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ちょまどさんもLoRAに!AIアート祭典「第1回AIフェスティバル」、ハッカソンやトークで大盛況

会場には主催のサードウェーブがGeForce RTX 4080搭載デスクトップPC「XA7C-R48」やGeForce RTX 4090内蔵のゲーミングノートPC「GALLERIA UL9C-R49」などを展示していた

 株式会社サードウェーブは2023年11月4日、ベルサール秋葉原において同社が主催を務める「第1回AIフェスティバル」を開催した。後援はJapan Deep Learning Association、協賛はインテル株式会社で協力会社はNVIDIA Japan。

 会場では「AIをもっと身近に、もっと楽しく」をテーマに第2回AIアートグランプリの最終選考および審査発表が行なわれ、最終選考作品の展示や、協賛各社の出展ブースも用意されていた。

 また、会場隣のブースにおいて、第1回24時間AIハッカソンを開催。24時間でテーマに基づくAIサービスなどの開発を全9チームが行なった。本会場では各チームのプレゼンテーションおよび結果発表が行なわれた。

 そのほかにもAI画像生成を活かしたマンガ制作など、AIアートに関するトークセッション「AIアートの今日と明日」、八谷和彦氏や落合陽一氏らメディアアーティストらによるトークセッション「クリエイター/アーティストから見た生成AI」も行なわれた。

 本稿ではそれぞれの内容などについて、簡単に概要をご紹介していきたい。なお、第1回24時間AIハッカソンのプレゼンテーションおよび第2回AIアートグランプリに関する会場の様子については、YouTubeにてライブ配信がアーカイブ化されているため、内容を省略してお伝えすることとする。

第2回AIアートグランプリの優勝賞品でもあり、本日開催の24時間AIハッカソンで出場者たちに貸与して開発に使用したデスクトップPC「XA7C-R48」
Core i9 13900HX搭載、メモリ32GB、VRAM16GBのGeForce RTX4090内蔵のゲーミングノートPC「GALLERIA UL9C-R49」
後援のJapan Deep Learning Associationも出展。同団体ではAI人材の育成に力を入れているという
協賛のインテル株式会社も出展し、自社製GPU「Intel Arc A580」のAI活用における効果を解説していた
協力会社のNVIDIA Japanも自社GPU、GeForce RTXシリーズのAI活用における優位性をアピール

24時間AIハッカソン優勝は自動アイデア生成ツール

 まずは会場で実施した「第1回24時間AIハッカソン」のプレゼンテーションおよび審査結果の発表について触れよう。ハッカソンとはソフトウェア開発者など専門家が集まり、短時間で新たなプロジェクトを開発するイベントのこと。今回開催された24時間AIハッカソンは、9月の段階で予め参加者を募集。参加条件は未成年を含まない1~5人1組のチームで、全20チームの応募があった中、審査の結果、全10チームが選出された。

 選出の基準としてはチームの人数を挙げており、人数が5人いれば役割を分担してスムーズに開発が進められるなどメリットが多いため、なるべく人数の多いチームを優先的に選出したとしている。

 なお、今回の24時間AIハッカソンでは、1チームが都合で不参加となったため、最終的には全9チームが参加となった。

 名前の通り、制限時間は24時間で、参加者たちは前日の12時から会場に入ってハッカソンを開始しており、その成果をプレゼンテーションにて発表、成果物についてもプレゼンテーションの時間内で実演などが行なわれる。ハッカソン開始時に参加チームに与えられたテーマは「楽」の1文字。この文字から思い浮かぶAIに関連したサービスなどを24時間以内に開発する。

 審査員を務めるのは、元ソニーコンピュータサイエンス研究所員、現在は慶応大学教授を務める増井俊之氏、先ほどのトークセッションにも登壇したちょまど氏、インテル株式会社 技術本部 部長兼工学博士の安生健一朗氏の3名。

24時間AIハッカソン会場

 今回9チームの発表を踏まえて入賞した3チームのプレゼンの様子を紹介したい。まずは準優勝2チームのうち1チーム、「何でもは知らないわよ。2022年1月までのことだけ。」チームだ。長大なチーム名だが、アニメ「物語」シリーズを観たことがある上でChatGPTを使ったことがある人ならニヤリとするチーム名だ。発表したのは「Kiraku」と呼ばれるパーソナルヘルスケアAIサービスだ。その名の通り、気楽や喜怒哀楽をもじって作られたネーミングとのことだ。

