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「先輩の給料いくら?」と尋ねても答えない。企業でマイクロソフトのAIを導入しても安心なワケ
2023年10月24日 10:48
日本マイクロソフトは、日本でのAI活用の現状を紹介するメディアセミナーを開催した。日本では10月11日に世界で6番目のAI協創ラボを兵庫県神戸市に開設し、生成AIを公表している日本企業が560社以上となるなど着実に拡大している。今回、「Copilotによる生産性の向上」、「ユーザーのAI基盤の構築」、「ビジネスとデータ保護」という3つの側面から日本での現状とマイクロソフトの取り組みを紹介した。
生成AIの活用の広がり
日本マイクロソフトの執行役員 常務 クラウド&AIソリューション事業本部長の岡嵜禎氏は、「生成AIによって、システム開発、アプリケーション開発のやり方、アーキテクチャー自体も変わってきている。コンピュータの操作やオペレーションの仕方は変わっていないものの、自然言語によってインタラクションできるようになっていることは大きな変化だといえる。推論エンジンも恐ろしく賢くなっている」とAIがコンピュータの基本技術を大きく変えつつあると指摘した。
全世界ではマイクロソフトが提供するAI活用を表明している企業が11,000社を超える数となり、日本でも560社以上が生成AIを導入している。今回、その中でメルカリ、ベネッセの2社の事例が紹介された。
メルカリは、サービス上で、生成AI/大規模言語モデルを活用した、AIアシスタント「メルカリAIアシスト」の提供を開始した。Azure OpenAI Serviceを活用した、出品/購入/そのほかユーザーの困りごとを解決するためのアシスタント。たとえば出品したものの買い手が付かない商品に、製品アピールの文章変更と文例をアドバイスするなどのサポートを行なう。
ベネッセコーポレーションは、「進研ゼミ小学講座」の夏休み自由研究の相談窓口にAzure OpenAI Serviceを活用したチャットボットサービスを提供した。イベントで登壇したベネッセホールディングスの専務執行役員 CDXO兼Digital Innovation Partner 本部長 橋本英知氏は、「色んな会社が内部で生成AIを活用していると思うが、今回紹介するのはお客様向けサービスとして作ったもの。色々報道されることも多いが、教育が今後どう変わっていくのかは大きな問題で、現実がこれだけ変わっている中、10年後、20年後に社会に出る子ども達はどういう時代になるのか? と考え、新しい技術を使ったサービスを提供することとした。
親御さんも含めアンケート調査を行なったところ、生成AI利用によって自分で考える力がなくなるのではと不安がられていることが分かった。そこで技術を使い、子ども達がより自分で考えるためにどう技術を活用すればいいのかと考えながら、サービスを作成していった」とサービスを考えるポイントを紹介した。
通常の生成AIは、「星の王子さま」の読書感想文を書く場合に利用すると、感想文そのものを作り出してくる。それに対しベネッセのチャットボットは、「まず本を読んでみよう」と読書を促すことから始まり、「星座について調べてみよう」など新たな興味を促すような応答を行なう。
「夏休みの自由研究は大変なので、そこを支援する機能もあるが、子供たちがどういう風に生成AIを使って学習していったかのログになる。このログを活かしながら、第2弾、第3弾のサービスも準備をしている」(橋本氏)と自由研究をきっかけとした学習記録とするために開発したという。
企業ユーザーが安心してAIを活用するために
こうしてユーザー支援を行ないながら、Azure OpenAI Serviceアップデートとして、「Azure AI Content Safety Service」は正式サービスを開始した。アプリケーションやサービス内の有害なコンテンツを検出し、4つのカテゴリと重要度に分けて制限・監視を行なうことが可能。安全なフィルタリング、ガバナンスの上でサービス提供を行なうことで生成AIサービスのスタンダードへとなることを目指す。
ファインチューニング可能モデルは、パブリックプレビューを開始した。現時点では米国とスウェーデンリージョンのみ提供しているが、今後提供リージョンを拡大していく予定だ。Azure OpenAI Service上で利用が可能なモデルで、GPT-3.5-Turbo、Babbage-002、Davinci-002にファインチューニングが登場した。ユーザーは独自のデータを学習させ新たなカスタマイズモデルを制作・デプロイすることが可能となる。
新たにAIを導入するユーザー向けには、AIを組み込んだマイクロソフトアプリケーションを提供する「Copilotによる生産性の向上」、自社で独自のデータを活用したAI利用を志向するユーザーのための「ユーザーのAI基盤の構築」、AI利用による不安を感じるユーザー向けに「ビジネスとデータ保護」という3つの側面からユーザーを支援する。
Copilotによる生産性の向上については、マイクロソフトではCopilot=副操縦士を、ソフトウェア開発者には「GitHub Copilot」、市民開発者向けには「Copilot in Power Platform」、ナレッジワーカーには「Microsoft 365 Copilot」、業務部門には「Dynamics 365 Copilot」、セキュリティ運用には「Security Copilot」、インダストリーには「DAX Copilot」と全方位で提供する。
