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東北大、半導体を光励起したさいの寿命を正確に測定する手法

~超高速動作光メモリの開発に期待

非熱的/熱的の区分により考案された、光励起後の物質内での超高速時間変化の模式図

 東北大学金属材料研究所は6月4日、半導体に光レーザーを照射したさいに、物質の温度が決定するまでに必要な時間(寿命)を正確に測定する手法を開発した。

 物質において、温度は熱平衡状態のときに定めることができ、一般に格子系と電子系にわけた場合では格子温度と電子温度が一致する。しかし、光レーザー照射により瞬時に物質の電子にエネルギーを与えると、2つの温度が一致しない「非熱的な状態」が生まれ、物質の温度が定義できない。物質の相転移のなかにはこのような非熱的な状態で進行するものもあり、光を使った物質状態の制御が注目されている。

 なかでも、DVDやBlu-rayなどの記録面に用いられている光相変化材料に対して、約100フェムト秒のパルスレーザーを照射すると、材料中で共鳴結合が発生し、数ピコ秒単位の超短時間で結晶構造がアモルファス化することが確認されている。この現象は、従来商業用に使われているものと比べて十万倍程度高速な相変化を実現でき、次世代の光記録デバイスに応用が可能だと期待されているが、詳細なメカニズムがわかっていなかった。

 今回研究グループでは、テルル化ゲルマニウム(GeTe)などと同様に共鳴結合を持つテルル化鉛(PbTe)に対して、フェムト秒レーザーとポンプ・プローブ分光法を利用した実験を行なった。レーザーパルスを2つに分離し、一方で物質の光励起(ポンプ光)、もう一方で光励起状態の物質の反射率や透過率を測定する(プローブ光)手法で、超短時間に物質内で発生する電子/原子的変化を調査する。一般的にポンプ光とプローブ光には同一波長のものを使用するが、今回はプローブ光を非線形光学効果によって白色光パルスに変換することで、圧倒的に幅広いエネルギー領域での物質の応答を一挙に観測できるようにした。

 まず、試料の透過率の温度依存性を測定したところ、試料温度が高温になるにつれて可視光が透過しやすくなることがわかった。一般的に共鳴結合状態にある結晶は可視光を透過しづらいため、共鳴結合が原子の規則的な配列に依存し、原子の熱振動の増大によって弱まること明らかになった。この結果を受けて、ポンプ・プローブ分光測定で光励起後の透過率の時間変化を解析したところ、光レーザー照射によって非熱的状態に励起された試料が熱的な状態に緩和するまでの時間が約12ピコ秒であることがわかった。

 研究グループでは、今回用いた手法によって光励起された物質の熱的/非熱的状態を光学的手法で区分できるだけでなく、光相変化材料以外の光誘起超高速現象に対しても有効だと考えており、応用の可能性があるとした。また、光相変化材料の持つ超高速アモルファス化現象についての知見が得られたことで、超高速動作が可能な光メモリ開発の発展も期待できるという。