トピック
4K映像編集ワークフローに高速SSDを組み込んだら、エンコードまで高速化という驚きの結果が
- 提供:
- 日本サムスン株式会社
2019年11月13日 06:00
PCやワークステーションにとって負荷が高い、つまり重い処理にはいくつかあるが、その代表格の1つが4Kなど高解像度動画の編集作業だ。少し前までは、2Dよりは3Dの方が圧倒的に重いものだったが、昨今の映像素材は、高解像度化に加え、高フレームレート化や、高ビットレート化、そしてHDR化などによって、以前より遙かに重くなり、いまでは表現力の高い3Dゲームよりも要求スペックが上がっているほどだ。
そういった重い作業をよりスムーズに処理するにはどうすればいいのか? 一般論として、PCの性能を高めるにあたっては、
- より高速なCPUを使う
- よりコア数が多いCPUを使う
- メモリを増やす
- より高速なGPUを使う
- HDDの代わりにSSDを使う
といったことが挙げられる。
今回、この記事がターゲットとするのは、TV番組やCM、プロモーションビデオなど、プロフェッショナルな用途で映像を扱うユーザーだ。4K映像を扱う人なら、高性能なCPUや、多くのメモリが必要といった知識はあるだろう。しかし、ストレージについては容量こそ気にしても、その速度についてあまり深くは考えられていないかもしれない。この記事では、4K映像編集環境におけるストレージの重要性がどれほどなのかを検証する。
映像素材は4K RAWを前提とする。一般ユーザーの多くが扱うフルHDのH.264などとは違い、4K RAWではCPU/GPUに搭載される専用デコーダ/エンコーダが機能しないため、CPUがその処理を行なう。過去の検証でも、4K RAW編集ではCPUのコア数がキーになることがわかっている。
4K RAWデータはサイズが大きいのは誰もが知るところ。だが、連続したデータなので、ランダムアクセスは発生しないため、容量と速度の観点から、4K編集環境のストレージは、HDDでもいいのではと思う人もいるかもしれない。しかし、編集時は、編集ソフトのトラック上でシーンをあちらこちらと飛び回るため、ランダムアクセスに近いアクセスが発生する。つまり、ストレージのランダムアクセス性能も重要になってくるのだ。
じっさいに、HDD環境とSSD環境とで、どれほど編集時の快適さが変わってくるのか? プロの映像エディターである小林譲氏に立ち会ってもらい、検証を行なった。そこからわかったのは、編集時だけでなく、シーケンシャルな書き込みが主となるエンコード時にも、HDDとSSDとでは多大な差が出るということだった。
小林譲氏のプロフィール
イギリスの美大卒業後、現地の制作会社にて3年間編集の下積みをする。2006年に帰国。大手ポスプロImagicaにてテレビ番組を中心に日本のキャリアをスタート。海外で取得したグローバルな映像センスと英語力で、ドラマ、音楽系、CM系へと活躍の幅を広げる。2017年に独立。フジテレビ、WOWOWの番組や、大手企業CMの編集も担当オーバースペックに見えるかもしれないが、じつはこれでも必要最低限。TSUKUMOのモンスターマシン
今回の検証に利用したのはTSUKUMO eX.computerが製造・販売する4K60pノンリニア編集向けワークステーションの上位モデルとなる「WA9J-Y190XT/NR」。スペックは下表のとおりで、Coreプロセッサーを搭載するマシンとして、ほぼ最高峰の仕様と言っていい。
WA9J-Y190XT/NRのおもな仕様 | |
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CPU | Core i9-9980XE |
メモリ | 128GB(16GB×8) DDR4 |
システムSSD | M.2 NVMe接続Samsung 970 EVO Plus 1TB |
データSSD | M.2 NVMe接続Samsung 970 EVO Plus 2TB×4(RAID 0) |
データHDD | SATA 6Gbps接続6TB |
GPU | GeForce RTX 2080 Ti |
OS | Windows 10 Pro |
税別価格 | 1,199,800円 |
CPUのCore i-9980XEは、18基という通常のCPUの3~4個分のコアを内蔵し、ハイパースレッディングテクノロジーにより、論理コア数は36基となる。先にも書いたとおり、4K RAW動画となると、ハードウェアデコーダが機能せず、CPUで処理することになる。そして、そのとき、コアは(コーデックによって差はあるが)あるだけあったほうがいい。その意味で、Core i9-9980XEはひじょうに頼もしいCPUだ。なお、今回は検証しないが8K60p動画だと、1トラックの再生だけで少なくとも12コアが、カラーグレーディングなどの処理を施すには16コアが最低限必要だと言われている。
