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シャープ、PCを含むIT機器市場への再参入に意欲

社友会が開催されたシャープ本社があるグリーンフロント堺

 シャープのOBで構成されるシャープ社友会の総会が、2017年4月15日、大阪府堺市のシャープ本社の多目的ホールで開催された。海外からビデオ会議システムを通じて参加したシャープの戴正呉社長は、IT機器市場に再参入する意向を示してみせた。

 具体的なジャンルにはついては示さなかったが、PCやサーバー、ストレージなどが含まれることになりそうだ。鴻海精密工業が生産している製品をシャープブランドで投入することが想定される。

シャープの戴正呉社長

 シャープの戴社長は、「鴻海が一番強いのはIT機器。このシナジーを活かして、またIT機器市場に参入したい」と述べた。

 鴻海精密工業は、PC市場で世界第2位のHP、第3位のDellからPCの生産を受託している。同じくサーバーの生産についても、Hewlett Packard EnterpriseやDellから受託しており、サーバーの生産シェアでは全世界の6割を占めるとも言われている。

 もともと同社の欧州などの生産拠点は、HPやDellの生産拠点だったものを、鴻海が買収したものであり、そうした経緯もあって、現在も両社からの受託生産を継続している。

 コモディティ化したPCやサーバー、ストレージの生産は量産効果が発揮しやすく、鴻海精密工業が持つ生産拠点の能力や、それに伴うサプライチェーンは、世界有数のものであり、コスト競争力の高い製品を生産できる強みがある。シャープは、これを活用することで、競争力の高い製品を国内市場に投入することができる。

 戴社長も、「鴻海は、全世界500大企業の23位。鴻海の開発スピードやコスト力、生産力、世界中で有名である」と自信をみせる。

 シャープは、2009年に発売した「Mebius PC-NJ80B/PC-NJ70A」を最後に自社ブランドのPC事業から撤退しているが、シャープのビジネスソリューション関連の国内販売会社であるシャープビジネスソリューション(SBS)は、日本HPのPC販売ではトップディーラーの1社でもあり、PCの国内販売およびサポート体制を維持し続けている点も、今後のシャープブランドのIT機器の取り扱いにはプラスになりそうだ。

PC-NJ70A

 かつてのMebiusシリーズのように薄型や軽量を追求した尖った製品が投入されるかどうかはわからないが、ビジネスソリューション事業を統括するシャープ ビジネスソリューション事業本部長の中山藤一専務は取材に対して、「鴻海精密工業は、サーバーやストレージ、ネットワーク機器のほか、ATMやスマートウォッチ、車載機器などさまざまな商材を持っており、シャープは、こうした製品を仕入れた展開も可能だ。ビジネスソリューションの展開において、不足する商材を鴻海から完成品として仕入れたり、競争力のある製品の共同開発を行なったりといったことも考えたい。品質保証やサポート体制を整えることで、シャープブランドで展開できる」と発言した。

 また、「オフィス向けのサーバーやデスクトップPC、ノートPC、タブレットなどに関して、日本から要望があれば、仕入れることも考えたい。鴻海精密工業は、ノートPCやタブレットではそれほど生産量は多くないが、デスクトップPCの生産では高い実績がある」などと語っている。

 すでに、鴻海との共同開発によって、超短焦点プロジェクタを開発。シャープとしては、2017年夏に、5年ぶりにプロジェクタ市場に再参入(ビジネスプロジェクターとしては、7年ぶりの再参入)する計画を明らかにしている。

 また、POSでも鴻海との共同開発による新製品を今年春に発売済みだ。NASなどのストレージ製品も、日本市場に投入することを明確に示している。

シャープが今年夏に投入する超単焦点プロジェクタ
鴻海と共同開発したPOSは今年春から発売済み

 今後、シャープブランドのIT機器がどんな形で投入されるかが気になるところだ。

 一方、社友会のなかで、戴社長は、シャープが、TV、スマートフォン、メジャーアプライアンス(冷蔵庫、洗濯機、エアコン)、小物家電、MFP(複合機)、サイネージ、太陽電池、パネル、電子部品などを生産している図表を示し、これらの分野の製品を比較した場合、パナソニック、ソニー、日立製作所、三菱電機、東芝よりも最も多くの分野に製品を投入し、国内生産しているのがシャープであることを示しながら、「分析すると、日本の国内で一番製品が揃っているのがシャープ。だが、さまざまな製品があるものの、残念ながらラインアップが足りない。これからがんばっていきたい」とコメント。さらに、「この図表のなかで、IT機器だけを撤退している」と指摘し、IT機器市場への再参入を示してみせた。

