実録! 重役飯

31歳で起業。飛行機好きでフルスクラッチで模型を製作~アイ・オー・データ機器 細野昭雄社長編

いつもご愛顧をありがとうございます。PC Watchは2016年をもって20周年を迎えました。20周年を記念し、PC・IT業界を代表する企業のトップの方にインタビューを行ないました。特別企画ということで、通常であれば企業の戦略や製品について伺うところ、今回はインタビューに対応いただく方の行きつけやお勧めの料理店にて会食を行ないながら、その方の趣味や考え方など人となりに焦点を当てた質問を行ないました。この企画を通じて、企業の経営を担う人の個性や考え方などを知っていただければ幸いです。基本的に全ての方に同じ質問をしていますので、みなさんの違いも面白いのではと思います。聞き手はPC Watch編集長の若杉です。

茶寮 卯辰

 第10回目のインタビューのお相手は、株式会社アイ・オー・データ機器代表取締役社長の細野昭雄氏です。会食の場として選んでいただいたのは、アイ・オー・データ機器本社がある石川県金沢市の「茶寮 卯辰」です。

--:本日はよろしくお願いいたします。まず、こちらのお店を選ばれた理由を教えてください

細野:お気に入りのお店はいくつかあるのですが、県外や海外から金沢にいらっしゃったお客様に金沢の良さを知ってもらいたいと考えた時、このお店は高台にあって見晴らしがいいんですね。特に夕焼けがきれいに見えます。春先は桜もきれいです。

お店からの眺望
入り口

小学生の頃からものづくりに興味。31歳で起業

--:20年前は何をしていましたか。

細野:当時はWindows 95が登場して、その後Windows 98へと続くわけですが、この時代はPCがイケイケで伸び盛りで、とにかく忙しかった記憶があります。当時私は50代前半で、まだ元気でしたし(笑)。また、作れば売れる良い時代でした(笑)。日本各地にあったソフトハウスも元気でした。

株式会社アイ・オー・データ機器代表取締役社長の細野昭雄氏

--:その頃の主力製品はなんだったのでしょう。

細野:メモリですね。ただ、まだIBM PC互換機ではなく、NECさんのPC-98シリーズが全盛でした。メモリに関しては、まだアジア勢が国内参入しておらず、名古屋のB社さんと競り合っていた時期でした。と言っても、B社さんとは、ライバル関係でしたが、市場が伸びる一方だったので、相手を意識しなくても業績が伸びていました。

 伸びていたのは弊社だけではなく、業界各社がそうでした。富士通さんや、東芝さんのdynabookも伸びていました。当時、ノート用にはカード型の外付けメモリというのがあり、3万円、4万円という価格にも関わらず、飛ぶように売れていました。

--:僕も当時は、秋葉原のパーツショップでアルバイトしていましたが、確かに自作パーツは売れまくってましたね。

細野:この時のメーカー製PCは、出荷時の構成だと最大限の性能を発揮できない場合もあったんですよね。ワープロソフトを使うにしても、何か増設が必要になることが多かったんです。と言うのも、まだ半導体などの部材が高かったので、メーカーはメモリ容量を最小限に抑えた構成などにしていたわけです。

 もうちょっと前の話をすると、ワープロは既に専用機からPCへと移っていましたが、そうすると外付けFDDが必要となるんですが、純正品はすごく高価なんです。PC-98用の2ドライブFDDユニットの純正品は28万円くらいしていました。でも、弊社は18万円くらいで販売していました。しかも、ドライブユニットはNECさんのものを使ってです。

 でも、これはNECさんの周辺機器が単に高いというのではなく、我々周辺機器メーカーにもビジネスのチャンスを残していてくれてたとも言えます。そういうわけで、PC本体も売れたけど、周辺機器メーカーもその恩恵で潤っていたわけです。

 今では、周辺機器メーカーが本体に入り込める余地が少なくなりました。アプリにはチャンスがありますが、残念ながら日本はアプリ市場ではちょっと弱いですよね。

食前酒:ノンアルコール葡萄酒、先付:胡麻豆腐

--:その頃の趣味を教えてください。

細野:好きなものというと、ゴルフと飛行機ですね。

--:このお店に来る前に御社の本社にお邪魔したんですが、細野さん用の倉庫に細野さんが作ったという飛行機の模型がありました。あれはフルスクラッチで作られたんでしょうか。

細野:そうです。材料から全て自分でそろえて作りました。弊社は1976年創業ですが、その前にいたベンチャー企業を辞めて、創業まで半年ほど無職の期間があったんです。その間に、ビジネスや社名を考えたりしつつ、飛行機模型を作ったりしていたんです。

