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AMD、Zenコアを採用の「Summit Ridge」を初公開

~32コア/64スレッドのNaplesを武器にサーバー市場にも“再参入”

AMD 社長兼CEOのリサ・スー氏

 AMDは、競合IntelがIDFを行なっている米サンフランシスコ市内のホテルで「Road to Zen(Zenへの道)」と題した記者会見を開催し、次世代コア「Zen(ゼン)」を採用したハイエンドデスクトップPC向けCPU「Summit Ridge」の実動デモを初めて公開した。

 Summit Ridgeは、CPUコアが8コアであるのは既に発表された通りだが、SMT(Simultaneous Multi Threading、IntelのHTテクノロジと同等の機能)に対応しており、8コア/16スレッド(物理コアは8コア/論理コア16スレッド)であることなどが明らかにされた。

 また、これまで存在は認められていたが、コードネームなどが不明だったデータセンター向け製品が、「Naples(ネイプルス)」という名前のSoCであることが明らかにされた。NaplesはデスクトップPCと同じようにSMTに対応し、物理コア32コア/論理コア64コアと強力なスペックを採用している。

 AMDの社長兼CEOであるリサ・スー氏は「Naplesは我々がデータセンタービジネスに再参入する製品になる」と述べ、データセンター向けCPU市場で失った市場シェアを再びIntelから取り戻すと力強いアピールを行なった。

Zenへの道を走るAMD。数々の成功を収めてきたが、最良の時はまだ来ていない

講演ではZen(日本語の禅)にちなんだ装飾などが行なわれていた

 登壇したスー氏はこれまでのAMDの進化、そしてこれからの進化について説明した。

 「AMDはハイパフォーマンスコンピューティングの企業。私がCEOに就任してからも変わらずにそれを推進してきた。現在我々が重要視しているは、PC、コンソールに限らず全てのゲーミング環境向けの製品、VR/ARなどの没入型のプラットフォーム、さらにはデータセンターの3つだ」と述べ、そうした製品を顧客に提供していくことで、再び成長基調に乗せていくのがAMDの戦略だと説明した。

AMDはハイパフォーマンスコンピューティング向けの半導体を開発する企業

 その現状の進化という意味で、コンソールを含めてゲーミング向け製品を紹介。スー氏はMicrosoftが新しいゲーミングコンソールとして「Xbox One S」を発表したことと、「Project Scorpio」という次世代コンソールゲーム機をAMDベースのカスタムSoCで開発していること、さらにはソニーのPlayStation 4がAMDのカスタムSoCであることを紹介し、コンソールゲーム市場でAMDがリーダーであることをアピールした。

MicrosoftがXbox One SやProject ScorpioをE3で発表

 また、それ以外のPC向けの製品としては、プレミアムPCのメーカーとしても知られているAppleのiMacやMacBook ProシリーズなどにAMDのGPUが採用されていること、さらには開発コードネームPolaris(ポラリス)で知られる新しいGPUをRadeon RX 480などとして発表したことを紹介。

 先月行なわれたSIGGRAPHにおいては、Polarisベースのビジネス/ワークステーション向けGPUとしてRadeon Proシリーズを発表しており、COMPUTEX TAIPEIにおいても第7世代AシリーズAPUとしてBristol Ridge(ブリストルリッジ)を発表したこと、さらに中国のTHATICとジョイントベンチャーで中国向けのサーバーSoCの開発を行なっていることを紹介した。

Bristol RidgeをCOMPUTEX TAIPEIで発表

 スー氏は「こうした数々の取り組みによりゲーミンググラフィックスのシェアは増えており、エンタープライズ/モバイルPC向けの製品は成長している。またゲーミングコンソール向けも引き続き成長しており、新しいセミカスタムのビジネスも獲得している。こうしたこともあり、2016年第2四半期はNon-GAPの営業利益が黒字に復帰している」と述べ、AMDのビジネスが回復基調にあるとアピールした。

最良の時はまだ来ていないとスーCEO

 その上で「まだ最良の時は来ていない。これからGPUではVEGAという次世代製品をリリースするし、そしてZenを搭載した製品を投入していく」と、新GPUコアや新CPUコアの投入によりさらなる成長が望めるだろうとの見通しを語った。

スー氏のプレゼン資料

完全にゼロから設計し直したZenコア。40%のIPC改善で大きな性能向上を実現

 そのスー氏に紹介されて次に登壇したのが、AMDのCTO兼上席副社長であるマーク・ペーパーマスター氏だ。AMDの製品開発をリードする同氏から、Zenの技術的な詳細が説明された。

