山田祥平のRe:config.sys

明るいナショナルの時代は遠く

 パナソニックが色温度の上限と下限を拡張した新型のシーリングライト「EVERLEDS」の新製品を発表した。従来よりも、より高い色温度と低い色温度をサポートすることで、すっきり感とくつろぎ感を高めることができるという。今回は、PCでの作業環境の灯りについて考えてみよう。

明るければよかった時代は遠く

 現在仕事をしている部屋は約8畳の洋間で、天井には20Wの直管蛍光灯5本のシーリングライトを取り付けてある。使っている蛍光灯は色評価用のD50だ。この蛍光灯は色温度が5000Kの高演色形AAAで、とりあえず、この灯りの下では正しい色が分かることになっている。

 どうしてこんな蛍光灯を使っているかというと、例えば、評価用に手元に届いたデバイスの色を見たときに派手だとか、しっくりしているとかといった色を、出来るだけ正しく判断できるようにしたいと思っているからだ。

 基本的に、何かの作業をするときの環境は明るい方が好きだ。これは食事の時もそうで、例えば、ちょっとおしゃれなレストランなどは、もう、目の前の肉が、ちゃんと焼けているのかどうかわからないような明るさで、メニューの細かい字を読むのもつらいようなことがある。色味まで考えて盛りつける調理人は、これをいったいどう考えているのかとも思うくらいだ。

 その点、アジア系のレストランは明るく、困ることはあまりないので安心出来ることが多い。まあ、これは、個人個人の好みや視力の問題でもあるのだが、以前、ニューヨークだったかロサンゼルスだったかのレストランで、ワインを頼んだら、ワインのボトルと一緒に懐中電灯を持って来て銘柄を確認させられた。そのくらい暗かったりするわけだ。実にナンセンスだ。こうしたこともあるので、備えとしてポケットの中には携帯型のLEDライトとルーペがいつも入っている。

 話がそれた。

 現状のシーリング器具は、蛍光灯そのものは交換しながらも、そろそろ15年以上使っているので、そろそろ省電力効果の高いLEDに変えようかとも思っている。

 パナソニックの新製品は、「すっきりのあかり」として色温度で9,000K、「くつろぎのあかり」として色温度で2,000Kをサポートしている。2,000Kから9,000Kは、リモコンのボタンで連続的に変化させることができるのに加え、「勉強のあかり」として6200Kのモードがある。このモードは、文字が見やすく、直下の明るさを高めたもので、白と黒のコントラスト感が向上するため、文字が読みやすくなるという。したがって読書には最適の色温度らしい。発表会で、その灯りを体験したが、書類の読みやすさは明らかに高まる。これは、白地に黒で印刷された書類において、白をより白らしく見えるようにすることによる効果のようだ。

 ちょっと使ってみて思ったのは、リモコンで色温度を変更する場合、こうした分かりやすさのみならず、現在の色温度を数値で表示するようにするといった工夫があればよかったとも思うのだが、それを明確にすると、LEDの劣化などで数値と実態が矛盾するようなことが起こる可能性もあり、そこまでは出来ないということなんだろう。

気になるPCディスプレイの色温度

 一方、PCに接続されたディスプレイはどうなっているかというと、現在は、24型の16:10液晶ディスプレイ(1,920×1,200ドット)4台の体制だ。左から横、縦、縦、横の状態で設置していて、全てがHP製なのだが、製品が異なる。2台は同じものなのだが、もう2台は別のもの、つまり3種類の製品が混在している。とりあえず、全部をsRGB設定にしているので、基本的に6,500Kのはずだが、製品が異なれば微妙に色が異なるし、同じ製品でも縦と横ではやはり違う。いったんはカラーマネジメントで追い込もうとしたのだが、気にしだすとキリがないので、そのまま放置してしまっている。

 だから、Webで商品の色を見て、これはいいとか悪いとかを判断して通販で購入するような場合、届いた商品の色を見てがっかりすることもあれば、予想以上にいいと思うこともある。ノートPCなどで見ているのとも全然違うし、もう、いったい何を信じたらいいのかといった状況だ。特に最近はスマートフォンやタブレットのスクリーンでしか見ないこともあり、それなりに気を遣ってはいるものの、色の基準はとんでもない無法地帯になっている。とにかく、複数台のデバイスのスクリーンを並べていると、何が正しいのかまるで分からなくなってしまうのだ。

色温度が感情を左右する

 PCのディスプレイがこういう具合なので、信じられるのは自然光だけだ。でも、太陽が沈んでからの夜はそういうわけにはいかない。

 パナソニックでは、この新製品の開発にあたり、アンケートなどの心理解析と、脳波測定による生理解析を並行して行ない、感性を指標化することにチャレンジし、その結果、従来よりも、より高い色温度、より低い色温度をサポートすることで、すっきり感やくつろぎ感を高められることを実証したという。

 特に、「すっきりのあかり」は、快晴の青空をイメージしたものだそうで、確かに、爽快な印象が強い。発表会での説明では、これまでの一般的な蛍光灯やLEDとは異なる色温度によって感じるであろう違和感や不安感といった影響はなかったそうだ。人は、色温度によって感情が左右されるとのことで、

ローソクの灯 = 何だか暖かい
夏の青空 = すっきり爽やか
イルミネーション = 心躍る
沈む太陽 = 心穏やか

といった特別な感情になるのだそうだ。

 だから、部屋の灯りの色温度を変えることで、感情そのものをコントロールすることができるわけだ。

あの青いハレの世界をもう一度

 パナソニックは昨年(2012年)、当初の予定を前倒し、電球型蛍光灯やLEDなど代替製品の準備がほぼ整ったとして、一般的なシリカ白熱電球の生産を終了している。これから灯りを検討する場合は、電力を多く消費する電球よりもLEDなどを選ぶしかない。

 個人的には、LEDに感じる魅力は省電力はもちろん、交換の手間がないということだろうか。毎日使っているものの、シーリングはカバーで覆われているので、蛍光管の劣化などに気がつきにくい。電球なら切れて分かるが、蛍光灯はそうじゃない。交換して明るくなってびっくりすることもあるくらいだ。

 一方、事実上、ブラウン管のTVは引退した。放送の規格であるNTSCはアナログ放送における白点の色温度を9,300Kに規定していたが、今、液晶TVで見る地デジは6,500Kになっているそうだ。かつてはかなり青っぽい画面を見ていたのだなと今にして思う。

 今回のパナソニックの試みは、もう一度あの青っぽいハレの世界を、しかも日常に取り戻そうということなのかもしれない。かつてのTVが9,300Kを使っていたのは、より鮮やかに見せることで、ハレの世界を提供しようとしていたのだろう。ブラウン管の向こうは特別な世界だったのだ。でも、それが今6,500Kになり、スクリーンの向こうは日常に近いものになった。ただし、映画の色温度はもう少し低いので、日常とはさらに異なる感情で向き合える。

 人間の目はよく出来ていて、異なる色温度の環境下におかれてもすぐに慣れてしまう。かつて、PCでブラウン管のディスプレイを使っているときに、デジタル写真が流行り、これからは6,500Kの時代だと、思い切って設定を変更したとき、やけに黄色っぽい画面に、ちょっとした違和感を感じたものだが、すぐに慣れた。以来、20年近く、6,500Kのディスプレイを見つめてきた。その色温度が、感情に影響を与えているのだとしたら、こうして書いている原稿にも、ちょっとしたテイストの違いが加わっているのかもしれない。今回のパナソニックの発表で、身の回りの色温度を、ちょっと再考してみようかと思った次第だ。少なくとも、明るければいいというものではなさそうだ。

(山田 祥平)