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5nmで製造される「Snapdragon 888」の詳細

~CPUは25%、GPUは35%性能向上

Snapdragon 888

 Qualcommは、Snapdragonブランドのプレミアムティア(いわゆるハイエンドセグメント)スマートフォン向けのプラットフォームの最新製品となる「Snapdragon 888」を12月1日(現地時間)に開催したSnapdragon Tech Summitの初日に発表した

 初日の発表はほぼ新しいブランド名の発表程度となっていたが、翌12月2日(現地時間、日本時間12月3日)に開催された2日目のイベントで、その詳細が明らかにされた。それによれば、Snapdragon 888はSamsungとみられるファウンダリで5nmプロセスルールを利用して製造される。

 CPUはKryo 680で、従来製品となるSnapdragon 865に搭載されていたKryo 585に比べて25%性能向上、GPUはAdreno 660で、865に搭載されていたAdreno 650に比べて35%の性能向上としており、CPUもGPUも性能が大きく強化されている。

 また、DSPのHexagon 780は従来製品に比較して最大3倍の電力効率の改善がされており、CPU/GPU/DSPを異種混合で実行していくAIエンジンの処理能力は従来製品の15TOPsから大きく引き上げられ26TOPsを実現している。

 ISPとなるSpectra 580はエンジンがデュアルコアからトリプルコアに強化され、スループットが2.7ギガピクセル/秒に引き上げられるなど強化されており、背面のレンズを3つ搭載したスマートフォンなどで映像撮影中に別のレンズに切り替えてもスムーズに切り替えることができるようになるなど強化が実現されている。

Snapdragon 888ではモデムが内蔵される

Snapdragon 888のブロックダイアグラム

 Snapdragon 888は、今年(2020年)発売されたAndroidスマートフォンに採用されてきたSnapdragon 865の後継製品となる。通常のパターンであれば、来年(2021年)発売される通信キャリアが販売するスマートフォンにSnapdragon 888が採用される可能性が高い。

 Snapdragon 888はどこのファンダリを使って製造しているか明らかにしていないが、5nmを量産出荷できるファウンダリはTSMCとSamsungに限られており、いずれかのファウンダリで製造していると考えられる。ダイサイズやトランジスタ数など具体的な数字は発表されていない。

Snapdragon X60 5G modem-RF SystemとFastConnect 6900 SystemのMAC部分が内蔵されている

 Snapdragon 888の最大の特徴は、Snapdragon 865で外付けだった5Gモデムが、一部内蔵になったことだ。今回のSnapdragon 888に内蔵されている5Gモデムは、同社の5Gモデムとしては3製品目となる「Snapdragon X60 5G modem-RF System」であり、MAC部分などがSoCに統合されている。サブ6GHzやミリ波などを実現するRF部分は外付けのチップとなる(この構造はSnapdragon 765/765Gで同様)。

 なお、Snapdragon X60 5G modem-RF Systemと外付けのRFとの組み合わせで、6GHz以下の複数の帯域を束ねて通信できるキャリアグリゲーションと、ミリ波により下り最大7.5Gbps/上り最大3Gbpsの通信速度を実現することができるという。現在のNTTドコモの5Gでの最大通信速度は、Snapdragon 865を搭載したSC-53A(Galaxy Note20 Ultra 5G)の下り4.2Gbpsなので、それよりも引き上げられることになる。

 また、Wi-FiやBluetoothのMAC部分も「FastConnect 6900 System」へと強化される。FastConnect 6900はWi-Fi 6だけでなく、6GHzで通信する次世代のWi-Fi規格となる「Wi-Fi 6E」に対応している。4K QAM、160MHzチャネル、4ストリームDBSなどに対応しており、ピーク時の通信速度は3.6Gbpsとなる。このほか、Bluetooth 5.2にも対応している。

CPUのKryo 680はCortexX1(1コア)+A78(3コア)+A55(4コア)構成に。GPUは35%性能向上

Kryo 680

 Snapdragon 888では、CPU、GPU、DSP、ISPのすべてに手が入っている。CPUはSnapdragon 865に搭載されていたKryo 585からKryo 680へと強化されている。Kyro 585では高性能コアがArmのCortex-A77、高効率コアがCortex-A55という組み合わせになっていた。かつ、ArmのBuild on Arm Cortex Technologyというライセンスを活用し、A77の4コアCPUのうち1つのコアだけがより高クロックで動くように設定されていた。

Cortex-X1が1コアとA78が3コア、A55が4コアという構成のCPU

 Kryo 680のベースになっているのは、Armが今年発表したCortex-X1とCortex-A78だ。big側は従来と同じ4コアCPUなのだが、うち1つがCortex-X1という高性能コアに、残りの3コアがCortex-A78がベース。Cortex-A78がクロック周波数が最大2.4GHzでL2キャッシュが512KBであるのに対して、Cortex-X1のコアは最大2.84GHzで1MBのL2キャッシュとなっている。これにより、Armアーキテクチャの弱点とも言えるシングルスレッド性能が改善した。

