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LLMの193倍速い“判断だけのAI”「Jev」、ChatGPTの共著研究者が開発

 ChatGPTの前身の論文に名を連ねた研究者が、今度は“文章を一切書けないAI”を発表した。TypeSafe AIは9月15日(現地時間)、初のAIモデル「Jev」を公開し、早期アクセスの受け付けを開始した。自社評価ではLLM(大規模言語モデル)より193.6倍高速・444.6倍低コストをうたい、デモではゲーム「DOOM」を自動プレイしてみせた。状況を説明するデータを送信すると、選択肢のどれかや数値といった決まった形式で判断を回答するAIだ。

 Jevは、TypeSafe AIが「System One Model」と呼ぶ新種のモデルで、人と対話せず、ソフトウェアの内部で判断だけを下す自動化専用のAIだ。質問を複数まとめて送信すると、文章ではなく、それぞれに「はい/いいえ」「選択肢のどれか」「数値」といった決まった形式で回答する。回答のたびに、どのくらい確信があるかも数値で提示する。

 料金は入力10億トークンあたり42ドル(約6,510円、1ドル=約155円換算)で、100万トークンあたり0.042ドル(約6.5円)。出力トークンは“安すぎて課金できない”として無料だ。応答時間は1回70~500ミリ秒と説明し、TypeSafe AIは主要LLMの3~329秒に対し40~200倍速いとする。

 開発者は信頼度に閾値(しきい値)を設定し、高ければ自動実行、低ければ人間のレビューに回す、というルールをコードで記述できる。判断を組み合わせて業務の流れ(ワークフロー)を構成する使い方を想定する。

幻覚と型エラーを仕組みで排除する新学習法「RLCD」

 この速さの理由は生成方式にある。LLMがトークンを1つずつ順に生成するのに対し、Jevはすべての回答を1回の問い合わせで並列に出力する。あらかじめ定義した形式の値しか回答しないため、形式の誤り(型エラー)は仕組みの上で発生しないという。

 実在しない選択肢を回答する幻覚(ハルシネーション)も、同じ理由で発生しないという。ただしこれは形式の誤りがないという意味で、判断の中身まで常に正しいわけではないため、各回答に確信度を付与し、迷いを数値で申告させる設計になっている。学習にはRLHF(人間のフィードバックによる強化学習)ではなく、独自の「RLCD(信頼できる確信度で判断する強化学習)」を用いた。RLCDは、確信度が高いほど実際の正答率も高くなるようモデルを鍛える手法だ。

TypeSafe AIが公表した4種のワークフロー評価。Jev(左端)はGPT-5.6 Terraと同水準の精度を桁違いに低いコストで達成した

 発表ブログに掲載された実演動画のひとつが、「DOOM」の自動プレイだ。ゲーム内の状況を説明するテキストから、約100ミリ秒ごとに射撃・移動・回避を判断する。毎秒約10回の問い合わせを続けても、運用費は1時間約7ドル(約1,085円)で済むという。

 Wikipediaのリンクだけをたどって目的の記事に到達する競走「WikiRace」では、0.419秒で完走した。対戦したGPT-5.6 Terraは、ページにないリンクを回答する幻覚を起こしてやり直している。

構造化出力エラー率(左)とツール呼び出しエラー率(右)。TypeSafe AIはJevを、仕組み上の保証を根拠に両方とも0%と記載する

開発を率いるのはInstructGPT論文共著者のDiogo Almeida氏

 米サンフランシスコのTypeSafe AIで共同創業者兼CEOを務めるのが、Diogo Almeida(ディオゴ・アルメイダ)氏だ。同氏はX上で自身を“ChatGPTを共同発明したあと”と紹介するが、正確にはChatGPTの直接の前身にあたるInstructGPT論文(2022年)の、約20人いる共著者の1人である。基になった手法RLHF自体は、同氏が参加していない2017年の先行研究で考案された。この自己紹介には、貢献の度合いの補足を求めるコミュニティノートも提案されている。

 Almeida氏は「モデルは何年も前からチャットで超人的なのに、自動化はどこにあるのか」と問い続けてきた。その答えとして、人と話すAIから機械が使うAIへと研究の方向を転換し、2年間のステルス(非公開)開発を経て今回の発表に至った。Jevの名は、効率化がかえって消費を増やす「ジェボンズのパラドックス」の経済学者Jevonsに由来する。

 一方でJevは文章もコードも一切生成できず、チャットの代わりにはならない。193.6倍・444.6倍の数字も、TypeSafe AIが自社で設計したワークフロー評価によるものだ。同社自身も、評価の作り手による偏りの可能性を注記している。一般提供の時期は未発表で、当面はウェイトリストからの招待順に開放される。

【表1】Jevと既存LLMの主な違い
項目既存のLLMJev
出力形式文章(チャット・コードなど)確率・信頼度付きの型付き判断のみ
(文章生成は不可)
生成方式トークンを1つずつ逐次生成全出力を1回の問い合わせで並列生成
入力料金100万トークンあたり0.2~10ドル(約31円~1,550円)100万トークンあたり0.042ドル
(10億トークン42ドル=約6,510円)
出力料金入力の約5倍無料
応答時間3~329秒(フロンティアモデル)70~500ミリ秒
幻覚・型エラー発生する場合がある形式の一致を仕組みで保証し発生しないとする
提供状況各社で提供中ウェイトリスト制の早期アクセス
(2026年9月17日時点)