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手のひらサイズの高性能8コアRyzenベアボーンキットをCrucialメモリ& SSDでハイコスパ仕様に仕上げてみた

~サイズは極小、実用性は十分。メモリとSSDを賢く選んで仕事にも余暇にも活躍する1台に!!

 手のひらサイズやブックサイズの小型デスクトップPCへの注目度は、この1年で急上昇している。背景には、コロナ禍でのPC需要の高まりに加えて、CPUをはじめとするPCパーツが省電力かつ高性能化し、超小型PCであっても高い性能を出せることになってきたことがある。

 今回は、こうした小型デスクトップブームの最先端を行く“8コア16スレッドのRyzenを手のひらサイズに収めたベアボーンキット”の導入例を紹介したい。

テレワークやリモート学習、おうち時間の拡大でニーズが増加する超小型PC。Ryzen 7 4800Uを搭載するベアボーンキットの1つ、ASRock「4X4 BOX-4800U/JP」はそんな中登場した人気の最新製品

 ちなみにベアボーンキットとは、メモリとストレージ、OSを自分で組み込む半完成品PCキットだ。手のひらサイズのコンパクトな筐体に、PCを構成する部品が詰め込まれており、置き場所に困らない。また多くのモデルではメモリとSSDなどのストレージを組み込むだけでPCとして利用できるため、組み込み作業の難易度は低い。ユーザーによって性能や容量のニーズが異なるメモリやSSDを自由に選べるため、完成品のPCよりかゆいところに手が届く。自作PCっぽさも味わえるが、組み立ての難度はぐっと低いのもメリットだ。

コンパクトでどこにでも置ける超小型ベアボーンキットに大容量メモリやSSDを組み合わせることで、仕事からホビーまで幅広い用途に使いやすい超小型PCが仕上げられる

 今回用意したベアボーンキットは、ASRock「4X4 BOX-4800U」。CPUのRyzen 7 4800Uは8コア16スレッドで、GPUコアには高性能なRadeon Graphicsを内蔵する。この強力なCPUの力を100%発揮させ、PCとしての完成度を高めるためには、メモリとSSDのチョイスがキモとなる。今回は、Micronが展開する個⼈向け定番のメモリ/SSDブランド「Crucial」の大容量メモリやSSDを組み合わせ、仕事でも遊びでも十分に使えるPCを作ってみよう。普段使いはもちろん、写真編集などのクリエイティブな作業、軽めのゲームまでこなせるPCを実現することができる。

メモリやSSDの進化が超小型PCの性能を引き上げた

 超小型ベアボーンキットはサイズの制約もあり、メモリスロットは2基、搭載できるストレージも1~2基までというモデルが主流だ。しかし32GBのメモリを2枚組み合わせればメインメモリを64GBにできるし、値頃感が出てきた1~2TBのSSDを組み合わせれば、ビジネス文書はもちろん、写真や動画、音楽などもたっぷり保存できる。

今回のような超小型ベアボーンキットでも、64GBのメインメモリを利用することが可能だ

 超小型ベアボーンキット自体の性能向上も著しく、最新世代のCPUや充実したインターフェイスを搭載するモデルもめずらしくなくなった。4X4 BOX-4800U/JPもそうしたモデルの1つで、ノートPC向けながら8コア16スレッドに対応する高性能な「Ryzen 7 4800U」をCPUとして搭載する。

 幅11cm、奥行き11.75cm、厚さ4.785cmの手のひらにのるようなサイズ感ながら、ディスプレイ出力端子はHDMIとDisplayPort、そしてDisplayPortとしても使用できるDisplayPort Alternate対応のUSB Type-Cを2基利用でき、合計4系統までのマルチディスプレイ環境を構築可能。そのいずれも4K解像度でリフレッシュレート60Hzのディスプレイ出力に対応する。

4X4 BOX-4800U/JPの前面。USB 3.2 Gen2対応のType-Cコネクタが2基、Type-Aコネクタを1基装備
背面にはHDMIやDisplayPort、有線LANポートなどを装備
90WのACアダプタが付属している

 有線LANポートは1000BASE-Tと2.5GBASE-Tの2系統、無線LANはWi-Fi 6対応、USBポートはType-AのUSB 3.2 Gen2ポートが1基、Type-CのUSB 3.2 Gen2ポートが2基と、デスクトップPCとして使うには十分過ぎるほどのインターフェイスを搭載する。HDMI出力をテレビにつなげばディスプレイを別途購入する必要もない。その場合は、画面から離れて使えるワイヤレスマウスとキーボードの導入がオススメだ。

 組み込み作業は非常に簡単だった。底面にある4本の長いネジを外すと、底面部分だけが外れて内部にアクセスできるようになる。2基のメモリスロットはPC4-25600までの対応で、1基につき32GBまでのモジュールを組み込める。ノートPCと同じSO-DIMMで、斜めに挿して倒すとツメでロックされる。

