日本HDD協会2011年1月セミナーレポート
~7億台に達する2011年のHDD市場

セミナー会場に映された、講演前のスライド

1月21日 開催

会場:発明会館(東京都港区)



 ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は1月21日、「2011年度のHDD業界展望と、トップの抱負と取り組みを語る!」と題するセミナーを開催した。セミナーでは、アナリストが2010年~2011年のストレージ市場を展望するとともに、HDD業界の企業トップが事業戦略を説明した。本レポートでは、アナリスト2名による講演の概要をご紹介する。

 セミナーではまず、日本HDD協会の専務理事を務める安達三郎氏が、同協会の概要を簡単に説明した。過去の「日本HDD協会セミナーレポート」では日本HDD協会について説明することがなかったので、この機会に安達氏の講演を報告することで、日本HDD協会を少しだけ紹介したい。

 日本HDD協会は、HDD業界の世界的な団体「IDEMA(International Disk Drive Equipment and Material Association)」の日本支部でもある。このため「IDEMA JAPAN」とも称する。歴史的な順番ではIDEMA JAPANの方が早く、日本HDD協会とも称するようになったのは、後からだ。

 IDEMAは米国で1987年に誕生した。米国以外には、日本支部(IDEMA JAPAN)が1992年に、アジア太平洋支部(IDEMA Asia Pacific:事務所はシンガポール)が1994年に設立されている。現在の会員社数は全世界で189社。内訳は米国本部が51社、日本支部が102社、アジア太平洋支部が36社となっており、日本支部の会員社数が最も多い。米国本部の会員社数は最盛期には百数十社を数えていたが、半分以下に減ってしまった。会員社の業種はHDDメーカー、SSDメーカー、磁気ヘッドメーカー、磁気媒体メーカー、HDD製造装置メーカー、HDD用精密部品メーカー、ディスク・コントローラLSIメーカーなどである。

 続いて、アナリストによる講演をご報告する。講演者は以下の2名。いずれもHDD業界を代表するアナリストだ。

 久保川昇氏(インフォメーションテクノロジー総合研究所 チーフアナリスト)
 馬籠敏夫氏(テクノ・システム・リサーチ ディレクター)

 なお、セミナーの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートに掲載した画像は、講演者と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものである。

●2010年のHDD出荷は前年比16.8%増の6億4,880万台

 久保川氏は「2011年のHDD市場展望~不況と好況のはざまで」と題し、2010年のPC市場とデジタル民生市場、HDD市場を振り返るとともに、2011年の各市場を展望した。なお久保川氏は1994年1月から毎年、1月の日本HDD協会セミナーでHDD市場の現状と行方を解説してきた。「年頭の顔」ともいえる、国内HDD業界では恒例の講演である。

 久保川氏の講演を一言でまとめると「2008年のリーマン・ショック以降、HDD業界は神経過敏な精神状態にある」ということだろう。HDDの最大の顧客であるPCの景気動向、それも短期的な動向に異様に敏感になり、HDD生産は急加速と急減速を繰り返すようになった。いわば自動車のアクセルとブレーキを頻繁かつ急激に踏み換える状態である。このため、2010年のHDD出荷台数は前年比16.8%増と数字だけ見ると好調だが、その内情は過剰生産と在庫調整の繰り返しになったと久保川氏は解説した。

 ちなみに2010年のPC出荷台数は前年比15.7%増の3億4,960万台、HDD出荷台数は同16.8%増の6億4,880万台と推定した。HDDメーカーごとの出荷台数シェアはWestern Digitalがトップで31.3%を占め、Seagate Technologyが30.3%でわずかに及ばず2位となり、2009年の1位と2位が入れ替わった。3位は日立グローバルストレージテクノロジーズ(HGST)で17.2%を占めた。4位の東芝(富士通のHDD事業を吸収)は10.9%となり、2009年に東芝と富士通が占めたシェアの合計である13.6%を維持できなかった。5位のSamsung Electronicsは10.3%を占め、2009年の9.2%からシェアを伸ばした。なおHDD市場は上記5社で、ほぼ100%のシェアを占めている。

 PCの出荷台数推移で注目すべきは、2010年第3四半期と第4四半期に伸びが鈍っているようにみえることだ。スマートフォンの代表機種であるiPhoneと、スレートPCの代表機種であるiPadの影響が現れていると久保川氏は分析した。PCの出荷台数にiPhoneとiPadの出荷台数を重ねると、2010年第3四半期と第4四半期の出荷台数は過去からスムーズに伸びているようにみえる。2010年末のクリスマス商戦は好調と伝えられているにもかかわらず、PC出荷がそれほど伸びなかったのは、iPhoneとiPadに個人消費が流れているからだとする。

