamsung Electronicsのファン・チャンギュ(Chang-Gyu Hwang)氏(Chief Technology Officer, Samsung Electronics)の名前を取っている。Samsungが提唱してきた経験則で、1年でNANDの容量が2倍ずつになるという。ポイントはムーアの法則を上回ることだ。

 ムーアの法則は、現在は2年で2倍の容量の増大ペースなので、ファンの法則通りならNANDの容量拡大は2倍の速度となる。容量には指数関数的に効くので、この差は大きい。ムーアの法則なら1GBのチップが4年後に4GBになるが、ファンの法則なら4年後に16GBになる。実際には、NANDの伸びは約15カ月で2倍程度のペースなので、12カ月で2倍よりは緩やかだが、それでも4年後には9.2GB相当になる。他の半導体デバイスの2倍近いペースでの大容量化、これがNANDの武器だった。

2001年以降のNANDフラッシュの容量と生産量のトレンド

●2003年にDRAMを追い抜いたNANDの急伸

 NANDは、普及が拡大し始めた'90年代末頃には、チップ当たりのメモリ容量はDRAMよりずっと小さかった。しかし、DRAMの容量増大はムーアの法則に沿っており、かつては3年で4倍、現在は2年で2倍かそれ以下に留まる。そのため、2003年頃には、1年で2倍のファンの法則で容量を増やすNANDに、チップ当たりの容量で追い抜かれた。それ以降、DRAMとNANDのチップ当たりの容量の差はどんどん広がっている。

 下の図はSamsungのカンファレンスTech Forum 2007のスライドだが、これを見るとNANDの伸びが、いかに他の半導体メモリと隔たっているかがよくわかる。実際には、エンドPCユーザーから見れば、差はもっと大きい。なぜなら、DRAMの大容量チップは、登場時はサーバー向けの高価格な製品に限られるが、NANDの大容量チップはそれほど割高ではないためだ。

 そのため、PCユーザーから見るとNANDのリードが大きく見える。PC向けのDRAMの主流は現在1G-bitチップだが、NANDは現在16G-bitチップが主力で、差は16倍にもなっている。実際にはチップのダイサイズ(半導体本体の面積)が異なる(NANDの方がDRAMより大きい)ので差は見かけほど大きくはないが、エンドユーザーにとってこの差は意味がある。

各種メモリの容量の遷移

●NANDの成長を支えてきたファンの法則が終わった?

 ファンの法則の根拠となっているのは、Samsungによる大容量NANDチップサンプルの開発発表だ。Samsungは、次の容量世代のNANDの開発発表を2007年まで毎年行なってきた。そのサンプルチップの容量が、1年に2倍のペースであることがファンの法則を支える証拠だった。具体的には、2001年には1G-bitチップ、2002年には2G-bitチップを発表し、それを2007年の64G-bitまで継続して来た。

 ところが、2008年にSamsungは128G-bitチップの開発発表を行なわなかった。1年に2倍のペースの大容量化の論拠が、2008年には示されなかった。そのため、ファンの法則は2008年で、ついに止まってしまったと言われた。

SamsungのNANDフラッシュの開発発表の容量トレンド

 では、実際の量産チップの容量移行はどうなのか。Samsungと並ぶNANDの最大手である東芝の量産計画を見ると、容量の増加は一定のペースを保っているように見える。

 東芝セミコンダクターが2008年12月のセミナー「メモリシステムシンポジウム」で説明したロードマップでは次のようになっている。多値(2bits/cell, 4 Level)セルのMLC(Multi-Level Cell)製品については、2008年後半に43nmプロセスの32G-bitチップを量産開始した。2007年には56nmプロセスでの16G-bitチップを量産開始している。70nmでの8G-bitチップの生産は2005年から開始しているから1年置きとはいかないが、それでも一定のペースで容量を倍々に上げている。

 さらに、東芝とNANDの開発と生産で提携するSanDiskは、東芝と共同で2009年2月のISSCCで発表した43nmプロセスの64G-bit NANDについて、2009年前半に製造とアナウンスしていた。ここから先も、倍容量化が続くように見える。しかし、実際にはそう簡単な話ではない。

2001年以降のNANDのフラッシュの容量とプロセス技術のトレンド
SanDiskのNANDロードマップ

●大型化するNANDのダイサイズが語るものは

 何かが変であることは、NANDフラッシュのダイサイズ(半導体本体の面積)を見ればわかる。下は、ISSCCなどのカンファレンスで発表された数値をベースに、各社の個別情報なども加えたNANDのダイサイズのチャートだ。各社の全てのチップのダイサイズが分かっているわけではないが、大まかな流れはわかる。メモリメーカーによって、同じプロセス世代でもダイサイズに違いがあるが、一部を除けば極端な差はないので、トレンドは掴めるはずだ。

 一見して明瞭なのは、ここ2007年以降にパターンが崩れていること。NANDフラッシュの量産品のダイ(半導体本体)は、一般に130〜170平方mmの面積をターゲットにしていると言われる。図の中でグリーンの帯で示したあたりが、いわゆる“スイートスポット”のダイサイズだ。NANDメーカーは、メモリ容量を大きくしても、このスポットに入るサイズになるようにNANDを作ってきた。

 ところが、2007年頃から倍容量の次世代ダイが急に大きくなり、パターンが変化している。ダイが大きくなれば1枚のウェハから採れるダイ個数が減り、歩留まりも悪くなる。明らかに、NANDの容量とダイサイズの関係は変わりつつある。

 もう1つ目立つのは、SMLCと呼ばれることが増えてきた、3bits/cellあるいは4bits/cellの超多値化NANDの台頭だ。東芝/SanDiskは3-bit MLCの製品をすでに少量だが量産している。パッと見てわかるのは、3/4-bit MLCが、本来期待されている倍容量のセグメントと、本来期待されているスイートスポットダイサイズにはまっていることだ。つまり、従来のSLC/2-bit MLCのダイの大型化と補完している。次回は、なぜこうなっているのかを、もう少し掘り下げてみたい。

NANDフラッシュダイサイズの遷移

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