元麻布春男の週刊PCホットライン

Microsoftのストレート型タブレットは2010年内に登場か



 Microsoftは米国時間7月29日、金融アナリスト向けにFinancial Analyst Meetingを開催した。この場において、スティーブ・バルマーCEOをはじめとする同社役員が、同社の事業戦略について語っている。もちろんその内容は同社の事業全般に及ぶが、ここでは最も注目度の高いタブレット型デバイスとスマートフォンに関連した内容を紹介しようと思う。発言のほとんどはバルマーCEOによるものであり、筆者が四の五の言う前に、その発言骨子をまとめておこう。

 まずタブレット型デバイス向けのOSだが、バルマーCEOはそのOSがWindows 7であると言明した。現在Micrsoftは、Windows 7をスレート/タブレット向けにチューニングしているという。リリース時期については、「準備ができしだい」ということで明言を避け、2011年に登場するIntelのOak Trailで、このプラットフォームは加速するだろうと述べている。消費電力の小さなOak Trailにより、長時間バッテリ駆動、ファンレス化、小型化がもたらされるとした。

 次にスマートフォン向けOSについてだが、Microsoftがシェアを失っていることを認めた上で、これを上昇基調に戻したいと述べた。だが、それは一夜にして達成できるものではないと付け加えている。このスマートフォン向けOSに関して、Microsoftは2つのことにフォーカスしている。1つはソフトウェアの部分を正しく作り込むこと、そしてもう1つがハードウェアだ。これまでもMicrosoftは、組み込み機器に関して、コアとなるハードウェアプラットフォーム(the core hardware platform)を自社で設計してきた。Microsoft社内でシャシー仕様と呼ばれるこのデザインを元に、OEMが付加価値を付与する形で自らのデバイスを開発する。

HPのスレート型デバイスを手にするバルマーCEO(CES 2010)

 さて、まずタブレット型デバイスに関してだが、バルマーCEOはスレートという言葉を使った。この言葉はピュアタブレットと同義であり、コンバーチブル型をスレートとは呼ばない。1月のCESで見せたHPのスレートデバイスや、iPadのようなデバイスを指していることは確実だ。

 異例なのは、バルマーCEOが2011年に登場する(まだ入手できない)Intelのプラットフォーム、Oak Trailに2回も言及していることだ。以前書いたように筆者は、Windows 7ベースでいくのなら、Pine Trailベースで構わないのではないかと思っている(特に薄型のCanoe Lakeを見た後では)。しかし、MicrosoftはPine Trailではお気に召さなかったらしい。おそらく、もっと軽くしたいのだろう。いくら薄くなるとはいえ、Pine Trailベースで10時間の駆動時間と、5万円前後の価格を実現しようとすれば、重量は1kgを超えてしまう。それではiPadと同じジャンルにはならない。

 消費電力の低いOak Trailであれば、小型・軽量化には有利だが、性能面での懸念が高まる。シングルコアのAtomプロセッサ、PowerVRベースのグラフィックス、DDR2メモリといった構成要素は、Pine Trail/Canoe Lakeに対して性能的にマイナスとなる(Windowsを前提にする限り)。「チューニング」とは、これを克服するものなのかもしれない。特にサクサク感を演出するには、GUIへのテコ入れが欲しいところでもある。

 しかし、GUIも含めて、あまりに多くを変えてしまうと、それはWindows 7ではなくなる。ユーザーインターフェイス、アプリケーション互換性、この2つを全く犠牲にすることなく、Windows 7を軽量化することは可能なのだろうか。これらを犠牲にしてしまっては、それはWindows 7ではない。Windows 7をベースにした、何か別のOSである。逆に全く犠牲にすることなく軽量化することが可能であるのなら、Windows 7ももっと軽くできることになる。

 個人的には、Microsoftのタブレットデバイス向けOSが、Windows 7をベースにした、Windows 7ではないOS(アプリケーション互換性が100%ではなく、GUIも異なる)でも良いと思っている。マウスとキーボードを前提にしたアプリケーションがタブレットで動いてもあまり嬉しくないからだ。しかし、それならそれで、タブレット向けOSはWindows 7ではない別の何かとして、マーケティング(ネーミング、ロゴプログラム、パッケージ等)を別にして欲しい。

