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WDは、SanDiskはどうなる?マルチブランドを展開しつつ「ワン・ウエスタンデジタル」を標榜するWestern Digitalの狙い

~ウエスタンデジタル日本法人、営業統括バイスプレジデントに聞く

 ウエスタンデジタルと言えば、HDD、SSD両方のストレージで大きなシェアを持つストレージのトップメーカーとして広く知られているが、写真や映像のプロフェッショナルから強く支持されているSanDisk、クリエイターにユーザーの多いG-Technologyも同社が擁するブランドであることをご存じだろうか。しかも、"Western Digital"ブランドと"SanDisk"ブランドの両方で内蔵型SSD製品を扱うなど、狙う市場が重なっている部分があるようにも見える。ウエスタンデジタルは多数の製品とブランドの立ち位置をどのようにとらえ、今後どのように展開してゆくのか。日本におけるウエスタンデジタルの営業を統括するバイスプレジデント、ラリー・スウィージー氏にお話をうかがった。

コア技術を日本に擁するグローバルストレージメーカー

ウエスタンデジタルジャパン代表取締役ジャパンセールス バイスプレジデント ラリー・スウィージー氏。ウエスタンデジタルジャパンの全ブランドを統括する営業部門の最高責任者。日本IBM、Conner Peripherals K.K(東京)、Y-E Data(日本)を経て、サンノゼにあるIBM Corporationにて主要なOEM HDD顧客向けにセールスを、またLCDパネルのOEM事業においてもグローバルセールスを統括した。大の親日家でもある

――ラリーさんはとても日本語がお上手で、ほぼネイティブという印象ですが、日本にはいつからいらっしゃるのでしょう?

スウィージー氏:昔から日本は大好きな国でして、大学在学中に日本語を学び、1982年にConner Peripherals(のちにSeagate Technologyが買収するHDDメーカー)の日本支社に入社して以来です。Seagate Technologyの買収時に日本アイ・ビー・エムに移り、以降HGSTジャパンを経てウエスタンデジタルジャパンにいたります。

――40年近くなのですね。改めて、ウエスタンデジタルはどんな会社ですか?

スウィージー氏:ウエスタンデジタルは世界のデータインフラを支えるストレージ技術と製品を提供する会社です。フラッシュメモリ製品とHDDを両輪に、個人向けの小さなメモリカードからエンタープライズ向けのサーバーまで幅広い製品を提供しています。グローバルに展開している企業ですが、フラッシュメモリは大船と四日市に、HDDについては藤沢に開発拠点を構えていまして、コア技術を日本で開発しているという点も特徴です。

藤沢事業所における長年の研究開発によって実用化されたヘリウム充填技術「HelioSeal」。NAS向けHDDの新製品である「WD Red 14TB」にも採用されている(写真はWD Redの14TBモデル)

――強みはどこにあると考えますか?

スウィージー氏:フラッシュメモリ製品/HDD製品両方を扱っているだけでなく、どちらも自社で開発研究機関と生産工場を所有し、開発から生産、製品の組み立て、販売・サポートにいたるまでを一気通貫して行なうことができるところがポイントです。当社ではこれを「垂直統合モデル」と呼んでいます。

――垂直統合のメリットは?

スウィージー氏:基幹部品の開発や生産からアセンブリ、販売、サポートを自社で行なうため、発生する製品の不具合を迅速かつ的確に把握して改善することができ、より高い品質の製品としてお客様に届けることができます。現行製品は性能、信頼製ともに大きな優位がある最先端の96層の3D NANDを採用していますが、こうした技術をいち早く製品へ実装し、市場を牽引していけるのも大きな強みです。

ウエスタンデジタルのもとに集ったストレージ技術の進化の歴史を解説するスウィージー氏。ご自身もストレージ業界再編の歴史を経て現職にいたる

――日本国内の拠点について教えてください。

スウィージー氏:フラッシュメモリについては、キオクシア株式会社(旧東芝メモリ株式会社)との合弁事業として、神奈川県の大船と三重県の四日市に拠点があり、生産規模拡大のため、第二拠点となる岩手県の北上に新棟を建設し、2020年量産予定です。HDDは神奈川県の藤沢に1,000人近いエンジニアを抱え、最先端技術の研究開発を行なっています。

――大船、四日市、北上の関係性は?

スウィージー氏:大船はNAND型フラッシュメモリの基礎研究に特化した施設で、次世代技術の研究などを行なっています。四日市はいわゆる「マザーファブ」と呼ばれるもので、実用段階レベルの最先端技術の研究開発からウェハの量産までを担います。最新の集計では、全世界のNAND型フラッシュメモリの38%をこの四日市工場で製造しているという実績があります。北上の新棟は世界のNAND市場のさらなる拡大に備えてNAND型フラッシュメモリの安定供給や生産量を増やすためのウェハ量産工場となります。最終的に皆様にお届けする製品はマレーシアや中国の工場で製造されています。

岩手県北上の新工場。これまでと同様に、キオクシア(旧東芝メモリ)との共同で設備投資が行なわれる

――グローバル展開を行なっている御社が、日本にコア開発拠点を置く理由は?