PC出荷台数の四半期ごとの推移。出典:インフォメーションテクノロジー総合研究所HDD出荷台数の四半期ごとの推移。出典:インフォメーションテクノロジー総合研究所PCの出荷台数推移と、iPhoneとiPadの出荷台数推移。出典:インフォメーションテクノロジー総合研究所

●デジタル民生向けのHDDは頭打ち

 PC以外の用途にも目を向けよう。HDDの用途別出荷台数は、デスクトップPC向けが23.4%、ポータブルPC(ノートPCとネットブック)向けが31.6%を占める。それから増設/保守などのアフターマーケット向けが24.5%あり、その大半がPC用だと推定される。全体では約70%をPC向けが占めている。残りの30%が非PC用となる。

 非PC用市場でかつて希望の星だったのは、デジタル民生(コンシューマエレクトロニクス)だ。コンシューマエレクトロニクス(CE)向けの比率は現在、15.5%とそれほど大きくない。その6割はビデオ録画用である。HDD内蔵Blu-ray Discレコーダ、セットトップボックス、HDD内蔵TV受像機といったデジタル家電が、ビデオ録画用にHDDを搭載している。次に大きいのは、およそ4分の1を占める据置き型ビデオゲーム機である。ビデオ録画とゲーム機で、コンシューマエレクトロニクス(CE)向けの9割を占めることになる。HDDがストレージの主役である用途は、デジタル民生分野では明確に絞られてしまった。

 HDD出荷台数に占めるコンシューマエレクトロニクス(CE)向けの割合は2003年~2004年頃に急伸し、2005年にはおよそ15%に達した。しかしその後は、頭打ちの状態が続いている。新しい用途を見つけない限り、今後の大きな伸びを見込むことは難しい。

HDD出荷台数の用途別割合。出典:インフォメーションテクノロジー総合研究所コンシューマエレクトロニクス(CE)向けHDD出荷の内訳。出典:インフォメーションテクノロジー総合研究所

●2011年のHDD出荷は7.6%成長の6億9,840万台と予測
2011年のPC出荷台数とHDD出荷台数の見通し。出典:インフォメーションテクノロジー総合研究所

 久保川氏は講演の後半で、2011年のPC市場とストレージ市場を展望した。

 リーマン・ショック以降の落ち込みから、HDD市場の底打ちは確認できたものの、回復はゆるやかである。先進国市場と新興国市場では、先進国は個人消費が比較的堅調であり、新興国は再び拡大期に入っている。こういった現状認識のもと、2011年のPC出荷台数を前年比7.8%増の3億7,690万台、HDD出荷台数を同7.6%増の6億9,840万台と久保川氏は予測した。

●記憶容量ベースの出荷量は年率50%前後で増加
2010年のHDD出荷台数(推定値)。出典:テクノ・システム・リサーチ

 馬籠敏夫氏は「メディアタブレットとSSD搭載パソコンのHDD市場への影響」と題し、スレートPC(タブレットPC)の組み込みフラッシュメモリやSSDといったフラッシュメモリ・ストレージとHDDを比較しながら、ストレージ市場の行方を展望した。

 馬籠氏はまず、2010年のHDD市場を概観した。2010年のHDD出荷台数は前年比17.1%の6億5,242万台と推定した。用途別ではコンピュータ(エンタープライズ)向けが7.7%(5,000万台)、PC向けが54.1%(3億5,200万台)、増設などのアフターマーケット向けが24.6%(1億6,100万台)、コンシューマエレクトロニクス(CE)向けが13.6%(8,900万台)である。ただし、これらの推定値は2週間前に作成したもので、実際には6億5,000万台ちょうどくらいになりそうだと最新の見解を講演では述べていた。

2008年~2010年のHDD市場まとめ。出典:テクノ・システム・リサーチ

 続いて2008年~2010年の市場規模をいくつかの視点からまとめてみせた。HDDの出荷台数成長率では2008年が7.5%成長、2009年が3.8%成長、2010年が17.1%成長である。HDDの出荷金額は2008年が326億9,500万ドル、2009年が298億4,900万ドル、2010年が335億4,500万ドルであり、2010年はわずかだが過去最高を更新した。平均単価は2008年が60.9ドル、2009年が53.6ドル、2010年が51.4ドルと漸減してきた。

 注目すべきは記憶容量ベースの出荷量である。2008年は前年比55.8%増の134エクサバイト(EB:1エクサバイトは10の18乗バイト)、2009年は前年比43.3%増の192EB、2010年は前年比53.6%増の295EBと年率50%前後の急激な拡大を継続してきた。そしてHDD 1台当たりの記憶容量は2008年が250GB、2009年が344GB、2010年が452GBとこれも急激な増大が続いている。極めつけは記憶容量当たりのコストで、1GB当たりのコストは2008年が0.24ドル、2009年が0.16ドル、2010年が0.11ドルと急速に低下してきた。コストはわずか2年で半分未満に下がっている。圧倒的に大きな記憶容量と極めて低いコストがHDDの最大の武器であることを、改めてみせつけられる数値だ。

