レビュー

エプソン、ロール紙やA5フォトアルバムを作れる「PF-70」を試す

~日用的な印刷に便利なコンパクト機

「PF-70」

 エプソンは9月2日に、個人向けインクジェット「カラリオ」シリーズの2014年モデルを発表した。今年の新製品のうち、「PF-70」は「スモールファンプリンタ」と銘打った新機軸の製品となる。

 A5までのサイズに対応する小型プリンタで、ロール紙を使うためのユニットが付属。本製品向けにシールタイプのロール紙や、A5サイズのフォトアルバム用紙をオプションで用意するなど、新しい利用提案をしようというエプソンの意欲を感じる製品だ。

 今回、10月25日に発売を控える本製品と、ロール紙やフォトアルバム用紙を同社よりお借りすることができたので、試用レポートをお届けしたい。

コンパクトに折りたたみ可能な本体

 まずは、製品の外観からチェックしていく。本製品は最大対応用紙サイズをA5とすることで、家庭用インクジェットプリンタとしては本体が非常にコンパクトに収まっているのが特徴の1つだ。コンパクトとは言ってもバッテリを内蔵しているわけではないので“モバイル”は謳われていない。

 具体的なサイズは、トレイを折りたたんだ状態で249×176×85mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約1.8kgと、屋内で持ち運んだり、収納しておくのに不便を感じないサイズだ。前面トレイと背面トレイを磁石で結合させており、背面トレイを起こすと自動的に前面トレイも倒れてくる。

 使用するために前面/背面のトレイを開いた状態では実測で390~400mm程度と、それなりにスペースを必要とする。A4インクジェットは前面給排紙としてトレイのはみ出しを最小限に抑える製品が増えているが、本製品は従来的な背面給紙/前面排紙の機構となっているため致し方ないところだろう。

 背面トレイは普通紙最大50枚、はがき最大20枚をセット可能。対応用紙は、A5~A6縦、カード、名刺、L判、2L判、KG、ハイビジョン、はがき、封筒(洋形1~4号、長形3号/4号)。カード、名刺、L判、2L判、KG、ハイビジョン、はがきは4辺フチなし印刷対応で、写真印刷や年賀状作成に実用的な仕様だ。

トレイ収納時は249×176×85mm(同)とコンパクトに収まる
前面トレイと背面トレイの先端中央を磁石で結合させており、使用時は背面トレイを起こすだけで前面トレイも前に倒れてくる
使用時は前面トレイ2段階、背面トレイを開く。奥行きは実測で390~400mm程度と、背面給紙/前面排紙のA4プリンタに比べれば短いものの、それなりに場所を専有する

 インターフェイスは、右側面にSDカードスロットとUSBメモリなどを接続できるホスト用USB。左側面に電源端子と、PCと接続するためのMicro USB。前面に赤外線。というレイアウトになっている。SDカードスロットにはカバーが取り付けられている。USBはPictBridge対応。赤外線はIrDA 1.3およびIrSimpleに対応。このほかにIEEE 802.11b/g/n対応無線LANも内蔵している。

 上部には2.7型カラー液晶ディスプレイと操作ボタンを装備。最近増えているタッチパネルではなく、今時の製品に搭載されるカラー液晶としては表示も粗め。給排紙方法も含めて、旧来的な製品という印象は否めない。なお、ディスプレイは2段階で角度調整も行なえる。

右側面にはSDカードスロットと、USBメモリなどへアクセスするためのUSBポートを備える
初期状態ではSDカードスロットに蓋が取り付けられている
左側面には電源端子と、PCと接続するためのMicro USBポートを備える
ACアダプタ。コンパクトなプリンタだがバッテリ駆動やUSB駆動はできず、動作にはACアダプタが必須
前面に赤外線ポートを備える
トレイを開いた上部には2.7型カラー液晶と操作ボタンを装備
操作ボタンは十字キーを中心にホーム/戻る、+/-などを組み合わせた直感的な操作が可能なもの
液晶ディスプレイは2段階の角度調整が可能

