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ChatGPTはTikTokの4倍以上の速度で普及。アクセンチュアがビジネスメリットとリスクに言及

爆発的な速度で普及するChatGPT

 アクセンチュアは、ChatGPTをはじめとするジェネレーティブAIに関して説明。ビジネス現場において創出される価値や、潜在的リスクなどについて解説した。

 アクセンチュア 執行役員 ビジネスコンサルティング本部AIグループ日本統括 AIセンター長の保科学世氏は、「ジェネレーティブAIの登場によって、人間にしかできないとされてきた領域までがカバーされつつある。だが、人の作業時間を短縮し、着想力や創造力の幅を広げ、人に寄り添うパートナーになる可能性を秘めている」と指摘する一方、「入力するデータの漏洩リスクや、真偽や倫理性などの課題がある。もっともらしいアウトプットを出すことに長けており、いまは最終的に人が真偽や倫理を判断する必要がある。責任あるAIの再教育を施すことで、リスクを軽減することができる」などとした。

 なお、アクセンチュアでは、社内ナレッジデータベースを活用した同社版ChatGPTを導入し、想定されるリスクを最小化しながら、実際のビジネスにジェネレーティブAIを活用しているという。

アクセンチュア 執行役員 ビジネスコンサルティング本部AIグループ日本統括 AIセンター長の保科学世氏

2カ月で1億ユーザーに達したChatGPTが与える影響

 ジェネレーティブAIの中でも最も注目を集めているChatGPTは、提供開始から2カ月間で1億人が利用。TikTokが1億人に到達するのに9カ月、LINEが19カ月、Instagramが30カ月かかったのに比べると、その普及スピードの速さが分かる。

 「ChatGPTは、手軽に利用できるとともに、能力の高さが評価されている。MBAの最終試験や米医師資格試験の合格ラインに到達したり、米司法試験に対する解答が上位10%のスコアを獲得したり、日本においても過去5年分の日本の医師国家試験に合格するといった結果が出ている。弁護士や医師などの専門性が極めて高い職業の業務のあり方を変えるのをはじめ、あらゆる業界や仕事、生活に影響を及ぼすことになる」と語る。

 調査によると、あらゆる業界において、平均で40%の労働が、ジェネレーティブAIによって大きな影響を受ける可能性があるとの結果が出ている。とくに、金融業や保険業、ソフトウェアおよびプラットフォーム、証券などの業界での影響が大きく、職種では、事務作業やアシスタント業務、営業・販売、コンピュータ・数学、事業運営/財務運営、アート・デザイン・エンタメ・メディアなどへの影響が大きいという。

ChatGPTによって影響を受ける業種

 一例としてあげたのが、情報システム部門における影響だ。

 ジェネレーティブAIを活用することで、要件事項から設計文書を生成し、設計文書からコードを生成。コードから設計文書をリバースで生成したり、ソースコードから脆弱性を検知したり、構築したシステムに対する質問にも自動応答することができるといったように、情報システム部門が担ったきた業務をジェネレーティブAIがこなすようになるという。

 「マシンの得意領域は、スピードや24時間365日対応、安定したサービスレベルの維持、豊富な知識量を活用した処理であった。だが、ジェネレーティブAIでは、高度な模倣能力を持つため、作画や作詞作曲、小説の執筆、対人コミュニケーション、ビジネス文書作成、プロクラミングといった人が得意とする部分にまで入り込んできた。AIと人間の得意なことの境界線は変化し続ける。その時々に最適な役割分担を把握する必要がある」と述べた。

 現時点で、人間とジェネレーティブAIとのコラボレーションによって得られる相乗効果として、「アウトプット作成までの時間を短縮」、「選択肢(着想/創造力)の幅を広げる」、「AIから学び、AIの教師になる」という3点をあげ、「人間の代わりに、さまざまなアウトプットが行なえる点はジェネレーティブAIの特徴の1つである。また、人では思いつかないようなアイデアが提示されることも多く、よりよい選択ができるようになる。そして、今後は、AIがいつでも相談にのる相手となり、アウトプットの質を高めることができる」と語った。

ジェネレーティブAI時代に人間に求められるスキルと、そのリスクとは

 その一方で、「今後は、AIが出したアウトプットをレビューする能力や、AIにフィードバックして、AIを育てる能力が求められるようになる」とし、ジェネレーティブAI時代に人間に求められる8つのスキルも提示してみせた。