まずは底面にある4本のネジを外す
すると底面がパカッと外れる
内部にはメモリスロットとM.2スロットがある

 すぐ近くには2基のM.2スロットがあり、1基分のM.2スロットはすでにWi-Fi 6とBluetooth 5.2対応モジュールが装着済みだ。もう1基のM.2スロットは一般的な2280サイズに対応したタイプなので、自作パーツショップなどで購入できるNVMe対応SSDが利用可能だ。同じように斜めに挿したら、付属のネジで固定しよう。

 このようにメモリとSSDを挿し、底面をもとに戻してWindows 10をインストールすれば、PCとして利用できるようになる。今回は利用しなかったが、取り外した底面プレートには2.5インチシャドーベイがあり、2.5インチSSDやHDDも利用できる。

2.5インチSSD/HDDを組み込める2.5インチシャドーベイを底面プレートに装備

 組み込みは非常に簡単で、初心者でも迷うことはない。またコンパクトなので液晶ディスプレイの下や小さな棚など、場所を選ばず設置できるのはうれしい。使わないときはさっとかたづけて本棚にしまっておくのもよいだろう。付属のVESAマウンタを使えば、液晶ディスプレイの背面に固定することも可能だ。

PC4-25600対応メモリとNVMe対応SSDがオススメ

 さて組み込むメモリだが、今回はCrucialブランドのPC4-25600(DDR4-3200)対応SO-DIMM「Crucial CT2K8G4SFS832A」を選んだ。メモリクロックの設定がいらないネイティブ対応モデルなので、組み込むだけでとくに設定をすることなくPC4-25600対応メモリとして認識される。

MicronのCrucial CT2K8G4SFS832A。PC4-25600対応のSO-DIMMメモリだ。8GBモジュールの2枚組パッケージとなる

 なお今回使用した4X4 BOX-4800U/JPにはUEFIにメモリの詳細設定項目が存在しないため、いわゆる「オーバークロック仕様のメモリ」の使用は要注意。オーバークロック仕様のメモリの場合、たとえばPC4-256000で使用するには、UEFIで設定を行なう必要があり、この設定をしない場合はもっと低速な設定値が適用されてしまうからだ。そのため、本機でメモリをPC4-25600として使用するには、Crucial CT2K8G4SFS832Aのようなネイティブで対応するモジュールが必要となる。

 仕様についてASRockに確認したところ、安定性・安全性を重要視し、オーバークロックメモリは非対応としているとのこと。一般的なサイズのデスクトップPCと比べると、強力な電源ユニットや電源回路を使えない超小型PCであることを考慮すれば、この対応は必然のものと言える。同じCrucialブランドのメモリでも、ゲーマーに人気の「Ballistix」シリーズはオーバークロック仕様なので、今回のようなケースでは、緑基板でおなじみのスタンダードなCrucialシリーズのものを選ぼう。

 Micronと言えば、チップの生産からモジュールへの加工まですべて自社で完結するフローを構築することで信頼性を高め、エンタープライズ市場でも高い実績を誇る。そのMicronのCrucialブランド製品も、自作PCユーザーからは非常に高い支持を集めている。メモリの故障はPC全体に影響をおよぼすため、こうした信頼性の高いメモリを組み合わせるメリットは大きい。

 PC4-25600対応メモリを選んだ理由としては、CPU内蔵グラフィックス機能ではメモリクロックの影響が大きいことが挙げられる。下のグラフは、PC4-19200対応で同じ容量の「CT2K8G4SFS824A」を挿し、グラフィックス処理の性能を比較したものだ。

PCMark 10の計測結果
3DMarkの計測結果
レインボーシックス シージの計測結果(内蔵ベンチマーク機能で計測)

 日常的な操作感を反映するPCMark 10の結果にはそれほど大きな違いはないように思える。現在のPCの処理能力の高さでは、メモリのクロックの影響を体感するのは難しく、Windows 10の操作性は、PC4-25600対応メモリとPC4-19200対応メモリで、大きく変わるところはない。しかし、メインメモリをグラフィックス処理に利用する内蔵GPUはメモリの速度の影響が出やすく、3DMarkや実際のPCゲームでは、無視できないレベルの差が生じることが分かる。

 PC4-25600対応メモリとそのほかのメモリの価格差が大きいのであれば、安い方を選ぶ選択肢もある。しかし実際にはほとんど変わらないか、1,000円~1,500円程度の差しかない。こうした状況も合わせて考えれば、やはりPC4-25600対応モデルを選ぶべきだろう。

 SSDは同じくMicronの「Crucial P5 CT1000P5SSD8JP」(1TBモデル)を選んだ。M.2スロットに装着するNVMe対応SSDで、シーケンシャルリードは3.4GB/s、シーケンシャルライトは3GB/sにも達する高速なSSDだ。実売価格は17,000円前後と、1TBのNVMe対応SSDとしては比較的低価格で購入しやすい。