 利用者は初回利用時に簡単なアンケートに答える。今回のサンプルでは「最近感じる心理的な不調」、「悩みやストレスがある時にどのような活動に励みますか?」など6つの質問に回答することで、その結果から利用者に寄り添うスタイルか、問題解決型かなど、AIが利用者向けにパーソナライズされ、チャットインターフェイスでこちらとの会話を行ない、カウンセリングしてくれる。

 デモでは実際に稼働させると生成に時間がかかることから、予め生成したAIとのやり取りについての実例を紹介。友達の恋人が好きになってしまったという悩みに対しては、常に利用者は悪くないという寄り添った回答でフォローしてくれたり、本日の審査員であるちょまど氏と写真を撮りたかったけど撮れなかったという悩みに対して具体的にどうしたらいいか、などの解決に向けてのアドバイスをするなど、パーソナライズの事例を示した。

 課題としては、パーソナライズの部分において、寄り添い型か課題解決型かのロール定義のブラッシュアップが進めば世に出せるサービスまで昇華できるとしており、この段階でサービスの課題も早々に把握できていた点も印象的だ。質問に対する回答が選択式になっており、フリー入力がない点についても、24時間以内でサービスを完成させるためとしていた。

 24時間の作業でサービス自体のベースはほぼ完成しており、課題として挙げたパーソナライズの処理を専門家などの知見を元に詰めれば即サービス開始できるレベルの完成度の高さは見事の一言だ。

 もう1つの準優勝チームは「チームduel」で、身の回りにある物を楽器にしてしまうWebアプリ「Instrumental Sight」が紹介された。具体的にはユーザーがアップロードした画像内の物体をAIがどの楽器に近いかを計算して音を設定、画像をクリックすることで音がなるロジックだ。画像内の物体検知や、画像内の物体がどの楽器に近いかなどの判別をAIで行なっている。

「何でもは知らないわよ。2022年1月までのことだけ。」チーム
パーソナルヘルスケアサービス「Kiraku」の特徴を紹介
実際の動作時のやりとりをスクリーンショットで紹介
「チームduel」チーム
画像内の物体を楽器化するWebアプリ「Instrumental Sight」のシステム概要
実際に動作している状態。画像内のスマートフォンなどの個々のアイテムがそれぞれ楽器として音を出す

 優勝した「エムニ」チームが開発したプロダクトは自動アイデア生成ツール「B8」で、今回のテーマである「楽」を元にアイデア出しを行なったが、煮詰まって疲れたので逆転の発想で「楽」にアイデア出しをするためのツールを開発しようと考えたのがきっかけだという。

 ツールの動作としては、最初に会議のテーマを入力。以降は会議中の音声を入力させることで、リアルタイムでマップを作成。利用者側が煮詰まった時にはAIがこれまでのやり取りから判断して自動で関連アイデアを自動提案する。また、音声だけでなく、テキストを直接入力することも可能。このようにしてどんどんノードが生成されていき、最終的にいくつかのアイデアがブラッシュアップされる仕組みとなっている。

優勝した「エムニ」チーム
自動アイデア生成ツール「B8」システムの概要
実演中の様子
最後に工夫したポイントや改善点についても触れていた

 ほかのチームも全体的にしっかりしたプレゼンテーションの準備とサービスの完成まではどこもほぼ達成しており、24時間という限られた時間を活かして素晴らしいアイデアと可能性を感じさせるサービスを展開してくれた。一方でプレゼンテーションの内容に過不足があったり、実際の動作の様子が伝わりにくい物などもあり、この辺りをキレイに時間内にまとめることもハッカソンでは重要な要素の1つと感じられた。

 最後に入賞からは漏れてしまったが、個人的に感心したのが「CDLE生成モデル」チームによるサービス「楽らく武勇伝」だ。こちらは日本に蔓延する不景気と無気力を打破するというコンセプトを元に開発され、具体的にはLINE登録することで利用可能なサービスとなっており、LINEのサービス用アカウントを友達登録し、トークで武勇伝の種として何気ない日常で起きた出来事を伝えることで、話を大幅に誇張して、日常の何気ない話を壮大な武勇伝に早変わりしてくれるというもの。

 サンプルでは「早起き」というワードをLINEで伝えると、そこから「勇者覚醒」の物語が生成され、さらにそれに適した画像もAIに自動生成させ、それらをセットでLINEの返信で返す仕組みとなっていた。さらにはMR機能を使って現実世界に投射するといった仕組みも用意されているようだ。

