トピック

2021年からマイナンバーカードが保険証に。その裏で活用されるリーダーとPCの仕組みを取材してきた

ユニットコムの資格確認端末「DH4100MD/2019LTSC」とアルメックス(USEN-NEXT GROUP)のオンライン資格確認対応顔認証付きマイナンバーカードリーダー「Sma-pa マイナタッチ」

 ユニットコムと言えば、パソコン工房を始めとするパソコンショップの運営や、オリジナルブランドPC「iiyama PC」を展開していることでおなじみだ。こういったことからユニットコムは、一般消費者へのサービス提供がメインと思う人もいるかもしれないが、実際には法人事業も手広く展開している。そのユニットコムの法人向け事業の中で、近年特に力を入れているのが医療分野で、病院の事務用端末などの販売を長年行なっているという。

 そしてこのたび、マイナンバーカードを利用した保険証資格確認システム「オンライン資格確認等システム」に対応した医療機関向け専用端末の販売を行なうこととなった。発売にあたっては、医療機関の窓口業務機器を販売する株式会社アルメックス(USEN-NEXT GROUP)に協力を得た。

 今回、ユニットコムが資格確認端末の販売を行なうに至った経緯や、両社の製品の特徴などを訊いてきた。

オンライン資格確認とは?

 まず始めに、「オンライン資格確認」とは何なのか、簡単に説明する。

 オンライン資格確認とは、健康保険証の資格をオンラインでリアルタイムに、かつ高精度に確認する仕組みのことだ。「マイナンバーカードが保険証として利用できるようになる」というニュースを聞いたことのある人も多いと思うが、そのシステムのことを指していると考えて差し支えない。

 これまで、医療機関での健康保険証の資格確認は、窓口で患者から健康保険証を受け取ることで資格確認を行なってきた。それでも資格確認は問題なく行なえるが、勤め先が変わって健康保険が変わった直後で手元に保険証がない場合などは正確な資格確認が難しく、それが原因で様々な手間が発生してしまうことがあるという。

 例えば、正確な負担割合が分からなかったことで、医療費を本来よりも多く、または少なく支払ってしまい、あとからそれを修正し追加で支払う、または戻してもらうために、患者、医療機関双方に手間が発生してしまうことも少なくないのだという。個人認証についても、保険証を持ってきた人が本人であると見なして行なっており、厳格な個人認証は行なわれていないと言っていい。

 それに対しオンライン資格確認は、マイナンバーカードを利用する点が大きく異なっている。まずマイナンバーカードリーダーでマイナンバーカードに登録された顔写真の情報を読み取り、本人確認を行なう。そして、マイナンバーカードに紐付けられた健康保険への加入状況などの医療情報をオンラインで参照し、資格確認が行なわれる。これによって、手元に保険証がない場合でも、オンラインで常に最新の情報を参照し適切な医療を受けられるようになるため、患者、医療機関双方が手間を軽減できるようになる。併せて、スタッフと患者との間の接触の機会も減らせることになる。

 将来的には、過去どういった医療を受けてきたのか、どういった薬を処方されてきたのかといった履歴も参照できるようになるという。これにより、全国どこで医療を受ける場合でも、過去の履歴を参照して適切な医療が受けられるようになるというメリットもある。

 オンライン資格確認等システムは、2021年8月現在ではプレ運用という形で一部病院や薬局などでの運用が行なわれており、全国の医療機関を対象とした本格運用は2021年10月より開始予定となっている。

 マイナンバーカードを利用することでセキュリティ面に不安を感じる人もいるかもしれないが、その点もしっかりと考えられている。まず、オンライン資格確認を行なうために、患者は医療機関の係員にマイナンバーカードを手渡すことはなく、患者本人が顔認証付きカードリーダーにかざして本人確認を行なうことになっている。これは厚生労働省が定めている運用上の規定とのことだ。そして、マイナンバーカード内に記録されている顔写真と、カメラで捉えた患者の顔を照合して本人認証を行なう。そのため、マイナンバーが医療機関に伝わることもない。

オンライン資格確認のセキュリティについて

 顔認証での本人確認が取れると、初めてオンライン資格確認等システムサーバーに本人認証が行なわれたことが通知され、保険証の資格の有無や氏名、年齢などの医療費請求に必要な情報のみが転送される。また、その通信経路も専用線やVPNで外部と隔離するのはもちろん、オンライン資格確認等システムの院内ネットワークへの接続についても厳しく制限されているという。

なぜユニットコムが資格確認端末を扱うのか

お話を伺った株式会社ユニットコム東京営業主任の岡本邦宏氏(左)と法人統括部次長の菅原師人氏(右)