 で、周辺機器事業をやろうと思い、周辺機器=入出力、で、アイ・オー・データ機器という社名にしました。今考えると「機器」はなくても良かったのかなとも思いますが(笑)、当時はまだカタカナだけという社名は違和感があったんです。

細野氏がフルスクラッチで作った飛行機の模型。本社社長倉庫に置かれている。ちなみに、この倉庫は本社社員でも入ったことがある人はごく僅かだとか

--:創業当初から、周辺機器を主力事業として考えられていたんですね。

細野:そうです。話を戻すと、私の実家が文房具屋だったこともあり、小さい頃からものづくりに興味があり、飛行機には小学生の頃ゴムプロペラの模型から入りました。中学生の頃は真空管ラジオを作ったりしていました。当時、そういうものに興味がある友人はアマチュア無線に手を出したりしていました。私は今でこそ話が長くて文句を言われますが(笑)、子供の頃は口べたで、会話をするアマチュア無線の世界には入らなかったんです。

--:飛行機は、見たり、乗ったりするのもお好きなんですか。

細野:大好きです(笑)。

--:操縦は?

細野:しません(笑)。ただ、私の飛行機好きが息子にうつり、長男は飛行機関係の職に就いています。しかし、私と同じで視力が弱いため、パイロットにはなれず、整備士になりました。でも、小型機の免許は持っていて、操縦もできます。

--:息子さんの飛行機に乗られたことはあるんですか。

細野:残念ながら私はないのですが、私の次男はあります。その時聞いたのが、アメリカの一般空港からの離陸で、滑走路上の自分たちの小型機の前後をジェット機に挟まれた状態だったらしく、次男は相当びくびくしたそうです(笑)。

椀盛:貝柱パプリカ真蒸

--:今までのお話しにも少し出ましたが、これまでの職歴を簡単に教えてください。

細野:工業高校を出て、最初に就職したのが地元のウノケ電子工業(現PFU)です。当時はオフコン(オフィスコンピュータ)などを手がけていたんですが、私はメモリの製造を担当していました。それが周辺機器業界にはまるようになったきっかけです。そして、ものづくりにも、さらに興味を覚えたんです。そこでは2年半ほど勤続しました。

--:2年半で辞めたのはどういう理由だったのでしょう。

細野:単純です。いったん潰れてしまったんです。ウノケ電子工業は、内田洋行さんが入ってこられて、再建ができました。一方、ウノケ電子工業の創業者が金沢工業大学で教授として働くようになり、私はそこで助手の仕事に誘われたんです。これが、自分にとって最初の人生の岐路でしたね。ほとんどの社員は残りましたが、大学での仕事を選びました。岐路だったとは言え、仕事を変えることには、全く悩みませんでした。まだ21歳独身で、実家に住んでいましたし、彼女もいませんでしたから(笑)。

--:大学助手はどれくらいやられていたんですか。

細野:4~5年だったと思います。次の就職先は、バンテックデータサイエンスというベンチャー企業なんですが、これは金沢工業大学からスピンアウトしたベンチャーなんです。社長は、その前ウノケ電子工業の創業者です。そこでは開発部長を任されました。

--:そして、その後アイ・オー・データ機器を創業されたということですが、そのきっかけを教えてください。

細野:バンテックデータサイエンスには5年ほどいて、いろいろ勉強もさせてもらいましたが、結構、苦労もしました(笑)。それで退職し、この時は結婚もしていて、31歳になっていましたが、その後の具体的な計画や、創業に向けた明確な方針というのも実はほとんどなかったんです(笑)。

--:つまり、なんとなくで起業されたと(笑)。

細野:そうです(笑)。申し訳ありません(笑)。

--:なんとなくで会社を立ち上げても、国内を代表するメーカーになれるというのは、逆にすごいと思います(笑)。

細野:富士通さんだと日本のコンピュータ産業の父と言われる池田敏雄さん、NECさんには国内情報処理分野の生みの父の一人とされる水野幸男さんなどのすごい立役者がいらっしゃるけど、私は極めて普通の人間なんです(笑)。弊社が最初に手がけたのは織物工場向けのカラー画像自動読み取り装置です。そして5年ほど経って、PC98の周辺機器に参入しました。

--:これまでの人生で絶体絶命と思ったことはありますか。

細野:仕事ではないですね。本当に死にそうになったのは、25年以上前のことですが、冬に北陸自動車道を走行している時に、トンネルを抜けた先の下り坂で路面が凍結していて制御が効かなくなり、あわや衝突ということがありました。ギリギリぶつからずに済んだのですが、死を覚悟する一件でした。

