大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

エプソンダイレクトが「Endeavor S」シリーズに込めた意味
~価格とサービスを両立させ、個人事業者に最もお得なPCを目指す



Endeavor Sシリーズ

 エプソンダイレクトが6月14日から、Endeavor Sシリーズを発売する。

 個人事業主やSOHO、小規模事業所向けのWeb・通販専用モデルと位置づけられる同シリーズは、BTOの選択肢を限定し、部品保証期間を見直すといったコストダウンを図ることで、仕様をパッケージ化した格好で提供。初期導入コストを抑えた製品となっている。

 果たして、エプソンダイレクトは、どんな狙いからEndeavor Sシリーズを商品化したのか。エプソンダイレクトの河合保治取締役事業推進部長に話を聞いた。


--Endeavor Sシリーズの製品コンセプトを聞かせてください。

エプソンダイレクトの河合保治取締役事業推進部長

河合 今回のEndeavor Sシリーズを開発した背景には、大きく2つの要素があります。1つは、個人事業主やSOHO、小規模事業所の方々にもっと購入してもらいやすい製品を用意すべきだ、という観点から生まれたものであるということです。エプソンダイレクトが創業以来17年間に渡って取り組んできたのは、長年に渡って利用していただくために、仕様や使い勝手の継続性を最も重視してきたということです。COMポート(シリアルポート)が必要だというユーザーに対しては、今でも継続的にそれをご提供しているというように、企業ユーザーに安心して長く付き合っていただける製品を開発する姿勢は崩していません。これは今後も変わりません。

 ただその一方で、個人事業主やSOHO、小規模事業所のユーザーの方々の中には、旬な機能を、もっと安い価格で購入したいという声があるのも事実です。新たなチップセットを搭載したものが欲しい、だが、仕様は必要最低限のものでいいので余計なものはいらない、そして安くして欲しいというものです。Sシリーズは、こうしたユーザーのために開発した製品だといっていい。コスト優先型の製品であることを明確にしたというわけです。

 もう1つの理由は、Webで購入するユーザーの裾野が広がり、従来の製品構成だけではすべてに対応できなくなったという点です。当社の直販サイトを訪れるユーザーの数はこの5年間で倍増し、1カ月200万人が訪れています。量販店に行く前にまずネットでチェックをしてみようという人が増加しているという点も見逃せません。そうなると、これまでのエプソンダイレクトが展開してきたように、「BTOによって1億通りの組み合わせが可能になります」という提案だけでは、裾野が広がったユーザーへの対応ができない。ハードルが高すぎるんです。

 もっとシンプルで、わかりやすく、それでいてお得感がある製品提供が必要になってきた。楽天市場にもエプソンダイレクト楽天市場店を出店していますが、ここでは販売台数の100%が固定仕様となっております。そして、購入されたユーザーの9割近くが、これまでのエプソンダイレクトのPCを購入したことのない新規のユーザーとなっています。そこで今回、スペックを固定して、それによって多くの人に購入していただく製品として、新たにSシリーズを投入することになりました。

--エントリークラスにおいては、価格設定が高かったという意識がありますか?

河合 正直にいえば、その反省はあります。最適な選択が行なえるというメリットはあるが、過去からの継続性を重視していたために、コストが高くなるという場面があったからです。もし、ユーザーが初期導入コストの低減を求めているのであれば、価格の面でも競争力を持ったものを提供する必要がある。そこで生まれたのがSシリーズということになります。

 ただし、1円を削る戦いをして、1番安いというポジションを狙うというつもりはありません。エプソンブランド、Endeavorブランドとしての品質は変わりませんし、Sシリーズで何かを削ったとか、部品を変えたということも行なっていません。そして、安心して利用していただくためのサービス、サポートも用意しました。3年間の部品保証はなくなりましたが、3年間のお預かり修理と安心プラス保証を提供する「3年間安心サービスセット」を、新たにSシリーズ向けに用意したのは、これまでの経験から、最も適したものをパッケージ化して提供することで、全体としてのコストダウンを図るという形にしているからです。初期導入コストは低く抑える一方で、運用フェーズにおいてもしっかりとサポートしていく姿勢は変わりませんし、アフターサポート満足度ナンバーワンの評価を下げるようなことはしません。「Sシリーズは安いPCだね」といわれるのではなく、導入から運用まで含めて「Sシリーズはお得なPCだね」と言われるようになることが目標です。

--従来機種と比べると、Sシリーズとなったことで1万円前後の値下がり幅となったものもありますが、一方で「Endeavor NP25S」のようにわずか840円の値下がりに留まったものもあります。この差はどうしてですか。

河合 「Endeavor AY311S」や「Endeavor NY3200S」では、調達、生産方法なども見直し、コスト削減を図っています。しかし、Endeavor NP25Sはインターネット接続デバイスとしての使い方が中心となり、従来製品からスペック固定型として提供していた製品でもあります。そのため、中国で組み立てるのが基本であり、Sシリーズになってもそれほどトータルコストが変わらない。Endeavor AY311SやEndeavor NY3200Sとは、もともとコスト構造が異なるのです。ですから値下げ幅は自ずと小さくなってしまったというわけです。

15.6型スタンダード「Endeavor NY3200S」14型スタンダード「Endeavor NY2100S」10.1型ネットブック「Endeavor Na14S」
省スペースデスクトップ「Endeavor AY311S」スリムネットトップ「Endeavor NP25S」

