ASRock「Fatal1ty P67 Professional」レビュー
~ユニークさ満載のゲーミングマザー

Fatal1ty P67 Professional

価格:オープンプライス



 ASRockから、Fatal1tyブランドを冠したIntel P67 Express搭載マザーボード「Fatal1ty P67 Professional」が発売された。実売価格は26,000円前後。今回借用する機会を得たので、レポートしていきたい。

 なお、既報のとおり、Intel 6シリーズのチップセットはSATA 3Gbpsポートに不具合があり、2月中旬現在このマザーボードを入手することはできない。再販は4月頃となる見込みだ。

●久々のFatal1tyブランド
1月22日に開催されたイベントで、Fatal1ty P67 Professionalを紹介するFatal1tyことWendel氏(写真提供:AKIBA PC Hotline)

 今回のIntel 6シリーズの発表にあわせて、ASRockからは本製品を含む8機種を日本市場向けに投入した。ASRockと言えば、旧世代のチップセットや拡張スロット、メモリスロットを使って、最新のプロセッサをサポートしたり、その逆の構成を採用したりする「変態(自称:ユニーク)仕様」のマザーボードで有名だが、今回もご多分にもれず、Intel P67 Express搭載でありながらLGA1156をサポートする「P67 Transformer」も投入していたりする。

 その一方で、最新チップセットで最新のCPUをサポートする定番の構成を採用したマザーボードも近年増えており、そのおかげもあって、シェアも順調に伸びているようだ。

 今回紹介するFatal1ty P67 Professionalは、「定番構成」を採用した後者だ。Fatal1tyと言えば世界屈指のプロゲーマーことJohnathan Wendel氏のことであり、2004年に発売されたAbitのマザーボード「Fatal1ty AA8XE」をはじめ、Creativeの「Sound Blaster X-Fi Fatal1ty」、XFXの「GeForce 8600 GT PROFESS1ONAL」など、長年さまざまなゲーマー向けPCパーツのブランドとして採用されている。しかしこの2年ほどあまり名前を聞かなくなったのも事実で、今回は久々の復活と言えよう。

 さて、本製品がそのFatal1tyのブランドを冠していることからもわかるように、PCゲーマー向け要素が多数取り込まれている。しかし詳細は後述するが、定番構成の中にもASRockらしいユニークさを残しているのが、本製品の最大の特徴だ。


●ハードウェア

 まずはハードウェア面から見ていこう。パッケージはFatal1ty氏の顔が大きく描かれており派手である。パッケージは見開きになっており、透明な窓を通してマザーを覗けるようになっている。最上位のマザーにふさわしい見せ方だ。

 内容物も最上位モデルらしく豊富だ。SLIブリッジをはじめ、SATAケーブルが6本、IDEケーブルが1本、FDDケーブルが1本、ペリフェラル用4ピン→SATA電源変換ケーブルが2本、3.5インチベイに収納可能なUSB 3.0ブラケット(拡張スロットにも取付可、後部には2.5インチドライブを装着可能)が1基、I/Oリアパネルシールド、マニュアルとドライバCDなどとなっている。

 欲を言えば3Way-SLIのケーブルや長めのCrossFire X用のケーブル、Fatal1tyのシール1枚や2枚などを添付してほしかったところだが、他社のマザーボード最上位が実売3~4万円台に対して、本製品は2万円台半ばなので、致し方ないところなのかもしれない。

 マザーボード本体に目を移すと、大きな赤いヒートシンクが目立つ。Fatal1tyのブランドに共通する特徴として「赤い」点が挙げられるが、本製品もそのブランドイメージカラーを踏襲しているわけだ。ただAbitのFatal1tyマザーボードでは基板が赤だったのに対し、本製品は黒となっており、全体的な印象としてはASUSTeKのゲーミング向けブランド「R.O.G.」シリーズに近い感じを受ける。それでもヒートシンクにFatal1tyのロゴやブランド名、サインを大きくあしらっており、独自性を強調している。