スウィージー氏:シンプルに言えば、これまでそれがうまくいって、よい結果を出しているからです。半導体メモリに関しては、キオクシアとの合弁事業でありますし、日本には昔からモノ創りに対するこだわりとそれに取り組む優秀な技術者が生まれる素地があります。よい人材を確保しやすく、技術の先端性と製品の品質に大きく寄与しています。ごく個人的なことを言えば、私は日本アイ・ビー・エム時代から藤沢事業所にいまして、エンタープライズ向けHDDの開発や垂直磁気記録の実用化など市場を大きく変えた技術革新の過程も見てきていますから、日本の技術に対する思い入れも強くありますね。

Western DigitalとSanDisk 異なるブランドで製品を展開する理由

――ウエスタンデジタルはSSDとHDD、SDメモリーカードなど、多種のストレージを扱っているだけでなく、それらを販売するために多数のブランドを擁しています。買収、合併により規模を拡大した結果という面は理解できるのですが、合併後も多くのブランドを存続させ、ときにはM.2 SSD製品としてWestern DigitalブランドのWD_BLACKとSanDiskのExtreme PROといった非常に仕様の近いモデルを販売していますよね。ブランド展開の方針について教えてください。

スウィージー氏:大きく4つのブランドでグローバルに展開しています。"Western Digital"は内蔵型HDDや内蔵型SSD、組み込み用ドライブなどデバイス製品のブランドです。WDという接頭語が付いていますが、「WD_BLACK SSD」、「WD Red SSD」などの内蔵ドライブ製品はWestern Digitalブランドの製品です。WDロゴで展開される"WD"ブランドはPCユーザー向けの外付けドライブを提供します。"G-Technology"は主に映像制作などの分野のプロフェッショナル向け外付けドライブのブランドとして長年展開しています。"SanDisk"ブランドは従来のサンディスクのビジネスを継承したイメージング分野のブランドで、メモリカードやSSDなどフラッシュメモリをベースにした製品を提供しています。

コンシューマユーザーになじみの深い、Western Digitalブランド、WDブランド、SanDiskブランドの各製品

――SanDiskブランド、G-Technologyブランドを継承されていますが、その意図は?

スウィージー氏:SanDiskは写真撮影のプロフェッショナルや愛好家の方に強く信頼いただいています。HGSTから継承しているG-Technologyも、映像制作のプロフェッショナル、Macユーザーの方などに長くご愛用いただいています。これまでのお客様を困らせることがないようするとともに、ブランド名だけでなく、コンセプト、クオリティも含めたブランド哲学をそのまま継承していますので、安心して使っていただけます。

――確かに、SanDisk、G-Technologyなどを愛用されているクリエイターの方は身近にもたくさんいらっしゃいます。

スウィージー氏:SanDisk、G-Technologyブランドの継承は、ターゲットとしているユーザーに最適な製品、ソリューションをお届けできることが大きなメリットです。実際に、写真家や映像作家の方など、Western Digitalブランドが従来リーチできていなかったお客様と対話し、フィードバックをいただける機会も得られています。PCのビジネスユーザー、ゲーマーの方と、クリエイターの方、やはりストレージに求めるニーズは異なりますし、製品を届けたいお客様それぞれからフィードバックをいただけることは非常に大きなことです。

――ブランドが違う製品でまったく別のアプローチができているということですか?

スウィージー氏:ブランドが異なれば、そのコンセプト、ターゲットが異なりますので、基本的には最終的な製品としても異なるものです。たとえば、WDブランドの外付けSSD(My Passport Go)はコストパフォーマンスを優先したシンプルな製品です。一方、写真愛好家、プロフェッショナル向けのSanDiskブランドの外付けSSD(SanDisk Extreme PRO Portable SSD)は、高速インターフェースに対応し、ボディも防塵・防滴・耐衝撃性に優れたタフネス仕様を特徴としています。同じ「外付けSSD」であっても、両者は企画段階からまったく別物であり、実際にハードウェアのスペックも大きく異なるものです。ただし、コアな技術は共通です。ブランド間で技術と情報の共有を行ない、開発体制の最適化を図ることで、高品質を担保しつつ優れたコスト競争力も維持しています。なかには、ブランドが違っていても、結果的に使われているフラッシュメモリやコントローラが同じという製品もあります。

――PC DIYユーザーとしては、内蔵型SSDについて気になる点が1つあります。Western DigitalブランドのWD_BLACK SSDとSanDiskブランドのExtreme PRO SSDは、ハードウェア構成がほぼ同じものが見受けられます。

スウィージー氏:内蔵型SSDというのは非常に機能的にシンプルな製品ですので、Western DigitalとSanDiskブランドの間で、コンセプトがオーバーラップする部分があります。それぞれのハイパフォーマンスセグメントを担当するWD_BLACKとExtreme PROのように、ファームウェアも含めて同じという場合もあります(付属ソフトウェアは異なる)。ただ、これは例外的な事例と言えるでしょう。

Western Digitalの最高峰SSD「WD_BLACK SN750 NVMe SSD」と、SanDiskブランドSSDの最上位「SanDisk Extreme PRO M.2 NVMe 3D Solid State Drive」。現在はWD_BLACKのほうが一足先にモデルチェンジを果たしているが、基本的な仕様は同等とのこと

――なるほど。内蔵SSDをWestern Digitalブランドに一本化するという考えはないのでしょうか?