メモリについてもじゅうぶん過ぎるほど搭載されている。たとえば、今回の編集検証で利用する動画編集ソフト「DaVinci Resolve」は、ビデオメモリ以上のメモリを使わない。今回利用するGeForce RTX 2080 Tiは11GBのビデオメモリを搭載している。編集ソフト自体やOSなどが使う領域を考えても、32GBでも収まりそうではある。
しかし、動画編集のさいには、動画編集ソフトだけでなく、写真編集ソフトや特殊効果のソフトなどを併用し、バックグラウンドで起動させていることも多い。その意味では、32GBを超えてメモリを使うこともじゅうぶん想定され、128GBという容量は盤石なものと言っていいだろう。
ストレージについても細かくは検証のところで述べるが、OS用のシステムSSDとして、Samsung製970 EVO Plus 1TBを搭載。データ用に6TBのHDDを搭載するのも、動画編集向けといった感じだが、本製品はそれに加え、HighPointのPCIe RAIDカード「SSD7101A-1」を利用し、970 EVO Plusの2TBを4発RAID 0構成にして超高速かつ大容量なデータストレージも内蔵している。これこそが本製品のキモであると言える。
GPUは前述のとおり、GeForce RTX 2080 Ti。GPUは、一部のエフェクトなどを処理するさいに活用されるが、動画編集においては、ビデオメモリが重要な要素となってくる。というのも、4K60pの編集では、ビデオメモリが最低でも8GBは必要となるからだ。この1つ下のGeForce RTX 2080 SUPERは8GBなのでギリギリ。4K60pを扱うなら、RTX 2080 Tiがほぼ必須となってくる。
スペックを見て、過剰なのではと思われた方もいるかもしれないが、以上の通り、4K60p編集においては、本製品の仕様は、極端な言い方をすると快適に作業する上での必要条件と言えるものなのだ。
もはやSDカードには荷が重い4K RAW撮影。SSDなら性能面でも価格面でも安心
今回の検証にあたり、日本サムスンよりBlackmagic Design製4Kカメラ「Pocket Cinema Camera 4K」およびSamsung製ポータブルSSD「T5」2TBをお借りした。
Pocket Cinema Camera 4Kは、Blackmagicの独自コーデックであるBlackmagic RAWによる4K RAW撮影ができるカメラ。それ以外の特徴の1つとして、USB Type-Cを備えており、ここに外部ストレージを接続できるようになっている。これにより、T5を接続し、記録できるのだ。
このメリットはかなり大きい。Blackmagic RAWの4K60p動画は、1分で10~15GBほどになる。つまり、1時間分撮影すると、1TB近く使うことになる。Pocket Cinema Camera 4Kは、SDカードスロットもあるが、1TBのSDカードは安いものでも2万円台後半、高速なものだと4~5万円程度(11月上旬現在)する。一方、T5 2TBは4~5万円前後。高速タイプとの比較だと、SDカードと同じ価格で2倍の容量を手に入れられる計算となる。
それだけではない。今回のデモ動画の撮影に当たっては、Blackmagic RAWでもっとも画質の高い3:1固定ビットレートを選択した。3,840×2,160ドットの場合、必要な転送レートは127MB/sとなっている。SDカードのビデオスピードクラスとして最上位となるV90でも保証転送速度は90MB/sでしかない。
高速なSDカードは、このV90を超えて200MB/s程度出せるのだが、これでもわりとギリギリの転送速度だと言える。追ってベンチ結果を紹介するが、T5なら500MB/s程度出せる。今回は利用していないが、上位のカメラである「Pocket Cinema Camera 6K」でBlackmagic RAW 6K 3:1固定ビットレートで撮影するさいに必要な転送速度はじつに323MB/s。もはやSDカードでは対応できないのだ。
その点において、USB Type-C対応のポータブルSSDがあれば、4K RAWでフレームの取りこぼしを心配することなく安定した記録ができる。また、撮影を終えた後も、PCへの転送時間がSDカードに比べて遙かに高速になるため、作業全体の効率も向上する。
まずは再生を検証
検証では、CPUを中心とした再生能力をまずチェックし、つぎに超高速ストレージのメリットを探る。動画編集ソフトとしては、Blackmagic RAWに対応するBlackmagicのDaVinci Resolveを利用した。
まずは、再生能力。データは、970 EVO Plus 2TB×4(RAID 0)に置き、1トラックを普通に再生させた。これについては、なんの問題もない。つぎに、カット割り作業を想定し、複数のBlackmagic RAW 4K映像をトラックに配置し、それぞれに簡単なカラーグレーディング処理を施した状態で、1トラックずつ追加しながら同時再生させてみた。
すると3トラックにした時点でじゃっかんのコマ落ちが発生しはじめ、4トラックの同時再生ではそこそこ重くなってきた。4トラック再生時のリソース負荷を見ると、36スレッドあるCPUの使用率が90%近くに達していた。一部のコアは完全に100%で張りついている。
