元麻布春男の週刊PCホットライン

日本HPのAthlon搭載超小型サーバー「ProLiant Micro Server」を試す



 グローバル化が進むIT業界は、地域的な偏りが少ないハズだが、わが国固有の事情や特殊性というものが少なくない。わが国では、PCの全体シェアに占めるノート型の比率が群を抜いて高いというのは、よく知られた事実だ。最もグローバル化が進んでいそうなサーバーにおいても、わが国ならではの特徴があるという。それは、エントリー向けのタワー型の比率が高いことだ。市場調査会社のIDCによると、ワールドワイドではエントリー向けのタワー型サーバー(シングルソケット)のシェアは13.3%程度であるのに対し、わが国では32.0%あるという。

 なぜに、これほどエントリー向けのタワー型サーバーが売れるのか。国土が狭いことによる不動産価格の高さ、遠隔地のデータセンター利用を好まない国民性、現場主導で稟議書の要らない低価格サーバーを導入してしまうことなど理由はさまざまあるのだろう。通常のデスクトップPCに比べて、グラフィックスは弱いものの、ストレージスペース(ドライブベイ)に余裕がある点がウケたのか、数年前には個人ユーザーがデスクトップPC代わりに低価格サーバーを購入する、ちょっとしたブームが起こったことを覚えている方もいらっしゃるのではないかと思う。

ProLiant Micro Server。前面パネル中央のHPロゴは、電源投入直後は赤く点灯し、POSTが終わると青に変わる

 今回取り上げる日本HPのProLiant Micro Serverも、低価格なエントリー向けのシングルソケット・サーバー。最小構成の価格は35,700円と極めてリーズナブルだ。ただし、「タワー」というにはあまりに小さく、キューブサーバーといった印象を受ける。実際のサイズは210×260×267mm(幅×奥行き×高さ)だから、容積は約14.6L。筆者が使っているLian Li製のMini-ITX対応マイクロタワーケース(PC-Q07)とほぼ同じ容積で、より立方体に近い(PC-Q07の方が背が高い代わりに奥行きと幅が小さい)。この小さな筐体に、3.5インチドライブを4台搭載できるスペースが売りだ。

 そのために、本機は独自設計の小型電源ユニット(200W)を搭載したほか、プロセッサも組み込み用でTDPが15WのAMD Athlon II Neo N36Lを採用している(TDPについては12Wとする資料も存在するが、ここでは日本HPの説明会での数字を示した)。組み込み用ということであまり資料のないプロセッサだが、1.3GHz動作のデュアルコア、コア毎に1MBのL2キャッシュ(計2MB)を内蔵する、BGAパッケージといった仕様から、一般(ノートPC)向けのAthlon II Neo K325に相当するものではないかと思われる。チップセットには、一般向け785Gの組み込み用と思われる785Eチップセットを用いており、Radeon HD 4200グラフィックスを内蔵する。

【表1】ProLiant Micro Serverの標準構成
CPUAthlon II Neo N36L (DC, 1.3GHz)
チップセットAMD 785E
メモリ1GB PC3-10600 DIMM(ECC付き)×1(空きスロット×1)
HDD160GB 7200rpm 3.5inch SATA(Barracuda 7200.12/ST3160318AS)
光学ドライブ(オプション)日立LGデータストレージ GH60L
グラフィックスRadeon HD 4200(チップセット内蔵)
グラフィックスメモリ共有メモリ
ディスプレイ端子アナログ ミニD-Sub15ピン
LANNC107i PCI Express Gigabit Ethernet
オーディオなし
USBポート背面×2、前面×4、内部×1
eSATAポート背面×1
拡張スロット(Low Profile専用)PCI Express Gen2 x16レーン×1
PCI Express Gen2 x1レーン×1
電源ユニット200W、非冗長
プリインストールOSなし

 この低消費電力のプロセッサを採用することで、プロセッサの冷却をファンレス(パッシブヒートシンク)とし、ヒートシンクの直上ぎりぎりまでドライブベイを下げている。またこの関係で、2本あるメモリスロットに挿すモジュールも、背の高いものは物理的に適合しない。ただし、ブレードサーバー等に使われるLow Profileモジュールである必要はなく、普通のサイズのモジュールならOKだ。