 このKryo 680はKryo 585に比べて25%性能が向上しており、同じく25%電力効率が改善しているほか、連続して使っても熱に強く、競合が時間の経過とともに性能が低下するのに比べると、Kryo 680は低下がないと主張している。

競合A社とのCPUベンチマーク結果の違い

メインメモリには2,133MHzのLPDDR4と、3,200MHzのLPDDR5に対応している。LPDDR5はSamsungやMicronなどのDRAMベンダーが今年に入り出荷を開始したモバイル向けのメモリで、Snapdragon 888がSoCとしてははじめてLPDDR5への対応を明らかにしたことになる。

Adreno 660

 GPUはAdreno 660へと強化されている。ただ、従来製品のSnapdragon 865に内蔵されていたAdreno 650に比べてどこが強化されたのかという点は一切明らかにされていない(ここ数年のSnapdragonのGPUはいずれも内部構造などは明らかにされていない)。しかし、性能は35%向上し、電力効率は20%改善されているといい、この35%の性能向上は、Qualcommの歴史上もっとも性能が上昇しているとのこと。

 なお、競合の場合、ベンチマークの走りはじめこそいい性能を発揮するが、何度も繰り返して実行すると、発熱などによりGPU性能が低下し、Adreno 660よりも性能が低下するとしている。

競合A社とのGPU性能の比較

 また、4つの異なる精度のデータを一度に処理できるようになる新しい命令セットに対応しているなど、AIの推論関連の新しい拡張命令も実装されている。

 そのほかゲーム向けの拡張としてVRS(Variable Rate Shading)への対応、タッチの応答性を20%改善する「Game Quick Touch」などの機能が追加されているほか、昨年のSnapdragon 865の発表時に構想が明らかにされたビデオドライバのアップデート機能なども引き続きサポートされる計画だ。

Hexagon 780によりSoC全体で26TOPsという推論性能を実現、ISPは3コア構成に

第6世代のAIエンジン、CPU、GPU、DSPを混合実効して高いAI推論性能を実現

 DSPはHexagon 780へと強化されている。Hexagonはスカラー(整数演算)アクセラレータ、ベクター(浮動小数点演算)拡張、Tensorアクセラレータから構成されているが、スカラーアクセラレータは50%の性能向上、Tensorアクセラレータは2倍の演算能力へと強化されている。

 QualcommのSoCでのAI推論は、このDSPとCPU/GPUを異種混合させて演算するようになっており、ソフトウェア側でどのプロセッサで実行するのかを決めて実行する仕組みになっている。このため、この3つを合わせて推論時の性能は最大で26TOPsとなっており、Snapdragon 855の15TOPsから大きく引き上げられている。

Hexagon 780
26TOPsを実現
Sensing Hub

 また、Snapdragon 865で導入されたSensing Hubも第2世代に強化され、音声認識や異常音の検出、特定キーワード検出といった機能の実装を低消費電力で行なうことが可能になっている。Snapdragon 865の第1世代に比べて5倍の性能を備えており、特定タスクのHexagonからのオフロードは80%程度増やすことが可能になる。

Spectra 580

 ISP(Image Signal Processor)はSpectra 580へと強化されている。最大の強化ポイントは、従来のISPはデュアルコアとなっていたが、それがトリプルコアになる。これによりISPの処理能力としては2.7ギガピクセル/秒となり、従来モデルに比べて最大で35%高速になる。これにより、3つのレンズに1つのISPを割りあてて、3つのレンズそれぞれで同時に2800万画素の動画を30fpsで撮影することができる。

 つまり、超広角、広角、5倍ズームのレンズをシームレスに切り替えて1つの動画を撮影するという使い方が可能になる。これらの機能を利用して10bit HDR HEIF、8K/30fps、4K/120fps、720p/960fpsのスーパースローモーションなどをSnapdragon 888とCMOSセンサーだけで構築可能だ。また、ISPを利用しての低照度での撮影などの機能も追加されている。

Type1のHypervisorに対応
Snapdragon 888のカメラで撮影した写真はContent Authenticity Initiativeに対応

 セキュリティ関連では「Qualcomm Secure Processing Unit」というセキュリティ向けのプロセッサなどが実装されているほか、新しいType1のハイパーバイザーを切り替えて使うことに対応しており、スマートフォンのOSを切り替えて利用できる。また、Adobeなど提唱しているContent Authenticity Initiativeに対応した写真の正常性証明の仕組みに対応しており、Snapdragon 888で撮影された画像をContent Authenticity Initiativeに対応させて、改変履歴などを受け手がチェックできるようにすることが可能になる。

Snapdragon 855に対応したスマートフォンをリリース予定のベンダー

 Qualcommによれば、Snapdragon 888を搭載した製品は、2021年の第1四半期に商用提供開始される計画で、ASUS、BlackShark、LG、MEIZU、Motorola、Nubia、OnePlus、OPPO、realme、シャープ、Vivo、Xiaomi、ZTEなどから提供される見通しだと明らかにされたほか、ソニーモバイルもSnapdragon Tech Summit初日の講演に参加しており、Snapdragon 888を搭載した機器を将来的に提供するものとみられる。