 背面には付属のロール紙ホルダーを取り付け、給紙する機構が備わっている。その取り付けは非常に簡単で、ロール紙ホルダーにある2つのフックを、本体側のロール紙挿入口両脇にある溝に置くだけ。そして、ロール紙ホルダーと本体が触れる部分にある3つのツメと溝の位置を合わせれば、ロール紙ホルダーの位置が安定する。

 ロック機構などはなく重力に頼った固定となっており、シンプルながら給紙の安定性は十分という、よく考えられた仕組みだと思う。シンプルな機構なので取り外しも簡単なのだが、それゆえに、ホルダーをプリンタに取り付けたままロール紙の交換を行なうのは面倒。とは言え、ロール紙へ“も”印刷できるプリンタという性格上、位置は正確に合い、かつ着脱を容易にしていることをより評価すべきだろう。

 記録メディアとしてのロール紙は、普通紙タイプと光沢紙タイプが発売され、いずれも幅60mmのシール用となっている。長さは普通紙タイプが4.6m、光沢紙タイプが2.2m。具体的な使用方法や使用感については後述する。

 プリンタの仕様は、印刷方式がMACH方式、印刷解像度が5,760×1,440dpi、インクはシアン/マゼンダ/イエロー/ブラックの4色一体型で、各色540ノズル。全色、染料の「つよインク200」を採用している。

付属のロール紙ホルダー
上部を開くと、ロール紙を取り付けるための“軸”となるパーツを取り出せる
プリンタ本体背面。挿入口の両脇にある窪みに引っかけ、プリンタ背面とロール紙の凹凸を合わせることで適切な位置へ設置される
ロール紙ホルダーを取り付けた状態。使用時は背面トレイも開く必要があるため、必要な奥行きは先述の約390~400mmと変わらない
純正のロール紙2種。手前が普通紙、奥が光沢紙で、いずれもシール紙となっている
ロール紙ホルダーへの取り付けは、ホルダーの軸を取り出してロール紙の芯へ両側から挟み込んで固定。それをホルダーへ戻す
ロール紙はプリンタ本体背面の「挿入口」を通して、ほかの用紙と同じ給紙口へ送り込む
インクは染料4色一体型の「ICCL81」を使用する
ロール紙の取り外しは、手動でロール紙を巻き取って、ホルダーを取り外す格好となる。手順は画面でも表示されるので戸惑うことはないだろう

名前シールやフィルムストリップが楽しいロール紙への印刷

 では、実際にPF-70独特の機能を試してみたい。まずは本製品最大の特色と言っても差し支えないであろうロール紙を使った印刷だ。

 まず、ロール紙のセットだが、先に紹介した手順でロール紙をセットすると本体側で検知し、光沢紙、普通紙のどちらをセットしたのかを確認する画面が表示される。これは同社の2014年モデルに搭載された機能で、PCやスマートフォン/タブレットなどから印刷指示を出す際に、指定された用紙とプリンタ側に登録されている用紙にズレがないかをチェックできるというもの。

 ロール紙においても、例えばタブレットでは「光沢紙」を選択しているが、プリンタには「普通紙」が装着されている場合にはアラートが表示され、印刷を続行するか、取りやめるかを選択できる。普通紙と光沢紙の2択となるロール紙では恩恵が小さいものの、ほかの用紙は種類も多く、うっかりミスを事前に警告してくれるのはありがたい。

ロール紙に限らす、新しい用紙をセットすると、セットした用紙の種別を確認する画面が表示される
印刷指示の際に指定されている用紙と、プリンタにセットしている用紙が異なる場合はアラートを表示。用紙設定の誤りによる失敗印刷を防ぐことができる

 さて、ロール紙への印刷と言えば、身近なところでレシートあたりがすぐに思い浮かぶが、個人向け製品である本製品は当然そのような用途に向けられたものではなく、もっと家庭的な用途ができるようになっている。具体的には、写真のシール、名前/写真入りのシール、さまざまなラベルを印刷できる「多目的シール」、イラストやテクスチャを印刷できる「デコレーションシール」、封筒の表紙などに貼れる「宛名シール」が作成できる。