 こちらはプレゼンの最後にQRコードが表示され、配信閲覧者や会場で発表を見ていた人たちがすぐにサービスを利用できるところまで完成されていた点が驚きだった。筆者も試しにQRコードからアカウントを追加して武勇伝を生成してもらおうと思ったが、ワードのチョイスがまずかったのか、正しく変換してもらえなかったのが残念。ただ、ハッカソン発表の段階で既に多くの利用者が試せる状態までサービスが完成していた点はすごいと感じた。

筆者が個人的に気に入った「楽らく武勇伝」サービスは「CDLE生成モデル」チームによるサービス
実際の武勇伝生成の様子
最後にQRコードを提示、誰でもすぐにサービスが試せる状態になっていた
筆者も試してみたが、適したワードが与えられなかったため、武勇伝の生成には失敗。なお、現在アクセスしてもサービス休止中とコメントが返ってくる
24時間AIハッカソン全参加者と審査員

第2回AIアートグランプリは1人23役をこなしたAI映像「明日のあたしのアバタイズ」

 続いては「第2回AIアートグランプリ」の最終選考と結果発表も行なわれた。こちらは8月31日~9月20日の応募期間に寄せられた中から1次審査を通過した10作品が10月の段階で最終審査候補作品として選出。会場での展示および最終審査としてプレゼンテーションを行い、それらを踏まえて審査結果を発表する流れとなった。

 作品テーマは「明日」。応募条件はAIを利用して作られた画像、漫画、動画、音楽、ゲーム、ハードウェア、パフォーマンスなどの表現物で、実際に利用したAIモデルやシード値、プロンプト、ファインチューニングに使用したデータセットなど、生成に至るまでのプロセスを審査委員会に開示できること、AI生成物を人間が加工したものなどが設定されている。

 会場で行なわれたプレゼンテーションの結果も踏まえた最終審査の結果、佳作は大曽根宏幸氏の「AI BunCho」、scuy氏の「tinsagu」、奥田栄希氏の「BINARY MONSTERS」、葦沢かもめ氏の「アスクイ」、KATHMI氏の「GEISHA」、以上5作品。

大曽根宏幸氏の「AI BunCho」
scuy氏の「tinsagu」
奥田栄希氏の「BINARY MONSTERS」
葦沢かもめ氏の「アスクイ」
KATHMI氏の「GEISHA」

 優秀賞は、実験東京の2人組による「幻視影絵」、ko氏「What future do you hope for?」、阿部和樹氏の「アイマノカタチ」、以上3作品。また、審査員特別賞には中村政義氏の「動き」が選ばれた。

実験東京の2人組による「幻視影絵」
ko氏の「What future do you hope for?」
阿部和樹氏の「アイマノカタチ」
中村政義氏の「動き」

 そして栄えあるグランプリに輝いたのは快亭木魚氏の「明日のあたしのアバタイズ」となった。こちらの映像でやっていること自体は非常にシンプルで、自身のさまざまな自撮り画像を元にしてAI画像を生成して別人のキャラクターに変換、これを動画化してさらに音声も付けることで、1人で23人のキャラクターになり切る作品だ。

 プレゼンテーションでは、その制作過程や背景について紹介された。テーマの「明日」から、明日の世界には登場していそうなもの、ということで、利用者が自由にリアルアバターをカスタマイズできるサービスとして、「アバタイズ」という造語を生み出した。「アバタイズ」とはアバターとカスタマイズを組み合わせた造語で、本作はこのアバタイズサービスで働いていた元社員がアバタイズの活用例を示して、可能性や問題点を語る内容だ。

 本作でユニークなのは、キャラクターが全て自身の自撮りを元にAIで加工したという点だが、その自撮り写真の撮り方がさらにユニークだ。たとえば、窓口でしゃべるロボットの画像は絵画用のイーゼルを顔に当てて撮影したものだし、毛布をかぶってロングヘアーの女性を再現したり、大きなクッションを頭に乗せた写真からユニークなアフロヘアの男性を生成、ほかにも複数の空きペットボトルを体に巻き付けることで謎の近未来メカを生成させるなど、日常で見られる普通のアイテムが近未来の画像生成に変化しているのは、とても面白い。

