Macworld Conference & Expo/New York 2002:基調講演レポート

講演の大半を割いて紹介された「Jaguar」
待望のリリース日は8月24日

会期:7月17日~19日

会場:Jacob K.Javits Convention Center



 Macworld Conference & Expo/New Yorkが17日(現地時間)開幕し、スティーブ・ジョブズ CEOの基調講演が行なわれた。講演の概要や新ハードウェアについては昨日レポートしているが、ここでは講演で最も力を入れて解説されたMac OS Xの新バージョン「Jaguar」や、iアプリケーションの詳細などについてレポートする。


■Mac OS X 10.2(Jaguar)は8月24日にリリース

“Jaguar”やiCal、iSyncなどを自らMacに向かってデモするジョブズCEO

 5月に開催されたWWDCでは、Late Summer(この夏遅く)とだけアナウンスされていたMac OS Xのメジャーアップグレード「Jaguar」だが、ジョブズCEOの口から公式に「8月24日」のリリース日が発表された。振り返れば、2年前はMac OS Xのパブリックベータ配布開始日を巡って秋分の日までは夏とジョブズCEOに言わしめたわけだが、今回は十分それを承知の上で「9月32日(もちろんジョーク)と思っていた人も多いんじゃないか?」と来場者を挑発した。

 また「Jaguar」は公式にバージョン10.2となった。バージョン10.1から10.2へ、数字的にはコンマ1のアップグレードだが、Apple Computerでは、これをメジャーアップグレードと位置付けている。前回の10.0から10.1のときもそうしたコメントがあったので、当初からMac OS Xを使ったり追いかけているコアなユーザーならそういうものと理解できるかも知れないが、そのまま普通のユーザーへの訴求は難しい。そこで機能の大幅な追加や改良はもちろんだが、外観上の特徴も重要ということなのだろう。パッケージやディスクがJaguar柄にデザインされて、従来バーションとの「違い」が強調されている。

 元々「Jaguar」は開発コードで、本来ならそれほど一般には知られないもの。これまでもいくつか良く知られたコードネームは存在するが、製品化に際してまで存在感を持つケースは同社では珍しい。映し出されたCDのレーベルや会場で配布されているポスターにまで「Jaguar」の表記がある。開発コードが一人歩きした結果、愛称とコンセプトイメージまで昇格したということだろう。確かに、ジェネラルユーザーにまで「違い」をアピールするのには好都合となるに違いない。ちなみに、開発コードがそのまま商品名になったのは、最近では「Xbox」が代表的な例だ。

 10.0から10.1のアップグレードでは、既存ユーザー向けに2,500円という実費レベルでのアップグレードパスが用意されていたが(発売初日に秋葉原などで無償アップグレードパッケージも配布されたのが記憶に新しい)、今回はパッケージ版のみが発売される。Jaguar柄が施されたパッケージは、14,800円(米国では129ドル)と発表され、すでにApple Storeでは予約購入が可能になっている。例外的に、7月17日以降に10.2より以前のMac OS XがプリインストールされたMacを買ったユーザーにのみ、Up-to-Dateプログラムが2,500円で提供される。

 同社ホームページのMac OS Xタブをクリックすると、そこはすでに以前のAQUAからJaguar柄へと移行しており、イメージ戦略はすでにスタートしている。

Xのロゴと、パッケージの背の部分は見事にJaguar柄。店頭でも目立つことだろう。Version 10.2 Jaguarという表記があり、Jaguarは開発コード名から愛称へと昇格 こちらはCD-ROMのレーベル面。販売価格は129ドルだが、Jaguarには150を超える新機能があるので、1つ1つの機能は1ドル以下にあたるとジョブズCEO 今回のlate Summerは8月24日。日本でも同日の出荷がアナウンスされたので、時差の関係から米国より早く日本で手に入ることになる
Mac OS Xのインストールベースの推移。現在の250万を年内には500万まで増やしていくという 「Jaguar」で追加された一定時間毎にデスクトップの画像を変更する機能をマーケティング担当上級副社長のフィル・シラー氏がデモ コンソールを透過処理するのも「Jaguar」で追加された機能
Sharlock 3で、ジョブズCEOがマンハッタンの寿司屋を検索。地図まで表示される Mailに追加されたジャンクメールを自動学習する機能。茶色で表示されたジャンクメールの多さに会場からは笑いが漏れる Jaguarで追加されたり、機能強化されたアプリケーションの代表的なもの


■「iTools」は「.mac」に生まれ変わって有料化

他の有料Webサービスを例に挙げ、iToolsから.macへの転換について説明

 ジョブズCEOが言う「デジタルライフを拡張してきたiTools」は、2000年1月に発表されている。約2年半に及ぶ無料での運用を経て、「.mac」へと生まれ変わり有料化への道を歩むことになった。

 年間99ドル(既存のiToolsユーザーは初年度のみ49.95ドル。有料でiDiskの容量アップ契約をしていたユーザーは初年度無料)という価格設定は、ジョブズCEOの説明によれば「提供される個々のサービスを積み重ねるよりもずっとオトク」ということになり、事実上230ドル以上のサービスに相当するそうだ。その内訳はウイルス対策ソフト50ドル、Backup50ドル、インターネットストレージが100MBで50ドル、さらにメール転送などで20ドル、ホームページ作成とホスティングで60ドルと試算されている。

 既存のiToolsユーザーがもっとも気になるのは、現在のアカウントの存続や.macへの移行がどうなるかという点だろう。すでに本日付けで、.macサービスはスタートしており、新規に登録したユーザーにはトライアルアカウントが発行されている。トライアルアカウントでは、正式な.mac契約より受けられるサービス内容に制限があるが、無料で60日間の利用ができる。この60日間に有料サービスの手続きを行なうかどうか決めるわけだ。