 冒頭でも紹介しているように、ユニットコムはどちらかというと一般消費者向けの事業が目立っているが、実は10年以上の医療機関との関わりがある。

 ユニットコムは、全国各地に法人営業拠点を構えているが、そこに地域の医療機関から、利用しているPCについて相談を受けることが多かったという。例えば、「回診用に使っているノートPCのバッテリがへたってきたので交換してほしい」、「医療事務で使っているPCをアップグレードしたい」、という相談が寄せられ、個別に対応していた。

 その後、ユニットコムが扱う小型PCが医療機関で非常に評判が良く、実績も伸びたこともあって、医療機関での採用が増え、地域の中核病院やクリニック、医療機関向けSIerなどを中心に、13~14年ほど前から取引があるそうだ。

 医療機関では様々なPCが利用されているが、ユニットコムが扱う医療機関向けの製品は、院内のイントラネットに接続することのない、医療事務向けのPCが中心。そして、コストパフォーマンスに優れたオーダーメイドのPCとなっている。形状といては、省スペースな小型の製品やノートPCがほとんどを占めているという。

 そして、医療機関向けシステムでは大手がかなりのシェアを獲得している中、大手では対応の難しい部分などで小回りがきき、かゆいところに手が届く対応で高い評価を得てきたそうだ。

 そういった中、ある医療機関から資格確認端末の購入相談とアルメックスの顔認証付きマイナンバーカードリーダー(以降、顔認証付きカードリーダー)の存在を知り、ユニットコムで試作した資格確認端末が問題なく動作するか確認したいとアルメックスに相談してみたところ、快く引き受けてもらったのが今回の協力の始まりだったという。

 また、オンライン資格確認等システムに接続する端末の仕様が、これまで医療機関向けに提供してきたPCの延長線上で対応できると確認できたことも、参入のきっかけになったそうだ。

 つまり、長年の医療機関との関わりがあったからこそ、資格確認端末の販売に繋がっているわけで、ある意味当然の流れの中での参入だったと言ってもいいだろう。

 ユニットコムが販売する資格確認端末は、医療機関が求める小型で省スペースな製品で、産業用のメモリやストレージを採用することで5年間の保証を実現できる品質を実現したうえで製品化されている。

ユニットコムが販売する資格確認端末
VESAマウント対応でディスプレイ背面に取り付けも可能
DH4100MD/2019LTSCの主な仕様
OSWindows 10 IoT Enterprise 2019 LTSC 64bit版
CPUCore i3-10100
メモリ8GB
SSD256GB
ネットワークGigabit Ethernet×2(Intel I201AT)
USBUSB 3.0(USB 3.2 Gen1)×4、USB 2.0×4
画面出力HDMI、DisplayPort
電源90W ACアダプタ
サイズ165×190×43mm(幅×奥行き×高さ)
保守5年間センドバック保証

 仕様としては厚生労働省が定める要件に基づき、OSにWindows 10 IoT Enterprise 2019 LTSC 64bit版を採用し、CPUはCore i3-10110、メモリは8GB、ストレージは256GBのSSDなどとなっている。このほか、Gigabit Ethernetを2ポート備え、顔認証付きカードリーダーを接続するために必要となるUSB 3.0(USB 3.2 Gen1) Type-Aも4ポート用意される。

 資格確認端末は自動モードで運用することが基本で、キーボードやマウスなども接続しない状態で利用されることが中心になるため、特に内蔵部材の品質には注意しているとのことだ。また、資格確認端末には5年間の保証を用意することが定められている。

 5年保証を実現するには、PCを構成するパーツ類を5年間確保する必要がある。通常PCパーツは進化のサイクルが速く、同等パーツを5年間確保すること自体が難しいが、今回の資格確認端末では、そういった部分も考慮してパーツ選択を行なっており、半導体不足が叫ばれる昨今でも安定した供給とサポートが行なえるようにしているそうだ。

 また、システムのセットアップに必要なソフトウェアや顔認証付きカードリーダーのドライバ類を搭載することでIT管理者や設置業者の作業時間短縮を見込んでいる。

アルメックスのオンライン資格確認対応顔認証付きカードリーダーの特徴

お話を伺った株式会社アルメックスの月城麻衣氏(左)と八百板大祐氏(右)

 顔認証付きカードリーダーには、全社共通の仕様が定められている。それは、カメラを利用した顔認証を迅速に行なうということ、マイナンバーカードを患者自身がタッチして読み取らせること、といったようなものだ。