 画像の生成にはStable Diffusionを使用、そこからアニメーション生成にはEbSynthと呼ばれるAIを使って動画を生成していたり、ほかのツールで加工したりと、多くのサービスやツールを活用している。

 プレゼンテーションの最後でも語られたが、快亭木魚氏の本業は事務員であり、受賞時のコメントでも「FAXが現役で稼働している、デジタルとは無縁の職場で働く自分がまさかAIアートのグランプリを獲得できるとは思ってもいなかった。でもAIの普及により、本当に色んな人が使えるようになったからこそ、自分のような人間でもこのような場に参加できた。AIが自分をこの想像しなかった場所に連れてきてくれました。ありがとうございました」とその驚きと感謝について語った。

第2回AIアートグランプリの栄冠に輝いた快亭木魚氏。顔はトップシークレットのため、登壇時も表彰時もサングラスと帽子、マスクで完全ガードだ
使用したAIサービスやツール類
ペットボトルを体中に巻き付けた写真をベースに近未来の謎のメカを再現
コード類を被った写真からマッドサイエンティストを表現。毎回コメントが面白い
こうしたAI画像を使ったゲームも個人で作成しているという
第2回AIアートグランプリの最終選考者と審査員

AI画像生成のポイント紹介や最新音声変換技術などを紹介

 最初のトークセッションはAIアートに関するトークセッション「AIアートの今日と明日」だ。登壇者はエンジニア兼漫画家の千代田まどか/ちょまど氏(以下ちょまど氏)、第1回アートグランプリにてグランプリを受賞した、テクノロジー情報サイト「TechnoEdge(テクノエッジ)」のシニアエディター兼コミュニティーストラテジストの松尾公也氏、同じく準グランプリ受賞で、株式会社テセラクト代表取締役社長の小泉勝志郎氏の3名だ。

 全体を通してみると、本トークセッションにおいては、AIと人間の関係、特にクリエイティブな分野での役割とその進歩、それに伴う倫理的な問題が議題の中心となった。

エンジニア兼漫画家の千代田まどか/ちょまど氏
テクノロジー情報サイト「TechnoEdge(テクノエッジ)」のシニアエディター兼コミュニティーストラテジストの松尾公也氏
株式会社テセラクト代表取締役社長の小泉勝志郎氏

 たとえば、近年よく話題となるのがAI偽装問題だ。AI画像生成で作成したイラストを自身の手描き作品として公開したり、実際の手描き作品がAI画像と誤認されるなどして、誹謗中傷の対象になってしまうことだ。ほかにもAIによる画像生成で著名な漫画家やイラストレーターの画風を使ってオリジナル画像を生成したり、芸能人の顔のみを使ったフェイク写真などの生成も可能なため、AI画像を巡ってのトラブルも多く、訴訟まで発展するケースも少なくない。

 こうした背景があるため、AIによる画像生成については、今なお議論の対象となっており、総じて自身で漫画やイラストを描くクリエイターには、否定的な立場を取る人が多く見られる。一方でAIによる画像生成をツールとして活用することで、新たな可能性に繋がると考え、ポジティブな側面を捉えて肯定的に考える人も多い。

 本日登壇したちょまど氏は、こうしたAI画像生成の是非について紹介し、自身はこうした新しい技術をうまく取り入れる事が好きなので、AI画像生成を活かして新しいことにチャレンジしたいと自身の意見を示した。たとえばキャラクターを描くのは好きだが、背景を描くのが苦手な人は、背景のみをAIの画像生成に任せて、自身はキャラクターに注力するなど、AI画像生成の活用事例を紹介した。ほかにもインスピレーションを得る手段の1つとしてもAI画像生成を活かせるなど、自身の考えを語った。

 小泉勝志郎氏は自身の作品や実例などを交えて、AI画像生成との向き合い方について解説した。AI画像生成を使って漫画やイラストなど、特定のキャラクターを指定して好みのポーズや表情をさせて、作品を生成する際には、キャラクター特定についての問題があるという。

 たとえば、Webサイトなどで展開するAI画像生成サービスを使っていると、女の子のキャラクターを生成するのは簡単だが、同じ女の子のキャラクターを特定させた上で、好みの表情やポーズを取らせるためには、「LoRA」を使う必要がある。

 「LoRA」とはLow-Rank Adaptationの略で、特定の画風やテイストでAIを再学習させる手法を指す。これを使うことで、独自の画像のタッチなどをベースとした新たな画像が生成可能となる。

