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パンデミックを機に生まれたWindows 11。Microsoftパノス氏が語る新OSの狙いとは

Microsoft CPO パノス・パネイ氏(2019年にニューヨークで行なわれたSurfaceの発表会で筆者撮影)

 Microsoft CPO(最高製品責任者)のパノス・パネイ氏は、10月5日のWindows 11正式リリース翌日にあたる10月6日、アジア太平洋地域の記者を対象にしたラウンドテーブルをオンラインで開催。Windows 11の開発意図などを語った。

3年前まな娘にPCはいらないとダメだしを食らったパノス氏、今やPCの重要性は「完全に状況が変わった」

Surface Laptopを手に説明するパノス・パネイ氏(2019年にニューヨークで行なわれたSurfaceの発表会で筆者撮影)

司会:昨日Windows 11をリリースしたが、最高製品責任者として、Windows 11についてどのようなビジョンを持っていて、それがWindows 11の開発にどのように影響したのかを教えてほしい。

パネイ:ビジョンの説明に入る前にまずわれわれが共通認識を持っておくべき事がある。それは製品のメーカーとして、あるいは企業として、次に何が必要で、人々が何を必要としているのかを考えることが製品を開発する原動力になっているということだ。

 今PCは新しい時代を迎えつつある。Windows 11の導入がそのきっかけであることは間違いないが、もう1つ重要な事はPC自体が世界でどのようなデバイスであるかという位置づけが変化したことも大きな原動力になっていた。今から3年前、PCは機能的で実用的なマシンだった。しかし、今ではPCは私たちの生活の中心にあるデバイスへと変化した。

 この世界ではパンデミックが起き、それを乗り越えて新しい生活へとシフトしている。これまでとは違った生活や仕事のやり方などを学ぶ中で、われわれはPCを進化させて言っている。Windows 11をご覧いただけば、より感動的なビジョン、素晴らしいUIから生まれる感情、そしてこれまでのWindowsでは経験できなかったイノベーションに気付くだろう。

 そうした大きな変化を語る上で重要な、私の個人的な体験のお話をしたいと思う。これからお話しすることは、私の15歳になる娘との会話の中で気付かされたことだ。なぜその話をするのかというと、今後のターゲットとなる顧客について考えるときに、Z世代がどのようなことを考えているかを理解することは重要だと考えるからだ。

 私の娘の名前はソフィアで、彼女には姉と兄、そして妹がいる。3年前、彼女に「どのSurfaceが欲しいか?」と聞いてみたのだ。すると「パパ、私はPCはいらない。スマートフォンがあればやりたいことはできるし、これで十分よ」と言われてしまったのだ。当時私はSurfaceの責任者(筆者注: 今のパネイ氏はSurfaceだけでなく、Surfaceを含むWindows製品全ての責任者)だった。妻に慰められたが、私は「大丈夫だ、これが現実だよ」と答えるのが精いっぱいだった。そう、それが当時の現実だったのだ。

 そして、そういう話を弊社のCEOであるサティヤと話しているうちに、われわれはPCが重要な事は理解しているが、私の娘ですらそれを理解していないのはなぜだろう? という議論になった。PCの位置付けは変わっていないが、人々はそれがどのように必要なのか、何にとって重要なのか理解されていないのかもしれないという話をした。

 そして現在に至り、全てが変わった。ソフィアに今最も重要なデバイスは何かと聞けば「PCだと」答えて、実に素晴らしいデバイスであるLenovoのYogaを喜んで使っている。

 なぜこうした個人的な体験をお話ししたのかと言えば、それはPCの進化こそがWindows 11のビジョンそのものだからだ。パンデミックをみんなで乗り越えてきたように、数年前には誰も考えなかったようなニーズが生じてきている。

 例えば、2年前のSurfaceの発表では、世界中から多くのリーダーに1つの場所に集まってもらってた。しかし、今はこのオンラインの会議がそうであるように、カメラをオンにして、参加いただいている記者の皆さんの顔が見える形で繋がっている。働き方、遊び方、そしてコミュニケーションの取り方、学び方、教え方など、全てが3年前とは異なる現実であり、こうしたハイブリッドな世界は今後も続きそして変化し続けて行くと考えている。それによりテクノロジーと人とのつながりを完全に融合させる方法を見つけて行くことになるだろう。

 われわれはレドモンドにあるWindows 11部門で何を成すべきか考えてきた。PCはかつてないほど多く使われており、今では数十億のユーザーに昨日までより重要なデバイスだと考えられている。Windows 11では人々が必要なものは何かをよく考え、それをWindows 11の中心に据えたのだ。

 今日のPCはわれわれが世界とつながる窓であり、そしてわれわれがどのように世界とつながっているかそれを見る窓でもある。Windows 11はそうした新しい時代の始まりであり、イノベーションの原動力であり、われわれが何かを想像していくためのプラットフォームであるというのが基本的ビジョンだ。Windowsにより、ユーザーが生産性を向上させ、可能な限り創造性を発揮できるようにしたいということだ。

 そのためにWindowsの近代化は必要であり不可欠な要素だった。それにより生産性が向上し、応答性が改善し、さらにセキュリティー性が高くなったのがWindows 11だ。これらこそユーザーがWindowsに求めていることだからだ。そうした変化に対応しつつも、オープンなプラットフォームである必要があり、従来のユーザーにとっても親しみやすいものである必要がある。

 これがWindows 11の基本的な考え方で、Windows 11はそうしたユーザーのニーズを的確に捉えた製品なのだ。われわれがハイブリッドな世界に移行しても、明日必要となる要素は全て含まれている。われわれにとってWindows 11は非常に自信作であるので、ぜひ多くのユーザーに試していただき、感想をお寄せいただきたいと思っている。