AMDのCTO兼上席副社長のマーク・ペーパーマスター氏

 以前であれば、AMDの開発コードネームというのは製品ごとに付けられていることが多かった。しかし、数年前からアーキテクチャの説明をするコードネームと、製品のコードネームに分離して付けられるようになっている。GPUで言えばPolarisやVEGAはGPUアーキテクチャ全体のコードネームとなり、CPUで言えばZenはCPUアーキテクチャ全体の開発コードネームで、それを搭載した具体的な製品がデスクトップPC向けであればSummit Ridgeになる。従って、今後Zenアーキテクチャを搭載した製品としては、Summit Ridge以外も登場することになる。

 ペーパーマスター氏はAMDのx86の歴史を振り返りながら、「AMDはx86市場で多数のイノベーションを実現してきた。最初の1GHzに到達した製品、最初のデュアルコア/クアッドコアx86プロセッサ、最初の64bitプロセッサ、最初のAPUなど多数を世の中に送り出してきた。今回のZenもそうした延長線上として、ゼロから開発設計を行ない、完全に新しいマイクロアーキテクチャを採用している」と述べ、Zenも革新的な製品になるだろうとアピールした。

AMDが過去に実現してきた革新的なx86プロセッサ

 ペーパーマスター氏はZenの特徴として「高い性能」、「高いスループット」、「高効率」の3つを挙げながら、具体的な内容を紹介していった。この中でペーパーマスター氏がよく使ったキーワードが、AMDの前世代のCPUアーキテクチャとなるExcavator(エスカベーター)コアと比較した“40%のIPC向上”という言葉だ。

Excavator(エスカベーター)コアに比較して40%のIPC向上

 IPC(Instructions Per Clock)という数字は、CPUの業界でよく使われる性能比較の指標の1つで、1クロックサイクルの間に実行できる命令の数を示している。1クロックサイクルというのは秒に直すとナノ秒程度の非常に短い時間だが、その時間内に実行できる命令数が増えれば増えるほど、CPUはより効率よく命令を実行できる。つまり性能が向上する。

 IPCは例えばIntelのCPUの場合、世代間では数%程度しか変わっていないことが一般的だ。それだけIPCを上げるというのは難しいことなのだが、今回AMDはZenのアーキテクチャを前世代からの進化版としてではなく、ゼロから設計することでIPCを40%向上させることに成功している。AMDはそういった意味を込めて語っているのだ。

 ペーパーマスター氏は詳細は来週米国で行なわれるHotChipsで明らかにすると断りながら、以下のような特徴を紹介した。

  • (1)命令実行エンジンの改良
  • (2)キャッシュ周りの改善により、広帯域で低遅延のキャッシュ構造
  • (3)SMTへの対応
  • (4)14nm FinFETのプロセスルールを採用することで、電力効率の改善

 命令実行ユニット周りの改善では分岐予測ユニットの拡張、より効果的な命令実行のためにMicro-Opsキャッシュを用意したこと、命令スケジューラウィンドウが1.75倍になっていること、実行ユニットと実行幅が1.5倍になっていることなどの強化が図られており、実行ユニット内部で命令を実行する際の並列度が高められ、シングルスレッド時の性能が大幅に向上している。

内蔵実行ユニットの改善

 キャッシュ周りでは、64KBの命令キャッシュ+32KBのデータキャッシュとなるL1キャッシュ、512KBのL2キャッシュを各コアあたりに備えており、各コアが共有する8MBのL3キャッシュを実装する。前世代と比較するとL1キャッシュの遅延が大きく改善されているほか、各コアのキャッシュ帯域幅が5倍に増えている。これによりスループットの大きな改善が見られる。

キャッシュ構造の一新によりスループットが改善

 また、ペーパーマスター氏はZenはSMTを実装しており、物理コア1つに対して2つの論理コアを持つことが可能になり、CPU内部でのリソース利用率を上げることができると説明している。同氏はそうは言わなかったものの、基本的にはIntelが同社製品で採用しているHT(Hyper Threading)テクノロジと同等の機能だと言えるだろう。このため、Zenは例えば8コア製品の場合には、OSから見ると16コアが論理的にあるように見える。

SMTに対応しており、物理コアの倍の論理コアを有している

 Zenの製造プロセスルールは14nm FinFETに基づいている。これにより、28nmプロセスルールを利用していた従来製品に比較すると、同じ消費電力であれば性能を向上させることができるし、同じ性能でよければ逆に消費電力を減らすことができる。

