Windows 8ユーザーズ・ワークベンチ

Windows 8の文字入力はこれでいいのか

 Windows 8は、タッチ操作のみならず、キーボードやマウスでも問題なく設計されているという。その一方で、タッチ操作ではできないことがあったり、あるいは、仮想キーボード周辺でのアラが目立つことは否めない。

標準SIPがすべての入力を司る

 Windows 8は、デバイス形状に影響を与えた最初のOSだといえるかもしれない。Windowsが普及し始めた20数年前だって、日常見慣れたPCにマウスがつながっただけだった。だが、今回は、コンバーチブルPCやタブレットPCなどのバリエーションが充実し始めた。きっと、2013年は、大半のPCがこうした形状に移行していくに違いない。

 キーボードがない状態のWindows 8では、SIP(Soft Input Panel)を使って文字を入力する。画面に表示されるキーボードを操作する、いわゆる仮想キーボードと呼ばれるものだ。これがハードウェアキーボードに代替することになる。

 打鍵されたキーストロークは、TSF(Microsoft Windows Text Services Framework)に渡される。このフレームワークは、Windows XP以降で使われてきたものだ。Windows 7までは、IMEがキーボードの一種として存在することができたため、TSFに対して変換までを済ませた上でその結果をTSFに渡していた。

 だが、Windows 8では、それが許されなくなり、TSFの一部であるテキストサービスとして、SIPまたはハードウェアキーボードからストロークデータを受け取るしかない。従って、どのサードパーティ製IMEを使う場合も、必ず、標準のSIPを使う必要がある。SIPはMicrosoftにだけ改変が許される特別な存在だ。

 ただし、TSFはデバイスに依存しないフレームワークなので、ハードウェアキーボードなどは、従来通り、任意のものを使えることになる。アプリケーションとIMEなどのテキストサービスが直接通信することはできない仕組みにより、高度なセキュリティレベルを保てるようになっている。そして、そのことが、対応IMEベンダーにとって、結果的にGUIが自由にならないという悩みの種にもなっている。

 SIPのGUIが自由にならないというのは、仮想キーボードの外観を自由にできないということでもある。ユーザーは、Windows標準のSIPを使うしなかい。変換エンジンの存在さえ許さないiOSから比べると、ある程度の自由度はあるが、キーボードの外観が自由になるAndroid OSと比べると不自由だと言える。

4つのSIPを使い分ける

 ハードウェアキーボードがあれば、Windows 8の文字入力は何の不便もないように見える。ところが、タブレットなど、SIPだけに頼らなければならなくなると、とたんに不自由を感じるようになる。

 SIPはデフォルトで、

・簡易QWERTYキーボード
・左右分離簡易QWERTYキーボード(S、M、Lの各種サイズに切り替え可)
・手書きパネル

という3種類が用意されている。これらに加えて、PC設定の「全般」で、「ハードウェアキーボードに準拠したレイアウトを使えるようにする」をオンにしておくことで、

4番目のSIPとして、

・QWERTYフルキーボード

を使うことができるようになる。

簡易QWERTYキーボード
左右分離簡易QWERTYキーボード(Sサイズ)
左右分離簡易QWERTYキーボード(Lサイズ)
手書きパネル
QWERTYフルキーボード

 ちなみに、4番目のQWERTYフルキーボード以外では、かなキーの存在がない。つまり、他のSIPでは、カナタイプでの入力は不可能だ。個人的にはローマ字入力なので問題はないが、この仕様が許されているというのはあきれてしまう。

 かな入力ができるQWERTYフルキーボードには、各キーにかなが表示されているのだが、これがアルファベットと混在していて視認性を損なっている。しかも、黒バックに濃いグレーのキーなので、キートップの境目がわかりにくく、それが余計にゴチャゴチャ感を醸し出してしまっている。せっかくソフトウェアで外観を自由にできるのだから、かな入力時にはかなだけを表示するといったことだってできるはずだし、少し色を変えることだって可能だ。この部分を自由にできるのはMicrosoftだけということを考えると、この責任は重大だと思う。

 各SIPの切り替えは、パネル右下のキーをタップして選択肢から選ぶようになっている。ここでは、IMEも選択することができるので、SIPの種類×IMEの種類通りの選択ができるというわけだ。SIPはそれぞれスクリーンの横幅いっぱいを占有する最大化モードと、スクリーン上の任意の位置に移動できる縮小モードのどちらかで使う。サイズを自由に変更することはできない。SIPの右上には、閉じるための×ボタンと、最大化と縮小がトグルで入れ替わる2つのボタンが用意されている。

