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富士通、個人向けPCのラインアップを見直しへ
~通期見通しを下方修正、PCを課題事業に認定
(2013/2/8 13:29)
富士通株式会社の山本正已社長は7日、中期経営方針を発表。その中で、PC事業を課題事業の1つに位置付けるとともに、今後、コンシューマPCのラインアップの見直しに着手。PCの開発およびマーケティングの約100人の社員を、モバイルサービスや次世代端末の開発にシフトさせる考えを示した。
山本社長は、2012年度において海外事業とデバイス事業とともに、PC事業が年初計画を大幅に下回ったことをあげ、PC事業の改革に取り組む必要性を示した。
富士通が発表した2012年度第3四半期連結業績によると、PCおよび携帯電話を含むユビキタスソリューションの売上高は前年同期比11.5%減の2,665億円、営業損失は同41億円減の20億円の赤字となった。そのうち、PCおよび携帯電話の売上高は前年同期比11.0%減の2,069億円と前年割れとなっている。
富士通の加藤和彦取締役執行役員専務は、「10月時点で、価格低下を理由にPCの売り上げ計画を下方修正した経緯があるが、第3四半期はそこで見込んだ以上に価格低下が進展。さらに、販売数量も減少し、厳しい状況が続き、PCは赤字となった」と説明。PCの2012年度の年間出荷計画を、当初の700万台から100万台減の600万台とした。2011年度のPCの出荷台数は602万台であり、ほぼ前年並みの目標値となる。
不振の理由は国内および海外の両面にある。
「国内のPC事業においては、第3四半期に在庫対策を行なったため、赤字が大きく出てしまった。日本においては、Windows 8の販売を契機にコンシューマPCの成長を考えていたが、結果として、損益を優先し、台数を絞り込んだ」と、第3四半期での国内PCビジネスの減速感を示す一方で、「PCの下方修正の要因の多くは、欧州のFTS(富士通テクノロジー・ソリューションズ)によるもの」だとし、「欧州景気の低迷に伴うIT投資の落ち込みと、価格競争の激化で、FTSの損益が急速に悪化した」とする。
だが、「欧州におけるPCビジネスは、第2四半期まで厳しい状況であり、採算性が悪かったものの、第3四半期の後半から大幅に改善してきた。欧州ビジネスは、ようやくブレイクイーブンが見えるところまできた」とも語る。
山本社長は、「我々の戦略が甘かったことは反省点。戦略変更を行ない、従来の販売台数拡大路線を見直し、付加価値の高いコンシューマPCを増やすことに戦略を変えたことが功を奏している。第4四半期に向けて出血は止まった」と山本社長は欧州のPCビジネス回復の理由を示す。
しかし、欧州ビジネス不振の要因となっているFTSは、大幅な体質転換を行なう姿勢を示す。「FTSは、PCやサーバーなどのハードウェアに依存し、市場動向に左右されやすい事業構造が低収益の原因。今後はハードウェアを基盤としながらも、箱売りからは脱却し、サービスビジネスを中心としたモデルへと転換を図る」(山本社長)とし、FTSを、従来のハードウェアビジネス中心から、サービス中心のビジネスモデルへと転換。人員削減を踏まえて、1億5千万ユーロの収益改善策を実行する考えを明らかにした。
山本社長は、「FTSは優良な顧客ベースと、広いパートナーネットワークを持っている。ハードウェアビジネスのコスト構造改革を進めると同時に、サービスビジネスを拡大することで収益性を改善できる」などとしている。
100人規模でモバイルサービスに人員シフト
一方、PC開発およびマーケティングの人員を、モバイルサービスや次世代端末の開発部門へと、100人規模でシフトさせるという。
山本社長は、「スマートフォン、タブレットの浸透によってコンシューマPCの需要が低迷する一方、モバイル端末を対象にしたさまざまなサービスが生まれるという市場変化が起こり、部門内のリソース配分にミスマッチが生じている」と語り、「コンシューマPCでは一部ラインアップを見直すことになる。商品戦略とマーケティング戦略においては、対象市場を絞り込んだ戦略的フォーカスの見直しを進める。ノートPCのLIFEBOOKにおいても、付加価値のあるところに投資を集中していく。いまは、PCよりも、タブレットの勢いの方が強い。タブレットにリソースシフト、ビジネスシフトをかけていきたい」とした。
同社では、全社方針として、垂直統合型ビジネスモデルの構築に向けてのリソースシフトも発表しており、全社規模で新規商品の拡販に必要な営業ソリース確保のために500人規模の人員シフトを行なうことも明らかにした。
また、その一方で、「規模が小さくてもコンシューマPCビジネスは継続していく」と語り、「PC事業は昨年度までは利益が出ていた事業。ハードウェアを自社で作る意味がないのではないかという指摘もあるが、生保向けにタブレットベースの製品を導入するなど、細かい要求に応えるには、自社でハードウェアを生産する意味がある」とした。
国内生産ラインなどについては、「工場の固定費コストの変動費化が進み、需要変動に対応できるようになっており、これをベースに一層のモノづくり革新を進める」と語った。
富士通では、中期的な目標として、PC事業において、年間1,000万台の目標を掲げているが、「1,000万台の旗を降ろすということはない。PCだけでなく、タブレットを含めて、幅広い製品で1,000万台を目指すことになる。この分野は、ボリュームが重要であることには変わりがない。一定数量のビジネスは必要である」(山本社長)などと語った。
「BtoBtoFront」で強みを発揮する
山本社長は、「PCというジャンルは、富士通が強い領域であったが、今後はモバイルデバイスという広い観点で考えなくてはならない。PC単独で生き残るのはかなり厳しいと考えている。PC、タブレット、次世代端末などをどう進化させていくかが重要。いまのタブレットの使われ方をみると、ワークスタイルが変わり、ほとんどの人がタブレットを用いて、現場で仕事をするのではないかとも思えるほどだ。富士通は、サービスを含めた形でモバイルデバイス事業を推進したい」とした。
今回、山本社長は、BtoBtoFrontという言葉を使った。「世の中には膨大な数のセンサーが広がり、これらから集まってくるデータに対して、リアルタイム技術を活用して、コンシューマ活用やビジネスの現場、フィールド機器での新サービスを提供するチャンスがある。タブレットなどを活用するスマートデバイスソリューションは、商談が活発な分野となっている。富士通はこうしたフロント領域での新たなビジネスを『BtoBtoFront』サービスと位置付けて強化していくことになる」と語り、PCを始めとするモバイルデバイスを今後も積極投入していく姿勢を強調した。
なお、富士通では、中期経営計画として、2015年度に営業利益2,000億円以上、純利益1,000億円以上、フリーキャッシュフロー1,000億円以上を目標に掲げることを公表。一方で、半導体事業の再編による同事業における4,500人の社員転籍、富士通グループで国内外5,000人の人員削減策を発表した。
山本社長は、「人事施策、徹底的なコスト構造の見直し、効率的なコーポレートの実現、市場構造の変更への対応の4つの観点から踏み込んだ攻めの構造改革を実行する。急激なV字型の損益回復を実現するためには、大胆なコスト削減と、成長軌道回帰に向けて思い切ったリソースシフトを同時に進めていく。成長戦略の柱は、垂直統合力を生かしたビジネスモデルの構築になる」などとした。