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「13インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデル」レビュー

~ 13インチに新たな選択肢をもたらすRetinaパネルを採用

13インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデル
発売中

 米Appleが10月23日(現地時間)に開催した「Special Event」で、iPad miniや第4世代にあたるiPad Retinaディスプレイモデルとともに発表されたMac製品の1つが、「13インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデル」である。

 6月に開催されたWWDCでは先行して15インチのRetinaディスプレイモデルを発表したほか、ポータブルなMac製品をリニューアルしたのに対して、10月のSpecial Eventではデスクトップ製品をリニューアル。この2つのイベントをもって、Macのラインナップは全てIvy Bridge世代へと事実上移行した。

 本稿では、その中で「13インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデル」にフォーカスして製品ターゲットの分析とレビューを行なう。なお、出荷は発表と同日の10月24日(日本時間)より行なわれており、量販店をはじめAppleの直営店およびAppleのオンラインストアなどで購入できる。供給は順調で、購入を決めれば店頭での持ち帰りはもちろん、オンラインのApple Storeでオーダーしても数日で手元に届くはずだ。

本体と付属品が収納されている化粧箱
13インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデル
本体以外の同梱品はACアダプタと簡易なマニュアル類、そしてクリーニングクロス

 同製品の発表でAppleのポータブル製品ラインナップは、11インチと13インチのMacBook Air、13インチと15インチのMacBook Pro、そして13インチと15インチのMacBook Pro Retinaディスプレイモデルという形で3つのカテゴリになった。中でも13インチは全てのカテゴリに含まれる。同社の13インチ製品を比較したのが下記となる。店頭ではいずれも上位/下位モデルが併売されているので、スペックは店頭購入可能な上位モデルでの比較にしている。

【表1】13インチMacBook製品ラインナップの仕様比較

MacBook AirMacBook ProMacBook Pro Retina
プロセッサCore i5-3427U(1.8GHz)Core i7-3520M(2.9GHz)Core i5-3210M(2.5GHz)
搭載メモリ(最大)4GB(8GB)8GB(8GB)8GB(8GB)
ストレージ(最大)256GB(512GB)フラッシュストレージ750GB(1TB) HDD ※SSD選択可能256GB(768GB)フラッシュストレージ
液晶サイズ/解像度13.3インチ/1,440×900ドット(標準)13.3インチ/1,280×800ドット(標準)13.3インチ/2,560×1,600ドット(標準)
本体サイズ(幅×奥行き×高さ)325×227×3~17mm325×227×241mm314×219×19mm
重量1.35kg2.06kg1.62kg
バッテリ駆動時間7時間7時間7時間
価格128,800円128,800円168,800円

 特徴的な部分としては、同社基準によるバッテリ駆動時間がいずれの製品も7時間と均一になっている点だ。表にはない15インチも同様で、同社としてこの7時間という数字が現時点のポータブル製品の基準の1つ、言い換えれば設計上の重要なポイントになっていることが想像できる。インターフェイスの数などに違いもあるが、MacBook Airと、MacBook Pro Retinaディスプレイモデルでは、低電圧版と通常電圧版のプロセッサ、そしてディスプレイパネルの消費電力の差が、主にバッテリと考えられる0.27kgの重量差につながっているということだろう。

 MacBook Airは、いまやWindowsのUltrabookでも多く採用されている本体の前後で厚さの異なるくさび形の形状をしているが、MacBook Pro Retinaディスプレイモデルは、従来型のMacBook Proと同様に全体が均一な厚さのデザインとなっている。

 加えてMacBook Pro Retinaディスプレイモデルは、フットプリントがほかの13インチの2製品よりも幅で11mm、奥行きで8mmと、ほんの一回り小さくなっていることに気がつくだろう。非RetinaのMacBook Proは、Ivy Bridgeを採用しUSB 3.0をインターフェイスに持つなどスペック向上が図られてはいるが、ユニボディ自体の基本設計は1世代以上前のものが流用されているようだ。MacBook AirとMacBook Pro Retinaディスプレイモデルでは、ACアダプタの部分に新しいMagSafe2コネクタを採用しているが、非RetinaのMacBook Proでは従来のMagSafeコネクタのままであることからも推測できる。

