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「AIがこの変革において重要な役割を果たす」。HPが取り組む最新AIソリューションを発表

「HP Imagine 2024」が開催された、米国カリフォルニア州パロアルトのHP本社

 HPは9月24日(現地時間)、米国カリフォルニア州パロアルトのHP本社において、プライベートイベント「HP Imagine 2024」を開催した。本イベントは2023年に続いて2回目の開催となり、HPが発売予定の新製品や最新ソリューション、戦略などについて発表した。

 ここ数年、PC業界はAIへの取り組みを強化している。その1つが2023年末より市場に投入されている「AI PC」と呼ばれる製品だ。AI PCは、AI処理エンジン「NPU」を内蔵するプロセッサを搭載することで、PC本体内で高度なAI処理が行なえるPCのことだ。

 また、ソフトウェアベンダーもAIを活用し、省力化や高効率化を実現する新機能の開発にしのぎを削っている。

 PC業界をリードするHPも、AIへの取り組みをなお一層強化しており、HP Imagine 2024でもAIに関する話題で終始した。

 冒頭に登壇したHPの社長兼CEO、Enrique Lores氏は「AIがこの変革において重要な役割を果たすと確信している」と述べつつ、HPのAIへの取り組みについて説明した。

HP 社長兼CEO、Enrique Lores氏

 Lores氏によると、HPによる調査では、知識労働者(ナレッジワーカー)の中で仕事と健全な関係を築けていると考えているのは28%に過ぎず、しかもその仕事を遂行するために必要なツールを利用できているのはわずか27%でしかなく、彼らが自分に合ったツールやテクノロジを強く求めていることが分かったという。

 そして、その状況を改善し、ユーザーを支援するためとして、HPはAIに関する3つの取り組みを行なうと説明。1つ目がAIを活用したプラットフォームの提供。2つ目がパーソナライズされた体験を提供できるスマートテクノロジの提供。3つ目がAIを活用した新しいコラボレーションやチーム体験の創造だ。

HPが進めているAIへの取り組みとしてLores氏は、AIを活用したプラットフォーム、パーソナライズされた体験を提供できるスマートテクノロジ、AIを活用した新しいコラボレーションやチーム体験の3つを紹介

 AIを活用したプラットフォームの1つが「Workforce Experience Platform」。高度な予測分析と自動化により、27万台を超えるデバイスの管理が可能で、企業のIT部門の負担を軽減できるという。

 スマートテクノロジとしては、55TOPSのAI処理が行なえるNPU内蔵の「Ryzen AI 300」シリーズ搭載の「Omnibook Ultra 14 AI PC」を例として示した。オフィス文書をすばやく分析、会議を書き起こして要約し、パーソナライズされたコンテンツを、エッジ処理のみですばやく作成可能。そのため、スキルセットを変革し、創造性を解き放ち、より充実した仕事のためを時間を作り出せると説明する。

 また、AMDだけでなくIntelおよびQualcommとも協業し、ユーザーのニーズに合ったAI PCを提供できている点も強みだという。

 AIを活用した新しいコラボレーションやチーム体験の創造については、Web会議や印刷分野などでAIを活用したツール群を提供することで、ITマネージャーがシステムの保守ではなくデジタル企業への変革に集中できるようになると説明した。

ワークステーション搭載GPUを共有できる「HP Boost」

 続いて、HP Personal Systems社長、Alex Cho氏が登壇。Cho氏は「AIがコンピューティングの風景を劇的に変えるという革命を目の当たりにしている」と述べつつ、HPが取り組んでいる企業や従業員の仕事への関係性や効率を向上させるAIソリューションについて説明した。

HP Personal Systems社長、Alex Cho氏

 HPは、データサイエンティスト向けのAI開発ソリューションとして、昨年のHP Imagine 2023で発表された「HP AI Studio」を提供している。ただ、AI開発プロセスのボトルネックとなっているのがコンピューティングにあると指摘し、そのボトルネックを改善するソリューションとして「HP Boost」を紹介した。

ワークステーションに搭載しているGPUのリソースを社内で共有できる「HP Boost」

 Cho氏によると、企業に導入されているGPU搭載ワークステーションは多くあるが、実際にそれらGPUのリソースは20~25%程度しか活用されていないという。そこで登場するのがHP Boost。HP Boostは、ワークステーションに搭載されるGPUのリソースを企業内で共有する機能。これにより企業に導入されているワークステーションのGPUリソースをより効率良く活用できるようになる。

 実際にHP内の一部チームがHP Boostを活用することで、処理能力が最大700%向上し、より大きなデータセットを管理できるようになったという。

 Cho氏は、「GPUのリソースを共有するソリューションはこのHP Boostが世界で唯一であり、まさにゲームチェンジャーだ」と胸を張った。

 Cho氏は、最新のAI PCについても言及。Intelの最新プロセッサ「Core Ultraシリーズ2」搭載のAI PCとして発表した「OmniBook Ultra Flip 14」は、ディスプレイが360度開閉するコンバーチブル型2in1 PCで、さまざまなワークスタイルに対応できるAI PCとして開発したという。

