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「Threads」は「ポストTwitter」となり得るか

Threads

 2023年7月5日、FacebookやInstagramを運営するMetaが新たなSNS「Threads」を公開。公開から7時間で1,000万ユーザー、5日で1億ユーザーを達成して大きな注目を集めている。

5日で1億ユーザーを獲得、Twitterユーザー数の4分の1に迫る勢い

 Threadsがこれだけ話題になっているのはThreadsそのものの勢いはもちろん、競合とも言えるTwitterの昨今の動向にも大きな理由がある。イーロン・マスクの買収やその後の社員大量解雇に始まり、サードパーティーアプリを利用不可とするといったサードパーティの締め出し、最近ではタイムラインの表示回数制限や未ログイン状態での閲覧不可など、ユーザーに取ってどんどんと使いにくくなる状況が続いており、SNSでは「Twitterの次のサービス」を探す動きが強まっていた。

 そうした「ポストTwitter」が騒がれている最高のタイミングで登場したのがThreadsだ。

 Twitter同様のユーザーインターフェイスを持ち、新たなサービスでありながらInstagramのアカウントから簡単に利用することができるという手軽さに加えて、この絶妙のタイミングにリリースされたことも1億ユーザー獲得の大きな要因だろう。

 なお、Instagramの世界ユーザー数は、2022年第3四半期の数値でMetaのCEOが20億の月間アクティブユーザーがいると発言している。単純計算するならInstgramのアクティブユーザーのうち5%が利用するだけで1億ユーザーに達するという計算だ。

 対するTwitterは、2023年3月の数値で約3.9億ユーザーであることが発表されている。単純比較はできないものの、この数だけで見るとTwitterの4分の1のユーザー数をThreadsはたった5日間で獲得したことになる。

海外とSNS事情の異なりまだまだTwitterが強い日本

 なお、これはあくまで海外の数値であり、Twitterの利用者数が多い日本ではやや事情が異なる。SNSマーケティングなどを手がけるコムニコの調査によれば、国内におけるTwitterユーザー数は4,500万で、Instagramの3,300万よりも多い。

 仮に世界ユーザーの比率をそのまま日本で当てはめたとすると、国内ユーザーは165万ということになる。実数が発表されていないのであくまで仮定でしかないが、海外の勢いとは裏腹に、日本においては新規サービスとして十分以上なユーザー数ではあるものの、ただちにTwitterを脅かすほどには至っていないのだろうと推測できる。

 余談ながら、Threadsの日本語での読み方は「スレッド」、「スレッズ」どちらかという議論も巻き起こっているが、Metaのニュースリリースには「スレッズ」と明記されている。ちなみに、Metaは2019年に「Threads」という同名のアプリをInstagram向けに提供しており、その後2021年に同アプリを終了している。過去に終了したサービスの名前を再度使うほど、Metaにとって「Threads」という単語はこだわりがあるのかもしれない。

利用感は「ほぼTwitter」。不足する機能は今後拡充が明言

 Threadsの基本的な機能は、一言で言えば「一部機能が制限されたTwitter」だ。1回に投稿できるテキストの文字数こそ最大500文字とTwitter(未契約)より多いものの、投稿できる内容はテキストのほかにリンクや、写真、最大5分の動画などで、投稿はユーザーごと縦に並んで表示される。

Threadsの投稿画面。投稿範囲の選択も可能

 ほかのユーザーの投稿にはコメントやいいねをつけたり、「再投稿」「引用」という形式で自分の投稿にシェアが可能と、使い方はほぼTwitterと同じと言っていい。Twitterを使い慣れたユーザーであれば使い方に迷うことはほぼないだろう。

TwitterのRTに相当する「再投稿」、「引用」も対応

 特徴的なのはフォロー、フォロワーの関係だ。ThreadsでもTwitterのようにほかのユーザーをフォローすることができるが、ユーザー登録時にはこのフォロー、フォロワーの関係をInstagramから引き継いでいるため、Instagramは使っているがまだThreadsは登録していない、というユーザーもフォローでき、該当ユーザーが後からThreadsに登録すると正式にフォローされる、という予約のような仕組みになっている。