レビュー機は試作機ではなく量産モデル。実測値では公称スペックである1.65kgよりやや軽い数値を示した
新たに採用されたMagSafe2(右)と従来のMagSafe(左)のコネクタ部分。電気的な部分は変わらないようだが、MagSafe2は全体的に細身になっている
意外に便利なのが従来のMagSafe用アダプタを使ってMagSafe2採用の新モデルに給電が可能になるアダプタ。980円で販売されている純正品だ。バッグに1個忍ばせておくと、自分のACアダプタを忘れた時など、普及している旧アダプタを流用できる

 必要なユーザーにとっては、非RetinaのMacBook Proの光学式ドライブ内蔵は機種選択において重要なポイントにはなり得るが、同社はデスクトップのiMacからも光学式ドライブを排してしまった。同社にとっての光学式メディアは、ある意味でレガシーな存在として位置付けられたと考えてもいい。

 本来であればRetinaディスプレイモデルの登場を機に、WWDCにおけるフィル・シラー上級副社長の言葉どおり「“新世代”MacBook Pro」としてProモデルはRetinaディスプレイモデルへの一本化を図りたいものと想像されるが、ラインナップとして他社の競合製品と価格面で折り合いがつく製品群も必要という事情も察せられる。本論とは離れるが、次のメジャーなモデルチェンジにおいては、まず間違いなく光学式ドライブ搭載モデルは姿を消すことになると思われるので、光学式ドライブ内蔵を重視する場合は今回が最終製品という覚悟をもっていた方がいいだろう。

 13インチはこれらの同社製品に加えて、Windowsを搭載する各社のUltrabookとポータブル製品を含めて競合の多い売れ筋のジャンルであることは言うまでもない。Windows 8の発売を機にコンバーチブル型の競合製品も増えているが、それらに対して唯一無二の差別化要素が、Retinaディスプレイと称する高解像度パネルということになる。

 Retinaという用語は2010年のiPhone 4発表時に初めて用いられた。直訳すると「網膜」だが、人間の眼をもって識別できる画素密度(約300ppiと言われている)と同等以上という意味付けがなされて、同社はRetinaディスプレイの呼称を用いている。密度の単位はppi(Pixel per inch)で表記され、iPhoneでは326ppi、iPadでは264ppi、そして今回紹介する13インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデルでは227ppiとなっている。基準となる数値が絶対値になっていないのは、それぞれのデバイスと相対した場合の眼とパネルの距離に相関するためとAppleでは説明している。報道によれば米国では同社が登録商標としてのRetinaを取得しているが、ポータブルカセットプレーヤーの多くがウォークマンと呼ばれてしまったように、同等の高精細なパネルを称してRetinaと俗称するケースもあるほどに認知度は高まりつつある。

 13インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデルの場合、パネルの解像度は2,560×1,600ドット。非Retinaモデルである13インチの1,280×800ドットの縦横がそれぞれ倍になっている。ただしデスクトップの表示領域自体が増えているわけではない。両者を比較した場合、アイコンの実寸や表示領域などは見かけ上まったく同じになり、それぞれがより高精細に表示されるのがRetinaパネルの特徴だ。一般的なパネルでは1つのタイルとして表示されている画素が、Retinaでは4つのタイルで表示されている。これによって文字表示はより滑らかに、高解像度の写真や動画は解像度のままに表示され、つまりは「見やすい綺麗な画面」ということにつながる。

 もちろんこうした表示にはOSをはじめアプリケーション側でのRetinaディスプレイ対応が必要となる。非対応のアプリケーションの場合は、前述した4つのタイルにそれぞれ同じものを表示することで、見かけ上は1つのタイルに見えるような処理がされている。初期はこうした非対応アプリケーションにもかかわらずドット・バイ・ドットで表示をしてしまうために表示自体が4分の1になってしまうケースも散見されたが、現在ではこうしたトラブルはほぼ解消されつつある。