 本製品ではCPU周りのVRM回路にデジタルPWMを採用し、16+2フェーズの構成としている。ただし、以前レビューしたASUSTeKの「P67 WS Revolution」のように、BIOSやソフトウェア上でスイッチング周波数や許容電流量などのような細かい設定はできず、細かく突き詰めてオーバークロックしたいといったニーズには向かない。オーバークロックを楽しむというよりも、ゲーム時の高負荷に耐える安定性に重視したシンプルな設計と言えるだろう。コンデンサも100%日本製の「Premium Gold Caps」を採用し、長寿命と安定性を謳っている。

 CPUソケット周りで言えば、LGA1155/1156のCPUクーラーと、LGA775のクーラーどちらでも取り付けられる「C.C.O.(Combo Cooler Option)」も特徴。ただしLGA775の穴はやや斜めの位置に開けられているため、プッシュピンタイプでは少し斜めになる以外問題はないが、一部バックプレートを利用するクーラーは利用できないと思われる。

Fatal1ty P67 Professionalのパッケージパッケージは見開きになっている付属品など
Fatal1ty P67 Professionalの本体特徴的なチップセット/VRMヒートシンク「PROFESS1ONAL SERIES」と大きくあしらっている
VRMの実装VRM部のヒートシンクヒートシンクはチップセットの放熱も兼ねている

 拡張スロットは、PCI Express x16形状が3基、同x1が2基、PCIが2基となっている。このうちx16スロットは最上段がx16として動作するが、2段目にもビデオカードを装着するとx8+x8動作となる。3段目はIntel P67 Expressから引き出されているため、常にx4動作となる。この構成はマルチGPUでは性能的に不利になるが、CPUとチップセットの仕様上、割り切るしかないだろう。一方PCIはasmedia製の「ASM1083」を使用し、PCI Expressから変換することで対応している。

 さて、ユニークなのはインターフェイス周りだ。まず、ストレージ周りではIDE(UltraATA/133)とFDDをサポートしている。いまどきレガシーデバイスをサポートするのは珍しい。そしてUSB 3.0も6ポート実装しているが、これもほかではあまり採用例のないEtron Technology製の「EJ168A」を3個搭載することで実現している。チップセットとソケットが定番になっても、インターフェイス周りが定番ではないあたりが、いかにもASRockらしいと言えるだろう。

 一方、2ポートのGigabit EthernetはRealtekの「RTL8111E」を2個、オーディオ機能は同じくRealtekの「ALC892」オーディオコーデックによって実現されており、こちらはほぼ定番のチップだ。

 ほかに基板上で目立つ点として、POSTコードの表示と電源/リセットスイッチの実装が挙げられる。これによりバラック状態でも容易に操作ができるわけだ。なお、電源投入直後はPOSTコードが表示され、電源/リセットスイッチともに光るが、OSが起動するとこれらは消灯するようになっている。ゲーミング向けとしてはやや“大人しい”仕様と言えるだろう。

Etron Technology製のUSB 3.0ホストコントローラ「EJ168A」IDEを装備する
本体背面にも一部パーツが実装されている電源スイッチとリセットボタン、POSTコード表示部スイッチやPOSTコードは電源投入時のみ光る仕組み

●EFI BIOS

 多くのIntel 6シリーズマザーボードの特徴の1つとして、GUIを採用し、マウスで操作できるEFI BIOSを備える点が挙げられる。本製品もそのトレンドを踏まえており、マウスで操作できるGUIを採用している。そしてFatal1ty氏の顔がEFI BIOSの壁紙として大きく描かれているのが印象的だ。

 本製品のEFI BIOSは、ASUSTeKのように簡易表示モードは備えておらず、メインメニューの隣のアイコンがいきなりオーバークロック設定を行なう「OC Tweaker」になっているなど、やや上級者向けの印象が強い。なお、試用時にCPUとしてCore i7-2600K(3.33GHz)を使用したが、デフォルトで自動的にオーバークロックされ、4.6GHzに設定された(ただし試用モデルのみの仕様の可能性もある)。