--今後、スペック固定モデルが増加するということは、中国生産の増加につながりますね。

河合 それは必然的に増加すると思います。しかし、Sシリーズにおいても一部BTOが可能ですから、それらに関しては日本国内の生産拠点を利用することになります。Sシリーズは基本的にはWindows 7 Home Premiumを搭載していますが、一部モデルではBTOによってWindows 7 Professinalを選択することができます。

--これまでBTOによる選択肢の広さを、特徴の1つとして打ち出してきたエプソンダイレクトにとって、スペック固定型の製品ラインを広げることは、大きな方針転換と受け取れます。

河合 方針を転換したというよりも、ユーザーの幅が広がり、それに伴って、ユーザーにわかりやすい製品を提供しようという意味合いが強いですね。個人事業主やSOHO、小規模事業所を狙うという点では、ターゲットにも変更はありません。そして、今Webで購入するユーザーの特性を改めて考えた製品づくりともいえますから、その点では、むしろ「原点回帰」という考え方のもとで製品化したものだといえます。

 これまではEndevorという1つの製品ブランドで展開する中では、製品の位置づけが明確に打ち出しにくい部分もあった。そこにSシリーズというカテゴリをEndeavorブランドの中に用意したことで、製品の特性を切りわけやすくなったといえます。

 エプソンダイレクトでは、2008年11月に、ネットブックの「Endeavor Na01 mini」を投入し、続いて2009年8月には「Endeavor AY300-V」を発売し、スペック固定型の製品に取り組んできました。Endeavor AY300-VはSシリーズの先駆けともいえるもので、この1年半以上の経験の中で、個人事業主やSOHO、小規模事業所においては、スペック固定型の製品が必要であるということがだんだん理解できてきた。2010年6月頃には、その動きを明確に捉え、ラインアップを増やす必要があると感じました。

 2010年度を振り返ると、スペック固定型の製品の構成比は約10%です。今回のSシリーズに変わる前の既存製品という捉え方では、一部のBTOを含めて、約15%を占めていました。これがSシリーズになったことで、2011年度には2倍に出荷台数を拡大し、全体の約3割にまでSシリーズの構成比を引き上げたいと考えています。6月14日の発売にあわせて、発売記念キャンペーンを開始します。販売開始から販売台数が1,000台に到達するまで5,000円引きとするものですが、発売2日間で売り切れるとみています。それぐらいの勢いがないといけない製品なんです。

--しかし、今回のSシリーズは、「AY311S」というように製品型番の最後に「S」という文字がついただけです。本来ならば、「Endeavor S AY311」というように、シリーズ名として先に表記されるべきではないでしょうか。型番をみる限りでは、シリーズ名というよりは、むしろエディション名のように見えます。

河合 これはかなり議論を繰り返しました。1度は決まりかけていたものもあったのですが、最終的には今回のような形に落ち着きました。ただ、先にも触れましたが、これは方針転換ではないですから、Endeavorというブランドを前面に打ち出した中で展開したかった。過去には、個人向けPCとして「EDi Cube」という別ブランドを立てたこともありましたが、このようにEndeavorと別のブランドを立ち上げることはまったく考えていませんでした。

 まだ決定事項ではありませんが、今回の製品の売れ行きや市場の流れを捉えた結果、今後、Sシリーズとしての展開を増やしていく可能性もあります。その際に、Sという型番を使うことがあるかもしれませんし、違う型番を使用することがあるかもしれない。Pro7000などのハイエンド製品にSシリーズはないと思いますが(笑)、ラインアップの中ではSシリーズを検討したほうがいいものもある。まだ立ち上げたばかりの製品シリーズですから、動きをみながら決めていきたいと思います。

--そもそも「S」にはどんな意味を込めているのですか。

河合 SOHO・個人事業者向けという意味での「S」とともに、既存のEndeavorと比べるとスペックが固定であること、サービス内容が変化するということもあり、スペック、サービスの「S」の頭文字も意味しています。また、旬な商材であり、初期導入コストを低く抑えるという点でも、「S」が頭文字になりますね(笑)。

--2011年度のエプソンダイレクトのPC事業戦略においては、Sシリーズは重要に柱になりそうですね。

河合 2011年度は、PC事業で前年比11%~12%増の成長を目指します。従来のEndeavor製品群では若干のプラスを見込んでいますが、Sシリーズは倍増という計画ですから、まさに成長のドライブはSシリーズということになります。個人事業主やSOHO、小規模事業所ユーザーとって「お得なPCである」ということを広く知っていただくための活動も積極的に行なっていきたいと考えています。Sシリーズの成長は、2011年度において最重点となるテーマだといえます。さらに、今回のSシリーズの発表によって、既存シリーズでは、大規模企業に対する継続性や長期保証、幅広い選択肢を用意した製品づくりに大きく振ることができ、製品の位置づけもより明確にできると考えています。両面戦略をより強力に推進できる体制が整ったともいえるのです。

 震災後も、被災地などの一部地域を除いて、2日間での納期保証を維持していますから、これが改めて注目をされています。また、指定した時間への納品サービスも用意していますが、これももっと認知を高めたい。Web直販では、エプソン製プリンタのインクカートリッジも取り扱っていますが、午後5時までに注文をいただければ翌日には配送するという体制を確立していますから、こうしたインフラを利用したサービスの強化も検討することができる。さらに、新たなサービスをメニューを追加することも考えていますから、製品の強化だけでなく、サービス面でも強化を図る1年になっていくと思います。