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Microsoftサティヤ・ナデラCEOがAdobe Summitの基調講演に登場
~Open Data Initiativeのデモや、ITの未来について説明
2019年3月28日 12:22
米Adobeは、3月26日~3月28日の3日間に渡り、同社がクラウドサービスとして提供しているデジタルマーケティング支援ソフトウェア「Adobe Experience Cloud」関連のプライベートイベント「Adobe Summit」をアメリカ合衆国ネバダ州ラスベガス市で開催している。
2日目に行なわれた基調講演には、Adobe CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏、Microsoft CEOのサティヤ・ナデラ氏が登壇し、ソフトウェア業界の両巨頭によるトークセッションが行なわれた。
デジタルマーケティング向けのイベント「Adobe Summit」
Adobe Summitは、大企業などに提供している「Adobe Experience Cloud」をテーマに開催されているプライベートイベントになる。Adobe Experience Cloudは、デジタルマーケティングと呼ばれる、企業が電子メールやソーシャルメディア、スマートフォンアプリなどのデジタル的な手段を用いて行なうマーケティング活動を支援するツールで、今後日本でも大きな成長が望まれるクラウドサービスの1つとされている。
Adobe Experience Cloudは2012年に発表されて以来、年々強化を続けており、昨年はMagentoやMarketoといった競合だった企業を買収し、Adobe Experience Cloudへ取り込み、エンタープライズにとってより魅力的なサービスへと強化している。
そのAdobe Summitの2日目の基調講演に、Adobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏、Microsoft CEO サティヤ・ナデラ氏の2人が登壇し、ITの未来についての講演を行なった。いずれもインドの大都市であるハイデラバード出身で、じつは高校が同窓という2人だが、最近両者が同じステージに立つ機会は非常に多い。というのも、AdobeとMicrosoftは戦略的なパートナーシップを結んでおり、AdobeがMicrosoftのパブリッククラウドサービスである「Azure」を、同社のクリエイターツールのサブスクリプション型クラウドサービスとなる「Adobe Creative Cloud」、そしてこの「Adobe Experience Cloud」のサービスを提供する基盤として利用しているからだ。
逆にMicrosoftはAdobe Experience Cloudを、同社のビジネスツールであるOffice 365、Power BIからサポートするなどしており、Adobe Experience Cloudの企業への普及に一役買っている。Office 365のユーザーであれば、AdobeのAcrobatをインストールすると、Adobe Document Cloudに接続するアドオンがOutlookにインストールされるのに気づいているだろう。それもAdobeとMicrosoftの近しい関係を示す例の1つと言える。
昨年の9月に行なわれたMicrosoftのイベントである「Ignite」では、企業向け基幹システムソフトウェア最大手のSAPとともに発表したのが、「Open Data Initiative」(ODI)という取り組みだ。
その仕組みは、Adobe、Microsoft、Adobeがオープンな企業データのフォーマットを策定し、顧客企業があるサービスから別のサービスへと自由に移行できる環境を整えるというものだ。これが実現すれば、たとえばAdobeをサービスを使っているユーザー企業が、SAPのサービスを同時に使ったり、SAPを使っている企業がMicrosoftに乗り換えるなどが可能になるため、特に企業ユーザーの間で大きな話題を呼んだ。
今年(2019年)のAdobe Summitでは、その進展に関して説明が行なわれ、両氏がODIのデモを行なった。Adobe Experience Cloudを利用しているユニリーバの事例で、Azure上で動いているMicrosoftのサービスからデータをインポートしたりエクスポートし、ほかのサービスで利用できるようにしていた。
Microsoftのナデラ氏は「ユーザー企業が持っているデータは企業自身のものだ。SAPも含めて、われわれはこのデータの縛りを外すことで、企業が自由にサービスを移行したり、よりよいサービスを選択することを助ける」と述べた。
PC/スマートフォンの時代からインテリジェントエッジ/インテリジェントクラウドの時代へ
続けて両氏は両社のパートナーシップ、そしてITの未来などのトピックに関して率直に意見を交換した。Adobeのナラヤン氏が、ナデラ氏にMicrosoftに入社した頃と今の違いを聞くと「大きく言うとカルチャーが違う。私が入社した90年代当時はPCがすべての家庭と会社のデスクにあり、PCを普及させることが仕事だった。だが、今は世界中の組織や人がさらに多くのことができるようにするのが我々のカルチャーだ」と述べ、Microsoftも大きく変容したと述べた。
Microsoft自身にとってのビジネストランスフォーメーションとは何かと聞かれると、ナデラ氏は「顧客やパートナーが望むモノは何かという日々の学習だ。新しいテクノロジーを導入するのは比較的難しいことではない。しかし、一番難しいのはビジネスモデルの変革で、それまでの成功体験が邪魔になるからだ。そのため重要なことは顧客中心主義をとり、どんどんビジネスモデルを変えていくことだ」と述べ、顧客のニーズをつねに捉えてビジネスモデルをどんどん変えていく方針でMicrosoftを経営していると説明した。
ナラヤン氏が、最近のITにとってのホットな話題であるインテリジェントエッジ、インテリジェントクラウドについて話題を変えると、ナデラ氏は「20世紀にコンピュータがなくなる時代がくると予想した人がいたが、今まさにそういう時代を迎えつつある。デジタルトランスフォーメーションは、リテールやヘルスケアなどさまざまな分野で進行し、コンピューティングパワーはインテリジェントクラウドへと移動しつつある」と述べて、そうした時代にはクラウドを利用したユーザーのパーソナライゼーションサービスが重要になると述べた。
なお、今回のAdobe Summitで両社は、Adobeが買収したMarketoのサービスを利用して、Microsoft傘下のLinkedInのアカウントサービスを強化することを発表している。
また、ナデラ氏はそうしたインテリジェントエッジやインテリジェントクラウドの普及により、工場にもAIが導入されるなどしていわゆるインダストリー4.0などと呼ばれるより進んだ工場が当たり前になっていくと説明した。
今後もクラウドへの移行と、マルチデバイス化がIT未来だとナデラCEO
ナラヤン氏が、Adobeの保守本流と言える「Creative Cloudに代表されるようなクリエイターとMicrosoftとの関係について話題を振ると、ナデラ氏は「Microsoftはクリエイターとの関係の変化を本当に楽しみにしている。Windows 10を搭載し、ローレイテンシーでローパワーのインプットを備えているSurfaceデバイスがクリエイターにも人気になっている。Adobeとパートナーシップをもっと深化させていくことで、クリエイターのインスピレーションをすぐにかたちにできるようにしていきたい」と述べ、今後もAdobe Creative CloudとMicrosoft製品のパートナーシップをより深化させていき、より多くのクリエイターにWindowsプラットフォームを使ってもらえるようになりたいとした。
また、AI、量子コンピュータなどさまざまな新しいソリューションが登場しつつあるITの現状を紹介し、これが今後どうなるだろうかと問われたナデラ氏は「今はいろいろな選択肢が登場しつつある楽しい時期だ。たとえば、現在の4Gよりももっと高速な5Gの回線が来ればXboxをクラウドベースで提供できるかもしれない。また、今はオンプレミスにあるGPUもクラウドにおいてさまざまな処理ができるかもしれない。さらに、深層学習の進化で自然言語の音声認識も実現しつつある。われわれのHoloLens 2のようにスピーチやジェスチャーで操作できるようなデバイスも開発しており、デバイスも1つでなくさまざまなデバイス上で利用できるようになるだろう」と述べ、今後もクラウド化とマルチデバイス化が鍵になると指摘した。