ニュース

GPT-4oとPhi-3でLLMとSLMの双方を取り込むMicrosoftのAI戦略

Copilot+PCで利用できるAIアプリケーションを開発するための「Windows Copilot Runtime」

 Microsoftは5月21日~23日(現地時間)、開発者向け年次イベント「Microsoft Build」を米国ワシントン州シアトルのシアトルコンベンションセンターで開催する。それに先立って同社は、生成AIのファンデーションモデル、Copilot+PC向けAIアプリの開発環境となる「Windows Copilot Runtime」、DirectMLのNPUへの拡張、さらにはCopilot for Microsoft 365やMicrosoft Edgeの拡張など、AIに関する広範な発表を行なった。

Copilot+PCに対応したWindows Copilot Runtime、DirectMLのNPUへの拡張

Cocreatorのデモの様子

 既報の通りMicrosoftは、Buildの前日に行なわれた記者会見の中で、「Copilot+PC」と呼ばれる次世代のAI PCプラットフォームに関する発表を行なった。Copilot+PCは、AIアプリケーションをローカルで動かすことがポイントになっている。最初の製品群はQualcomm Snapdragon X Elite/PlusをSoCとして採用しており、45TOPSというNPUとしては高い性能を活用して、AI処理を行なう。

 このCopilot+PC向けの開発環境として「Windows Copilot Runtime」を、そして、それを活用してWindows上のオンデバイスアプリケーションを開発するためのAPIやAIモデルを提供する「Windows Copilot Library」が発表された。Copilot+PC向けのMicrosoft標準アプリケーションである「Recall」、「Cocreator」、「Live Captions」などは、いずれもWindows Copilot Runtime、Windows Copilot Libraryを利用して開発されている。

 Windows Copilot Libraryには各種APIと、デバイス上でAIアプリケーションを構築するのに必要な40以上のAIモデルなどが提供されている。また、同時発表された「Windows Semantic Index」を活用すると、AIを活用したより高度な検索機能をアプリケーションに実装できる。

 また、MicrosoftがSLM(Small Language Model)として開発したPhi-3を、Copilot+PC上で実行できるようにすることも発表されている。クラウドにつなげる必要がないため低遅延かつ、1.5Wの消費電力で650トークン/秒という電力効率に優れた言語モデルを実現できる。

 また、Windows 11でSnapdragon X Elite以外のSoCに搭載されたGPU/NPUでも利用できるDirectMLの拡張や、AIアプリケーションの開発環境としてPyTorchを利用した場合でもDirectMLをネーティブにサポートすることが明らかにされた。

 NVIDIAのGPUは、ドライバレベルでDirectMLをサポートしているので、PyTorchを利用してAIアプリケーションを構築する際、DirectMLを利用すると、CUDAを利用しなくてもAI推論でNVIDIA GPUを利用できるようになる。GPU対応は完了しており、今後NPUのサポートが追加される。

 このほかにもWebNNを利用した場合のDirectMLのサポート、ONNX RuntimeからDirectMLを利用する際の高性能な推論機能の導入なども明らかにされた。

 IntelのCore UltraのNPU(Intel AI Boost)、さらにはQualcomm Snapdragon X EliteのNPU(Hexagon NPU)のDirectML対応もまもなく開始されるということで、3DゲームがDirect3Dにより標準化が進んだように、DirectMLでAIが利用しやすくなる環境が整いつつあることを印象づけた。

Microsoft Edgeには動画のリアルタイム翻訳機能が実装

 Microsoft Edgeの機能拡張として、動画のリアルタイム翻訳機能の実装計画が明らかにされた。たとえば、非母国語の動画を見ている時に、AIを利用して母国語にリアルタイムに翻訳し、音声で再生するか、字幕にするか、あるいは両方の形で動画に重ねて再生できる。

 ただし、サービス側も対応する必要があり、まずはYouTube、LinkedIn、Reuters、CNBC News、Bloomberg、Courseraなどが対応する。言語については、スペイン語から英語と、英語からドイツ語、ヒンズー語、イタリア語、ロシア語、スペイン語への翻訳に対応する。対応言語は今後増えていく。

 ビジネス向けのMicrosoft Edgeとなる「Microsoft Edge for Business」には2つのセキュリティ機能が実装される。1つは「Screenshot prevention」(スクリーンショット防止機能)で、企業側がIntuneなどのMDMなどを通じてScreenshot preventionのポリシーを設定することで、エンドユーザーがWebブラウザのスクリーンショットを撮れなくなる。