Core Ultraシリーズ2搭載AI PC「OmniBook Ultra Flip 14」

 Ryzen AI 300シリーズ搭載で、55TOPSのAI処理能力を発揮する「EliteBook X G1a」は、優れたAIパフォーマンスを発揮するため、AIを使用してレポートやプレゼンテーションを作成するコンサルタントやビジネスアナリストに最適と紹介した。

55TOPSのAI処理能力を発揮する「EliteBook X G1a」

 また、「AI時代ではセキュリティがさらに重要になってくる」と指摘し、HPのセキュリティソリューション「HP Wolf Security」はAIを利用した攻撃に対する独自の保護機能を提供するだけでなく、セキュリティ対策の処理をNPUにオフロードすることで、デバイスのパフォーマンスを低下させることなくセキュリティを高められると説明した。

Intel vPro Technologyを活用した新たなサポートサービスを提供

 次に、HP Workforce Solutionsの社長、Dave Shull氏が登壇し、Intel vPro Technologyを活用した新たなサポートサービス「Remote Remediation Service」の提供を発表した。

HP Workforce Solutionsの社長、Dave Shull氏

 従業員が利用するPCが正常に動作しなくなった場合、通常は企業のIT管理者またはPCのサポートにそのPCを送って修理や修正を行なうことになる。当然修理の間はPCを長時間利用できなくなるため、業務に大きな支障が生じてしまう。またIT管理者にとっても、修理作業に時間を取られてしまい、ほかの業務に割ける時間が減ってしまう。

Intel vPro Technologyを活用した新たなサポートサービス「Remote Remediation Service」

 しかしRemote Remediation Serviceでは、IntelのvPro Technologyを活用し、遠隔操作でリモート修復を行なうという。これによって、PCが起動しない、ブルースクリーンになるといったBIOSレベルの問題を、リモートで、それも企業のIT管理者などの関与なく修復できるとする。

 PCが手元にあるまま修復が可能なため、PCのダウンタイムを大幅に削減でき、企業のIT管理者と従業員双方にとって生産性を大きく高められるメリットがあると説明した。

 このサポートサービスは、Intel vPro Technology対応プロセッサを搭載する法人向けPCを対象に、11月1日から北米とヨーロッパで提供開始になる。また、そのほかのデバイスや地域にも展開予定とのことだ。

AIで印刷レイアウトを最適化する「HP Print AI」

 最後にHP Imaging Printing & Solutions 社長のTuan Tran氏が登壇し、プリンタ向けの最新AIソリューションを紹介した。

HP Imaging Printing & Solutions 社長のTuan Tran氏

 デジタル化が進んだことで、パーソナルな世界ではプリンタを利用するシーンはかなり少なくなっている。Tran氏自身も、「プリンタには長年悩ませられたし、最もイライラする技術の1つ」と言うほどだ。

 しかし、そういったイライラを解決し、印刷プロセスを変革するAIソリューションとして発表したのが、HP製のプリンタ向けに提供される「HP Print AI」だ

印刷プロセスを変革するAIソリューション「HP Print AI」

 通常、PCから印刷を行なう場合、PCからの指示通りにプリンタが動作して紙に印字が行なわれる。そのため、たとえばWebページを印刷する場合などに、大量の枚数に渡って印字されたりすることがある。また、印字内容が指定した紙サイズに合わせられずに、全体が印字されなかったり、中央に小さく印字されるといったこともよくあることだ。

 そういった問題は、印刷前にユーザーが印刷レイアウトを修正することで改善できるが、レイアウト修正は非常に面倒かつ時間がかかる。そういったレイアウト修正を、AIを活用して簡単に実現するのがHP Print AIだ。

 たとえば、Webの料理レシピサイトの内容を通常通りにプリントしようとすると、テキストと画像のギャップや挿入されている広告などの影響からA4サイズで10ページ程度になることもある。

Webの料理レシピサイトをそのまま印刷すると、大量の紙に印刷されてしまう

 そこで、そのWebページをHP Print AIに読み込ませると、不要な部分や広告などを検出し、必要なテキストや画像のみを抽出し、1ページから3ページ程度で印刷できるレイアウトへと自動で修正する。最適化の内容は、プロンプトで自由に指示できるため、思い通りのレイアウトを簡単に実現できるというわけだ。

HP Print AIを利用すると、不要な部分や広告を自動で削除し、必要な内容を要約して1~3枚で印刷できるようにレイアウトが自動で修正される
プロンプトに、文字や写真のサイズの変更などを文字で入力することで、細かなレイアウト修正を指示できる

 このほかにも、Excelなどのスプレッドシートの印刷やグリーティングカードの作成などさまざまな用途に活用できるという。

Excelのスプレッドシートやグラフの印刷も自動で最適化される
「タイトルを拡大して凡例を追加して」など細かな指示にも対応可能
写真を利用したオリジナルのグリーティングカードも簡単に作成できる

 このHP Print AIは、一部顧客向けのベータ版提供から始まり、2025年以降に広く提供を開始する計画だ。