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2023年は「DOS/V」の終焉

「DOS/V POWER REPORT」の創刊は33年前の1991年。この2024年冬号をもって休刊となる

 パワレポこと「DOS/V POWER REPORT」が、12月28日発売の2024年冬号をもって休刊となった。筆者はライターとして参加した回数はごくわずかだったが、読者としては1990年代から不定期ながら購読していたのと、かつては広告を出稿する側にもいたので、今回の休刊は感傷的にならざるを得ない。

 ところで今回のパワレポの休刊によって、「DOS/V」という単語が新たに使われるケースが事実上消滅したことにお気づきの人はどのぐらいいるだろうか。いやそんなわけはない、今使っているのもDOS/Vマシンにほかならない、DOS/Vは不滅だ、と息巻く人もいるだろうが、そうしたアーキテクチャの話ではなく、表現としての「DOS/V」が、である。

 事実、かつて多数存在していた、DOS/Vという名前を冠する製品や商標は、現在は目にする機会はほぼなくなっており、身近なところで例を挙げろと言われても、今回のパワレポ以外に挙げられない人がほとんどではないだろうか。実際どうなのか、数少ない例外はどこに存在するのかを調べてみた。

ここからはパソコン老人会の提供でお送りします

 「DOS/V」というキーワードを含む言葉を挙げよと言われた時、多くの人がまず思い出すのは、今回のパワレポをはじめとする出版物だろう。しかしパワレポの休刊によって、少なくとも定期刊行物においては、これらはゼロになってしまった。

 たとえば、かつてはパワレポと並びDOS/V関連の情報源として知られた旧ソフトバンク クリエイティブの「DOS/V magazine」は、2007年末をもって休刊。毎日コミュニケーションズ「DOS/V Special」や月刊ASCIIの姉妹誌「ASCII DOS/V ISSUE」もすでにない。

 2000年代中頃までにそれらが相次いで姿を消したあと、パワレポだけが約15年にも渡って「DOS/V」という表現を守り続けてきたことになる。この間、単発のムックはいくつか刊行されていたが、最近は目にしなくなってしまった。

「DOS/V Special」最終号。こちらは2006年暮れに休刊になっており、すでに17年が経過している

 いわゆるDOS/Vショップにおいて、屋号の一部に「DOS/V」が使われている例は、かつては多く見られたが、現在生き残っているケースはほぼない。たとえば「DOS/Vパラダイス」は、2003年に屋号を「ドスパラ(DOSPARA)」に改め、現在はサードウェーブ傘下のPCショップおよびブランドとして広く知られている。

 同社は改名前から「ドスパラ」の呼び名で知られていたので、改名自体はすんなり受け入れた人が多かっただろうが、全国に幅広く支店があった同社の改名により、「DOS/V」を含むショップ名は激減した。その後も、TSUKUMOの「DOS/Vパソコン館」など、量販店の中でDOS/Vの名前を冠したショップはわずかにあったが、現在はすでに消滅している。

TSUKUMOの「DOS/Vパソコン館」はパソコン本店リユース館への業態変更により2020年に消滅している。ちなみに同社のX(旧Twitter)アカウントは今も「@TSUKUMO_DOSV」だ

 地方の小規模なPCショップまで範囲を広げるとどうだろうか。パワレポ巻末に付属する「全国PCショップリスト」を見ると、DOS/Vという単語を含む店名は、東京都あきる野市の「DOS/V Factory」だけ。バックナンバーをさかのぼって調べたが、意外にもここ10年ほどはまったく変化がない。

 このほか、ネット上にはDOS/Vパーツを販売するECサイトがいくつかあり、それらのドメインで「dosv」という文字列が使われていたり、キャッチコピーに含まれているケースは稀にあるが、店名としては見当たらない。仮に筆者の見落としがあったとしても、少なくともネットの検索で上位に出てこない時点で、極めて見つけにくい状況にあると考えられる。

分類上でだけ見られる「DOS/V」?

 雑誌名や店名ではなく、本来の用語としてはどうだろうか。一般的に、周辺機器メーカーのカタログでは、対応機種をアイコンで示すことがある。かつては「98対応」「Mac対応」といった表記と並んで「DOS/V対応」という表記があった、そう記憶している人もいるかもしれない。

 しかし調べてみると、こうした対応アイコンとして「DOS/V」という表記が使われていたケースは、実はほぼ皆無のようだ。たとえば1990年代後半に発行されたエレコムの総合カタログは、アイコンが「PC/AT」という表記で統一されており、DOS/Vという表現はその説明の中にわずかに見られるだけだ。

 もう少し時代を遡って、1990年代中頃の周辺機器メーカーのチラシを見ても、「PS/V」という表記がメインだ。DOS/Vという言葉はWindows 95でメジャーになった経緯があり、1990年代の早い時期は使われていなくても不思議ではないが、少なくともサードパーティ各社の間では、それ以降も含めてあまり使われていなかったことが分かる。

 余談だが、2000年代以降は、こうしたアイコンによる対応表記は「Windows対応」、「Mac対応」というOS別に変わり、それは現在まで続いているので、2000年代以降に「DOS/V対応」といった表記が使われていた可能性はさらに低くなる。

1990年代末のエレコムの総合カタログ。表記は「PC/AT」で統一されており「DOS/V」ではない
1990年代中頃の緑電子のCD-ROMユニットのチラシ。DOS/Vという表記はなく「IBM PS/V、COMPAQ PC対応」という表記になっている