 Retinaディスプレイ対応のアプリケーションは、当初Apple純正のAperture、Final Cut Pro Xなどが中心だったが、15インチの発売以降はサードパーティ製のアプリケーションが徐々に増えつつある。直近では、12月12日にAdobe Creative SuiteのPhotoshop、Illustrator、Dreamweaver、そしてLightroomなどがアップデートされてRetinaディスプレイ対応を果たしている。意外と言っては失礼だが、Microsoft Office 2011などもすでにアップデートによってRetina対応が行なわれている。完全に網羅されているわけではないが、Retina対応アプリケーションをまとめたユーザーサイトも存在する。また常設されているわけではないが、Mac App StoreにおいてもRetina対応アプリケーションを一覧にして特集していることがあるようだ。

12月にアップデートされてRetinaディスプレイ対応となったAdobe Photoshop CS6。参考として3,008×2,000ドットの画像データを表示(高解像度注意。2,560×1,600ドットのPNGファイル)
ドット・バイ・ドットになる100%の画像表示(高解像度注意。2,560×1,600ドットのPNGファイル)
システム環境設定のディスプレイで、表示領域の設定が可能

 Retinaディスプレイにおいてもう1つ触れておく必要があるのは、スケール解像度の存在だ。前述したとおり2,560×1,600ドットのパネルであっても、表示領域(デスクトップの広さ)自体は1,280×800ドットに等しい。そこで実ドット数が多いという利点を活かして1,440×900ドットおよび最大1,680×1050ドット相当の表示領域を13.3インチのパネルでも擬似的に実現することができる。もちろんパネルの実寸は変わらないので、システムフォントやアイコンの大きさを変更しなければ、それぞれがより小さく表示されることになる。

 スケール解像度は表示領域の縮小も可能でコントロールパネルから1,024×640ドット相当の選択も可能だ。このスケール解像度により、1,440×900ドットのMacBook Airに比べて、実質的な表示領域が狭くなるというスペック上のネックは解消されることになる。

 Retinaディスプレイでスクリーンショットを撮ってみれば分かるが、最適とされる2,560×1,600ドットの場合は、1,280×800ドットのデスクトップ表示領域であっても、スクリーンショットは2,560×1,600ドットのファイルが出来上がる。同様に13インチでは最大の1,680×1,050ドット相当の表示領域にした場合のスクリーンショットは3,360×2,100ドットの画像ファイルになる。このように内部では表示領域に対して縦横2倍での演算が行なわれていることには理解が必要だ。

 最適とは異なるスケーリングを行なった場合、内部演算および画面の描画負荷はさらに大きくなるので、それが操作上の体感まであらわれるか否かはさまざまな条件次第だが、従来製品とは異なる特性である。

Retinaに最適となる1,280×800ドット相当のデスクトップ
1,440×900ドットを選択すると、13インチMacBook Airと同じ表示領域になる
13インチの場合は最大で1,680×1,050ドット相当にもできるが、文字やアイコンは相対的に小さくなる

 また15インチのRetinaディスプレイモデルの発売以降、Retinaのパネルに残像が残るという現象がAppleのディスカッションボードやインターネット上のさまざまな場所で報告されている。今のところ筆者が個人的に購入した15インチと、今回のレビューのために借用していた13インチにおいては、同様の現象は確認できていない。とはいえ、信頼のおける知人のもとで発現したという報告も聞くので、事象としてはあり得るようだ。頻度や抜本的な対策などはまだ明確ではないが、万が一発現した場合にはApple StoreのGenius Barをはじめサポートセンターなどでも修理や交換などの対応が行なわれている。

