レビュー
ゲーマーにとって“現実的な”ハイエンドGPU「GeForce GTX 1080 Ti」をテスト
2017年3月9日 23:00
NVIDIAが2月28日に発表した、GeForce GTX 10シリーズのフラッグシップモデル「GeForce GTX 1080 Ti」について、発売前に同GPUを搭載したビデオカードを借用する機会が得られた。
今回は、日本では3月11日以降の発売が予定されている新たなウルトラハイエンドGPUの実力を、ベンチマークテストを使ってチェックしてみた。
GP102採用のウルトラハイエンドGPU
GeForce GTX 1080 Tiは、Pascalアーキテクチャに基づき16nm FinFETで製造された「GP102」コアをベースにした、ウルトラハイエンドGPUだ。既存のハイエンドGPUであるGeForce GTX 1080に代り、GeForce GTX シリーズの最上位モデルとなる。
GeForce GTX 1080 TiのGP102コアは、28基のStreaming Multiprocessor(SM)が有効化されており、3,584基のCUDAコアと224基のテクスチャユニットを備えている。GPUの動作クロックは、ベースクロックが1,480MHz、ブーストクロックは1,582MHz。
VRAMとして、11GBのGDDR5Xメモリを搭載。VRAMは11Gtpsのデータレートで動作し、352bitのメモリインターフェイスでGPUと接続されている。これにより、GeForce GTX 1080 Tiのメモリ帯域は484GB/sに達する。TDPは250W。
同じGP102コアを採用するTITAN Xと比較すると、有効化されているSMの数は同じだが、メモリインターフェイスが1基分(32bit)無効化されている。このため、ROPユニットも8基少なくなり、VRAMの容量も1GB減少している。一方、メモリ帯域幅については、GDDR5Xメモリのデータレートが10Gtpsから11Gtpsに引き上げられたことで、TITAN Xより広くなっている。
モデルナンバー | GeForce GTX 1080 Ti | TITAN X | GeForce GTX 1080 |
---|---|---|---|
アーキテクチャ | Pascal | ||
GPUコア | GP102 | GP104 | |
製造プロセス | 16nm FinFET | ||
CUDAコア | 3,584基 | 3,584基 | 2,560基 |
テクスチャユニット | 224基 | 224基 | 160基 |
ROPユニット | 88基 | 96基 | 64基 |
ベースクロック | 1,480 MHz | 1,417 MHz | 1,607 MHz |
ブーストクロック | 1,582 MHz | 1,531 MHz | 1,733 MHz |
メモリ容量 | 11GB GDDR5X | 12GB GDDR5X | 8GB GDDR5X |
メモリスピード | 11Gtps | 10Gtps | 10Gtps |
メモリインターフェイス | 352-bit | 384-bit | 256-bit |
メモリ帯域 | 484 GB/s | 480 GB/s | 320 GB/s |
TDP | 250 W | 250 W | 180 W |
価格 | 699 ドル | 1,200 ドル | 499 ドル |
今回、NVIDIAより借用したGeForce GTX 1080 Tiは、NVIDIAのリファレンスデザインを採用した「Founders Edition」だ。NVIDIA製ハイエンドGPUではお馴染みとなった、金属製の外装を特徴とする外排気型のGPUクーラーを搭載。基板背面にはバックプレートを備えている。
ディスプレイインターフェイスは、3系統のDisplayPortと、1系統のHDMI。補助電源コネクタには、6ピンと8ピンを各1系統ずつ備えており、最大で225Wの電力を補助電源コネクタから供給する仕様となっている。
テスト機材
GeForce GTX 1080 Tiの検証は、Core i7-7700Kを搭載したテスト環境で実施した。また、比較対象としてGeForce GTX 1080のFounders Editionを用意している。
そのほかの機材については以下の通り。
GPU | GeForce GTX 1080 Ti 11GB (Founders Edition) | GeForce GTX 1080 8GB (Founders Edition) |
