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USB接続で全キー同時押し対応キーボード「Quick Fire Pro」

Quick Fire Pro
12月7日 発売

価格:オープンプライス

 Cooler Masterから、USB接続で全キー同時押しに対応したゲーミングキーボード「Quick Fire Pro」シリーズが発売された。価格はオープンプライスだが、店頭予想価格はCherry MX赤軸採用モデルが12,500円前後、MX黒軸採用モデルが11,500円前後の見込みだ。今回発売に先立ってMX赤軸借用できたので、簡単なレポートをお届けしたい。

 Quick Fire ProシリーズはCooler Masterのゲーミングブランド「CM Storm」シリーズに属する製品である。CM Stormは今回のキーボードのみならず、PCケースやマウス、マウスパッド、ヘッドセットなど広範囲に渡るゲーミングブランドで、2008年に創設された。かくして筆者もPCケース「Scout」とマウス「Inferno」を愛用しているが、キーボードに触れるのは、今回が初である。

質実剛健なゲーミングキーボード

 それでは外観から見て行こう。パッケージはマルチランゲージ仕様で、表面には英字配列版の写真がプリントされている。特徴の項目は日本語のシールが貼られているのだが、今回借用した製品は試作のため、カナなしとなっている。実際の製品では訂正されるそうである。

 パッケージの内容はキーボード本体と、キートップ引きぬき工具、説明書だけと、非常にあっさりしている。ドライバなどは用意されておらず、ハードウェアのみでUSB全キー同時押しを実現する仕組みを持つようである。

 本体は黒をベースとしながらも、キー底面を赤の板でカバーし、CM Stormのブランドイメージに合わせたデザイン。表面はさらさらした加工で高級感があり、キートップはLEDバックライトの光が透けるよう、半透明の白抜きで文字が印刷されている。

 キーは指の形に合わせて奥と手前がカーブするステップスカルプチャー構造。底面には高さを1段階のみ調節できるスタンドも装備している。キートップが比較的高いため、スタンドを立てたほうが操作しやすい印象だ。また、ゴム足は大柄で四隅に用意されており、タイピング中に滑ってしまうことはまずない。

 スペック上での本体サイズは454×155×31mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約1,300gとされている。実物でもやや大柄で少し高さがあるイメージで、重量感もしっかりあるため、安心してタイピングできる。フレームには切り込みのデザインも入っており、ゲーミングデバイスらしい、堅い装甲のような風貌を持っている。

パッケージと付属品
パッケージ背面
付属のキー引きぬき工具
キーボード本体
比較的クセの少ない109日本語配列
右上にLEDインジケータを装備
ステップスカルプチャー構造
スタンドを装備し、高さは2段階
大きめのゴム足

 キートップ右上のフレームには、Num Lock/Caps Lock/Scroll LockのLEDインジケータを備えており、ON時は赤く光るようになっている。光量は抑えめで、このあたりは暗い部屋での利用において余計に眩しくなって邪魔にならないような配慮がされている印象だ。

 キー配列は日本語109とされているが、Windowsキーは右Altの右側、その横にはFnキーを用意するというやや変わった配列。しかし普段使うキーの配列には変わったところがなく、このあたりはすぐに慣れるだろう。

 FnキーとF5~F11のファンクションキーの組み合わせで、メディアの再生と停止、巻戻し/先送り、ボリュームの調節、ミュートが可能になっているほか、Fnキー+F12ではWindowsキーの無効化が可能だ。また、Fn+F1ではキーバックライトのON/OFF、Fn+F2~F3ではバックライトの輝度、Fn+F4ではバックライト表示モードの切り替えが可能となっている。

 バックライト表示モードは、A/W/S/Dと↑/↓/←/→のみが光るモード、これに加えてZ/X/C/F/Q/E/R/1/2/3/4/5/ESC/F1/F2/F3/F4が光るモード、そしてそれらが息吹くようなゆっくりとした点滅パターンの3種類となっている。ドライバなしで実現できているのは、なかなかユニークだ。なお、英語モデルではスペースバーも光るが、日本語モデルでは光らないようである。

