山田祥平のRe:config.sys

足下の砂漠に金を探せば、雲が晴れて太陽が

 2013 InternationalCESは実に興味深いイベントだった。通い始めて14年目になるが、そこにイケイケのお祭り感を感じなかったのは初めてかもしれない。今回は、年初のCESについての雑感を記しておこう。

CESは開幕前に半分終わる

 個人的なCESのスケジュールは、開幕前のプレス関連イベントを2日間でこなし、開幕前日夜からは基調講演に通い、夜はプライベート展示会、そして、余った昼の時間を会場巡りに費やすというように組み立てる。なにしろ展示会場は、幕張メッセの1〜8ホール全部をあわせたものの3倍規模、ビッグサイトの2倍規模である。片っ端からネタを探して歩き回ったとしても必ず見落としがあるのだから、最初から、そんな無謀を企ててはならない。

 というわけで、到着した翌日、1月5日から活動を開始した。この日の夜は、NVIDIAのプレスイベントが開催され、「Tegra 4」や「SHIELD」が発表され、さらに、NVIDIA GRIDが紹介された。3年前ぐらいであれば、NVIDIAというと真っ先に思い浮かぶのはGPUの会社というイメージなのだが、今では、モバイル機器用のSoCの開発元という印象が強い。

 このプレスイベントでは、そのNVIDIAが、ポータブルゲーム機!?と見まごうばかりのデバイス「SHIELD」を発表している。Androidマーケットが利用できるデバイスだが、今回は技術概要の発表のみで、ビジネスモデルをどうするかといったことには言及されていない。

 また、NVIDA GRIDはクラウドベースのGPU仮想化技術であり、これを利用することができるようになれば、十分なネットワーク帯域さえ確保できれば、個々の機器が処理性能の高いGPUを個別に持たなくてもよくなる可能性がある。

 こうしたいくつかの施策で分かるのは、NVIDIAのようなコンポーネントベンダーが、そこからの脱皮にチャレンジしようとしていることだ。カタチのあるハードウェアを、どのようなシーンでエンドユーザーに提供するかは、デバイスごとに異なるだろうけれど、今のモバイルデバイス単体でのグラフィックス処理性能向上は、今くらいのところでいったん小休止に入り、クラウドを絡めたソリューションで、新たなアーキテクチャを起こすといったタイミングに入っているのかもしれない。

IntelはスマートフォンとUltrabook

 翌日は、朝から夕方までがプレスデーで、大手ベンダーのプレスイベントが1時間刻みでスケジュールされている。同じホテルで開催されるので、移動はラクだが何しろ行列がすごい。前のイベントに出ると、次のイベントには満員で入れない。だから、全部に出席するといった無茶を考えなければ、そんなに大変ではない。

 この日はIntelがプレスイベントを開催している。ここでは、SDP 7Wという画期的な低消費電力を実現する、IvyBridgeベースのCore Yプロセッサが正式にデビューした。また、Clover Trail後継としてのBay Trailが2013年末商戦向けデバイスに投入されること、そして、期待のHaswellを搭載したリファレンスデザイン機などが発表されている。

 イベントとは別に、Intel副社長兼PCクライアント事業部長のカーク・スコーゲン氏とのラウンドテーブルで話を聞くことができた。そこで改めてスコーゲン氏から、これからはUltrabookのタッチ対応は必須となるだろうということ、そして、生産性を高めるためのPCとしてのUltrabookにはキーボードが絶対に必要だというコメントをもらった。気になるUltrabookの通信手段について聞いてみたが、LTEなどのWANをUltrabookの必須要件にすることは、各リージョンの通信事情などが異なるため、それは難しいのだそうだ。特に米国内ではWi-Fiを使えることが多いため、あまり不便を感じないのではないかということだった。

 少なくとも現時点では、Intelとしては、UltrabookがずっとWANにつながっていることは、あまり想定していないようだ。これは、Windows 8のConnected Stanbyなどを有効に活かせないことになるのだが、本当にそれでいいのだろうか。

リアルワールドをクリッカブルなものに

 プレスデーを引き上げ、開幕前夜はプリショー基調講演を聴講した。昨年(2012年)まではMicrosoftが担当していた枠だが、今年は、QualcommのCEOであるポール・E・ジェイコブス氏が登壇した。テーマは「Born Mobile」だ。ご存じのように、Qualcommのテクノロジーを抜きにして、現在の3G、4Gモバイルコミュニケーションは成立しない。ジェイコブス氏は、今後、途上国などでは最初にインターネットに接続するために使う端末が携帯デバイスになるとし、モバイルコネクションは人口よりも多くなることを指摘し、それが新しいモバイルの世界を創り出すとアピールした。

 この基調講演には、ゲストとして、MicrosoftのCEOであるスティーブ・バルマー氏が登場、Windows RTやWindows Phoneを紹介した。ちなみにMicrosoftは、展示会への出展も今年(2013年)から取りやめている。

 ジェイコブス氏は、Qualcommが、モバイル機器にこだわることなく、エコシステムの体験を創ろうとしていること、そして、そのエコシステムの中で、デバイス相互が通信することがネットワークに大きなインパクトを与えるため、そのコストを抑制するのも、同社のチャレンジであるとした。おそらく、今後、セルを構成する基地局のコストは、スマートフォンよりも安くなっていくだろうという。

 もはや、デバイスの優劣を競う時代ではないと言わんばかりだ。スマートフォン、タブレット、TVといったデバイスは、シナジーであることが重要であり、それらが世界とどのように接するかを考える必要があると同氏。人間の五感と、各種デバイスの持つデジタル的な第六感を組み合わせてリアルワールドをクリック可能なものにするという方向性を示した。