 例えばA4のシール用紙を使って名前のシールを作ろうと思うと「1~2枚のためにA4用紙を使うのはもったいない……」というジレンマを感じたりするが、ロール紙ならそういった無駄がないのがメリットだ。逆に、A4サイズでは長さが足りず、かと言って長尺紙を使うほど本格的な印刷をする気もないようなニーズも埋められる。スナップ的に撮影したパノラマ写真などがその例だ。

エプソンの発表会で示された、ロール紙プリントの用途。スマートフォン/タブレット用アプリの「Epsonマルチロールプリント」でこれらの印刷が行なえる機能を提供する

 本製品では、スマートフォン/タブレット用アプリの「Epsonマルチロールプリント」から、上述のような用途での印刷が可能なほか、プリンタ上のメニューからも一部機能を利用できる。なお、今回の試用にあたっては、最新版アプリをインストールしたAndroidタブレット(Nexus 7 2013)を同社より借用し、プリンタとWi-Fi接続してテストしている。

 今回、ロール紙印刷は2つの用途で試してみた。1つは「お名前シール」だ。先述のように、名前シールは1枚あたりの所要面積が少なく、切り取りしやすいロール紙に適した印刷対象と言える。

 AndroidアプリのEpsonマルチロールプリントでお名前シールの作成は、おおまかに言って「サイズの指定」→「文字行数/写真有無の指定」→「文字/デザインの作成」→「プレビュー」→「印刷」という流れになる。

 デザインは背景色やフレーム、写真入りの場合はそれに加えて写真やあらかじめ用意されたイラストを選択。文字は文字色や用意された6種類のフォント選択などが可能となっている。正直なところシールの作成作業で特筆すべきことは何もなく、ウィザードの流れに沿うだけで進めることができる。

 唯一気になったのは印刷する部数の指定で、これはウィザードの流れとは別にプリンタの設定画面を開く必要がある。ここで、ロール紙印刷後の作業を説明すると、ロール紙への印刷後、プリンタ側では“そのまま続けて印刷する”か“ロール紙を切り取る”かを設定する画面が表示される。複数枚を印刷する場合は、続けて印刷するように指定すればいいのだが、1枚ごとにプリンタ本体の操作を行なうのは煩わしい。複数枚をまとめて印刷すれば、印刷が終わったので切り取るという指定を1度行なうだけで済む。印刷部数の指定がウィザードの中に組み込まれていれば、部数の指定を忘れることもなくなる。ウィザードがワンステップ増えることを是とするかは意見が分かれそうだが、プリンタ本体に手を伸ばす可能性が高まるよりは、スマートデバイス側の操作がワンステップ増える方がマシではないかと思う。

 何部印刷するかはともかくとして、印刷を終了して“ロール紙を切り取る”よう指示すると、自動的に切り取り線が印刷されて、一定の長さが排出される。オートカッターは搭載していないので、切り取りはハサミを使っての手作業になる。切り取り終了後は、本体側の「OK」ボタンを押せば、自動的にロール紙が巻き戻される。ちなみに、名前シールのように1部単位で役割を持つものは、部ごとに余白を持って印刷されるが、デコレーションシールのようにまとまった単位で役割を持つものは、印刷部数に応じた長さに連続的に印刷され、その後ろに切り取り線が印刷されるようになっており、このあたりはよく考えられている。

 ちなみに、2種類あるロール紙のうち、普通紙タイプは文字に重要な意味を持つ名前シールや宛名シールのような用途で使うものと考え、同じ内容を印刷したお名前シールで2種類の紙の比較を行なった。染料ということで普通紙印刷の場合は滲みが心配だったが、これは思ったよりも抑えられている印象だ。ただ、色乗りに難がある印象で、塗りつぶし部分のざらつきはどうしても目立つ。文字中心の名前シールならコストも安い普通紙シールで十分だが、彩り鮮やかなデザインを活かしたいなら素直に光沢紙を使った方が良さそうだ。

