イベントレポート

【IFA AMD基調講演レポート】AMD is backと力強く宣言

AMD 上席副社長 兼 CTO(Chief Technology Officer、最高技術責任者) マーク・ペーパーマスター氏

 AMDは、ドイツ共和国ベルリン市で9月2日~9月7日の日程で開催中のIFAの会期2日目となる9月3日に、同社上席副社長兼CTO(Chief Technology Officer、最高技術責任者)のマーク・ペーパーマスター氏による基調講演を行なった。

 今年(2016年)のIFAの基調講演のラインナップは、家電向けのコンポーネントを提供するBSH Hausgeraete、自動車メーカーのDaimler AG(僚誌Car Watchの記事を参照)、IBMというラインナップで、クライアント向けのIT技術を提供する企業としてはAMDが唯一の存在となっていた。

 AMDの基調講演は、VRにフォーカスした内容で、同社が6月に発表をした新しいGPUとなる「Radeon RX 480」などをアピールした。

没入型コンピューティングの時代を支える新製品

 AMD上席副社長兼CTOのマーク・ペーパーマスター氏は講演を、過去にこれまでどのようにテクノロジーが進化してきたのかという話から始めた。

 「ラジオが登場して、家庭がオーディオで繋がるようになった。そしてTVが登場し、ビジュアルが加わった。そして1980年代にPCが登場すると、それが双方向になり、スマートフォンが登場してPCがモバイルになった。まさにそうして日々の生活が変わっていったのだ」と通信方法の遍歴を説明。そして来たるべき次の進化として「Immersive Computing Era(没入型コンピューティングの時代)へようこそ」と、VRやARのように没入型のディスプレイを利用したコンピューティングが次の転換点だとした。

ラジオ、TV、PC、スマートフォンと進化してきた通信デバイス
Immersive Computing Era(没入型コンピューティングの時代)の到来

 その上で、VRに代表されているような没入型コンピューティングの時代がなぜ今来ているのかについて「いくつかの理由がある。1つにはコンテクストアウェアネスの進化であり、GPUやCPUに代表されるようなコンピューティングパワーの増大、そしてアプリやコンテンツの配信システムの整備が進んだことなどが挙げられる。そして、これが一番大事なことだが、急速にコンシューマでも充分に買える価格帯でのHMDが出そろいつつある」と述べ、VRを楽しむための環境の最後のピースになっていった、Oculus RiftやHTC Vive、そしてPlay Station VRのような安価なVR HMDが登場したことが起爆剤になったと説明した。

 ペーパーマスター氏は「PCディスプレイ、そしてVR HMDとし進化していく中で、将来は実写のような仮想現実が実現するだろう。その時にはフルHDの64倍もの解像度で、1,000TFLOPSの処理能力が必要になるだろう」と述べ、今後もCPU、GPUの処理能力を上げていくことが重要だとした。

VRの普及の鍵の最後のピースは安価なVR HMD
PCディスプレイからVR、そしては実写のような仮想現実へ

 VRに対応するためのAMDのGPU製品として、Radeon RXシリーズを紹介し、さらにプロ向けのRadeon Proシリーズも8月に発表したことなどを説明したほか、8月中旬にAMDが概要を明らかにした次世代CPUの「Zen」について、40%のIPC向上など、非常に高い性能向上があり、VR用途にも有効だとした。

Polarisを採用したGPU
Zenを紹介

 また、VRのソフトウェア開発には、AMDが昨年(2015年)から提供しているGPUソフトウェアスタックをオープンソースにしているGPUOpenの取り組みが役立つと紹介し、ソフトウェア開発者に採用を呼びかけた。

VRの大衆化が必要、そのための武器となるRadeon RX 480

 ここで、スピーカーはAMDアライアンス&コンテンツ担当 副社長 ロイ・テイラー氏に替わって、講演は続けられた。テイラー氏は「これまでの121年、我々は画面を通じて何かを見てきた。しかし、VRはそうしたことを全て変えてしまう」と述べ、VRが画面を通したユーザーインターフェイスを大きく変える可能性があることを指摘した。そして、そのVRには3つのカテゴリがあり、それぞれに注目ポイントがあるとした。その3つとは、ゲーム、VRaaS(VR as a Service)、そしてVR体験だ。

AMD アライアンス&コンテンツ担当 副社長 ロイ・テイラー氏
VRが全てを変える

 そうしたVRコンテンツの開発は、今や元々はゲームエンジンとして作られていたものがVR体験のコンテンツなどにも応用されており、非常に多くのコンテンツメーカーがVRコンテンツの開発に関わっている。また、従来型のVRコンテンツ(例えばゲームなど)だけでなく、ソーシャルVRとでも言うべき、SNSのVR版のような取り組みなどの広がりが出てきているとした。

 VRコンテンツ作成には、Radeon ProRenderと呼ばれるレンダリングエンジンが利用できると紹介し、それを活用するには、AMDが発表したRadeon Pro SSGと呼ばれるSSDを内蔵しているRadeon Pro(別記事)が最適だと紹介した。

VRコンテンツの3つのメジャートレンド
Radeon Pro SSG

 その上で、いわゆるAAAのコンテンツ、例えばバトルフィールド4のようなゲームは全体で1億ドル、1分あたり83万3千ドルの開発費がかかり、ペイするには1,000万本を販売しなければ難しいという計算もある。ハリウッド映画「The Martian(邦題:オデッセイ)」の場合は全体で1億800万ドル、1分あたり77万ドルの制作費がかかり、それをペイするに6,300万のチケットを売らないといけないなどの例を紹介し、コンテンツホルダーがVRを魅力的なプラットフォームだと思ってくれるには、現状のようなVR HMDの普及率では足りないと指摘した。

コンテンツの開発には大きなコストがかかる

 テイラー氏は「VRは1%のユーザーのためのものであってはならない、もっと求めやすい価格になる、つまり大衆化が必要だ。多くのユーザーが購入するようにしなければならない」と述べ、ドイツの小売業者CSLが、Intel CPU+AMD Radeon RX 480を搭載したPCを699ユーロで販売することを紹介し、Radeon RX 480などPolarisベースのGPUが登場したことで、VR導入のハードルが下がりつつあることを強調した。

VRのさらなる低価格化が必要に
Radeon RX 480の登場がVRの低価格化を促す

 最後にペーパーマスター氏が再登壇すると「没入感の時代は間違いなく来るし、そのためにはもっともっとコンピューティング能力が必要になる。そのために、ロードマップを加速し、PolarisやZenのような製品を今後もどんどん投入していく。AMDは帰ってきた(AMD is back)」と述べ、AMDが停滞期を抜け、今後新しい製品の投入を加速していくので期待して欲しいとして、講演を締めくくった。

2017年には270万台のVR HMDが出荷されると予想されている
AMDが今後もImmersive Computing Era(没入型コンピューティングの時代)を加速していく