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シャープ、創業111周年記念。11月11日にイベント開催へ

 4月17日、シャープは、創業111周年を記念した式典を開催した。千葉県の幕張新都心にあるシャープのビルで開催された式典には、取引先や社員など関係者約500人が参加。代表取締役社長兼CEOの呉柏勲氏は、「シャープは早川徳次氏による創業以来、常に時代を先駆ける企業であり、世界を先駆けた事業を行なってきた。新年度では、創業111周年ということでさまざまなイベントを計画しているので、楽しみにして欲しい」と挨拶を行ない、111周年の11月11日という1が7つ並ぶ日に、自社技術をアピールするイベント「Sharp Technology Day」を開催することを発表した。

 また、式典終了後に行なわれた報道陣との質疑応答では、2022年度の最終決算が第3四半期時点で赤字となる見通しであることを発表していることから、2023年度の業績予想に関する質問が飛んだ。呉氏は、「詳細は5月初旬に実施する決算説明会で明らかにするが、2023年度は黒字化必達」と強調した。

「記念の年にさまざまなイベントを計画している」と宣言した代表取締役社長兼CEOの呉柏勲氏
111周年記念イベントの中で、11月11日に「Sharp Technology Day」開催を宣言

パネルディスカッションでは注力する4技術の将来像を紹介

 111周年記念イベントは、創業者である早川徳次氏の長女で、社会福祉法人 育徳園の顧問である早川住江氏をはじめ、シャープの工場があるポーランド共和国、インドネシア共和国、ベトナム社会主義共和国の大使、衆議院議員の甘利明氏が祝辞を述べた。

来賓代表として挨拶した衆議院議員 甘利明氏

 早川氏は、「常に1番であることを望んでいた会社が、ついに1を3つ重ねる年を重ねました。本当におめでたいこのタイミングで、皆さんと席をご一緒できることを本当に嬉しく思います」と笑顔で挨拶した。

創業者である早川徳次氏の長女である早川住江氏

 来賓からの挨拶の後で、今後のシャープが提供する技術の方向性を紹介するパネルディスカッションが行なわれた。

 パネルディスカッションは、シャープの常務で研究開発本部長の種谷元隆氏が進行を担当し、シャープ 新規事業開発統括部長の今村公彦氏、シャープ Platform事業推進部長の中田尋経氏、シャープディスプレイテクノロジー 開発本部長の伊藤康尚氏、シャープエネルギーソリューション エネルギーマネジメント事業統括部PV技術部 参事の宮西晋太郎氏の4人が担当する事業分野の展望について話した。

 最初に種谷氏は、「今、まさに世界は大きなイノベーションが起こっている。このイノベーションはシャープにとっても非常に興味深いもので、我々の強みを活かしていくことができるものだと考えている。そこで今日はその一端として4つのテーマでお話させて頂きたい」とパネルディスカッションの狙いを説明した。

 4つのテーマの中で最初に取り上げたのはAI。「今年の初め頃から、ChatGPTを代表とする生成系AIによって世界が大きく変わっていくと大きな話題になり、皆様の耳にも届いていると思う。実はシャープ自身も日本語チャットエンジンを十数年前から展開している。現在、話題となっている新しいAIの世界は、我々にとっても大きなチャンスだと考えている。開発の責任者である中田さんから我々の取り組みを話してもらう」(種谷氏)。

 シャープ Platform事業推進部長の中田尋経氏は、自分が担当する家庭内で使われているAIを活用した家電製品の今後の方向性について紹介した。

 「シャープは2016年、AIoTというキーワードで家電をクラウドのプラットフォームにつなぎ、AI活用によって、人に寄り添う、優しい存在へと進化させる世界を作り上げることを目指してきた。これまでに12品目、835機種、累計400万台以上が皆様のお手元で使われている。スマートフォンに関しても、お客様の利用状況を判断し、スマートフォンから話しかけ、その時に最適な情報を届ける音声アシスタント『エモパー』を提供。累計で2,000万台以上がお客様の元で使われている。

 一方、新しい技術が次々に登場していることから、これらを利用することでAIoT家電を進化させていくことも、今後重要だと捉えている。さらに、今後は家電から得られるデータをもとに、お客様の日常を学習し、そのお客様に最適なサービスや情報を提供する進化も実現したい」。

 今後開発の方向として、地球温暖化対策として省電力化をさらに進めていく。さらに高齢化がさらに進むことから、健康アシスト機能を充実させていく。「これらに加え、不意に襲ってくる災害から1人でも多くの方の命を救うために、救助隊が来た時に『さっきまで人がいました』といった情報を伝え、救助の助けとするなど、しゃべる家電が人間の命を救うといった使い方ができるよう、考えてみたい」(中田氏)と全く新しい方向での活用も研究課題としていると説明した。