ソリューションベンダーとしてのパナソニック

 開幕初日のオープニング基調講演は、パナソニック社長の津賀一宏氏が担当した。パナソニックは2004年と2008年にCESの基調講演を担当しているが、双方ともにAVC社としてであり、パナソニックとしての基調講演は初めてだ。

 津賀氏の基調講演は、TVの会社としてのパナソニックのイメージを払拭しようという試みで、北米内における同社のB2Bビジネスが、まるで企業概要パンフレットのようなイメージの紹介で終始した。エンジニアリングカンパニーとして、ソリューションとサービスを提供する会社であることを強くアピールしていたのだ。

 もちろん、4K有機EL 56型TVや4Kタブレットなど、新たな戦略製品の紹介もあったのだが、製品を作って売るということがメインではないということを強調していた。それは、例えばTVの紹介1つとっても、いろんな意味で期待とは異なるものだった。人は綺麗なものを求めているだけではなく、経験を求めているのだとして、TVの経験が変わればエコシステムも変わるという。そして、それはコンテンツホルダーにとっても有利に働くというのが同社の考えだという。

 パナソニック的には、インターネットが過去の当たり前を覆したということを強調していた。流れてくるものを、なんとなく受け身でとらえていたのが過去の当たり前なら、顔認識技術などによってパーソナライズされたTVで、友人とコンテンツ視聴を共有したり、インテリジェントな広告の配信を受けるといったことが、新しい当たり前になる。その時に、パナソニックは誰を支援するかというと、それはぼくら受け手ではなく、送り手側なのだということなのかもしれない。

 ちなみに、紹介された4Kタブレットは話題を呼んだが、これは、AVC社で開発されたもので、単独で販売されるものではなく、ソリューションを提供するビジネスの一環としての位置づけなのだそうだ。

通信ベンダーとコンポーネントベンダーがめざす方向性

 初日午後にはVerizon CommunicationsのCEOであるローウェル・マクアダム氏の基調講演だった。Verizonは世界最大級のネットワークプロバイダだが、Verizon Wirelessを傘下に擁する企業としても有名で、米国内の固定通信網、移動通信網を牛耳る会社だ。

 マクアダム氏は、Verizonのネットワークが全米人口の89%をカバーしていることを強調するとともに、これからM2Mのネットワークが動き出すことで、携帯電話業界でのメリットのみならず、それをはるかに超える社会的インパクトが発生するとした。

 個々のデバイスに言及することなく、クラウド基盤を積極的に展開していることをアピールした同氏は、端末にとらわれることで、ネットワークのもたらす世界を見失ってしまうことの危険性を示唆していた。端末を懸命に売ってもビジネスにはならないということなのかもしれない。

 明けて2日目は、Samsung ElectronicsのDevice Solution Business担当President、スティーブン・ウー氏の基調講演だ。

 Samsungといえば、GALAXYシリーズが絶好調で、その優位性に終始するのかと思いきや、最終製品としてのデバイスには一切触れることがなかった。

 同社がコンポーネントベンダーであることが強調され、同社は可能性を可搬化する企業であるとして、プロセッサ、メモリ、ディスプレイという3種類のコンポーネントが重力の中心としてのモバイルデバイスを構成し、デバイス全体を駆動しているのだとWoo氏はいう。

歌舞伎の黒子が存在感を示し出す

 これら基調講演を担当した顔ぶれと、その内容を振り返っても、誰もエンドユーザー製品を語っていないことに驚く。印象としては、縁の下の力持ちが浮上してきた感じだ。Samsungやパナソニックといった身近に感じていた企業でさえ、B2Bを強調する。

 一方、NVIDIAやIntelといった企業は、業界そのもののリーダーとして、各社の裏方にまわりながら、これまでとは微妙に異なる方向性を示唆した。

 今の状況は、「それはクラウド」の一言で片付けられていることが多いように思うのだが、個人的な印象としては、空の雲が晴れ、今まで見えていなかったものが、明らかなカタチを持って見えてきたというインパクトを受けた。歌舞伎の舞台では黒子は見えないことにするという暗黙の了解があるそうだが、その黒子が存在感を主張しはじめたという感じだ。

 ハードウェアを支える技術とインフラ、そしてコンシューマが手にする最終製品を構成する要素の垂直統合と、水平統合がますます複雑化し、ハイブリッドなビジネスが求められるようになってきている。

 これからデバイスの差異化はまずます難しくなるだろう。どこで何を買っても同じだということにもなりかねない。それが素晴らしいものになるか、陳腐なものになるかは、コンポーネントベンダーやサービスプロバイダのビジネスに依存し、どれに伸るか反るかの意思決定がビジネスの成功を導くのかもしれない。

 かつて、Windows 3.1の時代、PC各社は差別化をあきらめ、Windows 95の波に乗った。でも、それが大成功を導き、PCの時代がやってきた。まるでデジャブのように、似たようなことが起ころうとしている。多くのベンダーは、何を創るかではなく、何を選ぶかという判断を強いられるだろう。その傾向は以前からあったが、ますます強くなる一方で、垂直統合と水平統合のハイブリッド化要素も加味しなければならない。

 砂漠の土地、ラスベガスで、砂の中に一粒の金を見つけるのはたいへんだ。クラウドはラスベガスの砂漠に似ている。かつてのカリフォルニアゴールドラッシュでは、莫大な資金をつぎ込めるわずかな勝者だけが巨万の富を得られたという。でも、そこでは新たなエコシステムが生まれたともいう。

 現代のゴールドラッシュの兆しがそこにあったというのが今年のCESの感想だ。そこでは、新たなエコシステムのブートストラップしようとしていた。

(山田 祥平)