 一方で、今なおDOS/Vという表現が使われている数少ない例外が、「DOS/Vパーツ」というカテゴリ名だ。家電量販店のPCコーナーや、ECサイトのカテゴリ一覧では、PCパーツ類がこの名前で集められていることが多い。こちらはネットで検索しても、比較的容易にヒットする。

 しかし、これらはカテゴリとしては存在しているにもかかわらず、製品にはいっさい記載がないのが面白い。今回試しに某大手量販店の「DOS/Vパーツ」コーナーで、メーカーにして4~5社、什器数本分のパーツを確認したが、パッケージにDOS/Vという単語を含む製品は1つもなかった。途中でDOS/Vという表現が姿を消したのではなく、もともと分類上でしか存在していないのだろう。

ビックカメラのホームページ。「DOS/Vパーツ関連」というコーナー名があるが、利用者に伝わっているかは微妙なところ
サンワサプライのホームページ。「DOS/Vパーツ」という名称になっているが、現在はむしろ「PCパーツ」のほうが伝わりやすいかもしれない

意外なところに残る「DOS/V」

 製品側にも「DOS/V」という表現が使われており、現在でも(かろうじて)入手可能なのが、フロッピーディスクだ。かつて一世を風靡した記憶メディアであるフロッピーディスクは、製造自体は2011年に終了しており、現在販売されている品はすべて流通在庫に過ぎないが、そのパッケージには、大きく「DOS/Vフォーマット」という文字が踊っている。

フロッピーディスク本体のパッケージにも、大きくDOS/Vと書かれている
パッケージ裏、「主な対応機種: DOS/Vパソコン」という表現が見られる。「AXパソコン」という、別の意味で解説が要求される機種名もある

 ちなみに国立国会図書館のデータベースで「DOSV」という単語を検索すると、少なくない件数がヒットするのだが、それらの中には論文をフロッピーで提出する際のフォーマットとして「DOS/Vフォーマット」を指定する注意書きが相当な割合を占める。別の用語に置換できないことから、結果的に表現が残ってしまっているわけである。

 まあ、とはいえ、これらを「DOS/V」という単語が生きて使われている事例として取り上げるのは、さすがに無理があるだろう。余談だが、フロッピーディスクに限って言えば、CREAKSが2023年11月に行なった調査で、10代の59%がフロッピーを「知らない」と回答しているくらいなので、むしろDOS/Vよりもフロッピーのほうが絶滅危惧種として取り上げられるべき存在である。

ありがとうDOSVこれからもDOSV

 最後にSNSではどうだろうか。2023年12月現在、X(旧Twitter)などで「DOS/V」について検索すると、ヒットするのは2つのパターンがある。1つは純粋に、自身のパソコン遍歴を語る中で、DOS/Vに触れるというパターンである。ブログなどでもこうした事例は多く見られる。まあこれは普通といえば普通だろう。

 もう1つは先日最終回を迎えたTVアニメ「16bitセンセーション ANOTHER LAYER」の感想を述べる中で、DOS/Vに言及するパターンだ。劇中でNECのPC-98が重要な役割を果たしていることに対して、DOS/Vの名を出してツッコミを入れるわけである。

 特に放映中盤は、DOS/Vに言及したポストをXで検索すると、ほぼすべてが「16bitセンセーション」絡みというタイミングもあったほどだ。特に劇中でフィーチャーされていないにもかかわらず、である。

 これも広い意味での昔語りの一種なわけだが、ライバル的な存在を語る時にその名が引き合いに出されるのは、あらゆるジャンルに起こりうる話で、これから先「DOS/V」という単語がなにかの機会に注目を集めるとすれば、それは今回のようにPC-98などがトリガーになるタイミングなのかもしれない。もちろんその逆も有り得そうだ。

Googleトレンドにおける「DOS/V」および「PC98」の検索結果。ハイフンやスラッシュの有無によっても変わってくるのだが、98がいまなお圧倒しているのが興味深い。ちなみに直近1年で「DOS/V」がもっとも検索されている9月24~30日は、パワレポ休刊の発表があった週である

 もっとも今回「DOS/V」という言葉を検索していて分かったのは、FAQサイトでの「DOS/Vという言葉の意味が分からない」という質問に対して、つけられている回答自体も不正確で、それがベストアンサーに選ばれていたりと、もはやDOS/Vの定義が間違っていてもツッコミすら入らなくなっていることだ。

 まあこれは、ツッコミを入れられる知識を持った人々が、FAQサイトを訪れる人の中にいないだけかもしれないが、見方を変えれば、「DOS/V POWER REPORT」という雑誌名を見ても、そうした人達にはそもそも何の雑誌なのか伝わっていなかった可能性がある。そう考えるとちょっと怖い。

 いずれにしても、現在はDOS/Vという単語自体がほぼ死語になりつつあり、その最後の砦となっていたのが、今回の「DOS/V POWER REPORT」だった可能性は高いということだ。後世になってPC史をひもといた時、「DOS/V」という単語はこの2023年を境にパタリと観測されなくなった、そうなる確率は高いと言えそうだ。

「DOS/V POWER REPORT」最終号の表紙下に掲載されている、SNSキャンペーンのハッシュタグ「#ありがとう自作PCこれからも自作PC」。「#ありがとうDOSVこれからもDOSV」でないのがある意味で象徴的だ