造り:鰤、あら、赤烏賊、鮪、甘海老

座右の銘は「継続は力なり」

--:社長になられて、仕事上一番変わった点はどんなところでしょう。

細野:あまり好き勝手はできなくなりましたね。

--:我慢することが多くなったと。

細野:いえ、そんなに我慢はしていません(笑)。そういう意味では、うまく立ち回れているんですかね(笑)。我慢していてもおもしろくないですからね。

--:仕事上のモットーや座右の銘を教えてください。

細野:「継続は力なり」ですね。あまり壮大な目標も立てずに起業はしましたが、昔から同じようなことをやっています。それが現在に繋がっていると思います。IT業界は変遷がめまぐるしいですが、そんな中でも、いかに粘り強くやるかが大事です。

 もう1つ大事なのは、ユーザーのことを考えることです。デジタルな点だけを見るのではなく、最後に使うのはアナログな人間なんだという視点が抜けてしまうとダメだと思います。

--:尊敬する人物を教えてください。

細野:難問ですね。たくさんいるんですが、口に出した途端、むなしくなってしまうんです。人間は誰しも尊敬に値します。

--:ご自身のセールスポイントを教えてください。

細野:あまりそういうのはないんですが、年の割には考えは柔軟かなと思います。

--:出社から退社まで1日の大体の仕事内容を教えてください。

細野:弊社の出社時間は9時15分なんです。

--:ちょっとハンパですね。

細野:創業当初からしばらくは10時始業でした。と言うのも、私は朝が苦手なんです(笑)。夜は20~21時くらいまで仕事しています。内容としては、社内外との打ち合わせが多いです。煙たがられているとはおもうんですが、現場が好きなので、ミーティングなどがない時は、いつも社内をうろうろしています(笑)。東京には月3~4回ほど行きます。主にはお客様と会うためです。

焼物:かます利久焼
しのぎ:鯖棒寿し

--:社内では製品企画会議などあると思いますが、細野さんが製品に関してアイディアを出すこともあるのでしょうか。

細野:私は開発者ではありませんが、逆にユーザーとしての視点を持っていると思うので、その視点から、作る側の論理を重視しすぎないようには常日頃言っています。

 今、趣味でPCを使っている人の多くは40~50代の方だと思います。10年前くらい、この世代の人たちは、自分たちで工夫して使い方や楽しみ方を見出していました。一方、30代より若い人たちに、スペックを訴求しても、使いこなす人は少ないと感じています。ですので、製品の機能や魅力について気付いてもらえるだけの、何かプラスアルファ、例えば便利な使い方などにまで踏み込んで訴求しないとダメだと思っています。

--:確かに、Windows 95の時代だと、自分でConfig.sysをいじってフリーメモリを空けないと、ゲームが重かったりするので、いろいろ調べて挑戦していましたね。

細野:他方、スマートフォンはすごく便利に使えますが、便利すぎてユーザーが工夫しなくてもよくなったというのもありますね。また、業界視点だと、プラットフォームやエコシステムを1社が握っていると、その業界参入の点で障壁になり得るという危惧もあります。

--:どのようにスケジュール管理をしていますか。

細野:全くしていません(笑)。秘書任せです。とは言え、予定は紙の手帳に書いています。ちなみに、書く時はボールペンではなく鉛筆を使ってます。

--:それは何か理由があってですか。

細野:消せるというのもありますが、昔から鉛筆が好きなんです。

--:携帯電話は何を使っていますか。

細野:Galaxy S6です。タブレットも持ち歩いていて、そちらはiPadです。自分で購入したものですが、社内のデジタル決済にも使っていたりします。iPadはApple製というより、画面の大きさで選びました。

お気に入りの飛行機はP-38。週末は家族サービス

--:プライベートではどのようにPCを使っていますか。

細野:すみません、PCは使っていません(笑)。

--:では、iPadやスマートフォンはプライベートでどのように使っていますか?

細野:業務利用がメインですが、iPadではプライベートな写真を観たり、音楽を聴くのに使っています。

--:今の趣味は何ですか。

細野:今も飛行機ですね。

--:特にお気に入りの飛行機とかはあるんでしょうか。

細野:P-38ライトニングです。太平洋戦争で活躍したアメリカの戦闘機です。実は、これの実機がオレゴンに存在していて、先日観に行きました。基本的に昔の飛行機が好きですが、零戦には興味はないんです。弊社にいらっしゃった際に壁にいくつか戦闘機の写真が飾られていたのをご覧になったと思いますが、日本軍のものは1つもないんです。なぜかと言うと、日本は負けたからです。結果を出したものにこそ価値があると思っているので。

