特集

EIZOのメインストリーム向けWUXGA液晶「FlexScan EV2436W-Z」を試す

FlexScan EV2436W-Z
発売中

価格:オープンプライス

 EIZO株式会社は、メインストリーム向け液晶「FlexScan EV」シリーズを刷新した。22型から24.1型、TNとIPSパネルで合計5モデルが展開されており、8月29日より発売されている。今回この中で24.1型/IPSパネルを採用した「EV2436W-Z」をお借りできたので、試用レポートをお届けする。直販価格は56,800円だ。

スタンダードながらも高い品質を提供するFlexScan EV

 同社の個人向け液晶ディスプレイは、今回紹介する「FlexScan」を始め、カラーマネジメント搭載の「ColorEdge」、そしてエンターテイメント向けの「FORIS」の3ラインナップで展開している。

 ColorEdgeはハードウェアキャリブレータを内蔵し、FORISは自動画像補正技術や超解像技術を搭載するなど、いずれも各々のラインナップが想定する用途に特化した機能を搭載している。一方FlexScanシリーズはこれらを搭載しない、EIZOの基礎技術だけで構成されたスタンダードモデルだ。

 EIZOの基礎技術だけを搭載と言っても、市場にあるディスプレイの大半より高価なだけあって、安価な製品でよく見られる「スペック通りに映るだけ」のディスプレイとはひと味違う。挙げられるのは“エルゴノミクス”と“画質”へのこだわりである。

昇降機構を実現するためのレール

 まずはエルゴノミクスから。狭額縁でマルチディスプレイ構成時に有利な構造や、最大140mmの昇降/344度のスイベル/90度のピボット、下5度/上35度のチルトを備えたスタンドなど、ハードウェアを触らなくとも写真や解説で一発で分かるようなエルゴノミクスも備えているが、EIZOのエルゴノミクスはそれだけでなく、映る画面そのもののエルゴノミクスへの配慮も見られる。

昇降機構により一番低い位置に設置したところ
最も高い位置に設置したところ
本体背面
ケーブルをまとめて、スッキリみせることができるバンド。EIZOのロゴも入っており、こだわりがみられる
上35度のチルト
下5度のチルト
全体的に直線的なシンプルなデザインで、機能美が感じられる

 例えば、輝度センサーの内蔵によってバックライトの明るさを自動的に調節することで、暗いところで眩しすぎる画面を見せないようにするといった工夫から、紙に近い色合いと輝度をシミュレーションし、見やすくするとともにブルーライトを低減する「Paperモード」、DC調光とPWM調光を組み合わせることで、画面のチラつきを低減する「EyeCare調光方式」など、現時点で科学的に効果がきちんと証明されていなくとも、ユーザーがPCの画面を見ていてストレスと感じる要素を極力排除するといった点である。

 もちろん、スタンダードモデルだからと言って画質を放棄するわけがない。工場出荷時にガンマや色温度を測定し、適切な値に調整した後出荷することで表示の個体差を減らす工夫や、8bitデータを内部で10bitに多階調化し、10bit-LUT(ルックアップテーブル)でガンマ補正することでなめらかな階調表現、応答速度を改善するオーバードライブ回路など、高い表示品質を実現するための技術は、しっかり押さえている。

 つまり、FlexScan EVシリーズはEIZOの中でもっともスタンダードな位置付けでありながらも、そのスタンダード自体のクオリティが高いのである。このあたりは、実売1万円台半ば~3万円程度のディスプレイとは一線を画している点だと言えるだろう。

EV2436W-FSとの最大の違いはスタンド

 さて、今回取り上げるEV2436W-Zは、EV2436W-FSの後継モデルである。しかしながら数字は増えておらず、型番末尾がFSからZに変わっているだけだ。長年EIZOのディスプレイを追ってきた読者ならば察しがつくだろう。実はスタンドを除く両者の仕様は、ほぼ共通なのだ。

 従来モデルEV2436W-FSのスタンドのネックは、台座の後部に据え置かれており、後ろにかけてなだらかに傾斜している。台座は直径209mmだったものの、このネックの傾斜で、実質必要とされる奥行きは245.5mmとなっていた。

 一方EV2436W-Zは、台座こそ直径233mmと若干増えたものの、ネックは中央で垂直に据え置かれるようになり、これによってチルト非使用時は233mmの奥行きだけで済むようになった。見た目もかなりスッキリした印象である。

EV2436W-Z(左)はEV2436W-FS(右)より必要な奥行きが短くなっている

 また、EV2436W-FSのチルトはスタンド-VESAマウンタの接続部のヒンジで上30度の可動域を実現していたが、EV2436W-Zはネック下部にヒンジを備えることで、これまで実現できなかった下5度/上35度のチルトを実現している。設置スペースがシビアなユーザー、ディスプレイをより低い位置に設置するユーザーはチェックすべきポイントだと言える。