意外に大きい15インチとのスペック差。定番の13インチAirに変わる選択肢か

 13インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデルは、量販店店頭などでは標準仕様として2モデルが販売されている。上位と下位の違いはフラッシュストレージの容量のみで、上位が256GB、下位が128GBという違いにとどまる。店頭仕様の主なスペックは下表にまとめた。ちなみに今回レビュー機として貸与されたのは下位モデルにあたる。

【表2】13インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデルの標準仕様
プロセッサCore i5-3210M(2.5GHz)
グラフィックスIntel HD Graphics 4000
搭載メモリ(最大)8GB(8GB)
ストレージ(最大)128GB(768GB)フラッシュストレージ256GB(768GB)フラッシュストレージ
液晶サイズ/解像度13.3インチ/2,560×1,600ドット(標準)
Wi-FiIEEE 802.11a/b/g/n
本体サイズ(幅×奥行き×高さ)314×219×19mm
重量1.62kg
バッテリ駆動時間7時間
価格144,800円168,800円

 表中、赤字部分がオンラインストアや直営店など一部の店舗で購入した場合にCTO可能となる要素だ。CTOは、昨今のMac製品の中ではバリエーションが少ない方で、標準ではCore i5 2.5GHz(Turbo Boost時に最大3.1GHz)を、Core i7 2.9GHz(Turbo Boost時に最大3.6GHz)に変更できる点と、フラッシュストレージの容量を128GBから768GBまで増量できる程度である。発表当初はCore i7へ変更できるベースモデルが上位のみに限られていたが、現状では下位モデルからのCore i7化も選択できるようになっており、CTOすることを前提にすれば、ベースモデルは事実上1モデルと考えていいだろう。店頭で選ぶ場合には単純にフラッシュストレージが128GBか256GBかの選択になる。価格差は24,000円だ。

 実は先行して発売されている15インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデルでも、下位モデルにCTOオプションが追加されており、上位、下位、どちらをベースにした場合でも、いわゆるアルティメットモデルへは同一価格、同一スペックで実現できるようにCTOが柔軟になっている。ちなみに周辺機器を除いた本体のみでの13インチ/アルティメットモデルの価格は276,199円となり、その増額分のほとんどをフラッシュストレージが占める。メモリは8GB(PC3-12800/DDR3L)がメインボードに直付けされていて、導入後はもとより購入時のCTOにおいても増量することはできない。

 CPU情報としてはコア数とクロック周波数のみが公開されているが、標準仕様のCore i5 2.5GHzのモデルナンバーは3210M、CTO時のCore i7 2.9GHzのモデルナンバーは3520Mとなり、いずれもTDPが35Wの通常電圧版デュアルコアモバイルプロセッサだ。Core i7化のメリットはクロック周波数の向上とL3キャッシュの増量で、2コア/4スレッドはラインナップを通じて変わらない。CTOによるi7への価格差は17,000円。

 15インチの場合は標準仕様でTDP 45Wの通常電圧版クアッドコアモバイルプロセッサが用いられているほか、13インチにはないディスクリートGPU(dGPU)「NVIDIA GeForce GT 650M」を搭載したり、CTO購入時に限られるがオンボードメモリを16GBまで増量可能など、同じRetinaディスプレイモデルでも13インチと15インチとのスペック差は大きいと言わざるを得ない。

 ベンチマークソフトである「Geekbench 2」を使って計測してみたところ、13インチRetinaディスプレイモデルの実測数値は7,403で、15インチRetinaディスプレイモデル(Core i7 2.6GHz)の実測数値は12,934だった。手元には13インチの現行MacBook Airがないので、Geekbenchのサイトに掲載されている標準値を見ると、冒頭で紹介した1.8GHzモデルの場合は6,621となっていた。同様に標準値で比較すると13インチRetinaディスプレイモデルは7,182になっていて、標準のクロック周波数が0.7GHz低いAirよりもやや高い程度の結果にとどまっている。これはやはり高解像度の描画を行なう負荷が少なからずあるということだろう。

15インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデル。dGPUを搭載し、CPUのCore i7も4コア/8スレッドと、13インチとのスペック差は大きい
13インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデル。GeekbenchのWebサイトに掲載されている13インチAir上位モデルよりも高い結果。言い換えれば、高解像度でもMacBook Air以上の稼働ができることにもなる

 Appleは13インチMacBook Pro Retinaディスプレイを“13インチMacBook Pro史上、最薄の製品”と呼んでいる。もちろんこれは事実だが、実はスペックをよく見ると13インチの19mmという薄さに対して、15インチでは18mmを実現している。Retinaディスプレイモデルにおいては、15インチの製品の方が1mm薄い製品なのだ。

 2製品を比べてみると、Retinaパネル部分の厚さはほぼ同等。ユニボディも底面の裏蓋部分を除いてはほぼ同じ薄さを実現した設計が行なわれている。それでも最終的に13インチが1mm厚くなったのは搭載するバッテリ容量に妥協をしなかったからにほかならない。冒頭で述べたとおり、同社基準による7時間駆動というスペックに矜持を見せたのだと筆者は想像する。

手元には13インチの旧MacBook Pro製品がないため、仕様上の厚さが同一な15インチの旧MacBook Pro(Mid 2010)と比較。19mm(左)と24.1mm(右)。
15インチのRetinaディスプレイモデルに13インチのRetinaディスプレイモデルを重ねてみた。フットプリントがこれだけ違う
15インチRetina(右)と13インチRetina(左)を比べた場合、パネル部分の厚さはほとんど同じ
パネルを閉じた15インチRetina(右)と13インチRetina(左)。スペック上は13インチRetinaの方が1mmほど厚くなっている
裏返して比べると15インチRetina(右)と13インチRetina(左)では、13インチRetinaの裏蓋にあたる部分がやや肉厚になっていることが分かる

 もちろんフットプリントの広い15インチの方が大容量のバッテリを搭載できるのは当然で、薄型化に向いていることも間違いない。13インチでは搭載できないdGPUを積むスペースと、それを駆動するために必要なバッテリの容量追加についても同様だろう。メインメモリもまたしかりだ。こと同社製品については、レビュアーが安易に魔法という言葉を用いる傾向が散見されるが、こうした表現を是とする気はない。本当に魔法があるならば、13インチにdGPUを積んだ上で15インチと同等の薄さを達成し、7時間のバッテリ駆動を実現することだろう。それが本来の魔法という表現にほかならない。

 現時点の技術ではRetinaという高解像度なパネルには相応の電力負荷があり、dGPUというバッテリにそれなりの負担をかけるパーツが存在し、バッテリ自体の小型/軽量化には大きなブレイクスルーが必要だ。これらの相関にマジックは存在しない。この1mmは設計者、エンジニアが技術を重ね、最後までデザインや見かけの数値以上に、ユーザーエクスペリエンスを重視した結果と考えるべきだろう。

 13インチMacBookにおける「Pro」の定義づけはなかなか難しい。13インチにも「Pro」が登場したのは2009年からで、プロセッサがCore 2 Duoの世代はサウスブリッジに統合されたNVIDIA製のGPUが使われていたこともあった。2010年以降は13インチのMacBookとMacBook Proが事実上統合される形でMacBook Proが残ったが、Sandy Bridge以降の13インチではIntel HD Graphicsが使われていて、dGPUを搭載する15インチとは一線を画し続けてきた。そうした意味でRetinaディスプレイの採用は、新たな「Pro」モデルの定義を行なう転換点かもしれない。

 Proの定義づけという点でみれば、搭載されるインターフェイスは配置も含めて先行した15インチのMacBook Pro Retinaディスプレイモデルと同じだ。左右に1つずつ振り分けられたUSB 3.0ポート、Thunderbolt×2、HDMIディスプレイ出力、アナログ/デジタル兼用の音声出力、そしてSDXC対応のカードスロットがある。非RetinaのMacBook Proでは光学式ドライブを搭載することもあって、向かって右側面に光学式ドライブのローディングスロット、左側面に各種インターフェイスが集中していた。しかし、MacBook Pro Retinaディスプレイモデルでは、左右に振り分けた配置になっているのが特徴だ。

13インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデル(上)と同15インチ(下)のインターフェイスの配置はまったく同じ。13インチではFaceTime用のマイクが側面に移動している

 左右に振り分けられたUSBポートには、15インチRetinaが発表された2012年6月以降のMac製品から全て、USB 3.0に対応したインターフェイスが採用されている。これまでWindows PCの多くがUSB 3.0のコントローラを別途搭載する形で先行してきたのに対して、AppleはIvy Bridge世代における7シリーズチップセットへの統合を機にようやく採用へと踏み切った。

 形状の同じUSB 2.0とUSB 3.0を視覚的に区別するために、他社製品の多くがUSB 3.0側のポートを青くする中で、同社は継続して本体のアルミニウムの色に近いグレーを用いている。本体に搭載される2つのポートが同一にUSB 3.0なのだから、区別する必要がないというのがAppleとしての言い分だ。

左側面のインターフェイス。左からMagSafe2、Thunderbolt×2、USB 3.0、アナログ/デジタル兼用の音声出力がある。小さい2つの穴はFaceTime用のマイク
右側面のインターフェイス。右からUSB 3.0、HDMI出力、SDXCカードスロットと並ぶ。下側にあるスリットはエアフローにおける吸気口の役割を果たす
本体背面にはインターフェイスはなく、ヒンジをカバーする黒いプラスチックパーツがある
本体正面。中央に開閉のためのラッチがある。磁力でパネルの開閉状況をOSが判断するのは従来製品と同様

 実はチップセット統合を果たした現在でもWindowsのUltrabookの中にはUSB 2.0とUSB 3.0のポートが1つずつという製品が少なくない。これは、インターフェイスに供給される電力がUSB 2.0と3.0では異なり、3.0の方がバッテリへの負荷が大きいというのが主な理由だ。ポータブル製品としては考慮せざるを得ない要素であることは間違いない。

 元々Appleのポータブル製品は、iPadを充電したりMacBook Air向けの外付けSuperDriveをバスパワーで動かすことを考慮して、USB 2.0世代からポートに供給される電流は1A/5Vを超える大きなものとしている。これはUSB 3.0になった現状でも変わらず、USB 3.0標準の5V/900mAを超える電力を供給している。バスパワー動作のUSB機器の中には、電力供給のためにPC側が二股になった(一方は電力ラインのみ)USBプラグを同梱しているものもあるが、MacBook製品では補助側プラグを使うことなくほどんどの機器が動作する。少なくともUSBポートが左右の振り分けになったことで、こうしたバスパワー機器が使いにくくなるという心配は不要だ。

 また、これまでUSBポートの間隔が狭く、プラグの形状によっては並べて挿すことが困難だったケースも解消に向かうことになる。

 一方でUSB 3.0への対応が遅くなったことは、ドライバの完成度などソフトウェア面で影響が少なからず残った。USB 3.0対応機器を接続しているにもかかわらずUSB 2.0機器として認識される事例が散見されたのである。このあたりは、OS Xのマイナーバージョンアップだけでなく、さらに細かにドライバの追加更新が行なわれて少しずつ解消の方向に向かっている。こうした機器の接続速度を確認するためのシステムレポートの表記にも当初は揺らぎがあって混乱したが、ドライバのアップデートと併せてこちらも「USB 3.0 High-Speed バス」(USB 3.0のポートに接続されたUSB 2.0機器群)と、「USB 3.0 Superspeed バス」(USB 3.0のポートに接続されたUSB 3.0機器群)に収束したようだ。