とは言え、この4トラック同時再生の状態でも、カクつきはするが、作業できないというほどではない。小林氏も、これならさほど我慢しているとは感じない程度だと語る。むしろ、この映像を4トラック同時再生できていることに驚きを感じていた。
続いて、映像は1トラックの状態にし、データは970 EVO Plus 2TB×4(RAID 0)と、HDDに置いた上で、再生シークバーをあちこち移動させたさいの再生具合を小林氏に試してもらった。
1トラックからのただの再生であればHDDでも問題はない。しかし、シークバーを操作してシーンを切り替えると、立ち上がりで引っかかりが発生する。
一方、970 EVO Plus 2TB×4(RAID 0)では、そういったひっかかりが一切発生しない。この点についても小林氏は、「4Kを扱いながら、これだけシークバーを左右にドラッグして再生位置を変えても"ぬるっ"とした感じで再生が追いつくというのは、個人的にはじめて体験しました。まるで、フルHD解像度に落としたプロキシ素材で編集しているような錯覚にとらわれるほどです。圧倒的な滑らかさですね」と終始驚いていた。
小林氏の言葉にあるとおり、4K動画編集は重いので、プロキシと呼ばれる低解像度素材にいったん吐き出した上で作業することが少なくない。しかし、本製品であればプロキシを用意する必要がない。プロキシの生成にもエンコード時間がかかるので、それを短縮できるのも大きな利点だ。
4Kではエンコードにもストレージ速度が大きく影響
最後に、1分の長さの素材動画を3,840×2,160ドット10bitカラー、60pのGoPro CineFormコーデックにて出力(エンコード)を行なうさいに、ストレージが違うと差が出るのかを検証してみた。読み込み元と書き込み先のストレージは同じにしてある。
検証を行なう前は、エンコードではCPUが最大のボトルネックとなり、ストレージによる差はほとんど出ないだろと思っていたのだが、結果はその想定を裏切るものだった。
結果はと言うと、
- 970 EVO Plus 2TB×4(RAID 0):49秒
- HDD:2分10秒
- T5(USB Type-C接続):58秒
となった。
素材は、複数の動画から10秒程度ずつを切り出し、全体で1分の長さにまとめたものだ。つまり、読み込みは完全なシーケンシャルアクセスではない。それもあって、HDDの場合は、使用率がほぼ100%に達してしまった。読み取り速度が69.8MB/s、書き込み速度が57.8MB/sと、読み書き両方が同時発生したことで完全なボトルネックになってしまっており、CPUが遊んでしまっている状況だ。
USB Type-C接続でT5をつないだ場合も試してみたところ、読み込み261MB/s、書き込み242MB/sという速度が出ており、エンコード時間もHDDに比べて半分以下で収まっているが、こちらも利用率は100%近くに達していた。
一方、970 EVO Plus 2TB×4(RAID 0)では、読み書きとも300MB/sを超えており、使用率も12%に収まっている。この時のCPU負荷は約50%。これは、CineFormコーデックでの4Kエンコード処理が、36あるCPUスレッドを有効活用しきれていないことを意味する。それでも、約60秒の動画を実時間以下の49秒でエンコードできた。
小林氏はフリーランスで活躍されており、出先で委託された編集を行なうことがよくある。そういった場合に、編集が終わった動画のデータを渡すまで、待ち時間が動画の実時間以下だととくに問題ないが、実時間を大きく超えると、待たせてしまうことに申し訳なさを感じてしまうこともしばしばだという。しかし、本製品であれば4K動画であっても、エンコードの待ち時間は、実時間以下に収まる。
参考までに、今回利用した各ストレージのベンチ結果も載せておく。
【11月29日追記】その後リリースされたRAIDにも最適化されたCrystalDiskMarkバージョン7でも計測を行なったので、結果を追記しておく。970 EVO Plus 2TB×4(RAID 0)はさらに性能が伸びており、64GiBのテスト結果から、大量の書き込みを行なっても速度低下が発生していないことがわかる。
4K動画編集のワークフローにおいて、SSDの活用はもはや必須条件
以上のように、4K動画編集のワークフローにSSDを組み込むと、撮影、データ転送、編集、出力といったあらゆるシーンで作業を効率化できることがわかった。扱うデータが大きいので、高速なSSDを使った方がいいんだろうなという予想は誰でも容易にしうるが、エンコードにまで大きく影響するというのは、大きな発見だった。
今回利用したTSUKUMOのWA9J-Y190XT/NRは、映像編集者なら喉から手が出るほど欲しいマシンだろう。ただ、その分、値段も張る。じっさいにはBTOである程度、構成を変更する人が多いだろう。そういったときに、高速SSDが通常作業はもとより、エンコードにも効いてくることは覚えておきたい。