---|---|---|
CPU | Core i7-7700K (4コア/8スレッド、4.2GHz) | |
マザーボード | ASUS ROG STRIX Z270F GAMING | |
メモリ | DDR4-2400 8GB×2 (2ch/17-17-17-39/1.2V) | |
システム用ストレージ | OCZ VTR180-25SAT3-480G (480GB SSD/SATA 6Gbps) | |
電源 | 玄人志向 KRPW-TI700W/94+ (700W 80PLUS Titanium) | |
グラフィックスドライバ | GEFORCE GAME READY DRIVER 378.78 | GEFORCE GAME READY DRIVER 378.66 |
OS | Windows 10 Pro 64bit (1607) | |
電源設定 | 高パフォーマンス |
ベンチマーク結果
それでは、ベンチマークテストの結果を確認していく。今回実施したベンチマークテストは、「3DMark」、「VRMark」、「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」、「Ashes of the Singularity」、「オーバーウォッチ」、「アサシンクリード シンジケート」、「The Witcher 3: Wild Hunt」、「ダークソウル3」、「Fallout 4」、「Watch Dogs 2」だ。
まずは定番ベンチマークテストである、3DMarkのテスト結果から見ていこう。
WQHD解像度(2,560×1,440ドット)で実行される、DirectX 12テストの「Time Spy」では、GeForce GTX 1080 TiはGeForce GTX 1080を約25%上回る総合スコアを記録。Graphics Scoreでは約32%の差を付けており、CPUがより強力であれば、さらに差を付けていたことが窺える。
DirectX 11テストの「Fire Strike」では、4K解像度(3,840×2,160ドット)の「Ultra」と、WQHDの「Extreme」で、ともに総合スコアで約30%の差をつけている。フルHD解像度(1,920×1,080ドット)の無印Fire Strikeでは、両GPUの総合スコアの差は約16%に縮小しているが、これはCPUがボトルネックとなった結果だ。
無印のFire Strikeよりも低負荷な「Sky Diver」や「Cloud Gate」では、両GPUのスコア差はさらに縮小し、Sky Diverで約9%、Cloud Gateでは横並びとなり、数値上ではGeForce GTX 1080の方が高い結果となっている。このクラスの描画負荷では、CPUがGPUの性能を引き出すことができないということだ。
VRMarkは、3DMarkの開発元であるFuturemarkが制作した、VR環境での性能を測定するベンチマークソフトだ。主なテストは、2,264×1,348ドットの画面解像度でテストを行なう「Orange Room」と、5,120×2,880ドットでテストを行なう「Blue Room」の2種類で、今回は通常のディスプレイを使ってベンチマークテストを実行している。
Orange Roomのテストでは、GeForce GTX 1080 TiよりGeForce GTX 1080が僅かに高いスコアを記録している。Orange Roomにおける平均フレームレートは、両GPUとも220fps前後となっており、これはテストの基準フレームレートである109fpsの2倍の数値だ。
下位GPUがスコアで上回るという逆転現象が起きたテスト結果だが、これは3DMarkの「Cloud Gate」と同じく、CPUがボトルネックとなった結果だ。両GPUにとって「軽い負荷」であるOrange Roomで、GPUをフル稼働させるほど高いフレームレートを実現するためには、CPU性能が足りないというわけだ。
一方、Blue Roomでは、GeForce GTX 1080 TiがGeForce GTX 1080を約36%上回るスコアを記録した。平均フレームレートでも約38%高い数値を記録している。ただ、5Kクラスの解像度でテストを行なうBlue Roomの負荷は極めて高く、GeForce GTX 1080 Tiであっても、目標フレームレートである109fpsには届いていない。
ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマークでは、DirectX 11の最高品質設定で、画面解像度をフルHD、WQHD、4Kに設定してテストを実行した。
GeForce GTX 1080 Tiは、フルHDで約6%、WQHDで約21%、4Kでは約30%と、画面解像度が上がるごとにGeForce GTX 1080とのスコア差を拡げている。画面解像度が上がるにつれ、CPUがボトルネックになる場面が減少した結果でもあるが、より広いメモリ帯域を持つGeForce GTX 1080 Tiが、高解像度になるほど力を発揮するのは順当なものだ。
Ashes of the Singularityでは、描画品質を最高設定のCrazyに設定し、フルHDと4K、DirectX 11とDirectX 12、2つの画面解像度と2つのAPI設定からなる4パターンでテストを実行した。
フルHDでのテストでのGeForce GTX 1080 Tiのアドバンテージは、DirectX 11で約6%、DirectX 12では約21%となっている。DirectX 12を使うことでGeForce GTX 1080 TiのGPU性能が飛躍したというより、DirectX 11で顕著だったCPUのボトルネックが緩和された結果と見るのが妥当だろう。
実際、4Kのテストでは、フレームレートの低下によってCPUがボトルネックになるシーンが減少し、DirectX 12とDirectX 11の平均フレームレートにフルHDほどの差はない。なお、4KではDirectX 11で約24%、DirectX 12では約30%の差をGeForce GTX 1080に付けている。
FPSゲームであるオーバーウォッチでは、描画品質を最高設定のEpicに設定し、フルHD、WQHD、4Kの3画面解像度でフレームレートを測定した。
ここでは、GeForce GTX 1080 Tiが、フルHDで約29%、WQHDで約32%、4Kでは約30%の差をGeForce GTX 1080に付けた。今までのテストでCPUがボトルネックになる場合の多かったフルHD解像度から3割近い差を付けており、低解像度からGeForce GTX 1080 Tiのポテンシャルが十分に発揮されている。
アサシンクリード シンジケートでは、描画品質を最高に設定し、フルHD、WQHD、4Kの3画面解像度でフレームレートを測定した。
アサシンクリード シンジケートは、現在でもかなりGPU負荷の高いゲームタイトルの1つであり、描画品質のプリセットで最高を選択した今回のテストでは、フルHD解像度でもGeForce GTX 1080が60fpsを割り込んでいるのだが、GeForce GTX 1080 Tiは、同じ条件で75fpsを記録している。
全体的に見ると、フルHDで約32%、WQHDで約33%、4Kでは約36%の差を付け、GeForce GTX 1080 TiがGeForce GTX 1080を上回っているわけだが、実際のフレームレートの面でも、フルHD解像度の最高描画設定で60fpsの維持が狙えるGeForce GTX 1080 Tiと、不可能なGeForce GTX 1080という大きな差が付いている。
The Witcher 3: Wild Huntでも、ここまでのテストと同じように、描画品質を最高、後処理を最も高い「高」に設定し、フルHD、WQHD、4Kの画面解像度でフレームレートを測定した。
GeForce GTX 1080 Tiが記録したフレームレートは、フルHDで92fps、WQHDで87fp、4Kは51fps。GeForce GTX 1080との差は、それぞれ約2%、約30%、約34%となっている。GeForce GTX 1080 Tiであっても、4K解像度かつ最高の描画品質で60fpsを維持することはできないが、描画品質を多少妥協することで、4K解像度で60fpsを維持は狙えそうだ。
ダークソウル3も、描画品質を最高に設定し、フルHD、WQHD、4Kの3画面解像度でフレームレートを測定した。
このゲームでは、フレームレートの上限が60fpsに制限されており、フルHDとWQHDでは、両GPUともに60fpsに張り付いている。GPUによる差が生じたのは4Kでのテストで、GeForce GTX 1080の44fpsに対して、GeForce GTX 1080 Tiが59fpsと、約34%高いフレームレートを記録した。