 アルメックスの顔認証付きカードリーダー「Sma-pa マイナタッチ」も、その仕様を満たしたものとなっている。まずカードリーダー部分にマイナンバーカードを置き、登録している4桁の暗証番号を入力する方法と、カメラでの顔認証のどちらかを選択し本人認証が行なわれる。続いて、過去の医療情報などの各種情報を診療のため、医療機関へ提供することに同意するかどうかを選択する。以上が顔認証付きカードリーダーの利用の流れとなる。そして、この操作は全て患者が行なうことになっており、医療機関側が代わりに操作することは禁止されている。

アルメックスの顔認証付きカードリーダー「Sma-pa マイナタッチ」
マスクをしていても顔認証できる

 ただ、アルメックスのSma-pa マイナタッチには、医療業務負荷をいかに軽減できるか、という観点で盛り込まれているオリジナル機能がある。それは、自治体が発行している医療費受給者証の読み取り機能だ。

 今回提供されるオンライン資格確認では、自治体が発行している子ども医療の減額や無料といった医療費受給者証の資格確認は対象外となっている。だが、医療券をデータ化して読み込むことで入力の手間が軽減できることになると考え、アルメックスのSma-pa マイナタッチでは、医療費受給者証の券面をOCRで読み取る機能を標準で備えることにした。

マイナンバーカードに加え、独自に紙の医療費受給者証も読み取り可能

 今回お話しを伺った、株式会社アルメックスの八百板氏は「マイナンバーカードで資格確認を行なったとしても、オンライン資格確認等システムの対象になっていない医療費受給者証を使う場合には、医療事務員がそれを受け取って手入力する必要があります。しかし、医療費受給者証を読み取ってデータ化すれば手入力の手間を省けますので、現場の負荷軽減という観点から、医療費受給者証の読み込み機能も搭載することにしました」と説明する。

 併せて、将来のアップデートでカード型の健康保険証の読み取りもサポートする予定になっているという。こういった部分は、アルメックスがもともと医療事務の負荷軽減を目的とした製品を開発、販売してきたからこその特徴と、自信を持っている部分だそうだ。

 このほか、操作時に音声での案内が行なわれる点や、患者の操作に対するサポートのために、患者側の操作画面をミラー表示するためのディスプレイを接続する映像出力機能を備えている点なども他社の製品にはない特徴となっている。

背面に外部映像出力端子があり、患者側の操作画面をミラー表示して、患者操作のサポートもできる

 また、アルメックスのSma-pa マイナタッチは、比較的大型のディスプレイを採用し、医療費受給者証を読み取るためにカードリーダー部分がやや大きく、それらを横に並べて設置しているため、若干横長のボディとなっている。その点についても、幅広い世代の患者が操作することや、業務負荷の軽減というメリットを重視する医療機関に選ばれているそうだ。加えて、カウンターにアクリルパネルや飛沫感染防止フィルムなどを設置している場合でも、横型かつ低重心なので設置時にパネル類が邪魔になりにくいという特徴もあるとのことだ。

オンライン資格確認等システムに対応する端末の提供を皮切りに、医療機関への更なる認知向上を目指す

 顔認証付きカードリーダーは、各医療機関が専用サイトから申請することで無償提供される。その申請時に、どのメーカーの製品を選ぶのかを指定することになる。

 申請によって無償提供された顔認証付きカードリーダーは、オンライン資格確認等システムに接続するための仕様を満たした端末に接続して利用する。その資格確認端末を販売する登録業者は12社あり、その中の1社がユニットコムとなっている。つまり、ユニットコムの資格確認端末はアルメックスの顔認証付きカードリーダー専用の端末ではない。

 また、顔認証付きカードリーダーも、アルメックスを含めて4社が提供しており、そちらも定められた仕様を満たすものとなっている。

 そういったこともあり、ユニットコムの資格確認端末がアルメックスのSma-pa マイナタッチとセットで販売されるということはなく、同様にユニットコムの資格確認端末が他社の顔認証付きカードリーダーと接続して利用される場合も考えられる。そのため、基本的には顔認証付きカードリーダーと資格確認端末はそれぞれが個別にサポートを行なうことになる。

 とはいえユニットコムは、切り分けの困難な不具合の問い合わせがあることも想定しているそうだ。それはアルメックス側も同様。そこで、双方が連携して迅速な問題解決を行える体制を構築していきたいとのことだ。こういったユニットコムの姿勢は、パソコン工房などで培われた、行き届いたサポートの姿勢があってこそだろう。

 そして、医療機関との10年以上の関わりや、資格確認端末のような特定用途にも対応できるという部分の認知度を高めつつ、これまでIT管理者が解決に悩んでいたことや、他社では対応できなかかったことを気軽に相談してもらい、一緒になって解決していきたいとしている。