 オーバークロック関連で設定できる項目は、CPUの電圧からベースクロック、CPU倍率、メモリの速度、タイミングなど多岐に渡る。設定はASUSTeKの製品と同様、数値はキーボードから入力を行なう方式であり、「マウスを使って設定できる」というよりも「マウスも一応使える」と表現したほうが良いだろう。

 オーバークロックの設定はプロファイルとして保存することも可能なため、さまざまな組み合わせでシステムをチューニングできる。ただし先述のとおり、VRMに関する設定はないため、やはりオーバークロックを極限まで行なう用途には向かないだろう。

 このほか、ファンの速度を監視したり、温度を計測したりする機能も搭載。ゲーム用途としては過不足のない内容と言えるだろう。

オーバークロック設定画面メモリのタイミングなども細かく設定できる数値の設定はキーボードで入力して行なう
Kシリーズでは一発で指定したクロックにオーバークロックしてくれるオーバークロック設定はプロファイルとして保存可能Advanced設定の画面
Advanced設定のCPU設定画面Advanced設定のストレージ設定画面ハードウェアモニタ設定画面
ブートデバイスの順番設定画面セキュリティ設定画面ではパスワードロックなどができるEFI BIOSの終了画面

●ユーティリティ

 ASRockの製品は従来からユーティリティがシンプルであるが、本製品もその特徴を踏襲している。

 まず、ハードウェアのモニタリング、ファンのコントロール、オーバークロック、マウスのポーリングレート高速化、省エネルギーの設定などを、「F-STREAM TUNING」と呼ばれる1つのユーティリティから行なうことができる。

 このうちモニタリングやファンコントロール、オーバークロックについては、読者も馴染みが深いため特に触れる必要がないだろう。これらは上記のEFI BIOSでも設定できるが、それをWindows上に持ってきたことでより手軽に設定が行なえるようになっている。

 省エネルギー設定に関しては、ほかのマザーボードと同様、CPUの負荷に応じてVRMのスイッチングフェーズ数を変更することで、なるべく高い電源変換効率を常に提供するものである。この画面ではこの機能のON/OFFだけを行なうシンプルなものだ。

ハードウェアモニタリング画面ファンコントロール画面
オーバークロック設定画面省電力設定の画面

 一方、マウスポートのポーリングレート高速化については少し触れる必要があるだろう。

 ゲーミング用のマウスを除き、一般的なUSBマウスのポーリングレートは125Hzである。つまり1秒間に125回、センサーで得られた位置情報をOSに転送する。十分高速ではあるが、よりシビアなレスポンスを求めるコアゲーマーにとって十分とは言えない。そこで、これらのユーザー向けに、ポーリングレートを500Hzや1,000Hzに引き上げ、より俊敏なレスポンスが得られるゲーミングマウスが多数発売されている。

 これらのゲーミングマウスは、本当にそのゲーマーにとって満足のいくフォルムであれば良いが、中には馴染みのあるマウスのほうが使いやすいゲーマーも存在する。そこで、これらのマウスも500Hzや1,000Hzのポーリングレートを適用し、クイックなレスポンスを得られるようにするのが、この機能のコンセプトだ。

 使用するためには、まずマウスを「Fatal1ty Mouse Port」と呼ばれる専用のポートに接続する必要がある。リアパネルで、eSATA→IEEE 1394→USB 2.0×2の順にマザーボードに対し垂直に並んでいる一番上の赤いポートがそれにあたる。ここにマウスを接続すると、ポーリングレートを125/250/500/1,000Hzの4段階に切り替えられるようになる。

 実際に手持ちのバッファローコクヨサプライ製マウス「BSMOU06SBK」を接続したところ、確かに500Hzと1,000Hzに高速化され、ポインタの動きの追従もそれに沿うようにスムーズになることが確認できた。