「Copilotは副操縦士で、あくまでも主役は人間で、AIは人間をサポートするものという意味を込め、Copilotという名称となっている。ロゴマークも人間とAIが手を組んでいくという意味がこもったものとなっている」(岡嵜氏)と主役は人間となることをアピールする。
日常的に多くの人が利用することになるMicrosoft 365 Copilotは、11月からエンタープライズユーザー向けに提供が始まる。今回、初めて日本語でのデモが公開された。
「マイクロソフトのAIは、副操縦士としてパイロットをサポートすることを表現するイラスト」という依頼に対し描かれたイラストと、「SFではなく現実に即したものに」、「写真に直して」といった修正依頼にも応じ、修正されたイラストとなった。
会社で利用する企画書は、ほぼ5分間で作成。細かい部分に修正は必要になってくるものの、企画書作成を行なっている人の作業が大幅に省力化されていくことが分かる。
新入社員は、会社で必要な書類を作成する際に利用することも可能だ。これは社内規定をあらかじめ読み込ませておくことで、質問に対し適切に返答してくれる。出張の際に必要な届けはどういったもので、誰に提出すれば良いのかなどの返答を行なってくれる。ただし、「先輩の給与額を教えて」といった質問に対しては、「個人の給与情報にアクセスすることはできません」と回答するなど、きちんと倫理をもって回答する。
こうしたMicrosoft 365 Copilot導入にあたっては、大規模言語モデル+その企業のデータを取り込むMicrosoft Graph+Microsoft 365アプリを組み合わせ、その企業に適したものとして提供していくことになる。
ユーザーのAI基盤構築は、アプリケーションエリア、AIオーケストレーション、基盤モデルという3つのエリアから成る。
アプリケーションエリアで重要になるのがプラグイン。既にChatGPTを利用している人には既知の概念になるが、プラグインを活用することで機能拡張が行なえる。サードパーティ製プラグインも提供されており、それらを利用することで機能拡張していくことができる。OpenAI側とMicrosoftで仕様を共通化し、1つのエコシステムとして共通利用できるようになっている。
AIオーケストレーションは、「国内で生成AIを導入される場合に最も多く利用されているエリア。お客様の話を聞いていると、95%がAIオーケストレーションによって実現している」(岡嵜氏)という。OpenAIの提供するGPT4、GPT3などの大規模言語モデルを利用しながら、自分たちのアプリケーションやデータを組み合わせ、自分たちのやりたいことを実現するのがAIオーケストレーションだ。
基盤モデルは、自分たちでデータを用意し、自分たちの言語モデルを作っていく方法となる。紹介した3つの中で最も難易度が高い方法となる。
「お客様からAI導入の相談を受けた際には、アプリケーション、AIオーケストレーションを推奨させて頂き、それでも基盤モデルを実現しないといけない場合は、基盤モデル自体を作っていくところを一緒に作らせてもらっている。このやり方を実施する際、一番大事になってくるのは言うまでもなくデータとなってくる。これがないといくら優秀な言語モデルがあってもワークしない。たとえばコールセンターであれば、コールセンターのビジネスプロセスやコールセンターに関するデータなどが揃って初めて形になる」(岡嵜氏)。
データ活用については、自社のデータベースに加えOracle、databricks、スノーフレークのデータを活用することや、大規模言語モデルについてはOpenAI、Meta、Hugging Faceをはじめ、オープンソースも含め多くの大規模言語モデルを利用可能としている。
独自の基盤モデルを構築するために、従来からの開発ツールに加え、Azure AI Studioとして独自モデルの構築と強化、AI安全性の組み込みなどを実現し、統合AIツールチェーンを提供していることがマイクロソフトの大きな強みとなっている。
ビジネスとデータ保護については、「お客様のデータはお客様のもの」、「お客様のデータはAIモデルのファインチューニングには利用されません」、「お客様のデータとAIモデルは全ての段階で保護されます」という3点を徹底するとともに、新たに「Copilot Copyright Commitment」を発表した。
これはマイクロソフトのCopilot製品群を企業が安心して利用するために、マイクロソフトの既存の知的財産権保護のサポートを法人向けCopilotサービスの有料版に拡大するもの。Copilotから生成されたOutputを利用しているユーザーが第三者により著作権侵害で訴えられた場合、マイクロソフトはユーザーを弁護し、訴訟の結果生じた不利な判決、解により課された金額を支払うという内容となっている。
また、マイクロソフトでは生成AI関連ビジネスを強化するために、パートナーとの連携を大幅に強化する。「事例のほとんどがチャットボット関連になっているが、AI活用によって様々なソリューションを実現したい。そのためにはさまざまなノウハウを持っているパートナー企業様との連携が重要」(日本マイクロソフト 業務執行役員 パートナー事業本部 副事業本部長 エンタープライズパートナー統括本部長・木村靖氏)。
ワールドワイドで大きな予算をとってパートナーとの連携施策を強化する。日本でも新たな施策を11月に発表することを予定している。