IMEごとにSIPを切り替えられるが、SIPは共通だ

 アプリケーション内で、検索ボックスやコメント欄、入力フォームの各フィールドなど、文字を入力できる部分にフォーカスを当てると、自動的にSIPが開き、それを使って文字を入力することができるようになる。そして、文字が入力できないところにフォーカスが移動すると、SIPは自動的に非表示となる。

 これは、ストアアプリなど、新しいUIのアプリで共通の挙動となっている。その一方で、クラッシックデスクトップは、タスクバーの通知領域に、ツールバーの1つとして「タッチキーボード」を表示でき、任意のタイミングでSIPの表示、非表示を切り替えることができる。

 これは、デスクトップアプリの場合、文字入力ができないところでも、各種のショートカットキーなどを入力することが多いからではないかと思われる。ストアアプリだって事情は同じだと思うのだが、そのあたりの見解を知りたいものだ。

 簡易QWERTYでも、Ctrlキーとのコンビネーションを入力できる。Ctrlキーを打鍵するとキートップがハイライトし、続けて打鍵するアルファベットとのコンビネーションになる。また、左右分離簡易QWERTYでは、Ctrlのキートップは存在するもののグレーアウトして使えない状態になっている。

Ctrlキーを押すと表示が変わる

 こうした仕様になっているため、ファンクションキーやAlt、Windows、Caps、タブといった各特殊キーを使うためには、4番目のSIPとしてのQWERTYフルキーボードを使うしかない。このキーボードは、ハードウェアキーボードとほぼ同等に使うことができ、IMEのオンオフなども実際のハードウェアキーボードを使っているときと同じになる。他のSIPでは、IMEの切り替えは、「あ」、「A」などのキートップを持つ、専用キーをタップする必要があり、多少煩雑だ。

情報の消費にもキーボードは必要

 SIPは、デザインの点で最悪だ。ソフトウェア的に自由になるという特性をまったく活かしていない。特に、入力言語にIMEを使わざるを得ない東アジア言語圏の人が開発に関わったとは思えない。かといって、アルファベットだけなら使いやすいかというとそうでもないところが悩ましい。

 デザインの点では、SIPそのものがかなり大きく、ランドスケープスクリーンの場合は、スクリーンのほぼ半分を覆い尽くしてしまう。ポートレートにすれば多少は使いものになるので、普段はこの方法でだましだまし使っている。

デスクトップの大半を占めるSIP

 SIPのサイズを変更できないというのもどうかと思う。また、いわゆるフリック入力のような認知度の高いSIPが用意されていてもよかったんじゃないだろうか。

 情報の生産にはキーボードが必須、情報の消費は積極的にタッチを使うというのがMicrosoftの言い分だとは思うが、情報の消費だからといって文字入力と無縁でいられるわけではない。でも、今のSIPでは、変換効率といったIMEの担当していた領域以前の問題として、ちょっと複雑な検索キーワードを入れるだけでもストレスがたまる。

 今後、SIPが改良の方向に向かわない限り、Windows 8は外付けキーボードなしには使えないということにもなりかねない。SIPのせいで、タブレットが著しく使いにくくなってしまっているのだ。キーボードを備えたさまざまなバリエーションのコンバーチブルPCが人気なのも頷ける。

 また、アプリケーションによっては、マウスポインタのフォーカスがある部分が、ホイールによってスクロールするような仕様のものがあるが、これがタッチでなかなかうまく操作できない。場合によっては文字選択に入ってしまったりもする。たとえば、ブラウザで、Googleリーダーを開くと、左ペインにフィード一覧、中央ペインに新着情報が表示され、独立してスクロールができるようになっている。マウスホイールで操作している分には何の問題もないのだが、これをタッチでやろうとすると、フィード一覧の各項目のドラッグ状態になってしまうことがあり、しかも取り消しのためのESCキーもないので大変だ。

 そんなわけで、タッチの操作については、まだまだ改良の余地がありそうだ。もちろん、アプリの設計方法などにも依存するので、一概にWindows 8だけが悪いとはいえないが、コンピュータを操作する上で、もっとも重要な部分なので、Microsoftには、このあたりをもう一度真剣に考えてほしいと思う。

(山田 祥平)