Lian LiのPC-Q07(右)と。本機の方が背が低く、幅と奥行きが大きいトップカバーと前面のドアを取り外したProLiant Micro Server。コンパクトなボディに4台ものHDDを収納できるのは、小型の専用電源を採用したおかげ

 メモリの仕様は、サーバーらしくECCの付いたアンバッファードPC3-10600で、標準で1GBのモジュール1枚がインストールされている。ただし、以前のML110シリーズ同様、メーカー保証外となるが、ECCなしの一般的なモジュールでも動作する(混在は不可)。

 2本用意されたPCI Express Gen2拡張スロットは、x16レーンとx1レーンがそれぞれ1本ずつで、Low Profile専用となっている。200Wという電源ユニットのスペックや冷却を考えると、あまり消費電力の大きなカードを挿すことはできないが、あるとないでは大違いだ。ちなみにマザーボードは、Mini-ITXに近いファームファクタだが、奥行きが若干長く、取り付けネジ穴の位置等も異なっている。

 筐体フロントドアから簡単にアクセスできるドライブベイは計4台分。オンボード(チップセット内蔵)のSATAコントローラにより、RAID 0とRAID 1がサポートされている。左から順に1~4となっており、工場出荷時に1番のベイに160GB(7,200rpm)のドライブが1台インストールされている。ドライブの取り付けは、付属する樹脂製のケージを使って、レールにはめ込むことで、簡単に着脱できる。ホットプラグはできないが、価格を考えればやむを得ないところだろう。

 開閉式のドアの上には、5インチベイがあり、オプションの光学ドライブを取り付けることが可能だ。今回、純正の光学ドライブも試用することができたが、奥行きが169mmと非常に短いドライブ(日立LGデータストレージGH60L)だった。なお、光学ドライブやHDDをケージに固定するネジ(トルクスタイプ)は、ドアの内側に専用の六角レンチとともに用意されている。

 最大4台のHDD、プロセッサやメモリといったコンポーネントを冷やすのは、本体背面に取り付けられた12cm角の大口径ファン1基のみ(別途電源ユニットにも冷却ファンがあるのでシステムとしては計2基)。冷却ファンはドライブベイの真後ろに取り付けられており、HDDの冷却を主目的にしている感じだ。7,200rpmの3.5インチドライブ4台分の熱を、これで十分排熱できるという。12cm角という、このサイズのPCとしては大口径のファンを用いていることもあり、本機のノイズは標準構成時に21.4dBとされており、オフィス内へ設置しても全く問題ない。

マザーボードを取り外す際は、左右の青いノブのネジをゆるめた上で、いったんこの位置までマザーボードをトレイごと引き出した上で、すべてのケーブルを取り外す取り出したマザーボード。Mini-ITXと比べ、奥行きが若干長く、取り付けネジの位置も異なる。拡張カードの着脱、メモリの増設の際は、このようにマザーボードを完全に取り出す必要がある
取り外した前面ドア。下部に水平にHDD取り付け用のネジ、右側中程に光学ドライブ取り付け用のネジが用意され、その左側に六角レンチが止められている本機の背面。Low Profile専用の拡張スロットの上にあるのが小型の電源ユニット。背面にはアナログRGB(ミニD-Sub15ピン)、RJ-45、USBポート×2、eSATAのコネクタが並ぶ。

 上述した本機の標準価格には、160GBドライブ1台が含まれているが、OSは含まれていない。低価格の本機に見合った、安価なサーバーOSとして、Windows Server 2008R2 Foundationのプリインストールモデルが欲しいところだ。ここでは、Windows Server 2008R2 Standardをインストールして試用している(サポートOSはほかにRed Hat 5 Linux)。メモリが1GBしか搭載されていないので、Windows Server 2008 R2がサポートするさまざまな機能のうち、ファイルサービスのみを有効にして、クライアント(表2)からファイルアクセスするベンチマークテストを実施してみた。