MicronのCrucial P5 CT1000P5SSD8JP。PCI Express 3.0 x4のNVMe対応SSD

 実際に4X4 BOX-4800U/JPに組み込み、CrystalDiskMarkを実行した結果は下記のとおりだ。スペックとおりの素晴らしいリード/ライト性能を発揮しており、Windows 10の起動や挙動、各種アプリの操作感も良好だ。

CrystalDiskMarkの計測結果

 Crucial P5はヒートシンクを搭載しておらず、4X4 BOX-4800U/JPはコンパクトなので内部が狭く、発熱が気になるユーザーもいるだろう。まず気温が23.8℃の環境でのアイドル温度は、HWMonitor 1.44によれば44℃。

 SSDへの負荷が高いPCMark 10に含まれる「Full System Drive Benchmark」(システムドライブとしての処理性能を計測するテスト)を実行中の最高温度は57℃だ。さらに100GBのファイルをシステムドライブ内でファイルコピーしたとき(読み出し書き込みを同じドライブ上で実行すため負荷がやや高い)の最高温度は71℃とちょっと高めだったが、作業中に性能が低下している様子はない。

 もう少し安めの価格帯から選ぶなら、同じくMicronの「Crucial P2 CT1000P2SSD8JP」がオススメだ。シーケンシャルリードは2.4GB/s、シーケンシャルライトは1.8GB/sとCrucial P5には劣るとはいえ、SATA 3.0対応モデルに比べれば圧倒的に早く、NVMe対応SSDらしい使い勝手が期待できる。実売価格は14,000円前後と値頃感もある。

Micronの「Crucial P2 CT1000P2SSD8JP」。こちらもPCI Express 3.0 x4のNVMe対応SSDだ。ミドルレンジクラスで比較的安い
P2(1TBモデル)のCrystalDiskMarkの計測結果

 とにかく大容量が欲しいということであれば、SATA 3.0のSSDという選択肢もある。以前と比べれば価格差は少なくなってきたとはいえ、1~2TBなどの大容量モデルではNVMe対応SSDよりも安い。SATAタイプのM.2 SSDもアリだが、4X4 BOX-4800U/JPは底面に2.5インチシャドーベイを備えているため、広く普及している2.5インチタイプが問題なく使用できる。

 また、M.2スロットと2.5インチシャドーベイの両方を持つので、システムドライブは価格をやや抑えつつも高速なCrucial P5の500GBに、データや大型アプリ(ゲームなど)の置き場としては1~2TBの2.5インチSATA SSDを、といった組み合わせ構成も可能。柔軟なストレージ構成が取れるのも4X4 BOXの魅力だ。

SATA SSDのオススメは「Crucial MX500 CT1000MX500SSD1/JP」。シーケンシャルリードは560MB/s、シーケンシャルライトは510MB/sで、2.5インチSSDの中ではトップクラスの性能。実売価格は13,000円前後
少しでも価格を抑えるなら「Crucial BX500 CT1000BX500SSD1JP」もオススメ。こちらも2.5インチSSDで、シーケンシャルリードは540MB/s、シーケンシャルライトは500MB/s。実売価格は12,000円前後

超小型PCのポテンシャルを引き出すMicronのメモリとSSD

 4X4 BOX-4800U/JPのような超小型ベアボーンキットを利用する場合、CPUの内蔵グラフィックス機能を利用する。古くからのPC愛好家の中には、「ゲームはやらないけど内蔵GPUだと性能が足りないのでは? という方もいるかもしれない。しかし、その心配は無用だ。先のPCゲームや3DMarkのテスト結果を見れば分かるとおり、現行世代のIntelやAMDのCPUが内蔵するGPUの性能は、かなり高い。一般的な軽作業のみならず、設定を調整すれば軽めのPCゲームも楽しめる。

 ましてや今は、ビデオカードがPCパーツ市場から「蒸発」しているような状況だ。以前なら1万円台前半で購入できたカードが3~4万円、3万円台のカードなら6~7万円という状況で、あえてビデオカードを組み込むのはコストがかかり過ぎる。どうせCPU内蔵GPUで運用するなら、一般的な自作PCでは考えられないサイズ感のPCを作れる、今回のような超小型ベアボーンキットを選ぶ価値は非常に高い。

 「超小型PCは性能が低い」というのも、今となっては古い考え方となっている。最新CPUを搭載した超小型PCのパフォーマンスは、一般的な自作PCと比べても勝るとも劣らないレベルである。とはいえ、組み合わせるメモリやストレージによっては性能面に結構な影響があるのは前述のとおりだ。昨今の情勢からテレワークやリモート学習にPCを使うということであれば、性能に加えて、システムの安定性も見過ごすことはできないポイント。そのため、Crucialブランドのような信頼性のあるメーカーのメモリやSSDを組み合わせ、安心して利用できる超小型PCは、今の事情にベストマッチな1台と言えるだろう。