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格ゲーの常識”60Hz”は過去のもの!? ストVは、144Hz以上のディスプレイでより優位に

~プロゲーマーガチくんとともに検証

プロゲーマーでレッドブルアスリートのガチくんとMSIの「OPTIX MAG251RX」 ©CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2020 ALL RIGHTS RESERVED.

 家庭用ゲーム機界隈で、最大で4K/120Hzまで対応できるPlayStation 5やXbox Series Xの発売を控え、ディスプレイへの注目が上昇している。パソコン業界ではすでに何年も前から144Hzや240Hzなどの高リフレッシュレートのディスプレイが発売されており、それを最大限活かせるFPS系ゲームでは、とくにプロの間では高リフレッシュレートの利用はすでに常識になっているとすら言える。

 一方で、多くの格闘ゲームでは60Hz(60fps)固定で動作するように作られているため、144Hzなどの高リフレッシュレートディスプレイは不要だと思われていた。しかし、少なくともストリートファイターVに限って言えば、そうではないということが最近判明した。

 これについては、すでに弊誌による定期配信「ガチくんに!」において、プロゲーマーのガチくんとともに検証したのだが、改めてPC Watchの記事としても検証を行なってみたいと思う。なお、本検証は編集部独自のもので、カプコン公式の見解ではない。

じつはスト4の時代から、近いことは噂されていた

 まず、なぜFPSゲーマーが高リフレッシュレートディスプレイを好むのかを説明しよう。リフレッシュレートが高いということは、1秒あたりに描画される映像のコマ数が増えることを意味する。60fpsでは1秒間に60コマだが、120fpsだと倍の120コマとなる。FPSでは、後ろに振り向くさいは大きく動き、他方、相手に照準を重ねるときは小さく精密に動かす。いずれの状況においても、リフレッシュレートが高いと、よりスムーズな動作が可能となる。

 また、たとえば、壁の後ろから敵が現われる状況では、時間にして1/120秒という僅かな差だが、120fpsでは60fpsよりも早く的を視認できるというメリットもある。

 視認性だけでなく、多くのFPSは画面を描画するごとにマウス/キーボードの入力操作も受け付けるので、上記の状況では、1/120秒早く視認したうえで、狙撃動作も1/120秒早くできる。

 一方で、格闘ゲームは伝統的に60fps固定で作られてきた。そのため、高リフレッシュレートのディスプレイを使っても、恩恵にはあずかれないと信じられていた。

 しかし、ストリートファイターでは、IVの時代から、PC版では画面描画の垂直同期をオフにすると、動作が軽くなるといった話が一部ユーザーの間で広まっていた。そして、このことはPC版ストリートファイターVにも当てはまるということが、9月ごろからプロプレイヤーなどの間で囁かれるようになっていた。

高リフレッシュレート設定が格闘ゲームでもメリットに?

 垂直同期とは、GPUによる画面描画(とそのデータ送出)とディスプレイによる描画を同期させる技術。これをオフにすると、PCの性能がじゅうぶんに高い場合は、GPUが描画できるだけ描画するようになる。もし、ディスプレイが60Hzで、GPUがそれ以上の速度(120fpsなど)で描画するとどうなるか?

 まず、前述のように、描画や入力面でメリットが得られる。その一方で、ディスプレイが1枚の絵を描き切る前にGPUから次(あるいはさらに先)のコマの映像が送られてくるため、画面の下半分は今のコマ、上半分は次のコマが同時に描かれたような映像になってしまうのだ。

テアリングの例。画面上部は、下部より先のフレームが描画されている

 この映像が上下で切れた状況を「テアリング」と呼ぶが、FPSプレイヤーにとっては、映像がテアリングで乱れても、別の恩恵が得られるので、垂直同期はオフにして、GPUに描けるだけ描かせてしまうというのが一般的になっている。

 また、昨今では、NVIDIAのG-SYNC、AMDのFreeSyncといった、ディスプレイとGPUの描画タイミングを動的に同期させることで、テアリングを回避しつつ、最大限の描画を行なう技術も投入されており、これであれば映像の乱れがないまま、よりスムーズなプレイが可能となる(G-SYNCの細かな仕組みについては、記事「NVIDIAのさまざまなディスプレイ垂直同期方式をもう一度整理する」を参照いただきたい)。