 テストに際しては、ProLiant Micro Serverに使用するHDDを、添付のものと同じシリーズ(Barracuda 7200.12)の320GBモデルであるST3200418ASに交換している(作業の都合上だが、ほとんど性能に違いは生じないと思う)。また、クライアントのHDDも、同シリーズの500GBモデルであるST3500418ASを用いているが、こちらは約270GBのC:パーティションと約195GBのD:パーティションに分割している。比較の対象として、同じ物理ドライブ上の別パーティションを加えるためである。

【表2】テスト用に接続したクライアント構成
マザーボードIntel DP55KG
CPUCore i7-870
ブートHDDST3500418AS
C:約270GB、D:約195GBに分割
増設HDDST320418AS
メモリ4GB(2GB PC3-10600 DIMM×2)
グラフィックスRadeon HD 4890
LANIntel 8758DC(オンボード)
OSWindows 7 Home Premium 32bit

 その結果をまとめたのが表3だ。ProLiant Micro Server上の共有フォルダをZ:ドライブにマウントして、ここに対してクライアントPCからCrystalDiskMark Ver 3.0hの実行と、3.87GBのMPEG-4ファイルのコピーを行なった。本機、クライアントのブートHDDと同じ物理ドライブ上の別パーティション(D:)、増設ドライブ(E:)、筆者が常用しているNAS(RAID 5ボリュームをZ:にマウント)の3つを比較に加えてある。

【表3】Windows Server 2008R2 Standardをインストールしてのファイルアクセステスト

TargetProLiant Micro Z:Local D:Local E:Netgear ReadyNAS NV+ Z:


ST320418ASST3500418ASST320418ASSAMSUNG HD103UJ×4
CrystalDiskMark ver 3.0h 1000MBSeq. Read83.69102.2109.839.46
512k Rnd Read38.6945.0247.4122.74
4K Rnd Read0.5210.5050.6530.555
4k QD 32 Read0.6511.6241.8050.575
Seq Write85.4692.7610923.15
512k Rnd Write57.1454.3562.924.61
4k Rnd Write1.4171.1981.6270.32
4k QD 32 Write1.3611.1641.6410.359

 いずれのテスト結果を見ても、ファイルアクセスの性能は、ローカルの増設ドライブとほとんど変わらないスコアとなっており、小規模事業所のファイルサーバーとして十分な性能を持っている。比較したReadyNAS NV+は、組み込み用RISCプロセッサ(OpenSPARC)ベースの製品で、RAID 5サポートや、ドライブのホットスワップが可能といったメリットがあるものの、性能的にはシングルドライブの本機に太刀打ちできない。

 日本HPが開催した説明会において、筆者はこのProLiant Micro Serverで想定されているサーバーアプリケーションについて尋ねた。回答は、中小企業向けの給与計算や人事管理、あるいは経理用のパッケージであるということだった。残念ながら、筆者はこうしたパッケージを扱ったことがないため、これらのアプリケーションに対し本機の性能が十分なのかどうかは分からないが、少なくともファイルサーバーとしては問題ない性能だと思う。

 ただ、35,700円の本機に、10万円以上するWindows Server 2008 R2 Standardは釣り合わない。Foundationの単体販売が認められていない以上、本機へのバンドルが待たれるところだ。実はこの点についても、説明会で質問をしたのだが、回答は「その点については、十分認識している」というものだった。早期の提供が待たれるところだ。

●クライアントPCとしても利用可能

 さて、こうした仕様を持つProLiant Micro Serverだが、パッと見てクライアントPCとしても使えそうだと感じた人もいることだろう。そこで、最後にクライアントPCとしても簡単なチェックとテストをしてみることにした。

 ProLiant Micro ServerをクライアントPCとして使う場合のメリットは、小型であること、にもかかわらずストレージ容量が大きくとれること、高い静音性を持つこと、低価格であること、といったあたりだ。逆にデメリットは、プロセッサ性能に大きな期待はできないこと、グラフィックス性能と機能にも制約が大きいこと、サウンド機能を備えていないことであろうか。OSがプリインストールされていない点もマイナスではあるが、増設用のHDDとともに、安価なDSP版でも購入すれば良いだろう。ここでは、Windows 7 Home Premium 32bitをインストールしている。