アイ・オー・データ機器本社の通路壁に飾られている飛行機の絵

--:航空ショーなんかもお好きですか。

細野:好きですね。最近ですと、ホンダが開発したHondaJetを観に、神戸空港に行ったりもしました。

--:何か特技はお持ちですか。

細野:特にはないです。

--:30歳そこそこで起業して、ここまで数十年、業界最大手として牽引できたのは、細野さんに何かしらの才能があるからだと思いますが。

細野:そういう意味では、普通であることが特技というか良さなのかもしれません。自分に特別なものは何もないので、返ってユーザー目線になれると思います。

炊合せ:鴨治部煮

--:休日はどのように過ごしていますか。

細野:家族サービスに徹しています。買い物だったり、介護施設にいる親に会いに行ったり。個人的にはスーパー銭湯に行くのが好きです。

--:個人的なもの(家などを除く)で、今までで一番高い買い物はなんですか。

細野:フォルクスワーゲン(VW)のトゥアレグですかね。国内限定発売のものを10年ほど前に買いました。ただ燃費が悪いので、普段使い用に三菱のアウトランダーPHEVも買いました。こちらはほとんどガソリンを使わないので、帳尻を合わせた格好です(笑)。

--:通勤もご自分で運転されてるのでしょうか。

細野:そうです。75歳までは自分で運転しようと思っています(笑)。

--:今一番欲しいものはなんですか。

細野:ちょっと視点が違いますが、次世代を担う若者に我々の考えを伝えていきたいです。

--:好きなブランドを教えてください。

細野:全くないです。

--:飛行機も特にないですか。

細野:ないですね。

--:個人的にこのヒト・モノには絶対勝てない……というのはありますか。

細野:基本的に、他の人の方が私より優れていると思っていて、皆さんに頭が上がらないです。私は、皆さんにちょっとでも近付きたいですが、越す必要はないと思っています。

一品:和牛すきやき鍋
油物:鰈紅葉揚

20年後は子供たちのプログラミング教育に貢献したい

--:20年後どのようなことをしていたいですか。

細野:健康でいたいですね。

--:20年後も元気でいられたら、こういうことをやってみたいというのはありますか。

細野:最近、小学校でプログラミング学習が必修化という話が出ていますが、それを良い方向に持って行く手伝いができればと思います。先日、ある開発者から、製品のプラットフォームを2KBのJavaで構築したという話を聞いたんですね。それ自体は確かに素晴らしいけど、本質はそれで何ができるかであって、プログラムのサイズじゃないですよね。子供たちにはそういうことを伝え、世界に向けた広い視点を持ってもらいたいです。我々の責任でもありますし。

--:PCは20年後どうなっていると思いますか。

細野:20年後に、あってもなくてもいいんじゃないでしょうか。と言うのも、その頃にはもうPCはモノではなくなっていると思います。

--:つまり、その頃には例えば今のノートPCのようなものが、いろいろなものに埋め込まれていて、存在に気付かないまま使うようになっているということでしょうか。

細野:そうです。形は失っていると思います。

--:これから社会人になる20歳の人に、どのように人生を歩むべきかメッセージをお願いします。

細野:私が20歳だった頃は社会の仕組みに対するアンチテーゼを持っていました。その年頃になると、社会の不合理性というものが見えてきていると思います。自分では、今も20歳当時のアンチテーゼを持ってチャレンジもしていると思っていますが、どうしても社会に染まってしまっている点は否めません(笑)。やはり20歳の人たちにこそ、世の中を変えていくことに挑戦してもらいたいです。挑戦したことで、挫折を味わうかもしれませんが、その心意気だけは持ち続けて欲しいです。

酢物:加能がに身出し
食事:きのこご飯

 今回、アイ・オー・データ機器本社に伺う時間があったので、一部の設備や様子について写真にて紹介する。

アイ・オー・データ機器本社1号館
同2号館
アイ・オー・データ機器創業当初の織物工場向け特注システム「カラー画像自動読取装置」
PC-98/PC-88/PC-100/MZ-5500/X1 turbo対応8インチFDD
SCSI拡張カード
最近リニューアルされた社員用カフェテリア
ディスプレイなどの大型製品を除き、本社にも倉庫があり、量販店などへ出荷を行なっている

読者プレゼント

この企画では、登場いただく方に記念品を読者プレゼントとしてご提供いただいています。細野さんにはご同社製スマートフォン用DVDプレイヤー「DVDミレル+CDレコ」とネットワーク見守りカメラ「Qwatch」をご提供いただきました。ふるってご応募ください。

応募方法

応募方法:下記リンクの応募フォームに必要事項を入力して送信してください

応募締切:2016年12月9日(金) 0:00まで

応募フォーム

※ 応募フォームの送信はSSL対応ブラウザをご利用ください。SSL非対応のブラウザではご応募できません。

「DVDミレル+CDレコ」と「Qwatch」