スウィージー氏:あくまでも市場の状況しだいではありますが、現時点では考えていません。実際にプロの写真家、写真愛好家の方はSanDiskブランドのExtreme PRO SSDを好んで選んでいただいています。とくに日本市場はSanDiskブランドの支持率が高い傾向にあり、ブランドの力を実感しております。今後もその信頼に応えて、ニーズに沿った製品を届けたいと考えています。

――Western DigitalブランドのSSD/HDDについては、Black、Red、Blue、Purpleなど、カラーによる分類も浸透しています。

スウィージー氏:製品のコンセプトを明確にし、必要なお客様に適切な製品を届けたいとの思いからこうしたブランド展開を導入しています。HDDで導入して、大変ご好評をいただきましたので、SSDでも同様の展開をしています。

――WD Red SSDも発表されましたね。

スウィージー氏:WD Red HDDは、NAS向けの高信頼性ドライブとして非常に多くのお客様から高く評価していただいています。(NAS用途のSSDとして)WD Redブランドを冠するからにはイメージを損なうようなものは出せません。プロビジョニング領域の設定やファームウェアの設計、テスト工程など、NAS環境を想定し、高耐久高信頼性を追求し、TBW(総書き込みテラバイト)も大きく確保しています。自信を持ってお届けできる品質と自負しています。

「満を持しての投入」だというNAS向けSSD「WD Red SA500 NAS SATA SSD」。インターフェイスは2.5インチ/M.2いずれもSerial ATAで、容量4TBまでのモデルがラインナップされる

「ワン・ウエスタンデジタル」で最適・高品質な製品を最適なコストで届ける

――今後の展開についてお願いします

スウィージー氏:ウエスタンデジタルは、米国、イスラエル、インド、中国など全世界に拠点を持つグローバルなチームですが、技術の心臓部は、日本にあります。当社の製品には、日本の技術力、日本で開発したノウハウがすべて入っています。SanDisk、HGSTなど業界トップ企業が集まってできた経緯もあり、4つのブランドで展開していますが、これらは決してバラバラに動いているわけではありません。それぞれターゲットとしている市場は異なりますが、ブランド間で技術と情報の共有を行ない、開発体制を最適化した「ワン・ウエスタンデジタル」により、高品質を担保しつつ優れたコスト競争力も維持しています。これからもこうしたブランド展開を通してお客様のニーズをうかがいながら、最適な製品を提供します。今後とも当社の製品をよろしくお願いします。

本インタビューの収録後、WD Blue SSDの新製品「WD Blue SN550 NVMe SSD」が発表された。高速化に加え、1TBモデルが追加されている

インタビューを終えて

 ウエスタンデジタルはデータインフラ関連の企業を買収、合併し拡大してきた。そうした同社が現在多数のブランドを擁していることの背景には、合併した企業同士の技術や文化が融合しきれていない側面があるのではないか?と考える方がいるかもしれない。しかし、今回のインタビューを終えて、そうした懸念はなさそうだと感じた。合併した各企業が持っていた技術は確実に集約されており、ウエスタンデジタルグループ全体のコア技術として共有されている。さらには複数の企業のリソースが結合することで、より大規模で高度な開発を効率的に行なうことが可能になる。そうして生まれたコア技術を各市場に合わせてチューニングして展開する際に活きてくるのが、各市場に根付いた個別のブランドというわけだ。

 また、ブランドが異なっていても、SSDやHDDといったジャンルが同じ製品であれば、ウエスタンデジタルグループとしての一定のクオリティは保たれている。異なるのは市場に合わせた付加価値の部分だ。となると、Western DigitalブランドのSSDのパフォーマンスを理解しているPCユーザーが写真用途においてSanDiskブランドのSSDを、映像制作用と用途においてG-TechnologyのSSDを選んで大きく期待を裏切られることはないだろう。逆もまたしかりである。SanDiskを信頼する写真家であれば、一般用途やゲーミング用途のPCを選ぶ際に、ウエスタンデジタル製SSDを搭載したモデルを選べば安心感が高まることになるだろう。マルチブランド展開と、ワン・ウエスタンデジタルという考えは矛盾するものではなく、総じて見ると理にかなった戦略と言えそうだ。_