Windowsはオープンプラットフォームで、消費者にハードウエアでもソフトウエアでも選択肢を提供

Surface Duo(初代)を手に説明するパノス・パネイ氏(2019年にニューヨークで行なわれたSurfaceの発表会で筆者撮影)

司会:私には5歳と7歳の子供が居ますが、彼らの人生では、スクリーンの前にいることが多い。この1年人間とPCの関係がより個人的な関係になったように感じている。

パネイ:この1年で、PCがいかに機能的でパーソナルなデバイスだったのかを理解させてくれたことは間違いない。常にわれわれはユーザーがどのように何かを想像し、そして生産していくのかということを考えている。子供達の世界は今日、PCを中心に回っているが、既に述べたように3年前はそうではなかった。その意味では今の時代は非常に革命的だし、刺激的だ。彼らの学びにも遊びにもPCがなければできない、そういう時代に突入しているのだ。

司会:どんな製品であっても、デバイスや体験だけでなく、人々が何に困っていて何を解決したいかということを先に考えるのが重要だというのはまさにその通りだと思う。

パネイ:どんな製品を作る場合でも、どんなユーザー体験を実現する場合でも、ユーザーがどんなことを望んでいるのかはいくつかのフレームで考える必要がある。Windows 11ではオープンプラットフォーム、新しいストア、開発者のための機会、ISVのための機会、消費者のための機会、企業のユーザーのための機会などなど、Windowsのエコシステムの全てのレイヤーに関わる方々に新しい機会を提供する。

 今日だけが重要なのではなく、明日どうなっているのかを考え、2年後にどのようなことが必要になっているのかを考えて拡張できるようになっているプラットフォーム、ハードウエアである必要がある。Windows 11はそうした今日と2~3年後に必要になることの橋渡しができるように設計してあり、それは別に今日必要ではないということではないのだ。

 われわれはそうした3年後の人々の姿を想像しながら、最終的に利用者がそこに到達できるようにする。それがWindows 11の役割だ。そうしたハイブリッドな世界では、これまでと同じ行動の場合もあるだろうし、これまでとは違っている場合もあるだろう。しかし、PCは引き続き重要な役割を果たし続け、今日よりも明日、昨年よりも来年がより重要になっていくのではないだろうか。

司会:数十億ものユーザーは、膨大な数のパートナーや、それぞれのエコシステムをもっている。開発者、ISV、クリエイターの話を先ほどされていたが、Windows 11ではより幅広いアプリケーションのエコシステムを提供するMicrosoft Storeが提供されている。そうした開発者やクリエイターと一緒にどのようなイノベーションを起こしていくのか?

パネイ:このプラットフォームを地球上で最もオープンなプラットフォームにしていきたいと考えている。そのために、全世界のISVを支援するチームがあり、サポートを行なっている。また、クリエイターであるISV開発者がよりよく開発し、アプリを配布できるように、Microsoftストアのポリシーを変更したので、ぜひとも参加していただきたい。

 開発者は自社の収益を上げるために、独自の決済システムを利用することが可能になった(筆者注: Windows 11のWindowsストアでは独自の決済システムを利用する場合、手数料なしでアプリ配布などが可能になる)。これは自分たちでも本当に素晴らしい決断の1つだと思っていて、今後もこうしたことはどんどん推進していきたいと思っている。それにより、開発者がもっと素晴らしいアプリケーションを開発し、そして顧客がその素晴らしいアプリケーションを使えるようになるということは本当に素晴らしいことだ。

 Acer、ASUS、Lenovo、Dell、HPや、われわれのSurfaceなど、各社のWindows 11搭載デバイスが年内にはアジアのほとんどの地域で販売されるだろう。私が強調したいのは、そうした製品はそれぞれにユニークな特徴を持っており、ユーザーは複数の選択肢を持つことができるという点。ユーザーは自分のニーズに合わせて、例えば学生だからエントリー価格帯の製品がいいなとか、ゲーマーだから性能が高いのがいいなとか、教師、開発者、建築家など、さまざまなユーザーにあった製品を見つけることが可能になる。それがWindowsの魅力でもある。

司会:開発者の立場から言うと、重要な事は選択肢があることだと感じている。ユーザーがどんなデバイスをどのように使いたいかの自由を与えるそういうことだと思う。そうしたことはWindowsがもたらしたことではないか?

パネイ:その通りだ。AMD、Intel、QualcommのようなWindows向け半導体を開発してくれているシリコンパートナーも、OEMメーカーも、開発者やISVもそれがWindowsプラットフォームの魅力だと考えている。これからPCを学ぶ世代がいて、ソフィアのような世代がいて、PCで育った世代がいて、そうした全ての世代でPCの「再活性化」が進んでいる。これはグローバルに発生しているのだ。特にアジアではこの傾向が著しく、Microsoftにとっても大きなチャンスになっている。

司会:この正式リリースから24時間で、最も刺激的だったことは何か?

パネイ:多くの称賛が寄せられている。「親」としては「子供」が褒められてうれしいのはあたり前だが、私が強調したのはそれを実現したのはWindows 11のチームが素晴らしかったからだ。

 多く寄せられた声としてはスナップレイアウト、ウィジェット、チャットやチーム、新しいMicrosoft Store、角丸のウインドウがいい、言っていただいているを聞くと、とてもうれしくなる。最終的には多くのユーザーに使っていただきたいと思っているが、われわれのWindows 11の旅というのはまさに始まったばかりだし、今後それは長い旅路になるだろう。フィードバックに関しては謙虚に受け止めていくべきだとは思っているが、スタート地点としては多くのユーザーにご満足いただいており、ポジティブな反応に関しては誇りに思っている。