 LoRAについては公開されている物を使うこともできるが、自身の画風などのLoRAを使いたい場合には、ローカル環境において、AI画像生成の実行環境を構築して利用する必要がある点について解説。LoRAさえちゃんと学習できていれば、実際に画像生成を行なう際に与えるプロンプトはすごくシンプルで済むとしており、改めてLoRAの重要性を強調した。

 小泉勝志郎氏は、自身の作品について、以前はアニメ調の絵を元に画像を生成していたが、最近では実写をベースとした画像の生成に力を入れているようだ。また、アニメ調のイラストを元に実写化するような生成も多く試みており、たとえば有名なアニメ作品の実写化をAIの画像生成で試すといった遊びもよくやっているようだ。実写ベースを使う理由について聞かれると、小泉氏の個人的な感触ながら、アニメ調のイラストよりも実写の方がインパクトがあるからだとして笑ってみせた。

 なお、小泉氏の作品で使用されるポーズなどは全て元々モデルのいる実際の写真が元になっており、これら写真については、実際に顔などが使われるわけではないが、写真を使ってAI画像を生成する許可は全て取っているという。

 会場では事前に許可を得たうえで、登壇者の1人、ちょまど氏をLoRAとした画像をいくつか生成した作品を紹介。本人が着たことのないという着物を着た画像や、小泉氏作品のコスプレをした画像などを生成して見せると、ちょまど氏も笑顔を見せていた。そのほかにも、雑なコラ画像をAIの画像生成でリアルな雰囲気に仕上げるなど、現実に存在しえないシチュエーションほど、AI画像生成による魅力が伝わるとした。

 ここで最近のAI画像生成のトレンドとして、AI画像を使った動画生成についても紹介した。女性のケンタウロスやスライムが街中に出現するなど、現実に実在しないキャラクターが動く様子を短時間のアニメーションのサンプルで実演してみせた。短時間アニメーションについての生成も基本的には漫画などを制作するのと同様、LoRAでモデルを固定した上で、アニメーションになるような画像を連続で生成しているようだ。

アニメ調のイラストから実写画像の生成を行なう
LoRAをしっかりと学習させることで、プロンプトはシンプルながらも、左のようなざっくりした手描きのレイアウトからでも右のような写真が生成できる
現実に存在しないシチュエーションなどを実写画像で生成
ちょまど氏の許諾を得てプロフィールの画像からLoRAを学習させ、本人が着たことのないという着物の画像などを生成したサンプルを披露した

 AI関連技術の最新トレンドを常に追っている松尾公也氏だが、AIクリエイティブでは、音声変換などを中心にチェックしている印象が強い。第1回AIアートグランプリでも、他界した妻の歌声を音源化した「妻音源とりちゃん」を使って楽曲などを作成している。

 最近の松尾氏はAIを利用したリアルタイム音声変換「RVC(Retrieval-based-Voice-Conversion)」などがマイブームとのことで、たとえばマイクで拾った音声を瞬時に別の声優などの収録した音声に入れ替えて話をするなどの機能をユーザーが気軽に使えるようになっていると楽しげに語った。

 なお、今回松尾氏によるデモンストレーションは特になかったが、当初公開予定だった映像作品がYouTube上にて公開されている。

空也上人の口には3Dプリンタ? メディアアーティストたちのトークからAIの未来を探る

 続いてはAIアートに関するトークセッション「AIアートの今日と明日」も行なわれた。このトークセッションでは、メディアアーティストの八谷和彦氏、株式会社コルクの代表編集者である佐渡島庸平氏、そしてメディアアーティストの落合陽一氏が登壇し、それぞれが行なっているプロジェクトやAIとの関係について議論した。

メディアアーティストの八谷和彦氏
株式会社コルクの代表編集者、佐渡島庸平氏
メディアアーティストの落合陽一氏

 八谷和彦氏は1990年代にリリースしたペットのメールソフト「ポストペット」のほか、最近では宮崎駿監督のアニメ作品「風の谷のナウシカ」に登場する飛行機「メーヴェ」の実機を作成するプロジェクト「オープンスカイ」などが有名だ。メーヴェについては、ちょうど11月3日に、4年ぶりに飛行してきたのだという。