Windows PC(右)の場合にはUSB 3.0ポートは青いパーツが使われていて、視覚的に見分けがつきやすい。グレー単色のMacの場合は、2012年6月以降に発表された製品にUSB 3.0が搭載されており視覚的な基準は設けていない
システムレポートによるUSB機器の接続状況。USBポートの1つにセルフパワーのUSB 3.0 Hubをつなぎ、そのHubにUSB 3.0対応のHDD、BDドライブ、そしてUSB 2.0接続になるiPadを接続している。もう一方のUSBポートにはUSB 3.0対応のカードリーダを単独でつないだ状態で正しく装置ツリーが構築されている

 2つ用意されているThunderboltインターフェイスは、現時点では残念ながら有効といえる使い道がなかなか見つからない。もちろん高速ストレージのニーズはあるものの、10Gbpsというパフォーマンスを活かすには本体価格並のストレージ群をRAID構成する必要があるなど、なかなか個人向けとは言いがたい。

 最近はUSB 3.0とThunderboltの両インターフェイスを搭載して、高速転送を意識したストレージがいくつか発表されているが、多くの場合はThunderboltポートが1個のために終端にしか使えず、デイジーチェーンのメリットが活かせない。また、SSDならともかく、HDDではストレージ側のボトルネックがあり、単にストレージとして使うのであればUSB 3.0のみ対応の製品の方がコストパフォーマンスには優れているということになる。こうした状況が今後も続くようならば急速な普及は難しいだろう。

 実は現時点でThunderboltを最も有効に使える周辺機器は純正のThunderboltディスプレイで、1ポートのThunderboltをGigabit Ethernet、FireWire 800、USB 2.0×3に拡張できる。USBの対応が2.0までなのは出荷時期の関係もあるので、これは今後のモデルチェンジに期待するほかはない。

 もう少し簡単なニーズとしては、純正の「Thunderbolt - FireWireアダプタ」、「Thunderbolt - ギガビットEthernetアダプタ」がある。前者はこれまで使っていたFireWire機器を継続利用できるし、後者はGigabit Ethernetに有線LAN接続を可能とする。加えてThunderboltは外部ディスプレイの出力先として、前述のThunderboltディスプレイ、あるいはDisplayport対応ディスプレイを利用することができる。

 仮に外部ディスプレイを使う場合は、オフィスなどでいわゆるデスクトップ環境として利用することになる。普段はモバイル用途でも、腰を据えて作業する時には大きなディスプレイを接続するという仮定だ。ともなると、Wi-Fiよりは有線のEthernet接続を利用したいのは道理であるし、モバイルでは持ち歩かないデータ類は外付けストレージの中にあるだろう。せっかくデイジーチェーンできる機能が備わっていても、現状ではThunderboltディスプレイを使わない限り、本体2ポートを使い切ってもまだ足りないというのは厳しい選択になる。

 Mac miniに続いて採用されたHDMI出力は上記の問題を若干解決できる。Thunderboltのポートを使うことなく、最大1,920×1,200ドットの外部ディスプレイを接続できるからだ。一般的には23~24インチクラスの製品が対応する。PC用ではHDMI入力がないディスプレイも多いが、サードパーティ製の変換アダプタを用いることで、音声はカットされるもののDVI-Dへと変換が可能だ。

 それ以上のサイズとなると、やはりThunderbolt(DisplayPort)出力に頼ることになる。出力可能な最大解像度は2,560×1,600ドットまで。これはGPUにあたるIntel HD Graphics 4000の制限だ。

 スケール解像度を利用した場合、内部では3,360×2,100ドットの処理が行なわれると前述しているが、あくまで内部処理の話であり、外部出力の上限値とは異なる。言うまでもなくRetinaは本体に搭載されているディスプレイパネルの話で、外部にディスプレイを接続した場合は、解像度、ppiともにそのディスプレイに準じる。なお、13インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデルでは最大2台の外部ディスプレイが接続可能になっている。

