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NICT、低コストな短距離光コヒーレント伝送方式を開発。高速化に期待
2022年11月1日 13:06
国立研究開発法人情報通信研究機構は10月31日、短距離光通信向けに簡易な装置構成の光コヒーレント伝送方式を開発したと発表した。400Gbps級の高速信号伝送に成功したとしている。
NICTネットワーク研究所所属のボリブーン・ブッサラ研究員とソアレス・ルイス・ルーベン主任研究員らのグループによる研究。データセンター内ネットワークなどで利用される短距離光通信において、現行では光の強度に情報を乗せる「強度変調・直接検波方式」が主流だが、さらなる大容量化には有効海底光ケーブルなどの基幹系光通信で実用化されている「光コヒーレント伝送」の方が有効である。
しかし光送受信機の複雑さや、デジタル信号処理の負荷などによるコスト面や消費電力面に課題があった。今回NICTが提案する手法を採用した場合は送受信器の構成を基幹系通信よりも簡易にできることで、将来的に光コヒーレント伝送方式を安価に導入できる可能性がある。
具体的には、現在実用化されている光コヒーレント伝送方式は、送信器に高精度な狭線幅レーザー、受信器に信号再生用のレーザーをそれぞれ必要とするが、今回の研究は「自己ホモダイン検波」と呼ばれる方式を用いた。信器側に一般的な(線幅が太い)レーザーと100GBaud以上で動作する高速光変調器を使用し、受信器側はNICT独自の高速光検出器の機能的な組み合わせとデジタル信号処理を用いて、信号再生用のレーザーを不要とした。
加えて、従来の自己ホモダイン検波方式の光受信機では、時間的に変化するパイロットキャリアの入射偏波状態により、受信信号品質が変化することが問題だったが、今回開発した「偏波無依存型」では安定した信号の生成に成功。光送信器から360Gbpsのコヒーレント信号とパイロットキャリアを同時に送信し、光受信機で検波した結果、受信信号品質が大きく変わらないことを確認し、この手法による高速光コヒーレント伝送を実証した。
今後については、並行して研究が進められている「波長多重技術」(異なる波長の光信号を1本の光ファイバで伝送する技術)および「空間分割多重技術」(光ファイバ中のコア数を増やしたり複数の伝搬モードを多重化する技術)と今回開発した伝送手法を組み合わせることで、10Tbpsを超える短距離光通信技術の確立を目指すとしている。