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Lenovo、側面排気がなくなったのに冷却性が向上したゲーミングノート「Legion」の秘密

「LOQ」シリーズのファン

 Lenovoは27日(タイ時間)、タイの首都バンコクにおいてメディア向けイベントを開催し、AI PCを実現する礎となるCore Ultraプロセッサを搭載したスリムノート「Yoga」シリーズ、およびゲーミング向けの「Legion」、「LOQ」シリーズを展示した。本記事ではLegionとLOQシリーズを紹介する。

 イベントでは多くのゲーミングノートが展示されたが、いずれもCESなどで発表済みとなっているほか、「Legion 7i(16", Gen 9)」、「Legion 5i(16", Gen 9)」、「Legion Pro 7i(16", Gen 9)」の3製品が日本ですでに発売済み。そこでこの記事は基調講演や後に行なわれたインタビューの様子を交えつつ、LegionとLOQシリーズについて改めておさらいしたい。

ゲーミングノートの最重要ファクタは放熱

 今やゲーミングノートにおいてもっとも重要となっているテーマの1つが「放熱」だ。CPUやGPUといったプロセッサから十分ゲーム性能を引き出したいと思うのであれば、より高クロックで回せば良いのだが、高いクロックで回すには電力が必要で、電力が増えると必然的に熱も増加する。

 そうした熱をしっかり処理できなければPCは不安定になったり、性能が低下する原因となるわけだが、手っ取り早く放熱性を向上させる手段がヒートシンクやファンといった冷却機構の大型化。しかし冷却機構が大型化すれば必然的にノートPC全体として重量や厚みが増えることとなり、現実的ではない。

 そのため「限られた重量や厚さの中で冷却性を向上させることが課題であり、その解決に向けて設計を行なってきた」と、ゲーミング製品担当のClifford Chong氏(Category Manager (Gaming), Consumer business, PCs and Smart Devices, Lenovo AP)は語る。

Clifford Chong氏(Category Manager (Gaming), Consumer business, PCs and Smart Devices, Lenovo AP)

 そこで今回のLegion 7i、Legion 5i、LOQシリーズでは「ColdFront Hyper」と呼ばれるユニークな冷却機構を採用。ゲーミングノートにおいて、他社や従来製品含めて、一般的にはヒートシンクや排熱口を増やしていくことで性能向上を図っており、主に排気口を左右側面にも設けることで改善してきた。

 しかしColdFront Hyperでは、底面の左右から吸ったエアフローを、背面のヒートシンク部、そして内部中央に吐き出すファンを採用した。内部中央はシーリング材でほぼ密閉した状態となっていて、そこにCPU/GPU本体、VRM(電源回路)、VRAMといったほかの発熱部品が集中しており、ヒートパイプもあるため、それらもエアフローによって冷やすようになっている。

 これにより側面排気口を廃することに成功したほか、薄さと重量を維持しつつ、供給できる電力を増やしつつ、表面温度は2℃低下、ノイズは2dB低減できたという。

ColdFront Hyperの採用
ColdFrontシリーズの進化
中央部を分離したチャンバー構造とし、ファンからの排気で冷却を行なってから背面排気する
ColdFront Hyperの採用によりノイズと温度低減、性能向上を両立させた
この機構の採用により側面から排気口が消え、すっきりとしたデザインとなった(写真はLOQ)
ColdFront Hyperを採用するのはLegion 7i/5iおよびLOQシリーズ
LOQシリーズのファン実機。内部に向かって排気口があることが分かる
LOQシリーズの内部構造
底面カバー側にシール材があり、排気がそのほかの部分に行かないよう閉じ込めているのが分かる
こちらはLegion 7iのヒートシンク。こちらでも内部に向かって排気口があることが分かる
LOQシリーズの側面。排気口がなくなっていることが分かる
特に左側面はインターフェイスもないためスッキリとしている

 機種ごとの最大電力を具体的に見ると、LOQシリーズはPerformanceモードの電力が145W(従来から10W増)、Extremeモードの電力が160W(25W増)、Legion 5iではそれぞれ170W(10W増)、190W(30W増)、Legion 7iではそれぞれ145W(10W増)、175W(40W増)となった。一方でキーボードの表面温度や騒音などは従来より低下したという。

LOQシリーズにおける性能向上
Legion 7i(16", Gen 9)における性能向上
Legion 5i(16", Gen 9)においての性能向上
ノイズ低減と表面温度低減の計測はLegion 5iがベースとなっている
Legion 7iの分解モデル

Legion 9iの水冷に隠されたもう1つの意義

Legion 9i。カーボン天板を採用しているが、この模様は1台1台異なるという

 基調講演では触れられず、インタビューでは台湾メディアがLegion 9iに搭載された水冷について質問がなされ、Clifford Chong氏はこれにも答えていた。

 以前の記事でも触れた通り、Legion 9iは「世界初の水冷ゲーミングノート」であり、薄さや軽量性と性能の両立を図るために水冷を採用している。分解モデルでは、GPUを取り囲むVRAMの上を水路が通っていたのだが、Chong氏によればもう1つの狙いがあったという。

Legion 9iの主な仕様より。世界で初めて水冷を搭載したゲーミングノートとなっており、TDP 230W、TGP 175Wを18.9mmの薄さで実現。CPUはCore i9-14900HK、メモリは最大64GB、GPUにGeForce RTX 4080/4090 Laptop GPU、ストレージに最大2TB SSD(1TB+1TB RAID 0)などを搭載
3,200×2,000ドット/165Hzディスプレイの搭載も特徴の1つ。DCI-P3 100%、10bitカラー表示、X-Rite Pantone認証など、クリエイター的な使い方にも配慮した

