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AppleのA6Xチップから見える2013年のiPad 5とタブレットの進化図



●モバイル機器の進化の足かせはプロセス技術とメモリ帯域

 今秋以降に登場したスマートフォンやタブレットからは、来年(2013年)のモバイル機器の進化を測ることができる。スマートフォンやタブレットは、熾烈なパフォーマンス競争を続けており、急激に進化している。

 しかし、進化の足かせもある。大きな足かせは、中核となるモバイル向けSoC(System on a Chip)を製造するプロセス技術と、SoCにデータを送信するためのメモリ帯域だ。この2要素の変化が、スマートフォンやタブレットの進化を大きく左右する。加えて、CPUコアとGPUコアのアーキテクチャの変化も進化のカギとなる。

 今年(2012年)秋のスマートフォン&タブレットの大きな変化は、Appleのラインナップ一新で、これは、AppleのモバイルSoCを製造するSamsungのプロセス技術が、45nmプロセルから32nmへと微細化したことで実現された。32nmプロセスによって、同程度のダイにより多くのトランジスタを搭載できるようになり、SoCの進化が成った。

 iPad向けのSoCで見ると、第4世代のiPadが載せているA6Xは、非常にパワフルだ。コアの構成はCPUコアが2、GPUコアが4と、第3世代iPadのA5Xと変わらないが、コアの中身が大幅に進化した。

 A6Xでは、CPUコアは、従来のCortex-A9コアから、Appleが買収したCPU設計ベンチャーP.A. Semiの開発と見られる新コア(コードネームSwiftと伝えられている)に代わった。GPUコアはImagination TechnologiesのPowerVR SGX 543MP4から、PowerVR SGX 554MP4へと世代が変わった。そのため、CPUのシングルスレッドパフォーマンスが大きく伸び、GPUの演算パフォーマンスも倍増した。

 こうした強化にも関わらず、微細化によってSoCのダイサイズ(半導体本体の面積)は小さくなった。A6Xの解析を行なったChipworksの発表を見るとA6Xでは約123平方mmのダイとなっており、A5Xの160平方mm台と比べると3/4のサイズに縮小している。このダイサイズは、iPad 2のA5とほぼ同クラスの大きさであり、SoCのサイズ的には1世代戻ったことになる。

Mobile SoCダイサイズ移行図
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 Appleが、第3世代iPadを出してからわずか半年で、慌てて第4世代を投入した理由は、モバイルとしては大きくなりすぎたA5Xから、Appleが適切と考えるサイズのA6Xへと引き戻すためだったと推測できる。また、Appleがタブレット向けに適切と考えているチップサイズが120平方mm前後であることも推測できる。

●バランスが崩れているA6X世代のパフォーマンス対帯域

 プロセスの微細化で演算パフォーマンスを引き上げたApple。しかし、AppleのSoCの進化をより詳しく見ると、A6Xへの進化が、ややバランスが崩れていることが分かる。iPadで比較すると、Appleは世代毎にチップの演算パフォーマンスの引き上げと連動して、メモリ帯域も引き上げて来た。

 2010年の初代iPadでは、A4でシングルコアのCortex-A8、シングル構成のPowerVR SGX535を採用した。メモリインターフェイスはx64のLPDDRだった。それが2011年のiPad 2では、A5でデュアルコアのCortex-A9と、デュアル構成のPowerVR 543MP2となった。CPUコア自体のパフォーマンスを上げると同時にデュアルコア構成にし、GPUコアもシェーダプロセッサの数を増やすと同時にデュアル構成にした。メモリはx64のLPDDR2へと切り替えて、メモリ帯域を倍増させた。

Apple Ax移行図
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 さらに第3世代iPadになると、A5XでCPUコアの構成は据え置きながら、GPUコアをクアッド構成のSGX 543MP4にし、シェーダ演算ユニットをさらに倍増させた。そして、メモリインターフェイスはLPDDR2のままx128構成へと倍幅にして帯域を倍増させた。それによって、ディスプレイを2,048×1,536ドットの4倍解像度へと引き上げることを可能にした。

 これが第4世代iPadではどうなったかというと、A6XでCPUコアのパフォーマンスを引き上げ、GPUコアをクアッド構成のSGX 554MP4にすることでシェーダ演算ユニット個数をさらに倍増させた。ところが、メモリインターフェイスは従来の128-bit幅のままとなっている。

 第4世代iPadが載せているDRAMパッケージはエルピーダの「B4064B3MA-1D-F」となっている。エルピーダのパーツナンバ規則から、頭の「B」がDDR2モバイルRAM、次の「40」がパッケージ容量で4G-bit品であることが分かる。次の「64」はエルピーダでは通常DRAMの構成を示しており、x64のパッケージであることが推測できる。2チップの積層パッケージで、x32の標準的なLPDDR2のダイを2個使ったx64のパッケージと見られる。また「-1D」の部分は通常はスピードグレードを示しており、第3世代iPadではこの部分が「8D」で800Mtpsのメモリ転送レートだった。

 そのため、第4世代iPadでは1Dで1,066Mtps品であることが分かる。この点は、A6を載せているiPhone 5も同様だ。DRAMベンダーはLPDDR2の追加規格である1,066Mtpsに沿った製品を今年前半から量産出荷しており、Appleのボリュームでも使えるようになっている。