 そのほかにも、より活発なクロックゲーティング(CPU内部の必要のない部分へのクロック供給を止めて電力を削減する機能)、L1キャッシュのライトバック機能、より大きな単位でもマイクロ命令の実行ができることなどを説明し、Zenが電力効率の高いCPUアーキテクチャであるとした。

 なお、同氏は14nm FinFETがどこのファウンダリーのプロセスルールであるかは明らかにしなかったが、会見終了後の質疑応答の中でスーCEOが「GLOBALFOUNDRIESだ」と述べ、製造元が明らかになった。

14nm FinFETプロセスルールの採用
電力効率改善を実現するハードウェア設計

 こうした結果により、ペーパーマスター氏はZenがExcavatorコアに比べて、IPCが40%向上していると説明。かつ「将来予定している“Zen+”という製品では、さらにIPCを向上させる」と述べ、さらなる内部改良が施され、IPCを向上させる余地があることを示した。

詳細のZen+ではさらなるIPCの改善が実現される
ペーパーマスター氏のプレゼン資料

Naplesで再びx86サーバー市場に再参入とAMD、Intel製品に対抗できる強力な製品だと自信を見せる

 ペーパーマスター氏の説明の後、再びスー氏が登壇し「パワーポイントだけの説明だけでなく、実際に製品をお見せしたい」と述べ、AMD 副社長兼ワールドワイドマーケティング部長のジョン・テイラー氏とZenを採用した製品のデモを行なった。

ビデオでZenの開発の過程を紹介
AMD 社長兼CEOのリサ・スー氏(左)とAMD 副社長兼ワールドワイドマーケティング部長のジョン・テイラー氏(右)

 スー氏はZenを採用した最初の製品としてSummit Ridgeの説明を行なった。Summit RidgeはAMDがハイエンドデスクトップPC向けに計画している製品で、スー氏によれば以下のようなスペックであるという。

  • 8コア/16スレッド
  • AM4ソケット(DDR4/PCI Express Gen 3.1/次世代IO対応)
Summit Ridgeの説明

 スー氏とテイラー氏はRadeon R9 Nanoを搭載したSummit Ridgeの開発中のシステムを公開し、3Dゲームがスムーズに動く様子を紹介したほか、IntelのBroadwell-Eの8コア/16スレッドの製品(Core i7、公表はされていなかったがスペックから考えてCore i7-6900K/3.2GHzだと考えられる)との比較を紹介し、3GHzのSummit RidgeとBlender 3DでCPUとレンダリングを行なうと、ほぼ変わらない性能を発揮できる様子を示した。

デモの様子、左がZenで、右がIntelBroadwell-E
ほぼ同じ性能を実現していた
デモに利用されたシステム、マザーボードは開発中のボード
記者会見終了後にデモエリアで公開されたSummit Ridgeのシステム

 次にスー氏が公開したのはサーバー向けのSoC。AMDはこれまでZenベースのサーバー製品は存在こそ認めていたが、具体的にどのような製品があるかは明らかにしてこなかった。

 スー氏はサーバー向けのZenを搭載したSoCの開発コードネームがNaplesであり、1つのSoCあたり32コア/64スレッドであると明らかにし、2つのSoCを搭載した開発中のボードとともに公開した。また、今回は具体的なコードネームの公開やデモは行なわれなかったが、デスクトップPC向け、サーバー向けに加えて、Zenを採用したノートPC向けのAPU、さらには組み込み向けなども計画されていると説明した。

Naplesの説明
ステージ上でNaplesのマザーボードを紹介、2つのSoCが搭載されていた
記者会見後にデモエリアで公開されたNaplesのマザーボード

 Summit Ridgeは今年(2016年)の後半からOEMメーカーへ出荷が開始され、Naplesは2017年の第2四半期に出荷開始が予定されている。今回は開発コードネームは明らかにされなかったノートPC向けのAPUは、2017年後半の投入が計画されているようだ

今後APU版のZenも計画されており、2017年の後半に投入予定

 スー氏は「過去6カ月近く、AMDは非常にいい仕事をしてきたと自負している。しかし、まだ最良の時は来ていない。次の12カ月はAMDにとって非常に興奮すべき時になる。特にサーバー向けの製品で、我々はサーバー市場に再参入する。サーバー市場で大事なことは製品を投入するかではなく、顧客が求める製品を次の5年間に向けて投入できるかだ」と述べ、Naplesによって現在Intelの独占市場のようになっている感のあるx86サーバー市場に再び本格的に取り組み、NaplesはIntelのサーバー向け製品に十分対抗できる強力な製品であるとアピールした。

スー氏とテイラー氏のプレゼン資料