 とはいえ、現実(開発期間)を考えると、それほど大幅な変更を加えることはできないだろう。それをやると、ベータテスト等も必要になる。細部のチューニングは行なうものの、劇的な変化はないのではないかと筆者は予想している。

 開発期間が短いと分かったのは、JP Morganからの出席者による質問の回答からだ。質問は次のようなものだった。

 Oak Trailはクリスマス商戦に間に合わないとのことだが、それよりずっと前にAndroid OSを搭載したデバイスがたくさん登場してくる。それにどうやって対抗するつもりか。ネットブックの時も取り組みが遅れたが、あの時は敵が(企業規模の大きくない)Ubuntuだった。が、今度の敵は(はるかに規模の大きい)AppleやGoogleなのだが(カッコ内は筆者の注)。

 この問いに対してバルマーCEOは、次のように答えている。

 Oak Trailはハイライトであって、それをただ待っているのではない。製品はMicrosoftから出るのではなく、われわれのエコシステムから登場する。繰り返しになるが、製品はできる限り速やかにリリースする。それはそんなに遠い先の話ではない。

 この回答から考えて、最初の製品はおそらく2010年内に登場するのだろう。ただ、それはOak Trailベースではない。これが意味することは、チューニングといってもOak Trailでしか動かないようなギリギリのものではない、ということ。そして、上でOak Trailがもたらすものとして述べている3点、長時間バッテリ駆動、ファンレス化、小型化について、2010年内に登場する製品は何らかの妥協があるだろう、ということだ。

 しかし、バッテリ駆動時間が短く、ファンがブンブン回る大型のスレート型デバイスとなると、Windows XP Tablet PC Editionの時に登場したピュアタブレット型Table PCと変わらなくなってしまう。それはiPad対抗というより、斜め上の製品になりはしないか。Microsoftによる「チューニング」が注目されるところだ。また、これだけOak Trailに注力しているということは、MoorestownにWindowsサポートを加えたOak Trailは、Microsoftのリクエストだったのかもしれない。

Windows 7ベースのノートPCはシェアを拡大しているという

 さて質問の後半、GoogleとAppleへの対抗という点に関してだが、バルマーCEOは、Androidベースのデバイスに関しては、比べて欲しくない(競争にさえならない)と一蹴した。そしてAppleが、少々手強いライバルであることは認めた上で、過去に戦った実績、MacとWindowsの競争について触れた。そして、直近のIDCの調査では、Windowsのシェアが伸びているデータを紹介した(ZuneとiPodはどうなんだ、という突っこみもあるだろうが)。

 さらにCOOのKevin Turner氏は、Microsoftの目標は1四半期に300万台売ること(Appleが発表したiPadの出荷数)ではない。それどころか1,500万台や2,000万台ですらない。われわれの目標は4億台である。それをわれわれは理解し、そこに向かって努力していると述べている。Appleとは目指しているものが違う、というわけだが、それはAppleとは違う市場を目指すということにならないのか。もしそうだとすれば、その市場はiPadで騒がれている市場とは別のものであり、それがどのくらいの市場規模になるのか、全く実績はないことになる。真意は、iPadと同じ市場で4億台売れるデバイスのOSを作っているんだ、ということなのだろうが、果たしてそううまくいくのかどうか、タブレット向けWindows 7のリリースが待たれるところだ。

 さて、スマートフォンOSについてだが、バルマーCEOはハードウェアのリファレンスデザインをMicrosoftが行なっていることを認めた。そうであるなら、ARMのアーキテクチャーライセンスを取得して、カスタマイズされたプロセッサを用意してもおかしくない。ただ、ライセンスの取得時期から考えて、現在開発中と言われるWindows Phone 7に間に合うとは考えにくい。将来のプラットフォーム向けに、プロセッサから含めてデザインを行なう、ということなのだろう。今のところ、このOSはスマートフォン専用で、タブレット型デバイス等に転用するプランはないようだ。想像するまでもなく、MicrosoftにおいてWindows(メインストリームWindows)の成功体験は巨大で、絶対なのだろう。

 というわけで、MicrosoftはWindows 7をベースにiPadやAndroidベースのタブレットデバイスに対抗していくようだ。これが、本命OSが出てくるまでの「つなぎ」とは、口振りからしても思いにくい。彼らとて、Tablet PCにおいてピュアタブレット型がどうなったかは承知しているハズ。「チューニング」に期待したいところである。