 2011年のHDD出荷数量は、前年比8.6%増の7億850万台になると馬籠氏は予測した。「約7億台」が2011年の市場規模になると述べていた。成長率は8.6%であり、2桁成長は期待しづらく、逆に、マイナス成長もほぼ考えられないという見通しだ。

 記憶容量の増大トレンドでは、3.5インチでプラッタ当たり1TB、2.5インチでプラッタ当たり500GBを記憶するドライブの生産が立ち上がる。フォームファクタ別の見通しは、エンタープライズ用ドライブが好調、3.5インチドライブが堅調だが、2.5インチモバイルドライブは大きな伸びが期待できず、1.8インチドライブは漸減となる。

HDD出荷数量推移(1990年~2011年)。出典:テクノ・システム・リサーチ2011年のHDD市場見通し。出典:テクノ・システム・リサーチ

●スレートPCの業務用進出がノートPCの成長を侵食

 本題であるメディア・タブレット(スレートPC)とSSDがHDD市場に与える影響を、馬籠氏はあまり楽観視していない。iPadやタブレットPCなどが業務用に導入され始めており、ノートPC、すなわち2.5インチHDDへの影響が無視できない、とする。具体的には、在庫管理や電子カルテ、自動車教習所、工場などで端末として使われる可能性がある。

 メディア・タブレット(スレートPC)はフラッシュメモリをストレージに搭載しているので、HDDの顧客とはならない。スレートPCが増加してノートPCの市場が食われれば、HDDの市場も食われることになる。

 すでに個人用ノートPCとネットブックでは、iPadの影響が現れている。iPadが市場に投入されたことで、ノートPC市場の見通しはかなりの下方修正を余儀なくされた。もちろんノートPCの成長が止まることはないのだが、成長率を押し下げることになった。具体的には、2009年のノートPC出荷台数を1億6,280万台とすると、「iPad登場以前」は2010年が2億800万台、2011年が2億5,200万台、2012年が3億台と予測されていた。

 ところが「iPad登場以降」は2010年が1億9,733万台、2011年が2億2,780万台、2012年が2億6,100万台と低めに修正された。2012年ではiPad以前とiPad以降で、3,900万台の差がある。一方でメディア・タブレット(スレートPC)の出荷台数は2010年が1,950万台、2011年が5,280万台、2012年が7,800万台との予測になっている。メディア・タブレット(スレートPC)のおよそ半分が、ノートPCの市場を侵食したという影響度だと分かる。

メディア・タブレット(スレートPC)の位置付け。出典:テクノ・システム・リサーチノートPC市場の予測値にメディア・タブレット(スレートPC)が与えた影響。出典:テクノ・システム・リサーチ

 SSD搭載ノートPCは2009年にマイナス成長となったが、2010年には再び増加傾向に入った。特に、2010年10月に発表された新型「MacBook Air」がHDD搭載モデルを用意せず、フラッシュメモリ搭載モデルだけとしたことは、注目すべき出来事であり、2011年にはノートPCのトップベンダーが、同様のモデル(フラッシュメモリ搭載モデルを主力としたノートPC)を市場に投入するだろうと馬籠氏は指摘した。

SSD搭載ノートPCの台頭。出典:テクノ・システム・リサーチパソコン向けSSDの出荷予測。出典:テクノ・システム・リサーチSSDの出荷台数予測(2008年~2013年)。出典:テクノ・システム・リサーチ

 SSDがノートPCのストレージで主役となることは、近い将来にはありえない。馬籠氏の予測では、2012年のPC市場でSSDの採用率は4.6%にとどまる。またPC以外の用途を含めても、SSDの出荷台数は2013年でもHDD出荷台数の6.8%にしかならない。出荷台数ではSSDとHDDでは圧倒的な差がついたままだろう。

 問題は、記憶容量当たりの単価が10倍も違うことだ。すなわち金額ベースの市場規模でみると、SSDはHDDにぐっと近付くことになる。馬籠氏の調査データによると2010年にHDD市場は金額ベースで330億ドル強だが、SSD市場は20億ドル近くに達している。両者の比率は6.5%になる。SSDの出荷台数はHDD出荷台数のわずか1.3%に過ぎないのに、である。すべてのHDDベンダーがSSDベンダーを兼ねるようになったのは、当然の成り行きだと言えよう。

(2011年 2月 1日)

[Reported by 福田 昭]