●来年はメモリ帯域がプロセッサに追いつく年

 こうして見ると、第4世代iPadでは、第3世代より演算パフォーマンスは倍増させたにも関わらず、メモリ帯域は33%ほどしか上がらないことが分かる。つまり、プロセス微細化で、チップの内部の性能は倍増させても、チップの外側の性能は2倍にはできていない。x128という現在のメモリインターフェイスの構成は、モバイルSoCとしては突出して広く、コストや消費電力、実装面積の面から、これ以上インターフェイスを引き上げることは難しい。

 しかし、モバイルDRAMは、現在、2年で2倍のペースでメモリ帯域を引き上げつつある。そのため、約2年で2倍のチップのトランジスタ数の増大に見合うペースでメモリ帯域は拡大して行く。すでにSamsungは、倍速のLPDDR3の量産出荷をスタートさせており、Samsung製のNexus 10に使われているという報道もある。しかし、Appleのボリュームで採用するには、間に合わなかったようだ。

 ちなみに、バッテリ容量に余裕があるタブレットでは、通常のDDR3のローパワー版であるDDR3Lを採用するケースも出ている。その場合は、スタンバイ電力を犠牲にすることになるが、パフォーマンスとコスト面で有利となる。しかし、Appleはその方法は取らなかった。

 だが、来年(2013年)に入るとLPDDR3は急速に量産のボリュームが出てくる。そのため、2013年のスマートフォンやタブレットは、ハイエンドからLPDDR3へと置き換わって行くだろう。LPDDR3は来年の段階では1,600Mtps転送レートまでが製品化され、2014年には2,133Mtpsまで高速化したLPDDR3Eが登場する。LPDDR3Eの規格化もすでに終了している。

低電力メモリバンド幅のロードマップ
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 そのため、今年の主流だった800〜1,066MtpsのLPDDR2と比べると、来年はメモリ帯域は1.5倍〜2倍に引き上げられる。Appleがx128インターフェイスを使い続けるなら、メモリ帯域は25.6GB/secに達するはずだ。A5Xの12.8GB/secと比べると倍になる。デスクトップPCでは、メインストリームのデュアルチャネルDDR3-1600と同等のメモリ帯域だ。つまり、メインストリームPCに追いつくことになる。

 他のベンダも、新メモリの恩恵を同様に受け、メインストリームのx64インターフェイスで12.8GB/secが一般的になるだろう。LPDDR3は、倍速化してターミネータを加えることで高速化しているため、トレードオフで電力消費は上がるものの、ノートPC以上に高解像度化するディスプレイに見合う帯域がようやく得られることになる。大枠で見ると、今年はプロセス微細化でチップのパフォーマンスが上がる年で、来年は新メモリでメモリ帯域が上がる年となる。

●2013年に28nmプロセスに移行するSamsungのファウンドリ

 TSMCで製造するQualcommやNVIDIAなどのSoCは、今年の段階で40nmプロセスから28nmプロセスへと移行をスタートさせた。28nmプロセスの製造キャパシティが増大するにつれて、来年には28nmが主流になって行くだろう。それに対して、Appleは、現在製造を委託しているSamsungの32nmへとラインナップを揃えた。

 Samsungは、現在の32nmプロセスから28nmへのハーフ世代の微細化もロードマップに組み込んでいる。実際、Samsungは2013年2月の半導体カンファレンスISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)で、28nmプロセスのモバイルSoCを発表する予定だ。そのため、Appleが32/28nmプロセス世代はSamsungを使い続けるとしたら、AxシリーズSoCも28nmへと移行する可能性が高い。

 Samsungが順調に28nmを立ち上げることができるなら、Appleのチップの移行は、ラフに言って下の図のように1年で32nmから28nmへと世代が変わることになる。一見して分かるように、2010年から2012年前半までは45nmプロセスで固定されていた中でチップを無理やり進化させて来たのが、今年からは1年毎にプロセスが世代交替して、それに合わせてApple Axも進化するようになる。

Apple AxシリーズとiPhone/iPadの関係
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 他のモバイルSoCベンダは、今年の中盤に40nmから28nmへの移行を始めた。それに対して、Appleは同時期に45nmから32nmへと移行し、さらに来年28nmへと移行するスケジュールとなっている。

 ただし、このストーリは、Samsungのプロセス立ち上げがうまく行き、28nmやそれ以降の世代が、十分な歩留まりで量産できるようになるという前提の話だ。現在は、この点が非常に難しく、予測がつきにくい。下はIntelとTSMC、GLOBALFOUNDRIESのプロセスの大まかなロードマップで、SamsungはGLOBALFOUNDRIESと同じCommon Platformでプロセスの共同開発を行なっている。

プロセス技術のロードマップ
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 ちなみに、Samsungのロードマップ上ではさらに20nmプロセスがその後に控えており、さらにその先には3DトランジスタFinFETの14nmプロセスがある。ただし、Appleは28nmから先は、他のファウンドリへ移る可能性も高い。プロセス技術だけを見ると、Appleにとって最も魅力的なのはIntelのFabだが、Intelは他社へのファウンドリサービスをほとんど行なっていないため、ハードルは高い。