 PCとの接続インターフェイスは当然USBだが、本体側にはMicroUSBコネクタを備えており、ケーブルを抜き差しできるようになっている。このあたりはLANパーティーへの持ち運びも視野に入れているためと見られる。また、ケーブルは中央、右側、左側いずれからも出せるよう、溝が用意されている。ケーブルはファブリックタイプで、耐久性は高そうだ。

 ここまでだけだと、ちょっとデザインにこだわって、いいキースイッチを採用し、ゲーミングユーザーが好きなバックライトを盛り込んだ、よくできたキーボードという印象だが、本製品の最大のウリは「USB接続で同時押しに対応する点」である。

本体底面
USBケーブル
今回借用したのはCherry MX赤軸モデル
一部キーにはLEDが埋め込まれている
点灯モードによってはLEDが光る
A/W/S/Dと↑/↓/←/→のみが光るモード
左手主要部が光るモード

USB接続で同時押しする意味は?

 それでは、そもそもUSB接続で全キー同時押しに対応するというのはどういうことか、詳しく解説していきたい。

 一般的なUSBキーボードは、HIDデバイスとして認識され、8byteのパケットで現在押されているキーのデータを送信している仕組み上、同時に押されて認識するキーは6個程度である。例えば数字の1から6までを同時に押している間、7を入力してもまったく認識されない。

 これに対し、Nキーロールオーバー機能を追加し、問題を解決したキーボードも多数存在している。Nキーロールオーバーは、1から6までを同時に押している間に7を入力すると、新たに7が認識される機能だ。

 しかしながら先述の通り、USBはパケットでデータをひとまとめにして送信しているため、1~6がまだ押下されていたとしても、どれか1つデータを捨てなければならない(基本的には先に入力したものが破棄されるようである)。結果として全キーどころか、7キーすら同時押しが認識されないわけである。

 一般的なテキスト作業においては、文字が1つでも入力されていれば良いため、6キー同時押しでNキーロールオーバーさえ対応していれば、もはやオーバースペックと言っても良いほどだ。実際、電卓の世界においては、6キー同時押しやNキーロールオーバーどころか、2~4キーロールオーバー対応であれば高速入力が可能なタイプとされている。

 しかしながらPCゲームの世界は異なり、キーを押しっぱなしにしていることが多い。例えば前進するなら「W」だけで良いが、斜め右に進みたければ「D」と「W」を押しっぱなしにしなければならない。しゃがむ動作が「C」ならば、さらにそれも加わる……といった具合だ。つまりゲームにおいてのキーボードは、Nキーロールオーバー以上に、同時押しへの対応が必須だった。

 全キー同時押しは、PS/2接続であれば比較的対応が楽であり(キー押下“時”/リリース“時”の情報しか送らないため)、そのため未だPS/2キーボードを利用しているゲーマーも少なくはないと思う。かくいう筆者もその1人である。今回のQuick Fire Proの登場で、PS/2の呪縛から逃れられるのだろうか。

 少し解説が長くなってしまったが、Quick Fire Proを見ていくと、2つのモードを持っている。1つは6キー同時押しモード、もう1つが全キー同時押しモードだ。

6キー同時押しモードと全キー同時押しモードの切り替えはFnモードに入ってからN+InsertまたはDelete

 一番最初にQuick Fire ProをPCに接続すると、6キー同時押しモードとなり、デバイスマネージャー上でも一般的なHID キーボード デバイスとして認識される。このあたりは一般的なキーボードと何ら変わりがない。しかしFnキーを押してから、N+Deleteキーを押すと、全キー同時押しモードに切り替わる仕組みとなっている。