 だが、格闘ゲームでは、垂直同期を切っても、1秒間に60コマの描画というのが固定されている。また、入力の判定も1/60秒ごとにしか行なわれない。そのため、ストリートファイターが垂直同期オフで「軽く」なるというのは、にわかには信じがたいことだった。

 じっさい、筆者がストリートファイターVにて、垂直同期を切って、「ヒット確認」の精度が上がるかを確かめてみたが、効果は体感できなかった。だが、何の気なしに、ディスプレイのリフレッシュレートを144Hzにしてみたところ、いままではできなかったヒット確認ができるようになったのだ。

 ヒット確認というのは、連続技の1発目がヒットしたかガードされたかを目視したうえで、ヒットしたときのみ連続技に続ける高度なプレイ。ストリートファイターVでは、ヒット確認の猶予が15F(15フレーム=0.25秒)以上なら、練習次第である程度の精度で実現できるとされている。だが、144Hz環境だと猶予が14F(約0.233秒)の連携にも反応できるようになるのだ。

ガチくんとともに検証

 筆者は一カジュアルゲーマーで、筆者の判断にはあまり信憑性がないので、この点についてガチくんに同席してもらい、再度検証を行なった。利用したディスプレイはMSIのOPTIX MAG251RXだ。

MSIのOPTIX MAG251RX。最大リフレッシュレートは240Hz

 ディスプレイ設定については、まず、60Hz/垂直同期オン(標準)、60Hz/垂直同期オフ、144Hz/垂直同期オン、144Hz/垂直同期オフ、240Hz/垂直同期オン、240Hz/垂直同期オフの6パターンを試した。

リフレッシュレートの変更は、GeForceの場合は、NVIDIAコントロールパネルを起動、ディスプレイ→解像度の変更を選び、解像度の一覧から「Ultra HD、HD、SD」ではなく「PC」配下にある1920×1080を選ぶと、144Hzや240Hzが選べる
OPTIX MAG251RXでは、OSDでもリフレッシュレートをすぐ確認できる
垂直同期のオン/オフは、3D設定→3D設定の管理を選び、プログラム設定タブから、カスタマイズするプログラムを選択するで「Street Fighter V」を選び、下の一覧で「垂直同期」を変更する

 検証内容は、CPUをランダムでガードする設定にし、ラシードのしゃがみ中キックがCPUにガードされたらそのまま、ヒットしていたら必殺技のコンボにつなげるヒット確認。この連携におけるヒット確認の猶予時間は14Fだ。それぞれのパターンで20回ずつ試行してもらい、成功数を数えた。

 ここで言う成功数は、1打目がヒットし、きちんとコンボにつなげられた場合を指す。1打目がガードされて、その後、技を出さなかった場合、ヒット確認としては成功しているが、今回は、猶予時間内にボタンを押せていることを成功とし、ガードの場合は成功としてカウントしていない。

ガチくんに、持ちキャラであるラシードを使い、14Fの猶予しかないヒット確認を試行してもらった ©CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2020 ALL RIGHTS RESERVED.
設定成功数
60Hz/垂直同期オン2
60Hz/垂直同期オフ4
144Hz/垂直同期オン7
144Hz/垂直同期オフ9
240Hz/垂直同期オン9
240Hz/垂直同期オフ7

 CPUが1打目をガードするかどうかはランダムなので、成功数はそのランダムさに多少影響されるものの、20回試行すれば、そこそこ優位な結果は得られるだろう。結果として、60Hz/垂直同期オフだけでも、ある程度の向上が見られた。そして、144Hzと240Hzについては、垂直同期の設定に関わらず、大きな向上が見られた。

なぜ高リフレッシュレートで優位性が得られるのか

 なぜ、このような差が出るのか? あくまでも推測だが、これは、リフレッシュレートを上げることで、1枚あたりのフレームを描画する時間が低減しているためだと思われる。

 NVIDIAが提供する計測ソフト「Frame View」を使い、各モードで各フレームの描画コマンドが発行されて、それが表示されるまでの時間を計測した平均値(単位はms)が次のものだ。

60Hz/垂直同期オン60Hz/垂直同期オフ144Hz/垂直同期オン144Hz/垂直同期オフ240Hz/垂直同期オン240Hz/垂直同期オフ
29.872321.38937.97127.58428.35255.1931

 リフレッシュレートが上がることで、描画時間が短縮されているのがわかる。60Hzのとき、16.67msを超えている理由は不明なのだが(もしかすると60Hzでは、常に描画が1F遅れているのかもしれない)、60Hzと144Hz/244Hzとでは、描画時間が1F分ほど違っている。

