山田祥平のRe:config.sys

タブレットデバイスを掌中に握るOSはどれか




 OSのバージョンアップは、少なからず、ユーザーに心理的な負担を強いる。変わることによるイノベーションを嬉々として堪能するユーザーが存在する一方で、変わらないことを求めるユーザーも少なからずいるからだ。Windows 8の姿もおぼろげに見えてきているし、直近では、MacOS Lionのリリースが話題になった。さらには、iOSやAndroidももうすぐ変わる。いずれにしても、各OSが、タブレットUXを強く意識し始めているのは明らかだ。

●今のタブレットは、かつてのカセットテープ

 各社タブレットのAndroid 3.1へのアップデートが一段落したようだ。手元で評価中のICONIA TAB A500も、アップデートのOTA配信があり、無事に3.0から3.1へのバージョンアップができた。

 この製品は、10.1型タッチスクリーンを持つタブレットだが、出荷時のAndroid 3.0のときには、けっこう不安定で、使っていてイライラさせられることが少なくなかったのだが、アップデートによって生まれ変わったように安定し、使いやすいデバイスになった。Android 3.1が3.0より良くなったというよりも、ハードウェアへの最適化が進んだという印象だ。

 余談だが、この製品に実装されているドルビーモバイルはすごい。以前紹介した「ドルビーPCエンタテイメント・エクスペリエンス・プログラム(PCEE)」のモバイル版ともいうべきテクノロジだ。

 出荷状態でオンになっていて、音を出すアプリすべてにその効果が反映されるので、特にその存在を意識することはなかったのだが、設定メニューで機能をオフにしてみたところ、あまりにも音がひどいのに驚いた。逆に言うと、極限までコストを絞り、また、実装スペースなどに制限される物理的なサウンド再生系の底上げが、ソフトウェアの力で実現できていることを実感できる。

 この機能をオンにすることで、音の定位が多少曖昧になってしまうのは残念だし、ナチュラルな音でもないのだが、この機能をオフにして使おうとは思わない。そのくらい劇的な効果がある。今後のこの手のデバイスのサウンド再生は、ハードウェアに対する職人芸的な工夫よりも、ソフトウェアによる補完が主流になっていくにちがいない。もし、それが製品自体のコストに反映され、廉価で優れたデバイスが手に入るということであれば、それはそれで仕方がないことかもしれない。

 ドルビーは今でこそサラウンドの代名詞のようにとらえられているかもしれないが、ある年代以上の層からは、カセットテープのノイズリダクションで有名だ。いわば圧縮記録、再生の元祖といってもよく、当時としては、ありえないくらいに細いテープと走行速度にもかかわらず、当たり前のようにそこに記録された音を再生するときのヒスノイズを見事に消し去り、コンパクトカセットテープというおもちゃのようなメモ用メディアをオーディオメディアの領域まで昇華させた歴史的経緯を考えると、同様のことが、こうした現代のデバイスで再び起こりつつあるのは感慨深いものがある。

●同じにすべきか、別にすべきか、そこが問題だ

 さて、話をタブレットに戻そう。

 Androidを3.1にアップデートしたICONIA TAB A500だが、せいぜい5型程度のスクリーンしか持たないスマートフォンで使われてきたAndroid 2.Xに対して、タブレットに最適化した要素を持つOSがAndroid 3.Xだ。そうはいっても、極端に違うわけではない。違いは微妙だが、その微妙が、操作の迷いを誘う面もある。

 ウィジェットのサイズが可変であったり、HIDマウスに対応しているなどの特徴を持つほか、スマートフォンでは当たり前の物理ボタンを持たず、「戻る」「ホーム」などはソフトウェアボタンとして表示される。アプリケーションの履歴をたどってタスクスイッチができるボタンが新設されているのも目新しい。

 これらのボタンがスクリーン左下に配されているのに対して、「メニュー」やホームスクリーンにおける「アプリケーション」ボタンは右上に位置する。また、スマートフォンではホームスクリーンの上部から引っ張り出してきたステータスバーも、右下にコンパクトなウィジェット上のボタンとして落ち着いた。

 これらボタンの位置関係は、スマートフォンと大きく異なるため、とっかえひっかえデバイスを使い分けるには多少の戸惑いがある。

 ただ、Googleでは、今後、スマートフォン向けの2.Xと、タブレット向けの3.Xを統合した次世代のOS(アイスクリーム・サンドウィッチ)をリリースすることを表明しているので、これらのGUIは、改めて見直されることになるだろう。

 IE9でお気に入りバーを左から右に移動し、ステータスバーや検索ボックスの表示をやめてしまっただけで「けちょんけちょん」に言われてしまうWindowsのMicrosoftに対して、Googleは、そのあたりのチャレンジに容赦がない。

 たぶん、デバイスベンダーは、これに困惑している面もあるのだろう。別件で、2011年のドコモのスマートフォン夏モデルのほとんどすべてを3日ほどかけて評価したのだが、同じAndroid 2.3であるのに、その実装や、シェルのかぶせ方が違うことで、機種ごとに操作方法が異なることに、ちょっとした疑問も感じてしまった。でも、製品の差別化にはある程度、こうしたことも仕方がないのもわかる。でも、一歩間違うと、Windows 3.1のときのように、各社の製品の操作方法がまちまちになり、結果としてユーザーの混乱を招いてしまう可能性もある。その傾向は、スマートフォンのみならず、タブレットデバイスではさらに顕著だ。

●この秋からの動向に注目

 タブレットデバイスは、頻繁にアップデートされ、新製品も多いAndroidデバイスが注目されがちだが、Windowsスレート機からも目を離すわけにはいかない。特に、企業で使われるこの手のデバイスは、セキュリティの確保や、動作検証などの点で、どうしてもWindowsでなければならないケースが多い。そうしたニーズに応えるかのように、Intelは戦略を大きく転換して、Ultrabookを推進しようとしている。Intel Capitalが3億ドルのUltrabook基金を創設したというニュースも飛び込んできた。この先1~2年のハードウェアは、大きな変革期を経験することになりそうだ。

 また、Microsoftは、従来のエンタープライズ一辺倒の戦略を見直し、コンシューマ指向への再起を目論んでいる。Windows Phone 7などは、まさにその新たな戦略に軸足を置くものだし、現時点では、Windows 8と称される次世代OSだが、きっとそれも、このあたりを意識したものになるにちがいない。ポイントは「変えないで変えること」だ。もともとWindowsは、タブレットの存在はもちろん、タッチUIについては、ほとんど想定していないに等しい存在だっただけに、今後の展開は興味深い。

 iPhoneやiPad、そして、Androidスマートフォンに、タブレットなど、先行するデバイスは、Windows 8が世に出る頃には、今よりもさらに先を走っているだろう。その一方で、アップルはiOSのUXにドラスティックな変化を与えるのが難しくなっているかもしれない。今は好き放題にやっているように見えるGoogleと、そのAndroidを搭載する各社のデバイスも同様だ。

 それぞれに、それぞれの悩みがあり、それぞれのジレンマがある。少なくともタブレットは、個人が持つ唯一のデバイスではない。他デバイスとの併行利用におけるUIやUXの行方はまだ雲に覆われている。その雲の中にチラッと見えるのがwebOSだというのは、きっと気のせいだ。