 全キー同時押しモードでは、デバイスマネージャーで確認する限り、USB Composite Deviceが新たにインストールされ、入力デバイスとしてHID キーボード デバイスが2つ、HID 準拠コンシューマー制御デバイスが1つ、HID準拠デバイスが1つ認識されるようになる。つまり複合デバイスとして動作することですべてのキーデータの転送を実現しているようだ。

全キー同時押しモードをONにした時にインストールされるドライバ
デバイスマネージャーで確認
接続別に見ると、Composite Deviceが認識されているのがわかる

 なお、6キー同時押しモードではMacでも利用できるが、全キー同時押しモードはMac非対応となる。このあたりの互換性もあるため、本製品はデフォルトで6キー同時押しモードになっているようだ。全キー同時押しモードから6キー同時押しモードに戻るためには、Fnキーを1回押し、N+Insertキーを押せば良い。

 では「本当にこれによって全キー同時押しを実現しているのか」を見るために、Microsoftが公開している「Keyboard Ghosting Demonstration」のホームページで、キー押下の状況を確認してみたところ、筆者が押せる限りのキーは、確かに間違いなく押下されているのが確認できた。

Keyboard Ghosting Demonstrationで同時押しを確認したところ。筆者が押せる限り押してみたが、問題なく認識されているのがわかる

 もっとも、ものすごく厳密に言えば、先述の通りFnキーを押してからN+Deleteキーの組み合わせで押下してしまうと、全キー同時押しモードが解除されてしまうため、“真の”全キー同時押しができるわけではない。とは言えゲームではFnキーはまず使わないので、問題になることはないだろう。

 また、本製品はポーリングレートを125Hz/250Hz/500Hz/1,000Hzで切り替えられるようになっている。切り替えはFnキーを押してからP+Num Lockキーで125Hz(遅延8ms)、P+/キーで250Hz(4ms)、P+*キーで500Hz(2ms)、P+-キー1,000Hz(1ms)だ。

 一般的に人間が認識できる遅延はそこまでないとされているが、そこはゲーミングの世界であり、わずかなミスや遅延が命取りになりかねので、「せめてそのミスがこのキーボードの遅延によって引き起こしたものではない」と信じさせるためにある機能といえるだろう。

使い勝手は上々、となればやはり“真の”全キー同時押しの実現に要望

 約1週間試用してみたが、配列やキータッチに癖のない質実剛健な作りをしていることもあり、使い勝手は上々である。タイピング時の騒音はやや甲高いものの不快なわけではなく、オフィスなどでの使用もまったく問題ない。

 特筆すべきはその剛性で、強く押してもキートップがたわんだりすることが一切ない。Cherry純正のMX赤軸キーボード「G80-3600」ではかなりたわんでいたので(そもそも底面にプレートが入っていないと思うが)、それと比べれば雲泥の差だ。

 そしてなによりも、とりあえずUSB接続で主要キーの全キー同時押しが確認できた時点で、「本当に? USBで全キー同時押しが可能? 本当ですか?」という疑惑が解け、ゲーミングにおいて頼りなるキーボードだと確信した。

 また、これだけのギミックを搭載しているのにもかかわらず、店頭予想価格が1万円台前半というのは大いに評価できる。競合製品は全キー同時押し非対応でもこの価格帯なので、本製品の競争力は非常に高い。

 となれば、やはり「Fn+N+Insert」の組み合わせで、全キー同時押しモードが解除されるのが唯一気がかりだ。もちろんゲーム中にFnキーやInsertキーを押してしまうことはないのはわかっているが、率直に言えば「せっかくの全キー同時押しがたったの3キー同時押しによって解除されてしまう」わけである。また、Fnキーと一部の組み合わせでは、ポーリングレートやバックライトの設定までもが変更されてしまう。本モデルで期待を裏切られたわけでは決してないが、“真の全キー同時押し”を実現するためにも、次モデルではディップスイッチでの設定に期待したいところである。

(劉 尭)