 パネル部の仕様は共通なため、詳しい説明を省略するが、スペックを羅列すると、解像度が1,920×1,200ドット(WUXGA)、最大表示色数が約1,677万色、中間色応答速度が6ms、輝度が300cd/平方m、コントラスト比が1,000:1、視野角が上下/左右ともに178度などとなっている。

 インターフェイスにDVI-D、DisplayPort、ミニD-Sub15ピンの3系統を備え、2ポートのUSB 2.0 Hubや1W+1Wのステレオスピーカーを備える点なども、従来とまったく一緒だ。

スタンド変更のため、パッケージも小型化された
付属品など。残念ながらDisplayPortケーブルは付属しない
スタンドははめ込み式。金属製で、しっかり重量感がある
スタンドを装着するためのガイド
側面から見るとかなりすっきりした
ディスプレイとはVESAマウントによって接続される。このためVESAマウントを利用する小型PCなどは装着できない
インターフェイスはEV2436W-FSと共通
本体の電源を完全にオフにできるスイッチを装備
USB 2.0 Hubや音声入力/ヘッドフォン出力を備える

鮮やかながらも落ち着いた発色と、幅広い輝度調節範囲

 今回、DVI-D経由で接続し、さまざまなシチュエーションを想定し、写真閲覧、動画再生、ゲームプレイ、テキスト編集などの作業を行なってみたが、鮮やかながらもなめらかなグラデーションで、落ち着いた発色という印象。ノングレアパネル採用モデルとしては黒が引き締まっている。

 手元に測定機器を持ち合わせいないので、目視による評価で非常に恐縮なのだが、AdobeRGB対応パネルなどと比較すると、青の領域で突出した表現力がないように思う。筆者手持ちのデジカメ「シグマDP1」で以前撮った北海道・美瑛での写真は、AdobeRGB対応ディスプレイで見ると、抜けるような青さ、いやむしろ碧さに近いような表現があって、驚いたことがあったが、本機ではそこまでの表現力を備えていない。とは言え、スタンダードモデルとしては鮮やかな方であり、2~3年前のハイエンドディスプレイと比較しても、AdobeRGB対応パネルに近い表現力を持っている。

 動画再生やゲームプレイにおいて、筆者はハードにゲームをプレイする方ではなく、あくまでもカジュアルにゲームをプレイしているのだが、プレイ中応答速度や遅延が気になることはなかった。

写真を表示させたところ
写真を表示させたところの拡大(トリミング)。1ドッドずつ整然と並んでいるのがわかる
テキストを表示させたところの拡大(トリミング)
上下/左右ともに視野角が広く、IPSらしい表現

 一方本製品で特徴としているPaperモードだが、確かに標準と比較すると輝度が抑えられ、特に白地に黒のテキストを表示するシーンでは心地よく感じた。ただ個人的には少し黄みが気になり、手動で色温度を5,500K、輝度を20%程度に下げたほうが良いと感じた。このあたりまでユーザー自身が好みでカスタマイズできるのも、本製品ならではである。

sRGBモードで表示させたところ。左には付属の紙マニュアルを置き、色味を見比べてみる。青寄りであることがわかる
Paperモードにしたところ。撮影環境では、この紙より黄味が強くなった
手動で色温度を500K単位で変更できる。今回の撮影環境では5,500Kが最も好ましかったように思う

 輝度の話が出てきたので、ついでに述べておくと、本製品は最高で300cd/平方mの輝度を実現しているが、最低1cd/平方mという超低輝度まで落とすことも可能である。実用かどうかはともかく、部屋を暗くして使用する場合など、この低輝度は眩しくなりすぎになることなく、快適に使える。

 多くのディスプレイは、輝度を0にしてもそれほど暗くならず、部屋を暗くして写真の編集するといったシチュエーションでは、何かしら照明を付けたほうが健康的に良い思うが、本製品ならば完全に暗くして色味をじっくり吟味するといったことが可能だ。先述の通り、EyeCare調光方式を採用しているので、画面のチラつきが少ないのも特徴である。ちなみに筆者宅の場合、電気をつけていても輝度は設定上15%程度で十分であった。

撮影場所を暗くし、輝度100%に設定した状態(Eco関連機能はすべてオフにしてある)。カメラはISO200、1/30秒、f4.5といった設定
同じカメラの設定で輝度50%にしたところ
輝度10%程度に落としたところ。写真ではかなり暗くなっているが、一般的な屋内の照明下では十分な視認性を持っている
輝度1%。ここまで来ると同じシャッタースピードだとほぼ見えないが、肉眼では見える

