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1万6,384レベル筆圧感知、Adobe RGB 97%の本格16型液タブが7万円台!? XPPen Artist Pro 16 (Gen 2)を漫画家ざら先生に試してもらった

~【オリジナル高解像度イラスト特典アリ】

 PCのユーザーインターフェイスとしては、マウスとキーボードだけ見ても使い勝手や好みは千差万別なわけだが、よりアナログに近い感覚が求められるペンタブレットともなると、長時間の作業性や応答性、追従性はもちろん、描き心地などという感覚的な部分も重要なポイントとなってくる。スペック表を見てただけでは分からないことだらけで、ペンタブ初心者ともなれば、実際に触ってみても善し悪しを判断しづらい。製品購入を検討する際には普段からペンタブを使い慣れている人の意見を聞いてみたいところだ。

 そんなわけで、XPPenから登場した高性能液晶ペンタブレット(以下液タブ)「Artist Pro 16(Gen2)」のレビューをマンガ家のざら先生にお願いした。Artist Pro 16(Gen2)は16型液晶モニターを備えた液タブで、業界初という1万6,384レベルの高精細筆圧検知に対応した「X3 Proスマートチップ」搭載のスタイラスペンに加え、有線とBluetoothワイヤレスの両方に対応したショートカットキーデバイス「ACK05」や、替え芯一式の入ったペンケースも標準で付属している。

本体とスタイラスペンに加え、ショートカットキーデバイスのACK05が標準で付属。USBケーブル各種も付属しているが、ディスプレイ出力として使えるUSB Type-Cポートを持たないPCと接続する際は、別売の3in1 HDMIケーブルが必要な点は注意が必要
スタイラスペンやACK05用のUSBレシーバが収納できるペンケース内には、標準で替え芯が8本付属している(標準芯4本+フェルト芯4本)

 液晶ディスプレイとしても、sRGB 99%、DCI-P3 99%、Adobe RGBでも97%の広い色域をカバーし、2,560×1,600ドット表示(アスペクト比16:10)に対応した非光沢パネルを採用。PCとはUSB Type-Cケーブル1本で接続可能なほか、別売りケーブルでHDMI接続にも対応しており、液晶画面を使用しないペンタブレット(いわゆる板タブ)としても使用可能となっている。

 同社の「Artist Pro 16」シリーズには、4K液晶で8,192レベル検知のペンが付属する「Artist Pro 16TP」や、先代Gen1にあたる「Artist Pro 16」が発売されているが、この「Gen2」は、そのいずれから見てもフルモデルチェンジと言って差し支えない内容だ。

 しかし、ユーザーにとって一番気になるポイントは、これだけのスペックと装備を備えながら、7万6,980円という破格の値段になっていることだろう(2023年12月25日まで5%オフの7万3,130円)。本製品はその名の通りプロ向けモデルで、他社製品であればこのクラスの製品は2倍以上するのが当たり前なのだから、その性能には懐疑的になってしまうのも仕方のないところ。

 はたしてその実際の使い勝手はどのようなものか、漫画原稿作成に1カ月ほど使ってもらったざら先生に聞いてみた。

【ざら先生がArtist Pro 16(Gen2)でイラスト制作を実演!動画で見せます】

16型液タブは大きいか? 小さいか?

――普段は板タブ派のざら先生ですが、最新の液タブを使ってみていかがでしたか?

ざら XPPenの液タブとしては数年前に21.5型液晶のArtist 22E Proという機種をレビューさせてもらったことがあるのですが、今回のArtist Pro 16(Gen2)はもう筐体からして洗練されたな~って感じました。メタルボディでかなり薄型なのにかっちりとした剛性感がありますし、スタンドを本体に収納できるので、しまうときにかさ張らないのはとてもいいです。スタンドの角度を調整できないのですが、私はこれくらいの角度で問題ないですね。

 今、うちの作業環境は、自作PCに27型と24型のモニターをつなげているのですが、最近購入したノートPCとArtist Pro 16(Gen2)をUSB Type-Cケーブル1本でつなぐと、これだけで作業環境が完結してしまいます(笑)

 さすがに板タブよりは重いし、かさ張りますけど、私の実用レベルの最小作業環境としてはこっちがいいですね。

剛性も高く、見た目もリッチなメタルボディを採用。折り畳みスタンドは持ち運び時や収納時にも出っ張らない。ただし、液晶面よりメタルボディの裏面のほうが指紋が目立ちやすいようだ

折り畳みスタンドを内蔵しており、使用時の角度は開くか閉じるかの2段階。角度の微調整ができない代わりに、安定感がある作りとなっている(6段階調節が可能なオプションスタンド「ACS05」も販売されている)

DisplayPort Alternate Mode対応のUSB Type-Cを持つPCとなら、ケーブル1本で接続可能。対応していないPCの場合は、2つのUSB Type-Cポートを使い、片方を給電、片方を映像入力として使用すればよい(USB Type-Cが使用できないPCの場合は別売の3in1ケーブルにてHDMI接続が可能)

――16型というサイズの使い勝手はいかがですか?