別売されているApple純正の「Thunderbolt - FireWireアダプタ」と「Thunderbolt - ギガビットEthernetアダプタ」
HDMI出力を使えば、最大1,920×1,200ドットの表示が可能。薄型TVをはじめ、アダプタを用いてDVI-Dでの映像出力も行なえる。
1,920×1,200ドットの外部ディスプレイを2台接続して配置。中央に表示されているのが13インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデルの画面。この場合はデスクトップの表示領域が基準なので、本体画面は1,280×800ドット相当の大きさが示されている。

 エアフローは本体側面下部にあるスリットから本体背面へと空気の流れを誘導していく。パームレスト部分はさほど高温になりにくい設計だ。2つのファンを非対称にすることでファンノイズを減らす工夫もなされているという。狭額縁化が進み、これまでパネル下部にあった製品ロゴは底面へと移動している。同社製13インチと比べても一回り小さいことは冒頭に述べたとおりである。加工の精度もあがっており、特にラッチ部分の面取りが一層滑らかになっているのは触れていて印象的な部分だ。

本体両側面の下側にある吸気口の役割をするスリット
排気は、本体背面にあるヒンジの部分から行なわれる
製品ロゴはこれまでの液晶パネル下部から、本体底面へと移った

 キーボードとトラックパッドのサイズは15インチも13インチも変わらない。光学式ドライブを排したことで不要になったイジェクトボタンの位置に電源スイッチが移動して、独立したボタンがなくなった。キータッチはアイソレーションタイプになって以降から大きな違いはないように感じる。15インチと異なり本体幅が狭いことから、スピーカーの位置が異なるためキーボード左右のパンチングがない点と、FaceTimeなどで利用する内蔵マイクの位置が側面に移動している点だ。

トラックパッドの大きさは約105×76mm(幅×奥行き)で13インチ(左)も15インチ(右)も変わらない。フットプリントが一回り大きい分、15インチは周囲の余裕がある
バックライト付きのキーボード。これも15インチと同じフルサイズのものが使われている。13インチ(左)にはスピーカー用の左右パンチングがない

 魅力も大きい13インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデルだが、購入ガイドという点でズバリ本命となかなか言いにくいのは、改めて製品レビューをした上での実感である。

 まず、さんざん述べているとおり、13インチは同社製だけでも3モデルという選択肢がある。非RetinaのMacBook Proは置いておくとしても、MacBook AirとRetinaディスプレイモデルのどちらにするかは悩ましいところだ。定価で4万円の価格差に思えるがMacBook Airのメモリを8GBまで揃えると価格は3万円強まで縮まる。インターフェイスの充実やRetinaディスプレイの魅力を考えれば、270gという重量差は十分に許容範囲といえるだろう。最厚部で2mmの差があるが、面積ではRethinaディスプレイモデルが小さく、可搬性にさほどの違いは感じないものと考えられる。とりわけ初めてのMac製品であるなら、13インチのMacBook Air上位製品よりもRetinaディスプレイモデルを選んだ方が満足度は高いのではないだろうか。

 一方で、致し方ないとは言え15インチとのスペック差は気がかりな部分となる。言うまでもなく15インチは一回り大きく、重量も2kgを超えて可搬性には劣るが、Retinaディスプレイの能力を活かすアプリケーションを考えれば、スペックは決して軽視できない要素だ。より強力なGPUは必要であるし、メモリは積めるだけ積みたいというのもまた本音である。ApertureにせよFinal Cut Pro XにせよAdobe Photoshopにせよ、Retina対応アプリケーションの多くはパフォーマンスがあるにこしたことはない製品がずらりと並んでいる。元々15インチのユーザーだった筆者は、15インチRetinaディスプレイモデルの発表直後に製品を購入したわけだが、仮に15インチと13インチが同時に製品発表されていたとしても、おそらく15インチを選んでいたと思う。

 このように機種選択は千差万別なので、熟慮の上でベストと思える製品を選んでもらいたい。なによりRetinaディスプレイモデルは、その表示の美しさが現時点では唯一と言える製品である。Apple Storeや量販店店頭などに一度は足を運んでいただき、実物をその目にした上で更なる検討をしてもらいたいものだ。

(矢作 晃)