 輝度関連でもう1つ注目したいのが省電力機能である。本機は周囲の輝度に合わせてバックライトの明るさを調節する機能「Auto EcoView」を備えているが、これは目への負担を考慮しているだけでなく、省電力にも貢献している。ユーザー離席時に自動でスリープモードに入る人感センサー「EcoView Sense」も、メニューから機能のオン/オフ、感知レベル、感知間隔などを設定可能だ。

 EcoView Senseについて軽く試用したところ、確かにOSの設定に関わらず、離席時に設定した時間で自動的にスリープモードへ移行したが、1分といった短い間隔を設定すると、ディスプレイの前にいるにもかかわらずスリープモードへ移行することがあった。つまり、1分間ユーザーがまったく動かないことはよくあるということだ。そのためもあってデフォルトではオフにされており、オンにしても検出間隔を3分としているが、もともとLEDバックライトの採用もあって、消費電力がそれほど高くないので、5分といった長めの時間に設定しても良いだろう。

 また、コンテンツの視認性を維持しながら、バックライトの輝度制御を行なうことで省電力化を図る「EcoView Optimizer 2」についても試したところ、確かにコンテンツの視認性の影響は感じられなかった。

 コンテンツの内容に応じて輝度を変更して省電力化を図る技術は、EIZOのディスプレイのみならず多くのディスプレイで採用されており、ノートPCなどではディスプレイドライバが制御するといったところまであるが、今まで試してきた多くは、輝度変化があからさま過ぎてストレスになったり、ゲームで暗い場面に入ると輝度が下がるが細部が見えなくなったりしてしまうといった、非実用的なものばかりだった。一方、本機はオンにしたまま、輝度の変化が激しいゲームプレイなどをしてみたが、輝度の変化はほとんど感じられなかった。このあたりアルゴリズムが最適化されているのだろう。

 ちなみに省電力の効果や、二酸化炭素削減量は、ECOボタンを押すとすぐに確認できるようになっており、オフィスでの使用における環境配慮の工夫が見られる。

 OSDメニューは、輝度や色味、色温度を調節できる画質調整から、アスペクト比などを変更する画面調整、パワーセーブ時にサウンドのオン/オフを切り替えるサウンド設定、パワーセーブやEcoタイマーを設定するPowerManager、言語や電源ランプのオン/オフなどを設定する本体設定など。

 先述の通り、エコ関連の設定はECOボタンで、「EcoViewメニュー」として独立している。また、入力ソース切り替え、表示モード変更ボタンも独立しており、さらに内蔵スピーカーの音量調節は▼ボタン、輝度調節は▲ボタンですぐにアクセス可能。EIZOがよく使うと判断した機能については、階層が深くなり過ぎないように配慮が見られる。開封して説明書を読まずにすぐに使い出し初めても、それほど戸惑うことはないだろう。

エコ関連の設定。ECOボタン1発で呼び出せる
画質調整
画面調整
サウンド設定
PowerManger
本体設定

長く付き合える質実剛健な1台

 というわけで、EV2436W-Zを概観してきた。先述のエルゴノミクスへの配慮、そして画質へのこだわりは随一で、国産モデルとして、価格に見合うだけの価値は十分に備えている。

 欲を言えば、DisplayPortケーブルを付属して欲しかったし、そろそろもうマトモに使う人もいないだろうというミニD-Sub15ピンを廃し、HDMIを装備して欲しいところ。また、高解像度や複数の入力インターフェイスを活かせるピクチャ・バイ・ピクチャ/ピクチャ・イン・ピクチャなどの機能もあったらいいなとは思う。しかしEV2436W-Zは押さえるべきポイントをしっかり押さえているので、これらはどうでも良いと思えてしまう。

 正直、世の中の多くのデバイスは、カタログスペックだけでは語れないことが多く、店頭で製品を試してもわからないことが多い。まして昨今、オンラインショッピングが当たり前となっている以上、カタログスペックだけで判断して買ってみたはいいものの、届いていざ使い出し始めたら、ガッカリするような製品が少なくない。

 特に低価格帯の液晶は、シャープネス処理が強すぎる、グラデーションでマッハバンドが見える、TNパネルなのに残像がひどい、VA/IPSパネルであるにも関わらず視野角が広くない、メニューの操作がしにくい、日本語の表記がおかしい……など、いずれも筆者が実際に経験したことがある。

 その点、EV2436W-Zは心配する必要がない。見やすさへの配慮はもちろんのこと、5年の長期保証期間、保証期間内外関わらず修理中は代替機を用意してくれるサービスもある。この安心感は長年ディスプレイを手がけてきたEIZOならではだろう。ディスプレイは、ユーザーとPCが会話を交わす唯一のインターフェイスだ。「スペック至上主義」、「安さは正義」と言わず、特に長時間ディスプレイを見るようなヘビーユーザーには、真剣に検討してもらいたいモデルである。

(劉 尭)