ニュース

東大、音声コマンド認識AI向け省電力プロセッサを開発。乾電池1本で2.2年連続動作

同研究グループが開発した布線論理型AIプロセッサ

 科学技術振興機構(JST)東京大学は9日、音声コマンド認識AI向けの省電力プロセッサを開発したと発表した。東京大学大学院工学系研究科の小菅敦丈講師、澄川玲維大学院生、濱田基嗣特任教授、黒田忠広教授らの研究グループによる成果。

 同研究グループでは消費電力に課題をかかえるAI処理の低消費電力化を念頭に、人の大脳をまねた布線論理型(結線論理型、ワイヤードロジック)のAIプロセッサを開発しており、今回発表した研究内容では、布線論理型AIプロセッサにおいてニューラルネットワークを構成するニューロン/シナプス数を削減するアルゴリズムと、省面積回路実装技術を新規に開発した。

 布線論理型AIプロセッサでは演算器同士を物理的に結線し、結線を組み替えることでプログラムの命令を実行する。メモリアクセスがなく、チップ間の通信アクセスを減らして消費電力の低減を図っており、回路の実装面積を削減することによって省電力化を達成できる。

 今回、同研究グループでは音声コマンド認識向けにビット幅を削減し、ニューロンを省面積な回路として実装しやすい形に変換する「Logical Compression」技術と、ニューロン回路をAIのモデルとして再度取り込みAIモデルを最適化する「Logical Compression Aware Re-Training」技術を新たに開発。音声コマンド認識の精度を保持したまま、回路面積を497分の1まで削減することに成功した。

 今回発表した布線論理型AIプロセッサは、40nmプロセスで製造した3×3mmのチップに16層の深層ニューラルネットワークを実装している。同プロセッサの消費電力152.8μWで、従来のAIプロセッサと比べて3.5倍のコマンド数を認識。消費電力は2,552分の1まで削減でき、35種の音声コマンドを識別可能なAIを乾電池1本で2.2年連続動作させられるとした。

 同研究グループによれば、同プロセッサは短期間に機能更新を繰り返すAIアプリケーションに最適としており、今後は音声コマンド認識のほか、マシンビジョン、設備点検の自動化、物流倉庫、無人店舗、カメラやドローン向けのエッジAIアプリケーションへの展開を目指すという。

音声コマンド認識AI向け布線論理型AIプロセッサの概要
既存の音声コマンド認識プロセッサとの性能比較