 製品のラインアップ数増加についても具体的に言及。2017年度には、TVで45%増、冷蔵庫で30%増、洗濯機で20%増、調理機器で15%増、クリーナーで180%増、MFPで40%増、サイネージで20%増、POSで66%増とする考えを示した。

 さらに、新技術搭載商品の創出を加速する考えを示し、8Kや有機ELなどの映像関連技術のほか、IoT関連技術、音声認識、画像生成技術、自律走行技術、EMS技術(エネルギー関連)などの分野に力を注ぐことを示しながら、「清潔、美、空気、食など、さまざまな新技術を搭載した新たな製品を出していく」と述べた。

 事業拡大に向けては、「幅広い品揃えを目指す」とし、「カテゴリ拡大、ラインアップ拡充、鴻海グループとのシナジー、新技術搭載商品の創出に加えて、プロモーション強化により、メンバーシップや新しいビジネスモデルの創出などを考えて行く」とした。

 カテゴリの拡大については、再び、IT機器に参入することに言及。そのほか、「8Kエコシステム、蓄電池、全自動機(スマートファクトリー)、PCI機器、小型調理機、クリーナー、理美容などを2017年度の新規カテゴリとしてがんばっていく」と語った。

 4月28日に発表予定の2016年度の通期業績については、通期の営業利益黒字化と、下期の当期純利益の黒字化が「予想として達成できると思う」とし、「経営資源の最適化、責任ある事業推進体制構築、成果に報いる人事制度の確立、契約全面見直しなどによる成果である」と語った。

 製品ごとの実績についても触れ、液晶TVが前年比4.9%減、BDレコーダーが14.6%減、電子レンジが3.0%減と、3つの製品で前年割れになったことについては、「残念ながらマイナスだった。とくに前半が悪かったが、後半はまだよかった」と総括。その一方で、冷蔵庫が1.1%増、洗濯機が5.4%増、ヘルシオホットクックが48.4%増、掃除機が12.1%増、エアコンが1.7%増、加湿空気清浄機が3.6%増になったこと、新製品のヘルシオグリエが順調に推移していることを紹介した。

 「今後は、『“8Kエコシステム”のリーティングカンパニーへ』、『日本発のスマートな社会を実現』するIoTの会社になりたいと考えている。スマートホームソリューションのほか、スマートオフィス、スマートファクトリー、スマートシティなど、人に寄り添うIoT企業を実現したい」との方向性も示した。

 シャープ社友会は、1980年に設立。シャープ退職者が、退職後もシャープとの絆を大切にし、シャープの支援者であり続けることを目的に発足し、現在、会員数は約5,000人に達する。会員および会社との交流、連携を支援する活動、健康、親睦、趣味などを醸成する同好会活動、会社との絆、シャープのブランドイメージアップに貢献する社会貢献を主な活動としている。今回のシャープ社友会総会には、約230人が参加した。社友会の様子が報道関係者に公開されたのは今回が初めてだ。

 戴社長は、社友会の支援に対して感謝するとともに、業績や株価が回復基調にあること、2017年度は「守りから攻めへ」、「構造改革から競争力強化へ」と軸足を移し、東証一部復帰に向けて事業を拡大することなどを説明した。また、「まねされる商品を作れ」という創業の精神と、「誠意と創意」による経営理念と経営信条を、「大切に継承すべきもの」と位置づけていることにも言及した。最後に戴社長は、「シャープの真の再生は、道半ば。一日も早く、皆さまが築かれてきたシャープを、再びグーバルで輝かせ、皆様に安心していただけるように、社員一丸となって、確実に、力よく、歩みを進める」と約束した。

シャープ社友会の様子
TV会議でご挨拶する戴社長