 もう1つの「Easily stay up to date」では、ゼロデイ攻撃などにより脆弱性を悪用されるリスクを持つ、最新ではないブラウザインスチャンスをチェックし、それを強制的に再起動することを可能にする。同時にブラウザの自動更新を有効にし、保護を強化するためのセキュリティモードを有効にするなど、脅威の対策になるような設定を有効にできる。

「Team Copilot」の導入などCopilotの拡張が続く

Microsoft Copilot Studioの新しい機能(写真提供: Microsoft)

 Igniteにおいて、サティヤ・ナデラCEOは「MicrosoftはCopilotの会社になる」と強調したが、今回のBuildでもCopilotに関する発表が相次いでいる。

 Microsoft 365のCopilotとなる「Copilot for Microsoft 365」の拡張としては「Team Copilot」の導入が発表された。Copilotは「パーソナルアシスタンス」と呼ばれるバーチャル秘書のような存在で、Team Copilotは部課全体で共有するバーチャル秘書のようなものだ。

 部課のメンバー全員の予定を勘案してTeamsでの全体ミーティング予定を自動で設定したり、部課全体で共有すべき目標を部課員に知らせたりできる。また部課のモデレーターとしての役割も果たし、Teamsのミーティングやチャットなどの要約などを行なったり、プロジェクトの進行を管理したりすることが可能という。

 「Microsoft Copilot Studio」は、Copilot for Microsoft 365を自社のニーズに合わせてカスタマイズする機能で、独自に構築したCopilotを利用して、自社の従業員や顧客などにサービスとして提供できる。SAPなどの外部サービスに接続し、カスタムプラグインなどを活用してLLMを利用した独自の対話型AIサービスなどを構築できる。

GitHub Copilot extensions(写真提供: Microsoft)

 GithubにCopilotの機能を付加する「GitHub Copilot」向けには、「GitHub Copilot extensions」が発表された。GitHub Copilot extensionsは、Microsoft自身やサードパーティのパートナーが提供する拡張機能をGithub Copilotで利用できるようにする機能で、GitHub Copilotを開発者にとってより便利にしたり、カスタマイズ性を向上させたりする。GitHub Copilot extensionsは現時点ではプライベートプレビューが行なわれている。

「GPT-4o」にAzure AI StudioやAPIで対応

 生成AI界隈では、OpenAIが先日発表した「GPT-4o」が話題を呼んでいる。GPT-4oはマルチモーダルなLLMで、テキスト、イメージ、オーディオなどを対話的に扱える。従来のGPT-4ベースのLLMでもマルチモーダルな処理は不可能ではないが、GPT-4oではより高度になっている。

 今回Microsoftは、GPT-4oをAzure経由で提供する「Azure AI Studio」と、AzureのAPI経由での利用を発表した。Azure AI Studioは、企業などが自社カスタムのCopilotを開発するための開発ツールになる。これまでAzure AI Studioプレビュー版として提供されてきたが、今回から一般提供開始になった。

 あわせて、Phi-3-small、Phi-3-medium、Phi-3-Visionという3つのPhi-3シリーズの新モデルも発表した。Phi-3ファミリーは小型なSLM(Small Language Model)であり、Phi-3-visionはその中でもマルチモーダルな処理を得意とするSLMとして、Azureで利用することが可能になる。

GPU逼迫の切り札となるか? AMD Instinct MI300XのVM

AMD Instinct MI300Xを採用したAzureのラックサーバー(昨年の12月のAMDの記者会見で撮影)

 Microsoftは2023年11月に新ハードウエア「ND MI300X v5」をAzureのVM(仮想マシン)に導入すると発表していた。そのGPUとなるAMD Instinct MI300Xは、チップレットを利用して8つのGPUダイを1つのパッケージに封入している。

 NVIDIAのGPUの強みはCUDAというソフトウェアのプログラミングモデルを持つことだ。しかし、クラウドマネージドサービスを利用している企業にとって、CUDAかそうではないかは大きな問題ではない。というのも、クラウド事業者が提供するAI開発ツールがハードウエアの違いを吸収することになるからだ。

 現在、NVIDIAのAI用GPUは、需要が逼迫している。AzureでND MI300X v5のサービスが開始されたことは、AI開発者にとっても、AMD自身にとっても大きな意味がある。

 ND MI300X v5は、AMD Instinct MI300X、1.5TBのHBMメモリ(5.2TB/秒)、NVIDIA Quantum-2 CX7 InfiniBandを採用。最大で数千個のVM(数万個のGPU)にスケールアップすることが可能。ND MI300X v5は既に一般提供が開始されている。

Cobalt 100 Arm-based VMsの管理画面