 特に「メーヴェ」作りにおいては、既存のものとは異なる新しい何かを作りたいという思いから、実際に20年以上を費やして挑戦していることが語られた。現行では航空法の問題などもあり、機体をよく知る人間しか搭乗できないため、作品のように美少女が乗る事はできていないが、いずれ美少女が乗れるようにしたいとも語る八谷氏。また、訓練の際に失敗すると死に繋がってしまうため、仮想世界で訓練ができるようにVRを利用したシミュレータの開発なども手掛けてきた。

八谷氏は過去のメーヴェ飛行映像などを披露

 佐渡島庸平氏は、週刊モーニング連載「宇宙兄弟」や「ドラゴン桜」などの漫画作品を担当した編集者。「宇宙兄弟」についてはファンクラブを設立してファンとの交流を深めたり、単行本発売時には毎回作品にちなんだユニークなアイテムが同梱される限定版を多く発売しており、最近でも新政酒造とのコラボレーションバージョンの「No.6」という日本酒を800本限定販売したが、こちらも順当に完売したという。

 佐渡島氏は、AIの登場で作家よりも先に編集者の仕事がなくなると語る。現段階でも既に作家の人が編集者に作品をみてもらうより、ChatGPTなどAIに見てもらう方がより精度の高いフィードバックが得られている状態で、今後さらに絵の出力なども可能になってくれば、そうしたフィードバックの仕事はAIがやるため、必要がなくなるという。そのため、逆にAIの使い方を学んだ方がいいと考え、AIを活用した漫画制作など、AIでクリエイティブの力を高める方法などを模索しているという。

 今後の漫画制作については、コンテンツその物は大量に作成し、そこからニッチ層を拡大して、リアルな物を探して結びつける事が今後のクリエイターが稼ぐためには重要と考えているという。そのため、ファンとの繋がりなど、リアルとの結びつきをどのように強めて、生活を豊かにできるかなどを考えていくのが今後の編集者の仕事ではないかと、試行錯誤しているようだ。

 また、エンタメ制作の新しい仕組みとして考えた「SUPER SAPIENSS」を進行中だという。その中でも10月末から連載を開始した「キラー・ゴールドフィッシュ」は、制作工程もユニークで、これは1度人の手で描いた下書きをStable Diffusionに入れて、生成させたデジタルデータを元にもう1度、人が描き直すという作業を行なっているという。

 佐渡島氏はこのように編集者としての視点からAIの可能性について語る。AIがクリエイターの収益を向上させる可能性を早くから認識し、それを活用する方法を学び、さらに現在では政府の戦略会議のメンバーとして、AIとの関わりを深めていることが話された。

佐渡島氏のプロフィール。エージェント契約で「宇宙兄弟」や「ドラゴン桜」などの連載を立ち上げた
コルクの活動として、宇宙兄弟関連の情報や、現在進行中のプロジェクト「SUPER SAPIENSS」などのエピソードを披露

 落合陽一氏は、AIを用いたアート作品の制作について言及し、技術とアートの融合によって新しい価値を創造している。また、地方でのプロジェクトの重要性に触れ、中長期的な視点でクリエイティブな仕事を捉え直す必要性を強調した。

 特に自身で作成した「オブジェクト指向菩薩」は圧巻だ。きっかけは、Xで祈りたい人にリプライをくれればその人に向けた仏像を作るという投稿をして、日々仏像を作るようになったが、他人の仏像を作っているうちに自分のも作りたくなったことだという。

 AIが生成した文字データから2次元のデザインをつくり、そこから3Dデータを起こして、それをもとに旧知の家具職人に依頼して木製の部品を生成。それらをプラモデルのように組み立てて、仕上げには当地の職人が彫り込みを入れて完成した仏像だ。

 身体にはコードが巻き付くようなビジュアルなど、デジタルらしさを連想させるパーツを用いながらも、仏像としての雰囲気を損なうことなく、厳かな佇まいを見せている。現在「オブジェクト指向菩薩」は岐阜県高山市の重要文化財・日下部家住宅を活用した日下部民藝館に設置されており、新たな仏像などを設置して迎え入れる儀式、開眼法要も完了している。

 「オブジェクト指向菩薩」を東京などに持ち運んで、展示するなどの予定について聞かれると、落合氏は、1度法要してしまうと、別の場所に移動した後に再度法要が必要になるため、現在は現地に行く以外に実物を見る方法がないという。ここで落合氏は会場に向けて、スポンサーさんがいれば東京で法要できます、とアピールしてみせた。