 ここでは、人間は人間が得意とする仕事にフォーカスする「人間性の回復」、人間とAIの協働をPoCだけで終わらせずに業務に定着させる「定着化遂行」、AIの判断を取り入れながらも人間の判断が必要なプロセスを見極める「判断プロセスの統合」、AIから効果的な答えを引き出すための質問を行なう「合理的質問」、ジェネレーティブAIの能力をフル活用するための「ボット活用」、近視の人が自然とメガネをかけているようにAIの能力を自身の一部として捉える「身体的/精神的融合」、AIから学びながら、人間がAIの教師になる「相互学習」、AIの進化にあわせて業務プロセスも再設計しつづける「継続的再設計」を挙げた。

得意な分野の違い
ジェネレーティブAIと人間のコラボによる相乗効果
ジェネレーティブAI時代に人間に求められるスキル

 ジェネレーティブAIには、潜在的に抱えるリスクがあることは多くの人が認識している部分だろう。

 保科執行役員は、「インプットにおいて抱えるリスクでは、ジェネレーティブAIをさらに賢くするために入力した情報が漏洩する点が挙げられる。また、アウトプットが抱えるリスクとして、虚偽やバイアスといった信頼性に関するリスク、不適切表現などの倫理違反のリスク、著作権侵害やプライバシー侵害といったリスクがある」としながら、「ジェネレーティブAIには、いくつものリスクがあるものの、使うという流れは止めることができない。リスクを最小化しながら、使っていくことが大切である。さまざまなリスクがまとめて語られがちだが、排除できるリスクと、排除できないリスクがある。強力な道具は、使い方によって人を傷つけるものにもなり、人を守るものにもなる。

 アクセンチュアでは、情報漏洩のリスクは排除した環境を構築した上で利用している。一方で、出てきた結果については一定のリスクがあり、これは、人がどう使うのか、といったことで解決し、そのための教育も行なっていく」と述べた。

自社内のクラウド上にChatGPTを構築

 アクセンチュアでは、同社版ChatGPTを、社内クラウド上に構築。クライアント情報や企業秘密の情報を活用しても、情報漏洩などのリスクを最小化でき、ジェネレーティブAIの活用メリットを享受できているという。

アクセンチュア社内での活用

 具体的には、アクセンチュアの社員が利用できるPeer Worker Platform(ピアワーカープラットフォーム)を構築し、社員の業務をサポート。クライアントへの提案書作成の際になど、Peer Worker Platformに話しかけるだけで、社内に蓄積された各種データから必要な情報を入手したり、参考となる事例を全世界から入手したりといったことが短時間に行えるほか、提案のサマリをまとめたり、AIから新たに提案のアイデアを受けたり、To Doリストをまとめたりといったことが行なわれている。

 さらに、アクセンチュアの日本法人では、2017年から、AIコンシェルジュ「Randy-san」を導入。社員の約8割がアクティブユーザーとして利用しているという。2023年4月には、ジェネレーティブAIにより機能を強化したところだ。

ピアワーカープラットフォームで提案書を作成しているシーンでの活用
Randy-sanの画面

 「アクセンチュア社内では、すでに何人ものAI社員が活躍しており、人間の社員の生産性を高めている。文書作成が得意なAI、画像の作成が得意なAIのほか、旧来型のAIの方が適している分野もある。AIは得意領域が分かれており、これを組み合わせて使用することが大切である」と指摘した。

 さらに、アクセンチュアが、ピアワーカープラットフォームを実現する上で中核に捉えているのが、2018年1月から稼働している「AI Hub Platform」である。

 「AI Hub Platformは、さまざまなAIを組み合わせて使うことを得意としており、それが使い勝手を高めている。さらに、いまはChatGPTが話題になっているが、これが1年後もベストなAIであるとは限らないため、AIと、社内システム、データの依存関係を低く保つことで、その時々にベストなAIに着脱できるようにしておくことも大切である。AIコンシェルジュのRandy-sanでは、AI Hub Platformにより、これまでに2回、AIエンジンを差し替えている。GPTへの切り替えにおいても、改修工数は必要なく、過去のAIエンジンで学習した結果も、新たなAIエンジンに活用できた」という。

 保科執行役員は、「ジェネレーティブAIは使うことが目的化してはいけない。あるべき顧客体験とはなにか、あるべき業務の姿とはなにかを理解しておく必要がある。それに伴う業務変革のスキルも大切である。既存システムとの連携、AIの継続進化を可能にする運用体制も必要である。アクセンチュアでは、社内でジェネレーティブAIを活用した知見やノウハウをサービスとして提供していきたい」と語った。