 ストリートファイターVでは、1秒あたりの描画枚数は、リフレッシュレートに関係なく60枚だが、144Hz以上では、その各々のフレームの描画結果が60Hzより約1F分早く目に届き、それによってヒット確認の猶予時間が約1F分延びているものと思われる。

 垂直同期については、オフにすることで、さらに描画時間が短縮されている。と言っても、240Hzの場合だと、その差は1,000分の3秒。誤差の範囲だ。144Hzに至っては、10,000分の4秒しか違っておらず、人間に認識出る差ではない。

 60Hzで垂直同期をオフにするだけでも、0.5F分ほど描画時間が短縮されている。テアリングが発生しているので、とある瞬間においては、画面の上半分程度だけ、本来よりも1コマ先のフレームが描画されていることになる。その効果は、今回のガチくんのヒット確認の結果にも現われているが、144Hz以上ほどではなかった。じっさい、ガチくんも、明らかに144Hz以上の方がヒット確認がしやすいと語っている。

 また、垂直同期をオフにすると、テアリングによって映像が観にくくなる。その点を踏まえ、現状でのSteam版ストリートファイターVの理想環境は144Hz以上のディスプレイを垂直同期オンで利用するということになる。

 なお、ストリートファイターVでは、キャラクターの上に表示されるヒット/ガードエフェクトか、体力ゲージの下にあるスタンゲージの変化でヒット確認ができる。いずれも、完全に同時に変化するのだが、ディスプレイは、画面上部から1ラインごとに描画されるため、これもほんの僅かな差だが、画面上部にあるスタンゲージの方が、その変化をより速く視認できる。

高リフレッシュレートの影響

 おそらくストリートファイターVのプロプレイヤーは、もともと14Fの猶予時間で反応するだけの能力を持っていたのだろう。だが、これまでは機材の制約で15Fの確認がほぼ限界となっていた。144Hz以上のディスプレイを使うことで、その制約が緩和され、あと0.016秒ほど突き詰めた14Fのヒット確認ができるようになったのだと言えそうだ。

 ガチくんは、こうした環境では、プレイヤーが持つ潜在能力がより発揮され、いままでよりもレベルの高いせめぎ合いができるようになるため、プレイヤーとしては歓迎だと話している。

 一方で、大会やイベントなどでは、60Hzの環境が一般。パソコンではなくPlayStation 4(PCよりも遅延があるとされている)が使われることもまだ多い。そうすると、自宅のパソコンではできていたヒット確認ができなくなるだけでなく、ボタンを押すタイミングを体感でずらす必要が出てくる。

 しかし、この点についてガチくんは、「プロ野球選手が、球場によって人工芝や天然芝などの環境の違いを言い訳にできないのと同じで、プロゲーマーもあらゆる環境に合わせた準備をしておく必要がありますよね」と、複数の異なる環境を受け入れたうえで、それぞれの環境で最善を尽くしていくことで、ファンの人たちにより良いものを見せられることにつながると語っている。

OPTIX MAG251RXの仕様と特徴

 最後に今回利用したMSI OPTIX MAG251RXの仕様と特徴を紹介しておく。

 パネルは格闘ゲームで一般的な24.5型のIPS、解像度は1,920×1,080ドット(フルHD)、最大リフレッシュレートは240Hz、最大表示色数は約10億7,300万色、輝度は400cd/平方m、コントラスト比は1,000:1、視野角は上下/左右とも178度。応答速度も1msと高速で、残像感のない描画が可能。

 G-Sync Compatibleなので、フレームレートの変動が激しいFPS系ゲームでもかくつきやテアリングが発生しない。DisplayHDR 400にも対応する。インターフェイスは、HDMI 2.0×2、DisplayPort 1.2a、USB Type-C(DP Alt対応、15W給電可能)で、USB 2.0×3も装備する。

 本体サイズは560.1×182.4×507mm(幅×奥行き×高さ)、重量は5.4kg。スタンドは、上下-5~20度のチルト、最大130mmの高さ調節が可能だ。

正面
背面
右側面
左側面
左側面にはUSB 2.0×3
ディスプレイインターフェイスは、HDMI 2.0×2、DisplayPort 1.2a、USB Type-C(DP Alt対応、15W給電可能)
背面にOSD操作用のジョイスティック

[制作協力:エムエスアイコンピュータージャパン株式会社]