ざら 16型というサイズと、2,560×1,600ドットという解像度、そして16:10のアスペクト比がマッチしていると思います。自分が作画するときのメインのソフトとして使っている「SAI」と「CLIP STUDIO PAINT」だと、普段使うツールを画面左側に縦に配置していますが、アスペクト比16:10で縦1,600ドットだとムリなく配置できて動かしやすいですね。

 デスクトップPC環境では24型で1,920×1,200ドットのモニターを使っていまして、これも16:10なんです。解像度と描画領域の兼ね合いを考えると、液タブとしてはこのサイズがピッタリだと思います。

アスペクト比が16:10と縦に余裕があるため、ソフトウェアのツールが表示しやすい。タブレットを縦向きにして使用する方法もあるが、肝心の描画領域が狭くなるので、ざら先生はこの横向きがよいとのこと

――液晶の見え方はどうでしょうか?

ざら 液タブの液晶って本当にきれいになりましたよね。見た目的には普段デスクトップで使っているノングレア(非光沢)液晶と大きな差は感じないです。普段、線画の作業するときはモニターの輝度を落とすことが多いのですが、Artist Pro 16(Gen2)はデフォルトのままでも、なんだか目に優しい気がします。描いていてもペン先と画面のズレ(視差)を感じないし、直感的に使えます。これ、ズレが大きいと、細かい線を引いたり、狭いエリアの選択をしたりしているときにミスが増えるのですが、それが少ない時点で間違いなく優秀です。

 sRGB 99%カバーだそうですが、最近色塗りするときの基準にしているDisplay P3モードもあるので使ってみたところ、普段使っている4KモニターのDisplay P3モードとそれほど大きな違いは感じられませんでした。そのままArtist Pro 16(Gen2)で作業して納品しても、少なくとも昔のように「印刷したら肌色が茶色だった」ということはないはずです。いい時代になりましたね……。

ペン先が触れている場所と実際に描画される場所のズレ、いわゆる視差を、ざら先生が感じることはなかった
ユーティリティソフトの色空間設定でカラーモードの切り換えや輝度調整などが可能。ちなみに本製品は目に優しいとされる「TÜV SUD」認証も取得している

スタイラスペンが以前とは別モノに!

――業界初の1万6,384レベルの筆圧検知が謳われていますが違いは分かりますか?

ざら 最初は普段使っている8,192レベルの板タブと比べて格段に変わったという感じはしなかったんです。でも、使っているうちに、軽くペン先を置いただけのわずかな筆圧でも線が途切れないことに気が付きまして。あ、これが検知機能2倍ってことか! と理解しました。

 グラデーション表現にはスクリーントーンを使ってしまう漫画家なので、性能を引き出しきれなくて申し訳ないのですが、絵を拡大せずに狭い範囲をマスキングしたり、ちょっとした細い線を引いたりといった細かい作業を感覚的にさっと行なってもミスなくできているのは間違いないです。実際はわずかでしょうけど、消しゴムの出番が減っている実感があります。

 それから……この新しいスタラスペン、形状とか前後の重量配分とかが以前の物と変わっていて私は今回のほうが好感触です。ペン先の耐久性などはもっと使ってみないと分からないですが、描き心地というか、ペン先の沈み込む感覚とか、ほぼ違和感なく使えました。

従来の円筒型から、やや角度が付いた円錐型になったスタイラスペン。16,384レベルの検知機能に加えて、その形状や重量バランスも改良が加えられている。各ボタンのキー割り当てや筆圧感度調整も可能なので、ACK05との組み合わせで新しい使い方も生まれそうだ

ショートカットデバイスは単体でも買いたくなる出来!

ざら あとは、このショートカットデバイスのACK05! これは本当に使いやすいです。ダイヤルとボタン10個のシンプルなものですが、まさしく「こういうのでいいんだよ」って感じです。個人的にはあと数個ボタンがあってもよかったのですが、久しぶりにちゃんとボタンの数があるデバイスです。なぜこういうものがなかなか出なかったんでしょうか?