 なお、この機能は一部無線マウスで使用できないほか、有線マウスでも一部のゲーミングマウスでは使用できないとされている。試しに、手持ちのSteelSeriesの「Kinzu」を接続したところ、認識されなかった。

Fatal1ty Mouse Port設定の画面。対応マウスを接続すると設定が現れる本来125Hzのポーリングレートだが1,000Hzに引き上げたところちゃんと設定通りに反映された500Hzの設定にしたところ

 このほかユニークなユーティリティとして、USBのプロトコルを最適化して高速化を行なう「XFast USB」が挙げられる。バッファローの「ターボUSB」と似た機能だが、接続機器のメーカーに関わらず高速化できるのがユニークだ。初回接続時のみ、デバイスを認識してから一旦抜き差しを行なう必要があった。

XFast USBを利用するためには1回デバイスを抜き差し擦る必要がある「Turbo」を選択すると高速化機能が有効にされる「Normal」を選択すると高速化機能を無効にできる

 試しに、USB 3.0対応のWestern Digital製ポータブルHDD「My Passport」を、USB 2.0ポートに接続し、CrystalDiskMark 3.0.1で計測したところ、シーケンシャルリード速度が34.55MB/secから43.13MB/secへ、同ライト速度も28.92MB/secから35.54MB/secに高速化された。

 一方、USB 3.0でもある程度効果があるはずだが、今回テストしたストレージが2.5インチHDDということもあり、誤差程度の改善しか見られなかった。USB 3.0の実速度は250MB/sec前後であり、これはSATA 3Gbpsの実転送速度にほぼ近い。この速度を超える6Gbps対応のSSDであれば大きく改善される見込みもあるのだが、筆者が知る限りでは、6GbpsのSATAに対応したUSB 3.0変換チップがリリースされておらず、現状では意義が薄いだろう。

My PassportをUSB 2.0に接続し、XFast USBをOFFにした状態My PassportをUSB 2.0に接続し、XFast USBをONにした状態。リードで9MB/sec近く高速化されている
USB 3.0に接続し、XFast USBをOFFにした状態。USB 3.0に接続し、XFast USBをONにした状態。誤差程度の結果だ

 なお、このXFast USBは、ASRock製マザーボードであれば、従来の一部製品にも利用できるので、ぜひ活用して欲しい。

 このように、Fatal1ty Mouse PortとXFast USBは、汎用USB機器を高速化するための機能である。ゲームにおけるXFast USBの存在意義はともかく、Fatal1ty Mouse PortはASRockならではのゲーミング向けのユニークな機能と言えるだろう。

●シンプルなゲーミングプラットフォームにおすすめ

 以上まとめると、Fatal1ty P67 Professionalは3つの特徴がある。

イベントでゲームをプレイするFatal1tyことWendel氏(写真提供:AKIBA PC Hotline)

 1つ目は、定番な構成と見せつつ、ASRockらしいユニークさを取り入れている点。これはハードウェアとソフトウェア両方に共通して言えることで、(果たしているかどうかはさておき)ASRockのファンなら納得が行く構成だ。

 2つ目は信頼性と性能に重視しながら、非常にシンプルにまとめた点。16+2フェーズのデジタルVRM、日本製コンデンサ、多岐に渡るOC設定、XFast USBなど、ハイエンドマザーに求められるポイントを抑えながら、そこまで煩雑な設定をする必要もなく、ハードウェアとしてもそこまでの派手さはない。

 そして3つ目はやはり久々のFatal1tyブランドであることだ。ASRockは1月22日にゲーミングイベントを開催し、Wendel氏も来日。日本のプロゲーマーであるnasa-i氏とfumio@4Gamer氏がFPSゲーム「Quake Live」で対戦を行なったが、両氏ともにまったく歯が立たないほど強かった、というほどの実力なのだから、そのFatal1ty氏がプロデュースしたゲーミングブランドのマザーも、それほどの実力を備えていると信じたい。


(2011年 2月 21日)

[Reported by 劉 尭]