 そもそもLegion 9iの水冷機構は極めてコンパクトで、水量も決して多いわけではない。この部分だけでは、大きく冷却性を向上させるようなことはしていないという。

 しかしご存知の通り、ゲームにおいてGPU負荷は一定しているわけではなく変動的だ。たとえば爆発のシーンでは一時的にGPU負荷が上がる可能性がある。負荷が上がると当然GPU温度も上昇し、熱のスパイク(山)のようなものが発生する。こうしたスパイクに反応してGPUはクロックを下げるが、こうした挙動によりフレームレートが不安定となりカクつきの原因となるという。

 水冷を用いることで熱のスパイクを抑え、温度変化をなだからにできる。こうすることで、クロックの大きな変動を抑えてフレームレートを安定化させているというわけだ。

Legion 9iの冷却機構(2023年11月撮影)
水冷のパイプ

AIとゲームの関係

 インタビューでは、「AIとゲーミングの関係性」についても問われた。今回のイベントはIntelとMicrosoftも名を連ねており、クリエイター向けのYogaシリーズでCore Ultraを搭載したり、キーボードにCopilotキーを設けることでAI PCを実現することが背景にある。ところがLegionやLOQシリーズは第14世代Coreや第12世代Coreを搭載しており、直接関係ないように思える。

 また、AIと言っても、ChatGPTのような会話ボットや、Stable Diffusionが代表するような生成AIが今のところはメインを占めていて、ゲームには直接関係なさそうだ。

 これについてChong氏は「AIはまだはじまったばかりにしか過ぎない」という。「GDC(Game Developers Conference)では、AIを取り入れた次世代ゲームの可能性を見出すことができたが、そこではNPCとの会話にAIを取り入れる例が紹介された。

 今のRPGなどのゲームはNPCと会話するにしても、セリフが固定であり、プレイヤーは与えられた会話の選択肢を選んで会話を進めるだけであった。しかしAIを取り入れた未来のゲーム中のNPCとの会話はチャットボックスになるだろう。プレイヤーは自ら言いたいことを入力してNPCと自由に会話し、その世界に結果を反映することができる。そうなればゲームの世界への没入感は一段と高まる」と示唆した。

 さらにチャットボットや生成AIとは無縁だが、Legionシリーズにはマシンラーニングに基づいて開発された「AI Engine+」というAIチップを搭載しており、ゲーム中のFPS値を検出し、それに基づいて最適な性能を提供できるようシステムのチューニングを行なっているとのことだった。

2024年のゲーミングノートラインナップ
最上位ではCore i9-14900HKプロセッサを搭載
高性能を意識したLegion Pro 7i/5iシリーズ。GPUは前者がGeForce RTX 4070 Laptop GPU、後者がGeForce RTX 4090 Laptop GPUを選択可能
ディスプレイの品質にもこだわっており、解像度は2,560×1,600ドット、リフレッシュレートは240Hzなのはもちろんのこと、DCI-P3 100%への対応やX-Rite Pantone認証の取得など、クリエイター向けの要素も取り入れている
Legion Pro 7i(16", Gen 9)。第14世代Core i9-14900HX、メモリ最大32GB、GPUにGeForce RTX 4080/4090 Laptop GPU、ストレージに最大2TB SSD(1TB+1TB RAID 0)、2,560×1,600ドット/240Hz表示対応16型IPS液晶などを搭載。重量は2.8kg以下
Legion Pro 5i(16", Gen 9)。第14世代Core i5/i7/i9、メモリ最大32GB、GPUにGeForce RTX 4050/4060/4070 Laptop GPU、ストレージに最大2TB SSD(1TB+1TB RAID 0)、2,560×1,600ドット/240Hzまたは165Hz表示対応16型IPS液晶などを搭載。重量は2.6kg以下
Legion 7i。ホワイト筐体が用意されていて、スタイリッシュな外観が特徴。第14世代Core i7/i9、メモリに最大32GB、GPUにGeForce RTX 4050/4060/4070 Laptop GPU、ストレージに最大1TB SSD、3,200×2,000ドット/165Hzまたは2,560×1,600ドット/240Hz表示対応16型IPS液晶などを搭載。重量は2.24~2.28kg
Legion 5i(16", Gen 9)。第14世代Core i5/i7/i9、メモリ最大32GB、GPUにGeForce RTX 4050/4060/4070 Laptop GPU、ストレージに最大512GB SSD、2,560×1,600ドット/240Hzまたは165Hz表示対応16型IPS液晶などを搭載。重量は2.3kg以下
LOQ 15IAX9。第12世代Core i5-12450H、メモリ最大32GB、GPUにGeForce RTX 2050/3050/4050 Laptop GPU、ストレージに最大1TB SSD、2,560×1,440ドットまたは1,920×1,080ドット表示対応15.6型液晶などを搭載。重量は2.38~2.45kg
ちなみに交換可能なキーキャップもLegion/LOQシリーズの1つ。好みのものに変えられるのはもちろんのこと、ツメが折れて取れてしまっても自分で交換できる。また、パンタグラフ機構自体も替えが用意されていて、そこが故障してしまっても交換できる