 横向きでも縦向きでも設定ができますが、人差し指がダイヤルの位置に来る縦向きが私にはベストフィットでした。間違いなくこれは買います。

 タブレット本体側にショートカットキーが付いてるものもありますが、使うときのスタンドの角度によっては使い難かったりして好みが分かれると思います。その点、これはワイヤレスでも使えるので楽ですね。バッテリも1回の充電で300時間持つそうですが、1週間くらい充電していなくても切れたことはなかったです。

 これ個人的に左手デバイスとして、この10数年で一番の当たりデバイスですよ。ACK05って単体でも6,000円位で売られていて、XPPen以外のタブレットと組み合わせて使えるようにするドライバも用意されているので、ショートカットデバイスをちょっと試してみたいという方にも推したいです。

ダイヤルと10個のショートカットキーを備えたACK05。横向きでも縦向きでも設定可能で、ボタン設定の自由度も高い。ダイヤル中心のボタンはズームや回転などの機能切り換えボタンとなっており、ShiftやCtrlといった任意のキー割り当てはできない
ACK05のざら先生の設定。K5ボタンの「鉛筆」が先生的にはキモとのこと。また、SAIでは画像の拡大縮小をホイールに割り当てるため、右回りをPage Up、左回りをPage Downに設定している

使って分かる長時間での作業性

――今回は1カ月使ってもらいましたが、何か気が付いたことは?

ざら ある程度使い続けて気が付いたのは、液晶パネルの表面がサラっとしていて、ベタベタしないことですね。気持ちよく作業を続けられます。もう少し使い込んでから気が付いたのは「画面がほとんど熱くならない」ことです。これは大事。タブレットPCとかだと、長時間使っていると本体の熱さが気になってくるものですが、このArtist Pro 16(Gen2)は、長時間作業していてもほとんど熱くなりません。

 それに気が付いて本体をあちこち触ってみたら、画面の上のほうだけ熱くなっていました。そこはあまり触らないエリアというか、手のひらが触れるエリアではないので、使っていて全然気が付きませんでした。ユーザーの利用方法を良く理解して、うまい作りになっているなと感心しました。

半光沢の液晶画面はペーパーライクなサラッとした感触。手を置き、ペンを動かすエリアとしては表面の強度も十分だが、左下のベゼル部分だけは強く押すとわずかに凹む感触がある
1時間以上連続使用した状態の温度分布状況。本体上部だけが手よりも熱くなっているのが分かる。ほかの部分もほんのり温かくなっているが、手よりも温度が低いためひんやり感じる

ざら あとは作業性で言うなら、「板タブモード」にも電源長押しするだけですぐ切り換えられることです。いや、液タブのレビューで板タブモードはどうなのよ、と思われるかもしれませんが、最近、疲れてくると老眼が発動しましてですね……手元の液タブ画面にピントが合わなくなってくるんです。

 もうそうなってくると集中力も切れてきているので、切り上げ時ではありますけど、もうちょっとやって終わらせようってときは心機一転。サッと板タブモードに切り換えて作業継続です。ACK05の効果もあって、これまで使い続けてきた板タブに持ち替えるより、Artist Pro 16(Gen2)ほうが馴染んでいます。

本体左上の電源ボタンを3秒長押しすることで液タブ画面がオフになり、すぐに板タブとして使用できる。液タブモードに復帰するときは電源モードを1回押すだけでよいが、こちらは切り換わるまでには数秒を要する
大型モニターで作業ができるというだけでなく、作業中の画面のまま別のモニターに表示できるので、カラーチェックなどにも便利。ざら先生のように目が疲れやすくなってきたお年頃の方にもどうぞ
ユーティリティソフト上でマルチモニターの設定のほか、液タブの作業エリアの設定なども可能。板タブモードで使用する際は、作業エリアが狭いほうが使いやすいという人も多いだろう

総評

――かなりお気に入りみたいですけど、そろそろ液タブ派に転向でしょうか?

ざら 16型の液タブで書き心地が申し分なく、発色もキレイ、しかも抜群に使いやすいショートカットデバイスがセットとなると、使い慣れた板タブの代わりとしても本当に問題ないものになっています。これはもう逃げられないかもしれません。


 ざら先生的には本体、ペン、ショートカットデバイスといずれも高評価。コストパフォーマンスも高いので、興味のある方はぜひ一度試してみてはいかがだろうか。

液晶モニター2台にノートPC、さらに液タブも加わって4画面構成になった、ざら先生の賑やかな作業環境。大き過ぎず、小さ過ぎずで、液タブを使うならこの16型が今までで一番しっくりくるとのこと
おまけ漫画
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ざら:漫画家

以前、液タブのレビューで自身の腕が映る動画を公開したところ、その腕が太く見えるせいで、その後出会う人々から「思ったより痩せてますね!」と言われ続けたことがある。本人いわく、ちょっとだけわがままボディ。

芳文社『まんがタイムきらら』、講談社『good!アフタヌーン』などで連載歴がある。代表作に「ふおんコネクト!」、「ふたりでひとりぐらし、」、「しかくいシカク」など。インプレスDOS/V POWER REPORTにてPC自作漫画「わがままDIY」を長期連載中。今後の展開は近日公開だとか