 落合氏のトークは仏教色の強い面もありつつ、それらがデジタル化の話と密接に絡んでくるため、聞いていて非常に興味深い内容が多かった印象だ。たとえば仏とAIが繋がっているとして、昔の有名な僧侶の1人、空海の語った内容が完全にベクトルだ、と表現したり、空也上人と呼ばれる平安時代の僧侶を指して、この人は、口の中に3Dプリンタが入っている開祖と言われているなど、空也上人のことを知る人ならさらに面白くなるネタや、これまでこうした音声のデジタル化において、周波数情報や局所特徴量だけでやっていてもダメだったものを、抽象化して、自然言語を計算が可能な形に変換するEmbeddingなども交えることで新しく見えてくるものがある、といった話など、その内容は多岐に渡っていた。

落合陽一氏の「オブジェクト指向菩薩」の3Dデータ
3Dデータを元にこのような木材の部品単位で友人の家具屋に依頼
組み立てていく過程も紹介
完成した「オブジェクト指向菩薩」の背面。無数に這うコードのような物も全て木製
法要も完了済み

 ここで佐渡島氏に漫画制作とデジタルの関係性についてもう少し深く尋ねると、現在のAI画像生成は技術は高いが、まだ商業的な思考などを探った上で作品を作るといったことはできないし、そういった指示もできないのが現状であるとし、事実AI漫画家が人間の漫画家と入れ替わるようなことは起こっていない点も強調。一方でアイデア出しやモチベーションコントロールなど、部分的に刺激を与えるツールとして使ったり、背景やモブキャラの生成などで利用するような用途で使われていると状況を説明した。

 一方で生産性の向上からコンテンツが増加していくことで、競争が激しくなり、作品が埋もれてしまう危惧についても触れ、プロモーションも重要になってくるとした。八谷氏もこれに概ね賛同し、編集者の価値がこれまでと違うものに変化していく必要があるとした。

 こうした価値の変化について、落合氏に振ってみると、落合氏は増えていくコンテンツに対してはそれを褒めてくれるようなAIによるBOTなどを増やさないと満足感が上がらないため、そういう物も必要になってくるという話を返す。

 八谷氏も佐渡島も、それが進むとAIのBOTから一定の成果が得られたコンテンツがようやく人間の目に留まるような事すら起こる事はあり得ると思考を巡らせるなど、3人の議論も非常に興味深い内容となっていた。

 全体を簡単にまとめると、3者とも異なる立場、異なる考えを持ちながらも、全体を通して、AIの技術がクリエイティブな産業に革新をもたらし、新しい表現の可能性を拓く一方で、アイデアを実現するための持続的な努力と、長期的な価値観を見据えることの重要性が語られていた。AIとの共生を模索しながらも、テクノロジーに流されず、オリジナルのアイデアを具現化することの大切さを伝えていた。

更なる技術革新、人との繋がりなどを改めて考える

 以上、第1回AIフェスティバルの模様を簡単にお伝えした。今回書ききれなかった、24時間AIハッカソンのプレゼンテーションや第2回AIアートグランプリのプレゼンテーションの様子は、作品の説明や意図がより鮮明になる上に、登壇者たちの個性が伝わる非常に興味深い内容になっているので、AIに興味がある人は1度ご覧になることをおすすめしたい。

 AIの爆発的な普及は、一部では混沌とした状況を生み出す元凶にもなっており、これまでの法律やルールではフォローしきれない面も多く、議論や裁判が頻出しているのが現状だ。一方で普及が進むほど技術も飛躍的に伸びており、画像生成の精度の向上やテキストチャットスタイルのChatGPTもバージョンアップを繰り返し、新機能が続々と盛り込まれている。

 MicrosoftのBingやGoogleのBard、Lenovoの先日の発表など、大手企業も次々と新たなサービスを開始しているほか、GMOのように全社規模でAIに真剣に取り組むような企業も出てくるなど、AIを取り巻く環境は日々変化している。一方でAIがあれば何でもできるほどの万能感はまだなく、進化のスピードだけで乗り切れない問題も多く見られる。

 個人的にはAIにとって得意な分野や苦手な分野を見極めつつ、次々と出てくる新サービスをなるべくあれこれ触っておくことで、少なくとも思考がAI活用に乗り遅れないようにしておくのが重要だろうと考える。今回のAIフェスティバルは、そんなAIとの向き合い方について改めて考えさせられる、趣のあるイベントだった。

【お詫びと訂正】初出時、一部登壇者の方のお名前に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。