 次のプレゼンターとして登場したのは、シャープエネルギーソリューション エネルギーマネジメント事業統括部PV技術部参事の宮西晋太郎氏。グリーンイノベーションに対する取り組みとして、実績ある太陽電池事業の今後について説明が行なわれた。

 シャープは1959年に太陽電池事業に取り組んできた。第1世代をシリコン電池、第2世代を衛星に搭載されている宇宙用太陽電池、第3世代を2022年のCEATECで発表した室内の光源で発電する「屋内光発電デバイス」と位置づける。現在、この次の技術として、ペロブスカイト太陽電池に取り組んでいる。

 「ペロブスカイト太陽電池が注目されている理由は、塗布し乾かすと結晶化し利用できる、印刷すると利用できるといった今までにはなかった応用ができるのではないかという点。ここにシャープが持つ独自技術を組み合わせることができないかと開発を進めている。これまで培ったディスプレイ製造設備を活かし、大面積、低コスト化を実現できるのではないか。太陽電池事業で60年以上積み重ねてきたエネルギー制御技術などを組み合わせた太陽電池モジュールの開発も進めている。これまで重量制限があった屋根などにも設置可能となり、建物の壁、窓に貼り付けて利用することも考えられる。将来的には飛行体の羽根に適用するといった使い方もできるのではないか。新たな市場を作る可能性がある」と宮西氏は市場拡大の可能性を言及した。

 次にグリーンイノベーションとしてePaperを使った商品群が紹介された。「我々の液晶事業で培ってきたノウハウ、技術を使うことができる有望分野で、ほとんど電気を使わずに表示できるディスプレイを目指している」(種谷氏)。

 この事業を担当するシャープディスプレイテクノロジー 開発本部長の伊藤康尚氏は、「我々は電卓用液晶からスタートし、半世紀の間、開発を続けてきた。ブラウン管TV時代から、全て液晶TVに置き換えたいと考えてきたが、今や全てが液晶TVとなっている」と液晶事業初期に考えていた状況が実現していると説明した。

 「新しいディスプレイとしてePaperディスプレイをさらに発展させるための開発を続けていく。ePaperの特徴を活かし、電源線と一次電池不要のディスプレイとなるため、屋外など幅広い場所に活用できる。広告用ディスプレイ、交通情報を掲示するインフラ、緊急時の誘導、e-POPなどでの活用が行なえる。

 「ePaperは低電力消費が特徴。さらに屋外に設置した際、反射がネックとなっている設置場所のディスプレイにePaperを組み合わせることで、利用場面が広がる。さらに、シャープの持つ次世代太陽電池と組み合わせる、通信技術、精細化技術を組み合わせ、さらにインテリジェンス型のePOPのようなものを開発していくことで、新たなディスプレイ需要を生み出すことができる。交通インフラ用に活用しているものは、災害が起こった場合には必要な情報に書き換えることで、必要な情報が即座に提供できるインフラ端末として活用できる。このようにディスプレイの技術進化を通じ、社会にも貢献していきたい」(伊藤氏)。

 4つ目の技術として紹介したのは通信技術。種谷氏は、「先ほどからお話をしている、グリーンイノベーション、AIといった世界は、実際はネットワークがなければ、誰も使うことができない。コミュニケーションのイノベーションは、非常に重要なものとなる。シャープはラストワンマイルを実現する無線通信の技術開発を進めている」と今日紹介した新技術を活用するために、通信が欠かせないものだと説明した。

 通信事業を担当するシャープ 新規事業開発統括部長の今村公彦氏は、「通信と放送の融合は、あちこちで言われていることだが、シャープではプレ6G通信の早期事業化によって、真の通信と放送の融合を実現する。

 こう説明すると、『5Gが始まったばかりで6G通信とは?』と言われる。しかし、4Gと比べ5Gの通信領域は広がっていないと感じられている方も多いようだ。プレ6G通信によっていち早く通信環境を整えていく。先ほど種谷が紹介したように、AIなど新しい領域は通信がつながっていないと利用が難しい。衛星通信などを活用し、どこでもつながる状況を作ることがさらに重要になってくる。

パネルディスカッションとしてシャープの主要技術4分野の最新動向が紹介されたプレゼンテーションスライド

 シャープの強みとして、TV事業、スマートフォン事業などがあるが、研究開発では映像規格特許、5G通信規格特許を数多く有し、いずれも日本でトップとなっている。これは20年以上研究開発を続けてきた成果であり、こうしたシャープの強みを活かすことができるのが通信と放送の融合の実現ではないかと考える。

 例えば衛星のブロードキャストがインターネット通信に移り、マルチキャストなどを使った通信と放送を融合した世界の実現が見えてきている」とこれまでの研究成果を活かしたシャープの強みが活かせる分野だと説明する。