Epsonマルチロールプリントは単独アプリとしてアイコンも用意されているが、ポータル的アプリの「Epson iPrint」からも起動できる
Epsonマルチロールプリントのトップメニュー。「多目的シール」はアップデート後に機能が提供される
お名前シールの設定。まずはサイズを選ぶ
文字の行数や写真の有無といったレイアウトの指定
写真入りで文字列2行のレイアウトを選んだ場合の編集画面
シールの背景色やフレームの指定
写真はスマートデバイス内の画像/写真や、あらかじめ用意されているイラスト素材から選べる
写真やイラストを切り抜いて利用することもできる
任意の文字列を入力可能なほか、文字色やフォントを指定可能
作例
印刷前のプレビュー画面。1枚あたりに必要なロール紙の長さ(この場合は2cm)も表示される
プレビュー画面下部の歯車マークをタッチすることで印刷設定画面が開く。用紙の種類や部数を指定する
印刷終了後のプリンタ本体側の表示。続けて印刷するか、ロール紙の切り取り作業を行なうかを選択
切り取るよう選択すると、切り取り線が印刷されて用紙が排出される。切り取った後で本体の「OK」ボタンを押せば、元の位置へロール紙が巻き戻される
【動画】ロール紙印刷と、印刷終了後の切り取り→巻き戻しまでの動作
左がデコレーションシールを2部印刷したもの、右がお名前シールを3部印刷したもの。印刷対象により部ごとの余白に違いがある
上が普通紙印刷、下が光沢紙への印刷。極端に細かい文字を印刷する可能性は低いので文字は普通紙でも十分だが、色乗りはやはり光沢紙が圧倒的に良い
プリンタ単体でもロール紙への印刷機能を備える
印刷可能なレイアウトはスマートフォン/タブレット用アプリほどではないが、写真入りシールなどは作成可能
シールの背景色や写真の設定を行なう
写真はトリミングして利用できる
文字入力はできないので、名前シールは“名前を書き入れられるシール”となる

 もう1つ試したのは写真シールだ。写真シールの機能は、プリクラのように同じ写真を複数枚印刷できるほか、異なる写真の連続印刷、パノラマ写真風に繋げて印刷といったパターンを選べる。プリクラのような写真印刷は、先のお名前シールのように無駄の少ない印刷が可能だ。また、連続写真やパノラマ写真は、A4用紙なら長辺297mmといった具合にサイズが制限される上に余白の切り取りが面倒だが、ロール紙なら長さの制限が大きく緩和され、実用上、長さ制限のない写真印刷ができると言ってもいいだろう。

 ここでは長尺を活かしたフィルムストリップ風の連続写真印刷を試してみた。これもお名前シールと同じようにウィザード形式で作成できる。写真シールのレイアウト一覧から連続写真を選択し、写真を選択→写真の入れ替えやフレーム、背景色の指定といった編集(ここでフィルムストリップのフレームを選ぶ)→プレビュー→印刷の流れとなる。プリクラ風写真などでも作業に大きな違いはない。

 今回は正式版アプリで可能な最大枚数である80mm幅時7枚、105mm幅時5枚の写真をフィルムストリップに印刷しているが、必要な用紙は53cm、57cmとなった。こうした印刷ができるのはロール紙ならではだ。

 ちなみに、下記の作例を示した写真では、ロール紙を伸ばしても端以外はカールが弱いことが分かる。もちろん、テープやシールで接着はしておらず無作為に置いているだけだ。エプソンでは本製品の開発にあたりカールしにくいロール紙を開発したとしているが、それを実感できる。

 なお、写真印刷の品質については、及第点といったところ。やや色ムラがあるものの、発色そのものは良く、パッと見の印象の良い写真印刷と言える。

Epsonマルチロールプリントの「写真シール」のレイアウト選択メニュー
本稿で試している「連続写真」は、1枚あたり80mmまたは105mmの写真を連続して印刷するレイアウト
最初に写真を選択。選択後に写真を長タッチすることで順番の入れ替えも可能
背景色やフレームを選択。フレームは連続して見せることを意識したデザインも用意される
フィルムストリップ風デザインのプレビュー。画面は1枚あたり105mm幅の写真を5枚並べた例で、必要用紙長は53cm。ちなみに、この長さは前後の余白を含めたものとなる
5枚(1枚あたり105mm)および7枚(同80mm)の写真を用いた連続写真印刷の例
光沢紙を使用した写真印刷の例。若干のムラはあるものの発色は良好