【表4】比較用に用いたPCの構成(概要)

Core i3デスクトップIdeaPad U350(29633DJ)
マザーボードIntel DH57JG
CPUCore i3-530Celeron 723(SC、1.2GHz)
チップセットIntel H57 ExpressIntel GS40 Express
グラフィックスCPU内蔵チップセット内蔵
メモリ2GB PC3-1066 DIMM×22GB PC3-8500×2
HDDMK3265GSX(2.5インチ、320GB、5,400rpm)WD2500BEVT(2.5インチ、250GB、5,400rpm)
OSWindows 7 Home Premium 32bitWindows 7 Home Premium 32bit
今回用いたRadeon HD 4350ベースのファンレスグラフィックスカード

 サウンド機能に関しては、PCI Express x1のサウンドカードを導入するか、いっそUSB音源を使うのが手っ取り早い。筆者も今回USBの外付け音源を用いた。グラフィックスについては、性能を問う前に、ミニD-Sub15ピンしか持たない点が、現在のクライアントPCとしては辛い。ただ、小型の筐体で拡張カードがLow Profile専用になること、電源容量が200Wしかないことを考えると、強力なグラフィックスは最初から望むべくもない。デジタル出力を付与するためと割り切って、ローエンドGPUを用いた製品を用いるのがベターだろう。

 プロセッサ性能については、AMDのサイトにある性能比較資料で比較されている対象が、Core 2 Duo U9300であることが1つの目安となる。要するに、おおむねCULV機くらいの性能であるということだ。それを踏まえた上で、簡単なベンチマークテストを行なってみた。なお、このクライアントPC向けのテストに際しては、標準構成(内蔵グラフィックス+1GBメモリ)に加えて、Radeon HD 4350+4GBメモリの構成でも実施した。前者はLowProfileのファンレスカード、後者のメモリはアンバッファードの非ECCメモリである。

 また比較の対象として、表4にある2機種を加えた。Core i3デスクトップは、サイズ比較に出てきたMini-ITX対応ケースであるPC-Q07に組み付けたもので、以前に取り上げたことがあるのだが、現在はプロセッサが変更されCore i3-530となっている。一方、IdeaPad U350は、CULV初期の製品であり、Athlon II Neo N36Lよりクロックも低い、シングルコアプロセッサのCeleron 723ベースである。

【表5】クライアントPCとしてのベンチマーク

ProLiant Micro Server 標準構成ProLiant Micro Server 4GBメモリ+Radeon HD 4350Core i3デスクトップIdeaPad U350(Celeron 723)
PCMark05 v120
PCMark2986354266851937
CPU3069308377272018
Memory2755285866673012
Graphics1479260432581047
HDD7346735045854377
3DMark06 v120
3DMark Score96917481754548
SM 2.0 Score324618546167
HDR/SM 3.0 Score373700689229
CPU Score105810663079549
CrystalMark 2004R3
Mark553826317712382530214
ALU1047910562364166000
FPU1006910069362345298
MEM906011079284547156
HDD138101145579566498
GDI35073849102003453
D2D193523731997851
OGL6522137902568958

 その結果だが、ほぼ予想通り。プロセッサの性能はデュアルコアのCULV機相当だと考えられる。グラフィックス性能は、CULV機のチップセット(GS40やGS45)が内蔵するものより上だが、最新のCore i3シリーズには遠く及ばない。とはいえ、交換できないプロセッサに対して、ローエンド限定とはいえ、外部GPUを利用可能であることを考えれば、それほど大きな問題ではない。実際、ここで用いたRadeon HD 4350(一世代前のローエンド)でもCore i3とほぼ同じクラスにアップグレードできた。CPU性能が必要な用途には向かないが、メディアサーバー兼用のクライアント、あるいはクライアントアプリケーションを動作させるパーソナルファイルサーバーといった使い方なら「アリ」な性能ではないかと思う。