Fallout 4では、描画品質のプリセットを最高のUltraに設定し、フルHD、WQHD、4Kの3画面解像度でフレームレートを測定した。
なお、記事執筆時点での日本語最新版(v1.7.15.0)では、無料DLCとして配布されている高解像度テクスチャパック(High Resolution Texture Pack)を適用できないため、Steamでゲームの言語設定を「英語」に変更し、バージョンを英語最新版(v1.9.4.0)にした上でテストを実行している。
Fallout 4も、ダークソウル3と同じように、標準ではフレームレートの上限が60fpsに制限されている。このため、フルHDとWQHDでは両GPUとも上限である60fpsに張り付いている。4K解像度ではGeForce GTX 1080が34fps、GeForce GTX 1080 Tiは48fpsを記録しており、約41%の差がついた。
Watch Dogs 2では、描画品質を「最大」に設定し、フルHD、WQHD、4Kの3画面解像度でフレームレートを測定した。
最新のAAA級ゲームタイトルだけあって、高い描画品質を設定した際のGPU負荷が高いWatch Dogs 2だが、それ以上にCPUのマルチスレッド性能を要求するゲームでもある。結果として、フルHDでは両GPUとも60fps程度でフレームレートが頭打ちになっており、WQHDでも、両GPUのスコア差が約7%に留まっているところを見ると、GeForce GTX 1080 Tiは実力を出し切れていないようだ。
4K解像度では、両GPUともフレームレートがCPU的な限界点である60fps付近から大きく低下しており、GeForce GTX 1080 Tiが44.3fpsを記録し、35.3fpsだったGeForce GTX 1080を約26%上回っている。
GeForce GTX 1080 Tiの実力を考えれば、WQHDでも60fps以上を維持する実力はありそうだが、それにはマルチスレッド性能に優れたCPUの組み合わせが必要不可欠だ。最大で12スレッドを利用するWatch Dogs 2での快適なプレイを望むなら、少なくとも6コア12スレッドCPUを選ぶべきだろう。
最後に、システムの消費電力を測定した結果を紹介する。
アイドル時の消費電力は、GeForce GTX 1080が31Wであるのに対し、GeForce GTX 1080 Tiは36Wとやや高い。使っていない時の消費電力は低いに越したことはないが、このクラスのGPUを搭載するPCであれば、それほど気にするような差でもないだろう。
ベンチマーク実行中のピーク電力は、特に負荷の高いベンチマークソフトで、GeForce GTX 1080が260W弱、GeForce GTX 1080 Tiは340W弱となっており、GeForce GTX 1080 Tiの方が30%前後高い消費電力を記録した。これは両GPUの性能差のピークに近いものであり、GPUがフルに性能を発揮している状況であれば、電力効率はどちらも同じ程度となるようだ。
ただ、GPUがフルに性能を発揮しない時、例えば、VRMarkのOrange Roomや、ダークソウル3とFallout 4のフルHD時など、両GPUがCPUのボトルネックやフレームレートの上限により、ほぼ同じフレームレートを記録しているような状況では、GeForce GTX 1080 Tiが明らかに高い消費電力となっており、そのような状況での電力効率は悪いようだ。
TITAN Xより買いやすいウルトラハイエンドGPU
GeForce GTX 1080 Tiの実力は、GeForce GTX 1080に対して3割程度高い性能を発揮できるものであり、GP102コアを採用する、ウルトラハイエンドGPUに期待されるだけの性能を持っている。TITAN Xの20万円近い価格設定に躊躇していたゲーマーにとって、GeForce GTX 1080 Tiは、より現実味のある選択肢として魅力あるものとなるだろう。
また、TITAN Xについては、限られた販売経路でリファレンスデザインの製品のみの流通となっていたが、GeForce GTX 1080 Tiについては、各ビデオカードベンダーから製品が供給されることになる。4月以降には、ビデオカードベンダーのオリジナル設計を採用した製品の投入も予定されている。
より高画質、あるいは、より高いフレームレートでゲームを楽しみたいと望むのであれば、今後登場してくるGeForce GTX 1080 Ti搭載製品に要注目だ。