山田祥平のRe:config.sys

「PCがなくても平気、あればもっと便利」を目指すGoogleの取り組み




 PCのコモディティ化が叫ばれて久しい。スマートフォンの普及によって、PCがなくても用が足りることも多くなり、いわゆるPCの出番が少なくなりつつもある。そんなトレンド下において、GoogleがWeb版Android Marketをサービスインした。

●Web版Android Marketサービスイン

 Androidスマートフォンは、実質的に、端末1台1台がGoogleアカウントと関連づけられる。アカウントはパーソナルなものであり、スマートフォンはパーソナルな持ち物であるということが暗に示されている。スマートフォンのユーザーは、Googleアカウントと端末を関連づけなければアプリケーションの配布サイトであるAndroid Marketの利用ができないので、これは、端末を使用開始する際の必須の作業ともいえる。もちろん、多くのユーザーは、PCでGoogleアカウントを取得済みだろうから、自分のGmailアドレスでログインするだけだ。

 実を言うと、最初のAndroid端末を使い始めるときには、このGoogleアカウントとの関連づけについて、それほどの便利さを感じるわけではない。でも、2台目、3台目のAndroid端末を使い始めたときに、その凄さを実感できるだろう。買ってきて箱から出したばかりの端末が、みるみる自分専用に変身していくことがわかる。

 もちろん、やりとりしているGmailのメールデータが同期されるし、連絡先についても同様だ。設定すればPCのWeb履歴も端末PC間で共有できる。PCでいったん検索したキーワードが、スマートフォン側で候補として参照できるのだ。Android端末とPCが1台づつでも、これは想像以上に便利だ。

 そして懸案だったWeb版Android Marketがサービスインした。PCを所有しているAndroidユーザーなら、待ち望んでいたサービスだといえるだろう。

 これまで、Android端末にアプリをインストールするには、端末にプリインストールされたAndroid Marketアプリを開き、そこで目的のアプリを見つけてダウンロードしてインストールするのが一般的な手順だった。iTunesでアプリ探しからダウンロードまでまかなえるiPnoneとはずいぶん異なるアプローチだ。

 だから、PCで各ウェブサイトをザッピングしていて、紹介サイトなどで興味深いアプリを見つけても、その名前を、スマートフォンで開いたAndroid Marketで検索し直さなければならなかった。スマートフォンからアクセスできるAndroid Marketは、PCからのアクセスができなかったので、なんらかの方法で、スマートフォンにURLを送る必要があった。そのために、Androidアプリの紹介サイトの多くは、URLに加えてQRコードを掲載している。このQRコードをスマートフォンのバーコードリーダーアプリで読み取ってAndroid Market内の特定アプリを探し出すわけだ。実にまどろっこしい。

 せっかく目の前にPCがあるのになぜそんなことをと、いつも思っていた。でも、Android Marketは、スマートフォンが使われている通信事業者との密接な関連づけがあり、通信事業者ごとに拾えるアプリと拾えないアプリがある。ユーザー視点からは、理不尽な仕様だが、それを受け入れざるを得なかったのだ。

●OTAでアプリをインストール

 Web版Android Marketは、まだまだ荒削りで、かゆいところに手が届くような状態ではない。でも、「こうだったらいいのに」という願いの多くがかなえられている。方向性はとても正しい。

 Googleにログインした状態で、サイトのトップページにアクセスするとゲームやアプリのカテゴリ一覧が表示され、最初の状態では、全般のベストセラーアプリなどがリストアップされている。タブの切り替えで、有料、無料のベストセラーアプリに切り替えることもできる。まあ、これは、ありきたりなデザインだ。

 ここで、望みのアプリを探し出すことができれば、「INSTALL」、または、「BUY」のボタンをクリックするだけでいい。これだけで、アプリのバイナリはOnTheAir(OTA)でスマートフォンに送られ、勝手にインストールまで完了してしまう。これまでスマートフォンで操作してきたことを、すべてPCでまかなえる。

 スマートフォンには一切手を触れる必要がない。次に自分のスマートフォンを手に取ったときには、さっきのアプリがインストール済みなのだ。Googleのブラウザ、Chromeの拡張機能にGoogle Chrome to Phone Extensionと呼ばれるものがある。ブラウザで見ているURLや電話番号、テキストなどををOTAでスマートフォンに送ることができる便利な機能だが、まさに、この機能がアプリのインストールにも対応したイメージだ。

●スマートフォンに完結しない運用管理

 サイト内のMy Market Accountを開くと、自分が過去にインストールしたアプリの一覧を見ることができる。もちろんこの一覧には、スマートフォン側のAndroid Marketアプリで見つけてインストールしたアプリも反映されて含まれる。

 この一覧は、複数のAndroidスマートフォンを使い分けているユーザーにはきわめて便利なものになるだろう。ぼくは今、手元に4種類のAndroid端末があり、それぞれを併行して使っているのだが、個々の端末のストレージ容量はまちまちで、すべての端末を同じ状態に保つのは難しい。だから、新しいアプリは、まず、ストレージに余裕のあるGalaxy Tabにインストールして試してみて、他の端末でも使いたいと思ったものに関しては、個別にインストールするということをやっている。

 My Market Accountでは、自分のアカウントでインストールしたアプリが端末を問わず、すべてリストアップされ、端末1台にインストールしたアプリを、他の端末にもインストールすることができるのだ。もちろんOTAで、端末に一切手を触れる必要がないのは新規インストールのときと同様だ。

 つまり、Web版Android Marketでは、アプリを探すこととアプリをインストールすることまでをPCの広い画面で快適に完結させ、アプリを使う段になって、初めてスマートフォンを手に取るという理想的なプロセスを実現してくれる。

 Androidスマートフォンのユーザーは、今まで通り、スマートフォンだけに完結して、PCレスでの運用もできるのだが、PCが手元にあれば、もっと快適にスマートフォンを管理運用することができる。これこそが、Googleの考える、PCとスマートフォンの新たな関係なのだろう。「PCがなくても平気、でも、あればもっと便利」というのは、こういうことだ。これは現時点での理想的な関係ではないだろうか。

 iTunesとiPhoneの関係と比較されることは多いだろうけれど、iTunesはそれをインストールした唯一のPCとiPhoneが紐付けされる。でも、Android Marketは、PCを選ばないし、固定もしない。Googleアカウント、つまり、クラウドとの紐付けだ。ログインすれば、どのPCからでも同じことができる。この1点だけでも、目指している方向性はまったく違う。マルチデバイス時代のトレンドを考える上で、このサービスインは、実に興味深く、今後の展開から目が離せない。