【10月28日補足と修正】初出時、65cmの長さをロール紙へ印刷するテストを行なっていましたが、β版アプリでは実行可能だったものの、正式版では印刷できる長さが最大60cmとなるよう仕様が変更されました。そのため、連続写真を印刷する場合は80mm幅の写真印刷時7コマ、105mm幅の写真印刷時5コマが最大数となります。正式版アプリの制限に沿って文中該当箇所の記載および写真を改めました

 このほか、宛名シールやデコレーションシールなどが簡単に作成できる。宛名シールは個人だと年に数回使うかどうか……というものになるが、それだけにA4サイズの宛名シールなどは無駄が多くなる。ロール紙の良さが発揮できるだろう。

 デコレーションシールは、筆者は男性ということもあってか正直なところ使い道が浮かばないのだが、文具店などでカラフルなテクスチャをあしらったテープが多数販売されているところは見ており、カラフルなテープを好きな長さで作れるという用途にはニーズがあるのだろう。

宛名シールの作成画面
デコレーションシールの作成画面。部数を指定することで長さを調整できる

フォトアルバムを作ってみる

 さて、PF-70の発表時、用途としてもう1つ提案されていたのが「フォトアルバム」だ。“A5サイズ”で“継ぎ足し可能”なフォトアルバムを手軽に作成できるのが売りだ。

 もっとも本機能については、プリンタが持つ機能のトピックとは言いがたい。実際、A3対応の「EP-977A3」や、A4対応の「EP-907」、「EP-807」シリーズなどでも作成は可能だ。プリンタ内にフォトアルバム作成用の機能も搭載される。極論すれば、A5サイズが印刷できるプリンタならば、どんな製品でもA5サイズのフォトブックは作成可能なわけで、注目すべきは用紙の提供にあると言ってよいかと思う。

 提供される用紙は、「手づくりフォトブック」用紙と、「手づくりフォトブック追加用紙」の2種類だ。前者はハードウェア的な表現をするならばスタートアップキットのようなもの。フォトアルバムの作成に必要な表紙/裏表紙の厚紙と、複数枚を束ねて固定するためのリング、そして写真印刷を行なうためのマット用紙が6枚、試し刷り用の普通紙が2枚付属する。この用紙には脇に24個の穴が開けられており、ここにリングを通して束ねる格好になる。そして、マット用紙だけをパッケージした追加用紙が販売されるのがポイントで、これにより、1冊のアルバムに継ぎ足ししていくことができる。

「手づくりフォトブック」用紙
表紙/裏表紙とリングが付属。写真用紙はマット紙となる
このようなフォトブックが簡単に作れる。着脱可能なリングで留めている上、追加用紙が提供されるので継ぎ足しできる

 フォトアルバムの作成は、スマートフォン/タブレット向けアプリの「Epson Creative Print」の1機能として「フォトブック印刷」機能が用意されるほか、プリンタ本体のメニューからも作成できる。とは言え、プリンタ内部の機能はフレームをデザインできず、写真を並べて印刷するだけなので、スマートデバイス向けのアプリを用いた方がいい。

 アプリ上の作業も簡単で、フレームを選んで、決められた枠内に写真を当て込んでいくだけだ。レイアウト編集の画面右端にある「+」マークをタッチすればページが追加される。ページの入れ替えも可能で、その際には自動的に穴の位置も移動するなど、手間といえるほどの手間をかけることなく作業を進められる。

 惜しむらくはデザインテンプレートの少なさで、この点は今後の拡充が望まれる。ちなみに、筆者の家族を見ると、昔ながらの粘着テープを用いた写真アルバムに、自分で切り抜いた紙を貼ってメッセージを書き込んだりしている。本アプリで文字入力はできないが、メッセージの書き入れを想定しているかのような罫線風のデザインが施されたテンプレートが用意されている。フォトアルバム用紙が光沢紙ではなくマット紙であるのは、こうしたニーズを見越しているのかも知れない。