 すでにiToolsのアカウントを持つ既存のユーザーも自動的にこのトライアルアカウントと同じ状態に設定とされており、iToolsという名のサービスが完全になくなる9月30日まで、やや長い75日間の猶予期間が与えられている。もちろん移行がなければ、その時点でアカウントは消滅する。ちなみに.macのページではすでに有料化への移行が可能になっているが、Mac OS XやQuickTime6のProキーなどと違って、支払いはドル建てのままだ。

 確かにインターネットには、最初無料でユーザーを集めたサービスが、ある時期を境に有料化に踏み切るケースは少なくない。ここでユーザーが残るか離れるかは、価格に見合ったサービスが提供されるかどうかということになる。.macのアドバンテージになるのは、Mac OS Xとシームレスに連携できる唯一のサービスということだ。

他の有料サービスを積み重ねると年間230ドル相当が必要なサービスが、99ドルにシームレスで利用可能と強調 .macで提供されるサービス。展示会場のAppleブースの展示機にはすべてこれらの.macサービスが導入されていた


■コメントの端々にMicrosoftとのぎくしゃくした関係が潜む

 この日の基調講演では、新たなiアプリケーションもアナウンスされている。これまで1,400万本以上がダウンロードやプリインストールなどで出荷されているiTunesは、バージョンアップして「iTunes 3」となり、スマートプレイリスト機能などが追加された。これまではMac OS 9向けとMac OS X向けの双方が提供されてきたが、このバージョンからはMac OS Xオンリーになる。WWDCで、すでにApple自身がMac OS 9に関する新規開発を止めたという言葉の通りだ。iTunes3は同日付けでダウンロードによる配布が始まっているほか、8月から発売されるiPodにも同梱される。

 iCal(アイカル)は、.macとの連携も可能なスケジューラソフト。iTunesのように1ウインドウにすべての機能を表示する。入力したスケジュールはインターネット上で共有可能で、友人や家族がそのデータを取り込んで利用することができる。Jaguarに対応して9月に配布がスタートする予定だ。

Digital Hubに携帯電話とPDAを付け加えた新たなiアプリケーション「iSync」 iTunesのように1つのウインドウだけが表示され、そのなかに機能が集約されているiCal。9月から配布が始まる SonyEricssonの携帯電話T68iと、Cingular Wirelessのサービスを組み合わせて「iSync」をデモ

 Digital HubにPDA(これまでもスライド上に表示されていたことはあったが)と携帯電話を加える「iSync」は、モバイル機器にフォーカスするという点でDigital Hub構想が、次のステップに進んだことを意識させる物だ。3月のMacworld/Tokyoで5月出荷がアナウンスされたBluetoothアダプタも、「iSync」の発表にあわせてか、ようやく日本のApple Storeで販売が開始されている。

 とはいえ、基調講演でデモンストレーションされたSonyEricssonのGPRS携帯電話T68iと、Cingular Wirelessによるサービス内容は、そっくりそのまま日本市場でもというわけにはいかない。日本市場での展開がどうなるか、今後のアナウンス次第ということになる。常々ジョブズCEOはグローバルスタンダードを強調するが、サービス開始当初のiToolsや、iPhotoを使ったネットワークプリントや、ブック製作のサービスのように日本市場では導入が遅れたり実現に至らないケースも散見される。Bluetoothを使ったPDAや携帯電話とのローカルなデータ共有から一歩進んだWebと連携するサービスが日本市場でどう提供されるかは注目すべきポイントである。iSyncもiCal同様にJaguarに対応し、9月に配布開始予定だ。


 本稿では基調講演のなかから、Jaguarとそれに付随するソフトウェアとサービスを中心に概要を紹介しているが、基調講演全体をとおして感じたのは、ベクトルの変わりつつあるMicrosoftとの関係だ。

 '97年のBoston Expoで衝撃的に発表された提携契約は先日満了している。両社はその後も良好な関係が続くとコメントしているが、「Real People」によるSwitchキャンペーンなど、コメントどおりに受け取りにくい部分もある。今回の基調講演も冒頭はこのSwitchのTVCMの上映からはじまった。また、QuickTime6の紹介のなかのMPEG-4のくだりでは「MPEG-4はみなが参入したがっている。Microsoftを除いては……」という表現が使われていたり、.macについても「我々の方が(Webサービスを)うまく提供できる」と.NETに競争意識を見せた。ハッキリとは示さないが、一年前までのそれとは異なる意識がApple側に芽生えつつあるのは事実だろう。

□Macworld Conference & Expoのホームページ(英文)
http://www.macworldexpo.com/
□ニュースリリース(Mac OS X 10.2)
http://www.apple.co.jp/news/2002/jul/17jaguar.html
□ニュースリリース(iCal)
http://www.apple.co.jp/news/2002/jul/17ical.html
□ニュースリリース(iTunes 3)
http://www.apple.co.jp/news/2002/jul/17itunes.html
□ニュースリリース(iSync)
http://www.apple.co.jp/news/2002/jul/17isync.html
□関連記事
【7月18日】Macworld NY 基調講演速報
17インチLCDのiMacと20GB iPodを発表 ~モバイル機器との連携を強化
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0718/mwny02.htm
【2000年8月30日】SEYBOLD SEMINARS SF 2000 基調講演レポート
Mac OS Xのパブリックβは、9月13日にパリで配布開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000830/keynote.htm
【'97年8月7日】Microsoft、Appleに1億5千万ドルを投資、共同開発も
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970807/applems.htm

(2002年7月19日)

[Reported by 矢作 晃]

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