 さらに、太陽電池技術やePaperなどを組み合わせることで、場所を選ばずに放送と通信を融合した世界を作っていくことで海外での利用や災害時に利用するインフラとしての活用など新たな利用場面拡大につながるという。

 11月11日に開催予定のSharp Technology Dayでは、「今回紹介した4つの技術は我々が提供する商品の一部。今回紹介した製品以外のものも含め、我々が進めているイノベーションを紹介していく」(種谷氏)とさらなる技術を紹介していく予定だという。

厳しい質問飛んだ質疑、2023年度黒字化に強い意欲示す

 招待者が退場した後に開催された報道陣との質疑応答は、明るいお祝いムードだったイベントとは一転し、厳しい質問が飛んだ。

 何度も確認されたのが、2022年度決算が赤字となることへの対応。2022年度決算の詳細は、「5月初旬に正式な発表を行う。詳細はその時に説明する」としたものの、第3四半期の決算発表時点で通期は赤字となることを発表している。そこで赤字をどのように改善していくのか、リストラや事業統廃合などの計画はあるのかなどの質問が繰り返し質問された。

シャープ 代表取締役社長兼CEO 呉柏勲氏

 それに対し呉氏は、「111周年ということで、会社としてトランスフォーメーションとアップグレードしていかなければならない。全社方針として、幹部のみならず、全社員一丸となってその準備を進めている。その上で2023年度は今日の111周年記念イベントをきっかけに、黒字化を目指していく。全社的にモチベーションを上げ、黒字化必達で取り組む」と具体的な黒字化への対応策は言及しなかったものの、今年度は黒字化が必須と考えていることを強調した。

 黒字化実現に向け、社員に言っていることとして、「幹部やマネージャークラスだけでなく、一般社員も含め、『創業者精神』を持ってもらう。サプライチェーンに関わる全ての人が共通認識を持つことで、黒字化を行なう意識を持てるのではないか」と説明。支出を抑え、財源を増やす健全な財政を示す四字熟語「開源節流」を実現する意識を、全社員が持つことは必要だとした。

 赤字対策として、鴻海から追加融資を行なう可能性はるのか? という質問に対しては、「鴻海はあくまでも重要な株主。ガバナンスの観点から、当社は独立性を持って事業展開を行っていく。一方、ビジネス的な観点でいえば、当社と鴻海はお互いのリソースを活用することで成長していくことを目指していく関係」と説明した。

 株主である鴻海精密工業の本社が台湾であることから、「台湾有事が起こった際のサプライチェーンの変動については検討しているのか?」という質問も飛んだ。これに対しては呉氏は、「今日見て頂いたように、シャープは東南アジア、欧州も含め、グローバルなサプライチェーンを展開している。台湾で異変が起こった際には、何らかの影響を受ける可能性はるが、それに対してもフレキシブルに対応していくことを考えている。これは新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックが起こった時代から、世界のサプライチェーンも含め、検討が必要だと考えるようになっている」と説明した。

 液晶パネル事業について、前社長 戴正呉氏がこだわった堺にある子会社・堺ディスプレイプロダクト(SDP)に対しては、「ディスプレイ事業の赤字は、外的要因が大きいと考えている。パネル価格の変動が現在の厳しい環境をもたらした要因となっている。当社が今後もSDPのパネルを採用していく方針は今後も継続する」と話した。

 戴正呉氏は、「シャープ再生への道」という書籍を書いている。「これを読んでの感想は?」と聞かれた呉氏は、「日本語の本なので、少しずつ読み進めている。ただ、中に書かれていた有言実現という言葉は、私自身も重要だと考えているもので、社内にもアピールしている」という。

 なお、創業111年というタイミングでイベントを行なったことについては、「今年、11月11日は創業から数え、1が7つ揃うタイミング。1が7つ揃うのは中国では大変おめでたいこととされており、そのタイミングでイベントを行おうということになった」と説明した。

会場外にはシャープの歴史を作った製品が並べられた
創業者の早川徳次氏の写真も展示のモチーフに
早川氏が考案したベルトのバックル「德尾錠」
早川式操出鉛筆こと、シャープペンシル
国産第一号鉱石ラジオ受信機
国産第一号14型テレビ
日本初の量産型電子レンジ
世界初オールトランジスタ・ダイオード電子式卓上計算機
シャープ製第一号ソーラーモジュールとソーラーラジオ IEEEマイルストーン盾
世界初LSI電卓「マイクロコンペット」と液晶表示電卓「液晶コンペット」
液晶ビデオカメラ「液晶ビューカム」
ワープロ「書院」、電子システム手帳、液晶ペンコム「ザウルス」、業界初のモバイルカメラ付き携帯電話
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