 印刷時は左右のどちら側に穴のある方をセットすればいいかのガイダンスが表示され、印刷ミスは起きにくい。ただし、印刷時は上部から順に印刷することになる関係で、“印刷結果で上となる側を下”に置いて用紙をセットすることになる。そのため画面上の穴の位置を逆向きにセットすることになる。直感的でないのが惜しいところで、可能であれば今後のアップデートでの改善を望みたい。

 また、マット紙への印字品質は良好だ。光沢紙への写真印刷は多少ムラが気になると記したが、発色は良好であり、マット紙への印刷ではその良さが活きる。この印刷を見る限り、インクジェット用紙の年賀状へ印刷する場合にも良好な結果を得られそうだ。

「Epson Creative Print」の機能として提供されるフォトアルバム作成機能。写真をはめ込めるテンプレートが用意されている
テンプレートに用意された写真枠に写真を当て込んでいくだけで完成
ページ一覧からはページの入れ替えなどが可能。見開きのイメージを掴むこともできる
作成したレイアウトは保存可能。ただし、当て込んでいる写真は元の位置(フォルダ)に残っている必要がある
印刷時は穴を左右どちらに置いてセットすればよいかの案内を表示。上から順に印刷をする関係で、用紙は上下逆、つまり穴の位置はレイアウト編集画面と左右逆にセットする必要がある
こちらはプリンタ本体側でのフォトブック作成機能。写真を選択して、レイアウトして、印刷する、という流れ自体は同じだ

「これがいい」と思わせる手頃さが魅力

 以上、本製品の特徴であるロール紙印刷とフォトブック印刷を試してみた。本製品については、「ロール紙に対応したプリンタ」、「A5までに対応したコンパクトなプリンタ」といった、2つの側面から見ることができる。

 ロール紙に対応している点は、ほかのA4インクジェットなどと比べても希少な特徴を持った製品ということができる。実際に使ってみると、特にお名前シールは便利だ。筆者には小学生の息子がいるが、裁縫道具とか彫刻刀、絵の具などなど、名前の記入が必要な道具を購入する機会が散発的に発生する。学年を重ねると“この字は漢字にした方がよさそう”などと気を配ったり(気苦労とも言う)することもあって、まとめて刷っておくのも気が引ける。必要な時に、必要な分だけ、(気まぐれな子どもだけに)その時の気分/興味に合わせてデザインした名前シールを作れるのは重宝する。

 大人向けの用途には“お名前シール”はないだろうが、フレームなしの文字データを印刷して、修正テープのように使うシチュエーションなどはあり得る。無理に用途を作り出すのは本末転倒だが、短いサイズ(少ない面積)のシールを手軽に印刷できるという特性は、意外なところで活躍する可能性を感じさせる。

 一方、A5まで印刷できるコンパクトなプリンタという点については、印刷機能に限れば、(ロール紙が使える以外は)全てA4対応のインクジェットでまかなえる、と言える。しかし、コンパクトであることはA4対応製品にはない特徴だ。

 冷静に考えてみると、A4用紙であることが絶対に求められるシーンというのは日常生活では意外に少ない。プリンタの用途として大きな位置を占める写真や年賀状はA5未満のサイズだ。「子どもの学校のチラシ作成」も女性向けのプリンタ用途に挙げられることが多いが、掲示用のチラシ作成を請け負ったらならばA4は必要そうだが、ちょっとしたチラシや連絡事項を伝えるためのものであれば、受け取る側にとってA4サイズであることの重要度は低く、A5プリントを渡して問題に発展するようなこともないだろう。

 このように考えてみると、用紙対応がA5までであることは、実用上これで困らない人も多いのではないだろうか。このA5のフォトブックはサイズ感が手頃で、むしろA4よりも気軽に作ろうという気にもなれる。A4対応機が一般的すぎて、どうしても“大は小を兼ねる”ことを考えてしまいがちだが、日常ではA5までの印刷で事足りることが多いことに加え、本体がコンパクトであることの利点や、ロール紙が使える機能性を考え合わせると、ユーザーによってはA4対応機よりもプリント機会が増える製品になりそうだ。

(多和田 新也)