 新サービスにありがちな「始めてはみたものの知り合いがいない」というケースも、Instagramをある程度使っているユーザーであれば気にならないだろう。

まだThreadsを利用していないユーザーも含めてInstagramのユーザーをフォローできる

 Instagramと連携したアプリということもあり、投稿のシェア先としてInstagramのストーリーズやフィードを選択できるほか、他社サービスであるTwitterへのシェアも公式にサポートしているのが面白い。もちろん共有機能を利用してその他のサービスに投稿することも可能だ。

InstagramのストーリーズやフィードだけでなくTwitterにもシェアできる

 一方、ほかのユーザーの投稿をまとめて見ることができるフィード、Twitterでいう「タイムライン」は、現在のところフォローしたユーザーとフォローしていない有名人の投稿が入り交じって表示され、「フォローしたユーザーの投稿だけを見る」ということができない。ただこれについてはInstagramの開発を率いるアダム・モッセーリ氏が7月11日付の投稿で「今週中にも新機能を追加する」とコメントしており、本稿をお読み頂いている時点ではフォローの投稿のみを見る機能が既に搭載されているかもしれない。

フィードは現状フォローと有名人が混在して表示される

ポストTwitterとしてポジションを獲得するか。ほかのサービスとの連携も注目

 機能は今後拡充されていく前提として、フォロー、フォロワーが異なることを除けば、Threadsの利用感はほぼTwitterと同じ。しかしそのフォロー、フォロワーこそがSNSの要であり、Threadsが今後シェアを伸ばすには、どれだけTwitterのユーザーがThreadsを利用するようになるのかが鍵だろう。前述の通り海外と日本ではTwitterとInstagramの利用状況が異なるだけに、Instagramからの移行だけではTwitterを超える活性化は期待できないし、TwitterもThreadsの勢いを見て今後さまざまな対策を取ってくることが予想される。

 一方、オープンに好きな内容を投稿できるTwitterのようなサービスは日本においてはTwitter一強だった時代に、Threadsという無視のできない競合が出てきたことは、ユーザーとしては歓迎すべきことだろう。前述の通りユーザーに対して不便を強いる仕様変更が続いていたTwitterだが、ポストTwitterとして一定のユーザーを獲得し、開発力もあるMetaのThreadsが出てきたことは、Twitterも大きなプレッシャーを感じていると思われる。今後はTwitterもThreadsも、ユーザーに取って魅力あるサービスを提供することでユーザーを獲得するという流れを期待したいところだ。

 一方で視点を変えてみた時に、ThreadsはTwitter対抗というより、Metaにとってはシンプルに使いやすい第3のSNSという位置付けとも言える。Threadsが連携するInstagramは、サービス開始当初こそ写真を加工して投稿するだけのシンプルなサービスだったが、Metaの買収以降さまざまな機能が追加され、当初に比べると利用が難解なサービスになっている。

 Metaの独自サービスだったFacebookも同様で、多彩な機能は便利な反面、わかりやすいサービスとは言いがたい状態だ。

 こうした難解になってしまったInstagramやFacebookに対して、現状はシンプルでわかりやすいThreadsは、Twitterの競合と考えるよりも、Instagramをより使いやすくするシンプルなSNS、と考えたほうがいいのかもしれない。前述の通りThreadsにはInstagram連携の機能も多く搭載されており、今後はThreadsがメインになり、より凝った投稿をしたいときにInstagramを利用する、という使い方も生まれるのではないだろうか。

 また、興味深いのはThreadsが採用する「ActivityPub」という仕組みだ。これは分散型SNS向けのオープン規格で、ActivityPubで開発されたサービス同士はAPIを通じてつながることができる。同じActiviyPubを搭載したサービスとしては、分散型SNSのMastodon、Misskeyなどが代表的な存在だ。

 これまでMetaが運営してきたFacebookやInstagramは1社独自で運営する形式のサービス展開であり、分散型SNSは真逆の存在とも言える。ActivityPubによるほかのサービスとの互換性はMetaのWebサイトでも明言されており、この点がTwitterとの大きな違いになりそうだ。

 サービス開始から多くのユーザーを獲得し、ポストTwitterとして強力な位置を獲得しながらも、複雑なInstagramに対するシンプルなUI、ActivityPubによるほかのサービスとの連携など、興味深い仕様も多いThreads。今後Threadsが日本や世界のSNSでどのようなポジションを獲得するのかは注目だ。